''ヒーローショー''の撮影
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『何!ユウキくん!』
『大丈夫か!』

モニターの中で、四体の小さな人形が叫んでいる。赤、白、黄、青。戦隊モノを思わせるような配色の人形たちはそれぞれ自立しており、浮遊した真っ黒な「わるもの」と対峙していた。「わるもの」の近くには子どもが一人、同じように浮かんでいる。カメラ越しでも耳に響くような甲高い声で、必死に助けを求めていた。

オブジェクトの映り具合に、今のところ異常はない。真っ白な隔離部屋に取りつけた遠隔操作式のカメラはしっかり機能しているらしい。9枚の大型モニターを通じて、俺とオブジェクトの研究者たちに現状を伝えていた。目の前にある基盤でカメラを微妙に操作して調整しながら、俺は腕時計を見た。時刻は午後6時を過ぎた辺り。去年と同じ時間に、''ヒーローショー''は始まった。

『我が名は宇宙大帝ジゴック、この小僧の命は我がパワーとして吸収してやろう。マイクロファイターズよ、お前らにはもはや為す術はないのだ』

「わるもの」が、去年と同じ台詞を吐いた。明確に覚えているわけではないが、それでも特徴的な固有名詞がデジャヴを感じさせたのだ。つぅと、冷や汗が流れる。

『ユウキは俺たちの大事な友達だ!そんな事、絶対に許せねえ!!』

黄色人形は一歩足を踏み出して、「わるもの」を威圧した。「わるもの」は目のような黄色の光を細め、まるで笑っているように見えた。

「たすけてっ…たすけて!!」
溺死するような表情を浮かべながら、少年は叫んでいる。叫び続けている。

『なんてことだ!皆さん、<█████式エネルギー出力法>を犠牲にしてマイクロパワーを得ないと、奴を倒すことはできません!』
『なんだって!そんな事をしたら人類は・・・リーダー、どうすりゃいいんだ!?』

後方の研究者陣たちから動揺の声が漏れている。俺はピンとこなかったが…どのみち人類に必要なものには違いない。去年もそうだった。

「あっいやだっ」
溺死するような表情を浮かべながら、少年は叫んでいる。叫び続けている。

数秒の間、赤い人形は俯いていた。その間も少年は助けを求め、声を荒げている。とにかく少年は、空中に固定された状態でできる命乞いを続けていた。
そして赤い人形は顔を上げた。

『例え・・・例え何を犠牲にしても、目の前で苦しんでいるユウキくんを見捨てることは、俺達にはできない!いくぞ、みんな!』

仲間たちは応ッとまるで打ち合わせをしたかのように揃えて言うと、仁王立ちをした。

『了解!現実エネルギー吸収、マイクロパワー充填します!』
『それでこそ俺たちマイクロファイターズだ!待ってろ、ユウキ!今助けてやるぜ!』

ヒーロー人形たちは両の拳を突き上げ、ガス状の「わるもの」に真っ直ぐ突っ込んでいった。

『うおおおおおおおお!!!』

ヒーロー人形たちは「わるもの」の身体を突き破り、「わるもの」は眩い光を放った。

それに反応して、すかさず俺は全てのカメラの明度を下げた。去年はあいつの光のせいで一部撮影できない箇所があったのだ。

「わるもの」は内側から薄く広がる光に全身がつつまれ、やがて光が消え失せると同時にいなくなった。ヒーロー人形は「わるもの」を突き破ってからしばらくその勢いを保ったまま空中を飛んでいたが、やがて魔法が止まったようにぱたりと床へ落下した。少年は前のめりに床に落ちた。

「あ…あ…」
ぽたり、と彼は涙をこぼした。

番号: SCP-565-JP-1-2のユウキという名の少年は、間もなく死亡した。


「お疲れだったな、甘梨カメラマン」
「███博士、お疲れ様です。今日はもうあがりですか」
「ちょっとした休憩だ。戻ったらSCP-565-JPの研究を再開する」

カフェテリアに寄ったらしい███博士は、右手にカップコーヒーを持っていた。

「どうした甘梨。噂に聞く君の様子と、今日の様子が違って見えるぞ」
「…そうですかね?しかし、あの実験の後でお気楽に振る舞えというのは無理がありますよ」
「おい、初回ならともかく、今回の実験は二度目だろう?しかも一年、間をおいているじゃないか」
「いやでも、キツイものはキツイです。生理的な気分の悪さには慣れても、あれはちょっと」

俺はテーブルに置いてあったペットボトルの水を飲み干した。水はわずかしか残っておらず、喉を潤すには不適だった。ペットボトルを戻す際に、嫌な汗が手の汗腺からただただ流れ続けるのを感じた。

「子どもって凄いですよね。あんな状況でもカメラを見続けて、助けを求めるなんて」

空になったペットボトルとくたびれた俺を、███博士は一瞥した。
「あの状況だから、じゃないかねぇ。藁にもすがるというやつだよ」

「…端っからあのオブジェクトは信頼されてないってことでいいんですよね?」
「さぁね。あまり科学的じゃないが、第六感みたいなものでユウキくん…SCP-565-JP-1-2は我々に助けを求めたのかもしれない。去年の子もね。そこも要研究さ」
「博士、あの実験をまたやるんですか?」
「当然だ。そのときは、カメラマンは君以外に頼むかもしれないな」
「はは、そうですか…」

俺の乾いた笑いを聞いてから、███博士はゆっくりと立ち去ろうとした。
「███博士」
俺は呼び止めた。
「何だね」
「俺たちは、あの子どもを助けることができたんでしょうか。見せかけのヒーローオブジェクトじゃなくて、本能的に助けを求められた俺たちなら、あの状態のあの子を助けられたんでしょうか」
「君は救いたかったのかね?」
「いや、ただ見ているだけしかしなかったというのが後になって腹立ってきて。何かこう、できたことがあったんじゃないかと」
「甘梨、君は考えを拗らせているよ」
「…え?」
「あの子どもをあの状況に追いやったのは我々財団だ。我々が彼を囲って、SCP-565-JPが接近するように仕立て、実験をした。君も理解しているはずだ」

今度こそ、███博士は立ち去った。

俺は、あの狂った''ヒーローショー''はSCP-565-JPだけが執り行っているものだと思っていた。しかし、実情は違うのだ。財団が''ヒーローショー''の御膳立てをしなければ、少なくともユウキという少年は死亡しなかったのだ。だが、財団がお膳立てしたお陰で助かった命もあるし、実験という形で行われたために完全収容に一つ近づいた。

助けたいという思いは、ただ撮影しかできない、俺の身勝手で偽善的なものなのだろう。

俺は空ペットボトルを掴んで席を立つと、近くのゴミ箱にペットボトルを押し込んだ。プラスチックの感触が残る手の平の汗は引いていた。

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