異常芸術に関する一考察
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異常芸術に関する一考察 ~旧石器時代から現代まで~
芸術アノマリー係長、ハンナ・モレル博士

(以下の内容はモレル博士の論文の6~9ページまでの抜粋です。完全な文書は財団中央記録保管所にてアクセスできます。)

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長い夜"、ラウル・サルテンの作品

芸術アノマリー係の創設者であるウィリアム・タルトアによれば、アナート(anart)1とは"作品表現の一環として芸術家に意図された異常効果を伴う一部の芸術メディア。メディアは作成者の意図しない異常特性を示すことがあり、そのような例における異常特性は作品で表現されている内容とは関連がない。"2この定義は40年近く変わらず用いられており、私や他の多くの研究者たちの経験を鑑みても、異常芸術研究における唯一の明白な事実である。

言うまでもなく、この定義は広範かつ普遍的であるが故に疑う余地がない。この表面的な説明から歩を進めると、アナートの定義は遥かに困難なものとなってしまう。アナートにはしばしば実験的、非合法的、あるいは実現不可能な表現媒体が用いられ、アナートによる表現は往々にして恐ろしく難解であったり、まったく無意味であったり、あるいは人間には理解不能なものである。多くの場合、アナートを定義しようとする学者は"芸術とは何か"という古典的な議論、つまり益になることは滅多にない行動に陥る。

この文書は異常芸術、即ちアナートの歴史研究を意図したものであり、その主要な流派、哲学、様式、実践者たちの概説を提供することを目的としている。文学アノマリーに関してはこの論文では触れない。3

アナートの無秩序で奇妙な性質は、様式の分類を非常に困難なものにしている。ある時期においては、包括的かつ明確に定義されたテーマ、それと同様の予測可能な結果を伴う哲学にアナーティスト(異常芸術家)たちの大多数が追随するという状況を見い出せるかもしれないが、これはよくある出来事というよりはむしろ例外である。中規模以上のアナーティスト集団が単一の哲学に倣うことは稀であり、アナーティストの集団や個人はしばしば彼らの気紛れによって複数の流派や様式をごた混ぜにする。

しかし、長期的なアナート研究はその様式や本質的な一貫性を明らかにする。歴史を通して、異常芸術家たちの間には4つの主要な流派が存在してきた。芸術を通して現実を修復しようとする者たち、現実を作り変えようとする者たち、現実を破壊しようとする者たち、新たな現実を創り出そうとする者たち。しかしながらこれらの流派は、定義の非常に難しい物事を敢えて定義するために財団が付けた恣意的なレッテルであるということは指摘されねばなるまい。これら流派の実践者たちは自らをそのような者であると主張することは決して無いし、こういったカテゴリに完全にぴったり適合するアナーティストやアナート作品は未だかつて存在しない。

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ヨハネス風"愚者の戯れ"の実例、2007年7月17日に記録。4[[/footnote]]

各流派とその主要な派生流派は以下の通りである。

再構築主義者 - アナートの実現を通して、社会的・経済的・倫理的問題を解決しようとするアナーティスト一派。再構築主義者のアナートはある目的を達成するためだけのものであり、したがって刹那的なアートに過ぎず、目的が達成された際には不要となる。

  • 小物再構築主義者 - アナーティストやアナーティスト集団に起源を持たないムーブメント支持者。この派生流派は20世紀中頃から現在にかけて次第に流行してきている。
  • 真の再構築主義者 - ムーブメントの先駆者。これらムーブメントの目標は非異常性のグループと同様であると思われるが、共通の目標を越えた関連性を主張することはない。
  • ダダイスト/急進的再構築主義者 - この流派は目標の追求を除いて、その主義や手法に一切の分別や一貫性を示さない上に、目標そのものも出鱈目である。ダダイスト再構築主義者のムーブメントが長く続くのは稀なことで、1人以上の人物に広がるのは更に稀であり、いずれも外見的に判断するに、要求される十分な正気の欠如の帰結である。

再創造主義者 - 自らの意思に則って、既存現実を作り変えるアナーティスト一派。再構築主義者のアートとは異なり、再創造主義は必ずしも大きな目標を志向するものではなく、つまりは常設の作品であることを意味する。しかしながら、多大な重複もやはり存在している。

  • 小さな再創造主義者 - 最も一般的な再創造主義者の派生流派で、人や物体、特定の場所といった小規模の変容にアナートを用いる。今日では、多くのアナーティストたちの間で(極めて対立的な流派でさえ)普及しており、最も一般には身体改造を行うために小さな再創造主義者のアートが試みられている。
  • 大きな再創造主義者 - この派生流派はアナートの使用範囲のみに基いており、国や社会、世界全体、あるいはそのような大規模な物事の変容を目指している。これらの計画には通常アナーティストの大きな集団が携わり、多くの場合他の流派も関係し、特定の個人やグループによって主導される。しばしば外部勢力から妨害を受けたり、内紛や不始末による瓦解を迎えるため、これらの計画が実を結ぶことは非常に稀である。
  • 改革派再創造主義者 - あらゆる面で、芸術とは自己の変容を志向するものである。この派生流派は宗教と類似する特徴を持ち、それ故に相反するテーマやアイデアに溢れている。この派生流派は外的な芸術メディアを総じて欠いているという点で注目に値する。改革派再創造主義者は魂こそが理想的なキャンバスであり、用いる価値のある唯一の媒体と見なしている。
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"無題"、不明なアナーティストによる作品。

解体主義者 - 既存現実の諸相を置き換えることなしに破壊しようとするアナーティスト一派。

  • 偽の解体主義者 - この派生流派は、彼らが抑圧的、腐敗した社会構造と捉えるものの打倒に専念している。この流派にはしばしば再構築主義者が、最も一般には小物再構築主義者が混ざっている。
  • 真の解体主義者 - その目標は破壊に留まらず、現実からの完全な抹消、結果として始めから存在していなかったことにする行為にまで及ぶ。そのような作品を作成することの困難さの証拠として、この派生流派は極めて稀な存在である。もちろん、その希少性が彼らの過去の成功に起因する可能性があることは留意されねばならない。
  • 絶対的解体主義者 - 存在それ自体が頽廃的かつ無意味なものであり、完全に破壊されなければならないという信念に基づく派生流派。この派生流派の構成員たちは非常に危険で、あからさまに敵対的であるため、細心の注意を払って対処する必要がある。

創造主義者 - 芸術の創造とそれを介した表現にのみ専念している最も広範なアナート流派。一部の学者は、あらゆるアナートは本質的に創造主義者の手によるものであるからして、レッテルを貼って区別する必要はないと主張している。この主張はある程度までは正しい。創造主義者の芸術作品とその他の流派の間には幅広い重複が存在するからだ。しかしながら一般的見解は、創造主義は独自の流派として成立するほどに特殊であるとしている。

  • 真の創造主義者 - アナーティストの大半はこのカテゴリに分類され、他のカテゴリには容易に分類できないアナーティスト向けの実質的なガラクタ入れとして機能している。この定義はアナートの作成それ自体を目的とする者や、芸術への見解から極端な創造主義者や芸術的理神論者に位置付けられない者までの全てのアナーティストに及ぶ。
  • 極端な創造主義者 - 創造という行為を通じて、アナーティストは現実を表現するだけでなく、現実を定義する。これは全てのアナーティストの間で共有される性質であるために、この流派からすると全てのアナーティストは正当なものと見なされる。昨今の異常芸術学はこれは厳密にはアナート流派ではないと論じており、こうした立場は近年勢いを増しつつある。5
  • 芸術的理神論者 - 芸術家とは神である。真実や現実を定義する能力は全ての芸術家の間で共有されているとする極端な創造主義者とは異なり、芸術的理神論者はその権利が自分たちだけにあり、その他の者が現実を定義することは許されないと信じている。多くの場合、芸術的理神論者は非常に危険であり、誇大妄想の気質を示す。十分に熟達した芸術的理神論者は現実改変者と同じカテゴリの存在と見なすことができる。

それぞれの流派や派生流派については、後の章でより詳細な説明を行う。

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