記憶処理器の簡易説明
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若いエージェントが俺のもとを訪れたのは午後のことだった。ドアのインターホンが、まだ青臭い声を俺の耳に伝えている。
「すいません、エンジニアの方はいますか?」
数日前に配属されたばかりの新人エージェント。聞いたことのない声から推測する。俺は気だるく答えた。
「はい、いますよ。なんでしょう?」
「記憶処理器の使い方をご教授願いたいのですが」
先輩エージェントに聞けよ。そう突っ込みたくなったが、特に断る理由もないので教えてやることにした。
「どうぞ」
手許にあったリモコンを手に取り、ドアを開けた。今までの声の主の姿が見える。予想通り、見たことない奴だ。
新人エージェントはあたりの機械を見渡して、目を輝かせている。
俺がおい、と声をかけてやると、奴はすぐに反応して恥ずかしそうに寄ってきた。俺はため息をつきそうになった。すぐに死ぬんじゃないのか、こいつ。

「じゃあ説明を始めようか。記憶処理器にはいくつか種類があるが、フィールドエージェントが持ってるのはこの二つかな」
近くの小箱からペン型のものと、スマートフォン型のものを取り出した。二つとも修理中のものだが、見本としてなら問題ないだろう。
相変わらず新人はぼーっと見ているだけだったので、また声をかけて該当するものを取り出させる。
「じゃあまずこのペン。こいつは無音で極薄い光を照射して最大三十分までの記憶を消去できる。そこまでなら時間は調整できるが、デフォルトは確か、十五分だったかな。
誤射を防ぐ度にボディ部分を回してようやく光線発射ができるようにしてある。
一応使用上の注意としてはやみくもに使うと被験者が廃人化ってところだな。
インタビューを受けた記憶そのものの消去が主な使用方法だ」
新人はコクコクとうなずいている。よし、大丈夫そうだ。
「次にこの端末型。iphoneに偽造してあるがこいつも処理器だ。
こいつはSCP体験の消去に使う。まずチップを用意して代わりに脳に入れる情報をつくる。それができたらチップを端末に入れて準備は完了だ。
使いどきになったら指紋認証でロックを解除して、特殊電波を飛ばせ。そうすれば目の前にいる奴が気絶して、脳にある情報が端末に届く。そこでデータを書き換えて再送信。すると相手は気を取り戻すけど、そこの部分がすり替わってるって寸法よ。
基本的に、証言を得た後は端末型で情報を書き換えて、ペン型で会ったこと自体を消す。一切証拠を残してはならない。友人のエージェントの言葉さ」

そこまで話したところで、俺はある疑問が浮かんだ。
「そういえば、新人だからエージェントだけのオリエンテーションくらいあるだろ?なんで使い方を知らない?」
「いや、オリエンテーションはあったんですけど、記憶処理器の説明が全くなくて…」
いや、そんなことはないはずだ。とすると後は…。
「お前、自分にペン型記憶処理器を使ったな?」
新人エージェントは、首を横に傾けた。

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