トナカイたちの蹄の音
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静かに扉を開け、私は室内に入りました。担いでいるアイアンメイデン(木製)に注意しつつ。
まずこの飾り付け道具が乗る台車と、外出中の粛清対象の連行に対するお詫びとして配るお菓子をと思い、室内の倉庫を開け大型台車を一台出し
次に冷蔵庫を開け、適当にお菓子を・・・おや?
・・・ありません。

私はデスクのPCを起動させ、室内にこれ見よがしに付けられた監視カメラの映像をチェック開始。
4倍速で再生しながら見ますが、残念ながら写っていません。どうやらこのカメラくらいは知っているようですね。
そして本命の映像をチェックする。
こちらも4倍速で流し・・・
見つけた。
おおよそ職員とは思えないジャージ姿のその人物は・・・
阿藤博士・・・ですね」
私は名前を呟き、彼の研究室の場所を思い出していた。
確か忘年会スペースからは外れていたはず・・・つまり通常業務の範疇。
今日のサイト-8181の博士が全員休暇なのは確認済み・・・
私は大型台車を押し、研究室を後にした。


数分後、阿藤博士の研究室前に到着。
研究室から出ることがほぼ確実にないと有名な彼なら、きっと室内に居るはず・・・
それにすでに 粛清 飾り付けた中に、ここから脱出装置で送られてきた峰研究員助手が居た。
つまり脱出装置の類は存在しないか、あったところで一つか二つ。
人は視線でモノを語る生き物・・・問題は多分ない。
そうして扉を開けようとし・・・開かなかった。
ふむ・・・
聴診器を扉に当て、中の様子を探る・・・物音がしない・・・
1、すでに逃亡済み。
2、中で息を潜めている。
可能性としては2の方が強そうだが・・・?

私はポケットから、[編集済]を取り出しガサゴソと作業を開始・・・開錠。
「失礼します」
一応声をかけながら室内へ。
室内は暗く、同時に甘い匂いが漂っていた。
どうやらすでに一部は回収不能な模様。
まだ電気は付けない、何があるか分からないので。
まずは小型のサーモグラフィーを使い室内をクリーニング・・・どうやら本当に居ないようだ、珍しい。
次にライトを構え室内を物色。
お菓子自体は全て持って行ったようだが・・・
まあ見事にポテト系のお菓子だけやられてますね、さらにこのお酒は前原博士の・・・
双方の写真と、空となっていた私の名前入りの袋を一つ回収。一応証拠物品があった方が私に都合がいいのだ。
そして持ってきたアイアンメイデン(木製)の乗った大型台車に、無事だったお菓子と前原博士のお酒を積み込んだ。
最後に机の上にメモを一枚。

人の物を盗ってはいけませんよ? — 長夜より

そして鍵をかけ直し、その場を後にした。


廊下を歩きカフェエリアに戻りながら、阿藤博士の捕縛方法を考える。
普段ならいいのだが、今日の場合は忘年会スペースに居る可能性が高い。
通常業務の場なら通常の粛清ルールが適応されるのだが、忘年会スペースでは忘年会用のルールが適応される。
つまり、忘年会スペース内ではカフェエリア以外での粛清行為の禁止、が適応されるのだ。
このため、私は協力者を使って確保していたのだが・・・
それに・・・エージェント差前の動向も気にかかる・・・

「仕方ありません」
私はそう呟くと端末から財団内に設けられた電子掲示板を覗いた。
特別セットを望む 女子 男女の会
と書かれたスレッドを。
私の粛清エリアへ対象を持ってきてくれる協力者の皆さんの集いで、元々は女性が主だったのですが、今は男性も多く参加。
新規のスレッドを立てそれに伴って名称変更になった・・・ようです。
忘年会参加者の実に半数が加盟してるとかしてないとか・・・私の特別セットはそんなに数はないのですが・・・
まあおそらくエージェント差前への個人的な恨みも多いのでしょう。

私は主催側ですのであまり干渉しない様に・・・とは思って、前の追記1以外は書き込んでいなかったのですが・・・
どうやら大盛り上がりのようですね・・・エージェント差前の情報が次々と書きこまれています。
まだ確保には至っていないようですが。
いつの間にか追跡隊に機動部隊な-1224"メイドさんのお手伝い"と勝手に名前を付けて部隊を複数編成し、各部隊ごとに情報交換を活発に行っているようです。
とはいえ、忘年会を楽しむ片手間・・・ではあるようですが。

そこにさらに書き込みを行いました。

外出中のため引き渡し失敗した皆さんへのお詫びを兼ねてお菓子を用意していたのですが、阿藤博士により一部お菓子が無くなりました。
忘年会スペース側に逃亡している可能性もあります。発見次第確保してください。

するとすぐにレスポンスが・・・
ついさっきカフェエリアに来て峰研究員助手と共に逃亡・・・?
ふむ・・・しかし、報酬で釣るような真似はあまり多用したくありません。

追記: 二名の確保をお願いします。


そんな事をしている間にクリスマス雰囲気溢れるカフェエリアに到着しました、阿藤博士たちの逃亡のせいもあってか慌ただしいですが
私はまた対象が来るまで待つことにしましょう。
「長夜博士」
と、ここで待機していた女性職員の一人から呼びかけられ、彼女は私にメモを渡してそそくさと去って行きました。まるでメモから逃げるように。
頭に「?」を浮かべながら私はメモに目を通し・・・周囲から人が去りました。
すぐに端末を操作し・・・

追記修正: 阿藤博士と峰研究員助手はエージェント差前と同レベルの確保対象となりました。
捕まえて私の前に持ってこい、報酬もエージェント差前と同様に用意する。

それと前原博士にもメールを・・・先ほどの開いていたお酒の写真を添付し・・・

阿藤博士の研究室で発見。現在彼の所在不明。

これでよし・・・この余計なルールさえなければ私が自ら行ったものを・・・!!!
とはいえ、上の方からルールを遵守しなければ、それ相応のペナルティを我々から課す。とまで言われてしまった以上は仕方ありません・・・
普段の粛清でもちょっとした騒ぎになるのは確かですし・・・追い詰められたネズミも人も何をするかわかりませんから。
まあ今日はお偉方も多いですからね。
標的が来た時に思う存分やって終わりにします。
と、心の中で思ったのですが、どうやら周りにも伝わっていたようで
すでに簡単な輪になっていた状態から
更に潮が引くように私の周りから人が居なくなっていました。

・・・とりあえず温かく甘いココアを入れて一度心を落ち着かせ、同時に体力の回復に努めることにしましょう。
耳を澄ませば地響きのような音が聞こえます・・・
私にプレゼントを運んできてくれるであろう、素敵なトナカイたちの蹄の音が。

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