短い朝、長い夜
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「お菓子、こんなに持ち込むんですね」
タブレットの申請書とカバンに詰め込まれたお菓子を見比べて、朝夕検査員は目を丸くした。
「ええ、しばらく泊りがけですから」
「購買ではだめなんですか?」
「ここは品揃えは悪くて」
お菓子を取り出し、タブレットでチェックするのはスーパーのレジ打ちの気持ちになった。
朝夕の前で待つのは白衣姿にジーパン、Tシャツというラフなスタイルの女性だ。財団には個性的な職員がいるので、その程度なら気にならない。だが、彼女の身長は飛びぬけていた。そこそこ高いと自負していた朝夕でさえ、見上げなければメガネをかけた顔を見ることすらできない。

彼女は長夜博士。朝夕は彼女のことを講義のときから知っている。このサイト81██に配属されてからは何度も顔をあわせて顔見知りだ。

「外は曇りですか」
「っ」
博士が言葉を漏らす。壁には窓はなく、外の様子を伺えない。彼女が見ているのは、朝夕の髪だった。短く切りそろえられた髪は灰色。視線の感じて朝夕はつい、帽子を深々とかぶった。
「便利ですね。この施設は窓がないから気がめいります」
綺麗ですね、といわないところが博士らしい。フォローのつもりではなく、好奇心から来る本心のようだった。
朝夕はこの髪を好いていない。この特異性で収容され、エージェントへの道は断念せざる得なかった。財団で働けるだけ運のよいことだったが、あまり乗り気ではなかった。
「えぇ……そうですね」
言葉を濁しながら朝夕は作業に戻る。


「違反物はありません。次は身体検査のほうも」
「お願いします」
朝夕は目線をあげないようにして博士に近寄り、手で彼女の体を触ることで検査する。彼女の体は余分な肉がなく、スレンダーだ。朝夕のように筋肉質で硬いわけではない。女性的な細さだ。
「自分のことは嫌いにならないことは大事ですよ。他人がどう思おうと」
不意に博士が切り出した。
「気にすることは必要です。でも、自分の一部を嫌ってはいけない」
朝夕からは博士の顔はうかがい知れなかったが、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。その声はいつもの声とは少し違っていた。

「馬鹿にしてくる人がいれば、粛清してやればいいんですよ」
「は、はぁ……」
突然の物騒な言葉に朝夕の動きもとまった。


「終わりです……ありがとうございました」
「いえ、私もお手数をおかけしました」
お菓子の詰まったカバンを担ぐ博士。
「また会いましょう、生きていたら」
「冗談はやめてくださいよ」
「この職場、いつ死んでてもおかしくないですよ」
事実ではあったが、朝夕には程遠いものであった。
「ああ、それと糖分補給にこれをあげます。新商品ですよ」
「あ、ありがとうござい……ます?」
カバン取り出されたのは、焼きプリン風味ポテトチップス。どんな味なのかも想像できない。
「では」
博士は背筋を正して、施設の奥へと入っていく。その背では黒い三つ編みが左右に揺れていた。

「……三つ編み、いいかも」

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