神聖なる場所
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アイアンメイデン(木製)を担いでカフェエリアに戻ろうと廊下を歩いていたとき、ふとあることを思い出して私は立ち止まりました。
そう、外出中に粛清対象を持ってきた人たちへのお礼を用意していないことに。
特別セットは私に引き渡すことが条件ですので、もし外出中に連れて来て逃げられていたりしたら・・・その方々は特別セットを貰うことが出来ません。
もちろんそのような場合もあることは向こうも承知でしょうが、それでも何もないよりかはあった方がいいでしょう。
そう思った私はカフェエリアに戻る前に、少し自分の研究室に寄っていくことにしました。

忘年会用のスペースから出て、自分の研究室へ歩みを進めていると・・・
「キミたちは何を考えているのかね!!!!!!!」
大きな怒声が耳を打ちました・・・もちろん知っている声です。
忘年会だというのに、いつも通り「爆発」しているようですね・・・というよりもまずサイトにいらっしゃっていたのですね。
関わらない様に別ルートを通るとも思いましたが、それなりに遠回りになるため私はその「厄介事」に遭遇することにしました。
まるでそこだけ雪化粧したかののような真っ白な廊下と、おそらくは「何者か」が居たと思われる見事な人型の跡
そこに居たのは噴出口の部屋の主である黒川・・・おや?
何故かそこに居る骨折博士とそしてもう一人・・・

「何かあったのですか、物部博士?」
私は怒声の主、いつも通りの車いすに乗った物部博士に声をかけました。
「ああ、ソラくんか」
「アキです」
そしてこの会話もいつも通りのものです。


・・・正直、私は物部博士が少し苦手です。名前を間違えられるのが・・・ということではなく。
もちろん、お互い仕事に対する能力は十分知っているので、その点では問題ありません。
問題は財団に対する主観の相違です。
私は財団に「所属」しています。もちろん「所属」している以上は「財団の事」を考えて仕事をします。
しかし、あくまでも「所属」しているのであって「信仰」しているわけではありません。
ですので、私としては彼の主張である「財団の絶対正義」を許容できないのです。
財団は「必要な管理の統制機構」であって別に「神様」ではないので。
以前この件について 何度も 幾度かの話し合いが行われ
その話し合いは「空物論争」として日本支部の語り草になっている・・・と、前にエージェント差前が言ってた覚えがあります。
そして命名理由が「中身が空っぽの物の論争とは不毛」という理由だったとエージェントカナヘビか天王寺博士から聞いた覚えもあります。
・・・思い出してしまったので追加刑ですね。


「見ての通りだよ!!」
と言う「爆発状態」の物部博士・・・
見ての通り・・・
1、廊下が白い粉まみれ。
2、黒川博士の研究室に骨折博士が居る。
3、廊下には見事な人型の跡。
・・・これは本人から聞いた方がいいでしょう。
「申し訳ありませんが分かりません、教授
「では答えようか」
先ほどまでげんなりしていたのに、その言葉で少しシャキっとした骨折博士が説明を始めました。
「私たちは見ての通り、この場を借りて年忘れのイベントを行っていたのだ。もちろん、黒川博士もこの事は存じているよ」
その言葉を聞きながら部屋を覗くと、室内には見事な麻雀セットが大きいものと小さいものの2セットと2名の職員が・・・何をしていたかは一目瞭然ですね。
「しかしだ、そのイベント中に突如エージェント差前が現れてだな・・・我々は止む無く彼を撃退したわけだ」
そういいながら骨折博士は私が担いでいるアイアンメイデン(木製)に視線を向けました。
つまりエージェント差前がここに来て、プレゼントを渡そうとしたので撃退した・・・ということでしょう。
「なるほど。分かりました、ありがとうございます骨折博士」
私がそういうと骨折博士は少し疲れたようでした。

「そして物部博士は何故ここへ?」
「何故?だと!!我々財団が研究以外でサイト内に居ると思うのかね!?」
一応話に水を差した形にはなっていましたが、残念ながら「爆発中」の物部博士には効果がなく、興奮した状態でまくし立ててきました。
手が出てこないだけマシなのかもしれませんが・・・
「私は今、ここに居るはずのオウギくんに持ってきた資料を渡そうと思ったのだよ!!」
オウギ・・・多分黒川博士の助手の扇谷研究助手でしょう。
「そして部屋に来てみたらこの有様だ!確かにこのサイトでは今忘年会が開かれている!だがここはそのスペースの外側!!つまり通常業務の場所だ!!!!」
つまり通常業務の場所で麻雀をしてたのが大変気に入らなかったのでしょう。
「更にここはSCPが必要かも知れないオブジェクトの研究中だぞ!!そんな神聖ともいえる場所でこいつらは・・・!!」
これ以上話を聞くと私にも矛先が飛んできそうな気も・・・と思った時、物部博士の今の言葉を反芻して思わず声が出ました。
「・・・って、研究中のオブジェクトがあるのですか?」
「ああそうだとも!!」
そう言いながら荒々しく物部博士が室内を指差した先には・・・
水槽に入ったゴムボール
としか思えないものがありました。
もちろん私たちの業務において見た目が全く意味を成さないことは私も重々承知ですが。
「これは昼ごろ持ち込まれたが・・・成分分析には異常はなかっただろう?」
とボールを見ながら骨折博士言い、その声をかき消すように物部博士の声が響きました。
「可能性の問題だ!まだ研究を開始して12時間も経っていないのだぞ!!」
そう言いながら物部博士は手に持った資料を叩き、さらに続けました。
「まあ確かに!今持参した高度成分分析資料の通り、この液体は粘度こそあるものほぼ全てH2O!つまり水だが!!」
「では問題ないだろう?」
「これは持ち込まれた時の成分分析の結果だ!現在の結果と照らし合わせて変化がないなどの調査も必要であるし!他にも!!」
まだ物部博士の「口撃」は続いていますが、とにかく廊下を塞ぐ物部博士を退かす事を優先したい私は物部博士に尋ねました。
「つまり物部博士は黒川博士の代理としてこのオブジェクトの監視に来たのですか?」
その言葉に物部博士の「口撃」と動きが止まりました。
・・・違うのでしょうか?監視目的ならそのまま黒川博士の部屋に 放り込めば 目的を達していただければと思ったのですが。
「ああ、そうだった。こんなことで時間を浪費している場合ではなかったのだ。私は急いでメイン会場に向かわねば・・・」
今度こそ「爆発」が終了したのか、物部博士は急にいつもの士気が低下しそうな声で話しだしました。
「そうだ今度こそ私のサイト改造計画を実行しなければ・・・快適な空間こそが職務において重要だ」
・・・なるほど、来訪の理由は今日の忘年会に来ている方への直談判のようです。
ブツブツと「話す内容」を考え始めた物部博士から目を逸らすと、骨折博士はもううんざり・・・と言った表情を見せていました。
「それでは私は失礼する。だが、キミたちは後で反省文を提出したまえ!!誠意が感じられないようなものは当然却下だぞ!!今日中にだ!!!!!」
物部博士は最後の「口撃」を放つと、相変わらず車いすでは危険すぎる速度を出して去って行きました。


「・・・ふぅ、助かったよ長夜博士、ありがとう」
「いえ、でも廊下の掃除はちゃんとしておいてくださいね。反省文の方は・・・お任せします」
うむ、と答えた骨折博士の横を通り、私は自分の研究室に戻りました。

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