アイテム番号: SCP-731-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-731-JPは低脅威物品保管庫の小物用収納棚へ収容してください。この際、他の筆記用具との混同を防ぐため、SCP-731-JPの移送に携る・あるいはSCP-731-JPが収容されている保管庫へ立ち入る職員の赤ボールペンの所持は禁止されています。
実験の場合を除き、SCP-731-JPを用いて文字、図形などを筆記する事は禁止されています。また、実験の際においても屋外地面への筆記は厳禁とされています。
実験などによりSCP-731-JP-Aが出現した場合は、SCP-731-JP-Aに関する用件が済み次第SCP-731-JPを用いてSCP-731-JP-Aの出現している丸型を端から隙間なく塗り潰し、実体を消滅させてください。SCP-731-JP-Aが出現している丸型および紙に対するボールペン用消しゴムや薬品の使用、刃物などによる切断や手での破棄、焼却などは不可能であることが確認されており、SCP-731-JP-Aの抵抗により周囲へ危険を及ぼす可能性があるため、行わないでください。
説明: SCP-731-JPは、赤インクカートリッジのボールペンです。SCP-731-JPと同型のボールペンはこれまでの市販品からは発見されておらず、現在も製造販売元の特定作業及び同一品の捜索が続けられています。通常のボールペンと比べ外見・構造・インク成分の大きな違いはみられませんが、いかなる使用実験でもSCP-731-JPのインクの減少及びペン先の摩耗は確認されず、またペンのカートリッジ部の分解はできませんでした。なお、研究の結果SCP-731-JPの書き味は非常に良好であり、表面のつるつるした物や表面の粗い板、コンクリート、アスファルトなど通常のボールペンでは筆記困難な物体へも書き込み可能であることが確認されている一方、人の皮膚など生物には書き込めないことが判明しています。
SCP-731-JPによる異常現象は、SCP-731-JPを用いて丸と形容できる範囲の図形が描画された際に起こります。この時描画された線は閉じられている必要があり、閉じられていない描線は異常現象を発生させません。また、句点の「。」、数字の「0」、アルファベットの「O」や崩して書かれた漢字の「口」部分など、独立して丸型の線が描画される文字も異常現象の発生源となりうることが判明しています。一方、「す」や「d」などにみられる他の線を多分に含む丸型、四角など多角形、漢字の筆記中に発生する四角や三角の線に囲まれた面などでの異常現象の発生はみられませんでした。
SCP-731-JPを用いて丸型となりうる線を描画中、その周囲より小学校低学年ほどとみられる複数の子供のような声で「まーるかいて……」と絵描き歌の一節が聞こえます。描画者の周囲の人間にもこの声が聞こえる事が確認されていますが、音声の出所は現在まで判明していません。
丸型の線が閉じられた瞬間、「ドーン!」の声と共に丸型の内側より腕(以下、SCP-731-JP-A)が勢いよく発生します。SCP-731-JP-Aの出現する原理は現在のところ判明していません。厚手透明フィルムへの描画実験により、SCP-731-JP-Aは丸型に描画された面から発生し、紙または描画された物体の内部など他の部分には干渉していないことが確認されています。
SCP-731-JP-Aは、黒のボールペンで落書き風に描かれたような外観の、人間の手から肘周辺までの輪郭と、紙の色に合わせた色の肌で構成されている、実際に触れることが可能な立体的実体です。SCP-731-JP-Aは描画された丸型の大きさに沿ったサイズで出現し、力の強さも丸の大きさに概ね比例して強くなることがこれまでの調査により判明されています。なお、SCP-731-JP-Aの二の腕より上の胴体側とみられる部位の出現や一般的な人間の腕の長さから逸脱した伸長、描画された丸型から実体が自発的に離脱したケースは現在まで報告されていません。
SCP-731-JP-Aが出現している間、SCP-731-JP-Aの発生している丸型が描画されている物体および丸型の描線はボールペン用消しゴム、薬品、刃物、火気、水分などによる消去、破壊を受け付けないことが確認されています。(実験記録1-3を参照してください)
主な実験記録は下記のとおりです。
実験記録731-JP-1 日付20██/██/██
担当者: ██博士
実験1-1
内容: SCP-731-JPを用いて、D-5454にA4用紙へ直径約2cmの丸型を描画させる。
結果: 丸型を書き進めるのと並行して「まーるかいて…」と声が聞こえるのを確認。丸型の描線が閉じられた瞬間、「ドーン!」の声と共に丸型の内部より腕の太さが約2cm程度のSCP-731-JP-Aが1体出現しました。
出現したSCP-731-JP-Aは手の届く範囲で周囲を探りはじめました。数分後、SCP-731-JP-Aは探索を終了し待機状態となりました。周囲の人の声や物音に対しては、「ボールペン」「消しゴム」「ハサミ」などの簡単な語句や物音には反応を見せましたが、研究者間の専門的な会話には特段反応を示しませんでした。また、待機中に時折手遊びのような動きをする事も確認されました。
実験1-2
内容: SCP-731-JP-Aに対し、市販品の赤ボールペンを与える。
結果: SCP-731-JP-Aにボールペンを近づけたところ、欲しそうにする仕草を見せました。ペンを持たせるとSCP-731-JP-Aは自身の出現した丸型の周囲に落書きをはじめました。当初は何度も丸型を描画していましたが、その後落書きのような図形や絵・ひらがなで「どーん!」に類似する語句を描き始めました。
実験1-3
内容: SCP-731-JP-Aに対し、D-5454に破壊や消去を試みさせる。
結果: ハサミをSCP-731-JP-Aに近づけたところ、SCP-731-JP-Aはハサミを追い払おうとする動作を見せました。SCP-731-JP-A実体の切断も試みましたが、手及び腕に損傷を与えることはできませんでした。丸型の描かれている紙の切断を試みたところ、紙そのものが異常に硬くなり、切断が不可能となりました。他の実験などの結果、紙および描画された丸型そのものは通常の紙と同様に柔軟さを維持していることが判明していますが、これらを破壊しようとする試みに対しては未知の能力で抵抗されることが確認されています。他の実験においてSCP-731-JP-Aの出現している紙を燃やそうとした場合や、水や薬品による紙および描線の溶解を試みた場合も、丸型の書かれた紙は破壊できなくなることが判明しています。
次に丸型の線を消去すべくボールペン用消しゴムを近づけると、SCP-731-JP-Aは消しゴムを遠ざけようとする行動を見せました。消しゴムによって丸型の消去を試みたところ、SCP-731-JP-Aが消しゴムを奪い取って放り投げました。
D-5454にSCP-731-JP-Aを丸型より引き抜かせてみたところ、相当の抵抗の後に腕が丸型の線との境界から千切れ、粘性を持つ黒い少量の液体に変化し、丸型の内側を避けるかたちで飛び散りました。さらにその直後、丸型の内側から「ドーン!」の声と共に新たなSCP-731-JP-Aが1体出現しました。紙から千切れたSCP-731-JP-Aが変化した液体を調査した結果、一般的な黒ボールペンのインクと同様の成分であることが確認されました。
実験1-4
内容: SCP-731-JP-Aに対し、D-5454にSCP-731-JPを用いて干渉させる。
結果: SCP-731-JP-AにSCP-731-JPを近づけたところ、SCP-731-JP-AはSCP-731-JPに対し実験1-2での反応と同じく欲しがる仕草を見せました。SCP-731-JPではなく市販品の赤ボールペンを与えるとSCP-731-JP-Aは再び落書きをはじめ、SCP-731-JPに対する興味を失いました。SCP-731-JP-AはSCP-731-JPに対し特別な認識を持っていないものと推測されます。
SCP-731-JPでSCP-731-JP-Aの実体に直接書き込む試みは成功しなかったため、実体と紙との境界である丸型の描線から書き込みをしてみたところ、端からであれば丸型の内部を塗りつぶすことが可能であると判明しました。内側部分が塗りつぶされていくのに沿ってSCP-731-JP-Aの出現口も狭くなり、実体も徐々に縮小・弱体化していくのが判明しました。なお、塗りつぶしの途中で塗りつぶし範囲に穴空きが残っている場合は、そこから実体の一部がはみ出ようとする行動をとることも確認されました。丸型の内側すべてを塗りつぶした時点で、SCP-731-JP-Aは完全に消滅しました。
その後の調査により、丸型の塗りつぶしが完了しSCP-731-JP-Aが消滅した紙については、SCP-731-JPによる描画部分も含め通常の紙と同じ性質に戻り、切断・焼却なども可能になることが確認されました。
実験記録731-JP-2 日付20██/██/██
担当者: ██博士
実験2-1
内容: A4用紙に直径8cmの丸型を描画。出現したSCP-731-JP-Aに対し、対話を試みる。
結果: これまでの実験でSCP-731-JP-Aが出現以降声を発しないことが判明していたため、SCP-731-JP-Aに黒ボールペンを持たせ簡単な質問をいくつか試みました。あらゆる質問に対し、SCP-731-JP-Aの返答は「どーん!」「どどーん!」「どどどどーん!」のような書き込みと落書き行為を続けるのみでした。
SCP-731-JP-Aの出現している紙に対し文を書くことでの筆談も、同様の結果に終わっています。
実験2-2
内容: 実験2-1のSCP-731-JP-Aに対し、子供用玩具の刀を与える。
結果: SCP-731-JP-Aに刀を持たせると、楽しそうな様子で刀を振り回しはじめました。偶然近くにいた██博士に刀がぶつかり博士が痛そうな声をあげたところ、SCP-731-JP-Aは動きを止め、数秒の沈黙の後に別方向へと向き直り動作を再開しました。
この動作は観察を終了した██博士がSCP-731-JPで丸型の内側を完全に塗りつぶすまで続き、SCP-731-JP-Aは自身が刀の保持が不可能になるほど小さくなるまで刀を握りしめていました。
実験記録731-JP-3 日付20██/██/██
担当者: ██博士
内容: 十分な広さ・高さの実験室にて、D-5454にSCP-731-JPで1m×1mの紙へ直径約90cmの丸型を描画させる。
結果: 当初の予想通り、SCP-731-JP-Aは腕の太さが約90cm、高さ約4mの巨大な実体として出現しました。これまでの実験結果と同様に、SCP-731-JPは周囲を探るような動きを見せました。大玉転がしで用いる大玉をSCP-731-JPに近づけたところ、手でつかんで転がす、軽く投げるなどの動作を見せました。投げた大玉が手の届く範囲外に転がって行った後、SCP-731-JPは手遊びを始めました。
その後、丸型の塗りつぶしによるSCP-731-JP-Aの弱体化と消滅プロセスが実行されましたが、SCP-731-JPは1本しかないこと、不定期に周囲の探り直しと手遊びをはじめるSCP-731-JP-Aによる意図せぬ妨害などにより、消滅させるまでに█時間を要しました。
付記: この実験で描画された丸型は、これまで描画された丸型よりはるかに大きいものでした。描画の際、それまでは「まーるかいて」1回でほぼ完結していた絵描き歌の声が「まーるかいて、まーるかいて、まーるかいて、まーーーーるーーーかーーいーーてーー」のように歌詞の繰り返し・引き延ばしなどを行ない、描画が完了するまで歌を続ける事が判明しました。
実験記録731-JP-4 日付20██/██/██
担当者: ██博士
内容: SCP-731-JPを用い、ピンポン玉の表面に丸型を描画する。
結果: 描画された丸型の内外両方にSCP-731-JP-Aが1体ずつ発生しました。描画された丸型の線はどちらのSCP-731-JP-A実体にも干渉されていなかったため、そこから双方の発生箇所を塗りつぶしSCP-731-JP-Aの弱体化、消滅を完了しました。なお、実験4はこれまでの実験の中で2体のSCP-731-JP-Aを同時に存在させた初のケースとなりました。観察と塗りつぶし作業がなされている間、2体のSCP-731-JP-Aはジャンケンや指相撲、あっち向いてホイなどの遊びを始め、塗りつぶし作業の進行により片方のSCP-731-JP-Aが縮小・消滅していく際には、残存している方のSCP-731-JP-Aが消えゆくSCP-731-JP-Aの手を名残惜しそうに握り、消えゆく方のSCP-731-JP-Aは消滅する間際、残されたSCP-731-JP-Aへ「さよなら」のように手を振る仕草を見せました。
付記: その後、ピンポン玉に描画する丸型の大きさを変えて同様の実験を複数回行いましたが、いずれの実験でも2体のSCP-731-JP-Aの出現が確認されました。これらの結果を受け、不測の事態を招きうるとして、SCP-731-JPを用いての屋外地面への丸型の描画は固く禁止されることとなりました。
補遺: SCP-731-JPは██県██市の██中学校で20██年██月██日深夜、職員室に1人で残っていた██教諭が定期テストの採点を行おうとした際にその異常性を変則的ながら発現させました。これによりパニックに陥った教諭が近隣の病院に搬送されたことで財団職員が異常を感知し、財団による回収がなされました。関係者へは記憶処理の実施およびカバーストーリー「疲労による一時的パニック」の流布をもって対処しました。
この件においてSCP-731-JP-Aの発生は確認されませんでした。██教諭は丸印及び数字の0などの描線を閉鎖せず筆記する癖をもっていたため、SCP-731-JP-Aの出現が起こらなかったものとみられます。
以下は、病院に搬送された直後、記憶処理がなされる前の██教諭のコメントです。
「新しく買ったばかりの赤ペンで採点をしていたんです。そしたら、丸を…丸をつけるたびに声が、声が聞こえたんです。『まー』って。
丸をつけては『まー』、丸をつけては『まー』連続して丸をつけて『ま、ま、ま、まー』…最初は空耳かと思ったんですが、次第に『まー』が悔しそうな感じになってきて、最後には丸を書き終わると『まー』の後に『またー?』って…
私は…何か悪いことをしたのでしょうか?」
ページリビジョン: 9, 最終更新: 10 Jan 2021 16:25