搾られサーカス
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催事場の跡地から東に数マイル離れた場所で、1匹のホリネズミが穴から顔を突き出し、うだるような午後の熱気の中で目を細めた。辺りを興味ありげに見回し、脅威となり得るものが地上にないかどうかを調べている。数分が経過した後、それは素早く顔を引っ込めて仲間の齧歯類に話しかけた。

「よし来た、パイアス、とうとう静かになったようだぞ! パーティー潰しどもは帰っていった!」ホリネズミは、常に憤激しているような鋭くぶっきら棒な言いぐさで、完璧な英語を話した。

「そりゃよかった。これ以上ホリネズミの腐ったような臭いには耐えられないと思っていたところだよ。何故彼らは此処には来なかったんだ? 血溜まりやら内蔵やらが散らばっていれば、例えそれがホリネズミだとしても関心を引きそうなもんだが。」もう一方のホリネズミは遥かに穏やかな口調だった ― 汚れた隠れ穴に籠りきりのせいで多少緊張した雰囲気なのは明らかだが。

「モーティが夜に掃除した。サディスティックなチビの獣にしちゃ、自分の尻拭いをするのは驚くほど上手い野郎だよ。」

「ああ成程、それで納得した。ところでそのモーティマーは何処に行ったのかい、ユージン?」

「Wowwee! Wowwee!」

2匹のホリネズミが顔を向けると、ネオングリーンのウサギが1羽、彼らの隠れ家を覗きこんでいるのが見えた。ウサギの口が上向きに湾曲して意地の悪いニヤニヤ笑いを浮かべると、その口の中が先の割れた無数の舌で埋め尽くされているのが分かる。ウサギはイタズラっぽく笑った。「Wowwee! Wowwee!」

「モーティマーこの野郎! さっさと潜れ! ファンラバー(Fun-Lovers)がどれだけ他所の連中から求められてるか分かってんのか!?」 ホリネズミのユージンは毛を逆立てた ― 奇妙なウサギに対する警戒心を見せてはいない。ただ憤りだけである。

「外に出ても大丈夫だという話だったと思ったがね?」パイアスは礼儀正しく尋ねた。

「その ― 俺はただな ― 分かった。出ろ。」ユージンは鋭く言った。

「喜んで、」パイアスが答え、2匹のホリネズミは穴からかつてサーカスが位置していた熱い草原へ這い出ていった。束の間、ホリネズミたちの姿は太陽の眩しさの中で揺らぎ、泡立ったように思えた ― 一瞬の後、そこには齧歯類ではなく、典型的なサーカスの道化師が2人立っていた。

「またピエロの姿に戻れて嬉しいかね、ユージン?」パイアスは背の高い同僚に話しかけつつ肩を回した。衣装に積もった厚い埃の層が崩れて下に散らばっていく。

「それどころか、むしろイライラしてるぐらいだ。」ユージンは言い返した。「今は普通の姿でいることに満足できるが、これよりも強い別な変身だってできるはずなんだ。俺たちが今持ってる分よりも多くの道化師ミルクが必要だと思う。」

「会場まで徒歩でどのぐらい掛かる?」

「モーティマーがいればそう長くはないさ! こっち来て乗り物になれ!」

ウサギは最後に一声「Wowwee!」すると空中に8フィート跳ね上がった。続けて塵が渦巻き、大きなひび割れる音。1秒後、ウサギの姿は消え、黒い液体が詰まった小さく囀る無定形の背負い袋へと変わっていた。十数人分の人間の腕が生えて自重を支えている。物体は再び震え、後ろ側にお粗末な木製の椅子を1組生やした。それが身を沈めると、道化師たちは椅子に飛び乗った。

「モーティマー、今ミルクは持ってるか?」ユージンは黒色物体に尋ねた。

相手は不幸せそうなさざめきで応答した。袋の中からは、殆ど空であることを示すピチャピチャ音が聞こえる。

「クソッ。電送(Ringer)するのに十分な量じゃないな。モーティを幸せな気分にする何かが会場にまだ残ってることを期待するとしようぜ。ここのホリネズミ共はとっくに吹っ飛ばしちまったようだからな。」

「今回は冷静にしておきたまえよ、」パイアスは厳粛に言った。「そう四六時中カッカしていると、供給分のミルクが無駄になるだけだ。」

「黙ってろ、パイアス。」ユージンは鋭く言い返した。

Chitter, chitter, chitter.道化師たちの騎乗獣が、舌を鳴らし、身を震わせる。

「黙れ、モーティ。」

斯くして、2人の疲れ果てた道化師と名状しがたき乗り物は、サーカスの敷地へと速やかに歩を進めた。


奇妙なトリオが旧サーカス会場の焼け跡に近付くと、道化師ユージンは悪態を吐いた。

「ここで何かを見つけるのは骨が折れそうだぜ、」彼は呻いた。「放火された後だ。」そこら中に散らばる焦げた草や灰まみれの木材を、煙と消えかけの残り火が曇らせている。モーティマーは中央の大テントに到着した時点で停止した。道化師たちが降りると、名状しがたき背負い袋は他に何か楽しめるものは無いかと探し始めた。

大テントの柱は、驚くべきことに、まだ立っていた ― それ以外の部分はさほど残っていなかったが。高さ7mの木の杭は、荒れ果てた催事会場の中央の地面にしっかりと打ち込まれている。緋色と金色の布地は引き裂かれ、ワイヤーや木っ端や糸くずが絡んだ状態ではためいている。黒焦げになった木製の座席の山が、かつては壮観だったメインの呼び物の舞台を取り囲んでいる。灰と汚い赤色と土で汚れたリングのすぐ外には、変形して黒ずんだ金属が幾つか小さな山を作り、埃に埋もれていた。売店である。更に奥ではカーニバル・ゲームの屋台が柔らかく燻されている。見える範囲に生ける魂は存在していなかった。

ユージンは嘆息した。「俺たち以外の皆が退散しちまったんだ、勿論。でもってモーティの奴は呼び出しが掛かった時にモグラ叩きで大忙しだったときてやがる。」

ユージンは、現時点では控えめに言っても不幸だったが、己が不気味サーカスの一員であることを愛していた。彼とその同種の多くの者たちが初めてハーマン・フラーに出会い、全ての観客を困惑させ驚嘆させる数え切れないほどのパフォーマンスをこなす為に世界中を旅し始めてから70年。どのショーも新しく、スリリングな体験だった。道化師たちは先へ進むために楽しみを求めた。先へ、もっと先へ。

そして、それこそフラーが約束してくれたものだった。皆の、全ての道化師たちのための娯楽に満ちた生涯。娯楽は彼らの故郷では得難いものであった。物事は徹底的なまでに退屈で、だからこそフラーが彼らの退屈を和らげてくれることが明らかになった時 ― 正確には、その才能があるとフラーが自負した時 ― 道化師たちは熱心にサーカスに加わろうとしたのである。最初に加わった道化師たちはどれほど善く言っても怪物的であり、一般的なサーカス公演に加わるには余りにも情緒が不安定過ぎた。結果、フラーに採用された生物たちはその成長を、能力を、根源的な暴力性を、少なくとも不安視されるような注意を引き過ぎないレベルまで自制することを求められるようになった。

ユージンはまたしても悪罵した。「高位道化師どもは今まさに能天気に道化てやがるんだと賭けてもいいね。みじめな低位2人のことなんざ気に掛けようともしない! 俺たちゃ高位連中の犬扱いだ!」彼は嘆いた。「嗚呼、悍ましきかな人類!」

「私らに“人類”という用語は適用されんと思うがね。」パイアスは壊れた綿あめ製造機を跪いて調べながら訂正した。「まぁ確かに高位道化師たちに仕えているのは事実だが、奴隷制とは程遠いよ。」その後、失望に顔を曇らせてパイアスは付け加えた。「ダメだな。ミルクは全部、熱で腐ったようだ。タンクの中に飛び散っている。」

「だったらモーティを働かせるのに使えそうなもんがあるはずだ!」ユージンは吐き捨てた。「俺が巻き添えにならないようなもんがな! ミルク搾りのためにファンラバーのサンドバッグになるのは二度と御免だぞ!」モーティマーを一ヶ所に留めて人目に付かないようにするため、チェリーレッドのグラグラ揺れるサンドバッグに化けることを余儀なくされる鮮明なイメージが頭をよぎり、道化師は身震いした。

「サーカスに置いて行かれてミルク剥奪状態で過ごすのがお好みかね? 少しばかり楽しい思いをさせてやらないと、モーティマーが私たちのうち片方にミルク1ガロンを作るには、少なくとも1週間は掛かるぞ。勝つためには譲歩も必要なもんだ。」パイアスは、まるでユージンが腐った丸太の中から見つかった少し興味深い何かであるかのような目で見つつ、不思議そうに言った。

断る。俺はな、汚れ仕事を全部押し付けられる役目はもう終わりにしたいんだ!」ユージンは睨み返した。「そもそも何で俺たちはあのファンラバーを押し付けられたんだ? マレーネが転送された後、俺が注文したのはミルク搾りのために必要な仲間であって、あんなサディスティックなチビ助じゃないはずだぞ!」

「モーティマーはだね…思い返せば、特別な事情があって私たちに与えられたんだ。」また別の溶融した売店跡に向かって歩きながらパイアスは言った。

「忌々しいミルク絞りの必要性以外でか? 暴力的なファンラバーは故郷に送り返されるもんだと思ってたよ。」

「覚えてないのかね、ユージン? 誰かが話している時は、モップ掛けするよりも注意を向けた方が身のためだぞ。実際のところ、高位たちに対する君のそういう態度のせいで私らのところに“サディスティックなチビ助”が来ることになったんじゃないか。まぁいい、君のために概要を説明するとしようか…」

ユージンとパイアスの後ろで、モーティマーは咎めるようにパフパフシューシュー音を立て、相変わらず袋の中身は空のままで、バルーンアート用風船の箱を2ダース持って引き返してきた。座り込み、腕のうち1本を空気ホースに変化させる。残りの腕は驚くほど器用に動き、風船を膨らませては結んで、犬やらサルやら猫やらの風船動物を16匹ほどこしらえた。モーティマーは残る8つの風船のうち1つに一握りの小石を詰め込み、破裂寸前まで膨らませた後、散弾銃の形に作り上げた。途端に散弾銃風船は弾け、ミニサイズの岩が飛び散って、1組のゴム製のカメに命中した。カメは両方ともシュゥゥゥ…と音を立てて萎んでいく。モーティマーは手を叩き、このおふざけを風船動物園が完全に狩り尽されるまで7回以上続けた。パイアスとユージンは気付かなかったものの、モーティマーの背中のミルク袋は僅かばかり、おそらく10mlほどは満たされた。

「…ショーの出し物に追加で加えられそうな連中をスカウトするために、モーティマーはトリシャと一緒に送り込まれた。」パイアスは講義中だった。

「ああ、トリシャな。覚えてる。」ユージンが口を挟む。「彼女には何が起こったんだ?」

「彼女は…膨らまされたよ。モーティマーが探索中に制御を離れた後にな。」パイアスの声には哀しみの響きがあった。「アーティストたちのコンクールだったそうだ。作品の一つを見て、モーティマーは狂乱状態に陥った。」

「どういう作品だよ?」ユージンは尋ねた。

「完全なるデストラップさ。針やら鋭利なものやら爆発やらが山ほどだ。幾つかの人間的要素を表すことになっていたようだがね。」

「その“要素”ってのは無知のことか? 率直さか、完全性か、それとも完全なる愚鈍さを指すのか?」ユージンは少しだけハハッと声をあげて笑った。

「そんなところだな。」悲しい気分にも拘らず、パイアスも僅かに笑みを浮かべて言った。「モーティマーがどうやってか連中の目と鼻の先から持ち出したそいつを、私らは後で取り上げたよ。そもそも何故正気の人々があんな代物を展示する気になったのか全く分からないんだが、トリシャが偵察に送り込まれたアーティストたちは少しばかり…妙な連中でね。報告を受けた者は皆、“寒気”を覚えたと聞く。」

「たまには人間のスラングを使うんだな?」

「まぁね。」

「続けろよ。」ユージンは何が言いたいのかはっきりさせようとパイアスを急かした。一方のモーティマーは巨大な半分機械のカマキリに似た姿に変わり、変化した刃付きの前足でヘリウム缶を両断したところだった。缶の片方の破片はパイアスの頭目掛けて飛んで行った ― パイアスはこれを何気なく横に寄って回避し、缶は大テントの支柱を真っ二つにしてそのまま100フィートほど滑走していった。ユージンはそれほど幸運ではなく、背中に直撃を喰らって、顔から地面に釘の如くめり込んだ。

「Wowwee! Wowwee! I 'da Champ! I 'da Champ!」モーティマーがまたしても笑った。

ユージンはクレーターから身を引き剥がし、鼻を擦った。目が潤んでいる。「クソッたれ、炎の顔を持つ男に誓って、まるで俺が嫌でもサンドバッグをやらなきゃならんような有様じゃねぇか。それと、一体何であいつは繰り返しああして喚くんだ?」

「私に分かったらそれだけでも出し物になるね。」パイアスは抑揚なく言った。「続けていいかな?」

「どーぞ、」ユージンはさも満足げなファンラバーを睨み付けながら唸るように言った。顔が赤らみつつあり、耳鳴りもしていたが、メイクが溶けているのか怒りのせいかは彼自身にも判然としなかった。振り返ると、パイアスは承認しがたいとばかり片方の眉を吊り上げている。「俺は落ち着いてるぞ、パイアス。」

「エヘン、それはどうかと思うぞ。ユージン、取りあえずは蒸気機関モードから戻ってくれないか。私らは君がそうして…モクモクとしているのを望まないんでね。」パイアスは同僚を落ち着かせようと軽い作り笑いを浮かべた。

ユージンは頭の上に何かを感じた。「クソッ。」またしても形状変化が制御できなくなっていたのだ。旧式列車の煙突が頭蓋から突き出し、甲高い音を立てながら少なからぬ黒煙を噴き上げている。「くたばれ、パイアス。」ユージンはまだモーティマーに刺すような目線を向けつつ、パイアスの小言に言い返した。しかし、煙突は頭の中へと引っ込んでいった。「これで良いかよ?」ユージンは尋ねた。

「よろしい。」パイアスは微笑んだ。「今日は忍耐と寛容を少し学んだね、ジーン。昇進のためには非常に良い事だ。」

俺をその名前で呼ぶんじゃねぇよ。」ユージンは不平を漏らした。

「Wowwee! Wowwee!」


40分後

「…そんな訳で君がヘッド・アービィに口答えした後、彼はモーティマーを君に与えたのでした。何故ならモーティマーは君のことが大好きだったからです。お終い。」パイアスは一人笑みを浮かべつつ独白を終えた。2人の聴衆がもう話を聞いていないのではと疑いつつも、彼は目の前で繰り広げられる光景を大いに楽しんでいた。

「まるで彼らは独力でサーカスを町に連れ戻したみたいじゃないか。フラーはきっと喜ぶね。」

物語の13分頃にユージンがモーティマーのことを“モート”呼ばわりした時点で、両者は暴力的かつ非常に一方的な交戦状態へと突入していた。その後の闘争は、サーカスに残されていた物を真っ平らに押し潰すような、それでいて奇妙にも再び命を吹き込むようなものだった。メリーゴーランドの馬たちは乗り手を振り捨て、恐怖から逃れようとその場で疾走しながら嘶いている。ハーマン・フラー印の動物ビスケットの箱はミニ動物園のように散らばり、踏み潰されると様々な動物の鳴き声を上げた。残された仮面や衣装はワードローブの外に放り出され、着る者も無いままにワルツやアクロバットを始めた。脚付きのおもしろ鏡は映り込んだ物を ― 反射面でも物理的にも ― 引き延ばしたり圧縮したりしている。幾つかのタンブルウィードが転がっていき、後を追って金属と砂利の擦れあう不吉な音が聞こえてきた。

パイアスは溜め息を吐いた。「さては大観覧車か。」それは彼を転がり過ぎていくと、溶融したホットドッグの屋台にぶつかって止まり、横倒しになった。パイアスはニヤリと笑った。「“テイクアウトでお願いしまーす”ってところだな。」彼は今や大テント後に移行したレスリングの試合に視線を戻した。

モーティマー ― 乱闘を経て着実にミルクを補充している ― はコック帽を被った巨大なブタの姿を取り、肉切り包丁を容赦なくユージンの頭目掛けて振り回していた。当初から既にミルクを切らした状態のユージンはスタミナを使い切りつつあった。

「お前の話なんぞもう気にしてられるか!」ユージンは金切声を上げて、更なる悪意に満ちたナイフの一振りを躱した。「助けに来いよ!」

「私の話を聞いてただろう!」パイアスは愉快気に呼びかけた。「仕事を続けてくれ! この調子ならあと30分ほどで電送できるぞ!」

「これでも-喰ら-ぐぇぁ!」ユージンの言葉途中で、燃え盛る一輪車乗りのハイイログマと化したモーティマーは彼を轢いていった。タイヤの轍に泥まみれで横たわるユージンの道化師としての姿が激しく横ぶれした。蝋人形が嵐の中で固い状態を保とうとしているようにも見える。

おやおや、道化師モードを保つのも一苦労のようだ。パイアスは思った。この分だとあと数分で元に戻ってしまうだろうな。私が介入した方が良いか? いや、まぁしかし、私らが戻れば高位たちかマニーが復元してくれるだろう。

ファンラバーは不動のまま泥中に横たわるユージンの下に引き返してきた。モーティマーはデフォルトの袋型に戻ると、複数の手で道化師を突き始め、やがて引っ繰り返した。ユージンは歩く乳房に向かって怯ませるような一瞥を与えた。モーティマーにとって、玩具がまだ生きていると判断するにはそれで十分である。ファンラバーは文字通りのシュモクザメへと姿を変え、抵抗するには余りにも動揺し、かつミルク欠乏状態の哀れな低位道化師に、鉄製の撞木頭を振り下ろした。鉄槌の命中と共に、道化師はくしゃくしゃになり、グシャッ、ビチャッという音を立てて黒い水溜りへと変じた。メインの出し物が終わっても、周辺の活気は何事もなかったかのように続いている。

パイアスは心からの驚きに眉を上げて見つめていた。数分よりも早かったな。「やれやれ、」彼は浅い水溜りを覗きこみ、首を振って嘆息した。「ちょっと荒っぽかったぞ、モーティマー。」

ファンラバーは道化師から頭を引き剥がし、無数の腕付き背負い袋の姿へと戻った。とうとう笑うのを止めている。袋は今や黒い液体で膨れ上がっていた。

パイアスは完全なミルク供給を見て、ニンマリ笑った。「だがまぁ、君なりの理由があったんだろう。良くやってくれた。」

「こん畜しょ…キュッpbbttthplbbrrrtthh…」怒りに満ちた甲高い泡立ちが、ユージン溜りから発せられた。

「やぁ、ジーン。遂に目的を果たしたぞ。見ろ! モーティマーは私たちが帰還するのに十分な量のミルクを溜め込んでくれた、と思うぞ!」

1ダースもの短い眼柄と触手がユージンの“身体”から生え出てきた。彼は弱々しい“ノーマル”な姿に戻り、ゴボゴボシュウシュウ言いながら攻撃者を激しく罵倒した。

「落ち着け、ユージン。皆のために努力してくれてどうも有り難う。」パイアスは水溜りに言った。「すぐ君のことも普通通りに復元できるさ。」まだ完全に道化師の姿を保ったままのパイアスは、膝をついてユージンを手の内に掬った。「モーティマー! 家に帰る時間だぞ!」

「Wowwee!」

今や満たされたファンラバーは、荒れ果てた催事場での最後の変身を行った ― 電源コードの代わりに道化師ミルクの透明なタンクが付いた、巨大な緋色の公衆電話である。ダイヤルが回転し、受話器が飛び上がってパイアスとユージンを叩き潰した。中からはシューっというノイズに加え、何かを真空に吸引する音と、安全ベルトがカチャリと閉まる音。2つの丸い膨らみが受話器のコード内を這い進み、電話の本体へと吸い込まれていく。パイアスとユージンは、丁度ダイヤルの裏側にあるメインキャビンへと送り込まれたのだ。ミルクタンクがゴボリと音を立て、粘ついた黒い液体を圧送していく。ダイヤル上の10個の数字それぞれから花火が飛び出して、光り輝く道化師の顔を爆発によって形作り、放置された備品が熱狂的なジグを踊り続けるサーカスの敷地を今一度だけ照らし出した。

「ご観覧頂き誠に有難う御座います! ショーを楽しんで頂けたことを願います!」花火は叫び、破裂して星と紙吹雪の虹を撒いた。火花がドームのように地面を覆い尽くす。

公衆電話は宙に浮かび上がり、ミシミシと音を立てた。道化師ミルクは煮え立ち、道化師たちとファンラバーをサーカスに連れ戻すための電送シークエンスへと突入した。亀裂の入るような音が鳴り響き、再活性化した全てのサーカス備品は崩れ落ちた。

そしてユージン、パイアス、モーティマーは、背後に静けさを残して姿を消した。


ビーッ-ビーッ-ビーッ-ビーッ-ビーッ-ビーッ-ビーッ

ジリリン…

ジリリン…

BnnNZzZzZzzzzz

BnnNZzZzZzzzzz

ガチャッ!

はーまん・ふらーノ道化師転送さーびすニ接続シテオリマス。おぺれーたーガ位置ヲ特定スルマデ暫クオ待チクダサイ。オ電話ヲ有難ウゴザイマス、良イ一日ヲオ過ゴシクダサイマセ。

♪ Entry of the Gladiators / 剣闘士の入場 ♪

「…prbtthhhllthlth-ったれな保留音だぜ。」

「ユージン、戻ったかね!」

WOWWEE!


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