当初この記事は、「下位物語次元を制御・支配する財団内部部門」というものをコンセプトに執筆していました。本記事において重要な概念である"物語漏出災害"のアイデアはこのときから存在していて、先述の部門はそれに対処する役割を担っているというような設定でした。その時考えていたストーリーラインは、上位物語次元にいるケモナーが「獣人が出てくるといいながらケモミミがついただけの人間しかいないような物語」や「獣人が人になってしまう物語」を消し去ろうと下位物語次元に対して物語改変を起こし、財団世界とそれより下位の物語世界から前述のような物語が軒並み改変・削除されるという感じを考えていました。そして、前述の部門がその改変を調査するという感じのを書こうとしていました。また、これをSCP-6090の獣人部門と絡めようかなーとかも思っていました。ですが物語漏出災害に対する設定や後述の理論が肉付けされていくうちに、「これ物語漏出災害だけで十分内容濃いし、獣人の話は無い方が洗練されるな」と思い、部門と獣人の話は消えました。

カルツァ-クライン現実子理論は物語漏出災害について考えを深めているうちに出来上がりました。この理論は最初は空想科学要素だけだったのですが、後に物語漏出災害を現実子を使って説明できないか考えるようになっていきました。何故そうなったのかというと、ちょうどいいことにこのときの私が読んでいた本に「カルツァ-クライン理論」なるものが載っていたからです。これは何かというと、テオドール・カルツァが1921年に提唱し、1926年にオスカル・クラインが修正した理論です。テオドール・カルツァは第四の空間次元を提唱し重力と電磁気力を統一しようとしました（統一の試み自体はうまく行かなかったらしいですが）。カルツァが提唱したこの余剰次元というアイデアは後に物理学において重要なものへと発展していくことになりますが、ここでは割愛します。そして、この理論からは"カルツァ-クライン粒子"という存在が予測されます。これは余剰次元方向の運動量を持つ粒子が四次元であるこの世界に表れたものです。そして私はこのカルツァ-クライン粒子から着想を得て、「空想科学における上位物語世界からの物語改変」という作用を「物語次元を移動するカルツァ-クライン粒子」を用いて説明できるのではないかと考えました。これがカルツァ-クライン現実子理論の種となり、現在のような「現実次元方向を移動する現実子」へと発展していきました。その後、紆余曲折を経て、正の現実と負の現実が交互に繰り返されている現実次元上の構造が生まれたり、ウォール理論が取り入れられたりして今のカルツァ-クライン現実子理論になりました。

このカルツァ-クライン現実子理論については既存の素粒子物理と矛盾しないように、きちんと根拠となる文献を参照しながら考えました。なのでおそらく物理学的な矛盾はないと思いますし（現実子は実際には存在しないんじゃないかって？まだ見つかってないだけです）、本屋で売っているような物理学の本と同じくらいにはそれっぽく書けた自信があります。また、理論についてはできるだけわかりやすく書くことを心がけました（記事はできるだけ多くの人に読んでほしいですし、記事は完全に理解されてほしいと思うので）。図を多く入れたり、専門用語には解説をつけたり、章ごとにまとめたり……という感じで。特にまとめについてはなかなか評判が良かったですね。まとめのおかげで読みやすいという声を多くいただきました。

そんなこんなで物語の核となる理論が出来上がっていきましたが、オチに関してはこのときは未だ曖昧な感じでした（パスワード入力欄は初期からあったので、これを活用することは決まっていましたが）。ただ、個人的に分岐エンディングというものに憧れていた（Amamiel=Sanksの提言やWagnas/Fatty/R-00Xの提言のような）ので、そういう感じにしたいとは考えていました。

そんなこんなで書いているうちにわかばコンテストが開催されました。新人コンテストが開催中の時は批評エキスパートの方々がたくさん批評をしてくれるらしいと聞いていたので、ここで出せればかなりフィードバックが得れていいかもと思いました。そして、わかばコンテストに出すことを目標にしながら、ゴールデンウィーク中の暇を活かして理論を完成させ、物語漏出災害の説明を書き上げ、オチを整えました。

そしていざ批評に出したところ、meshiochislash様にいくつかの問題点をご指摘いただきました。クロスリンクが多すぎたのと、展開のつながりが不明瞭だったんですね。クロスリンクについては100個ぐらいあってビビりました。こんなにしてたの？！と。なので削れるクロスリンクや要素を削りつつ、それぞれの段落がどのような役割を持っているのか記事中に明記しました。またこれと関連して、discordの定例会のときにboatOB様に「〜は理解できましたか？y/n 」という感じで読者に質問をする体で内容をまとめたらどうかと提案いただき、それも取り入れました。

そしてk-cal様からは「理論への好奇心を記事の狙いにすると読者層が狭まる」とご指摘いただきました。これは完全に盲点でした。理論というものはそれだけで面白くてたまらないものだと思っていましたし、私自身もSCPやその他の物理学の本などでは理論を好んで読む人間だったので、読者全員が理論好きなわけではないというのは言われて初めて気づきました。これはなんとかしたいなと思い、理論派ではない読者に向けたバージョンというものを作ってみようとしたのですが、残念ながら私にはうまくできませんでした。というのもそもそもこの記事が理論を根幹に成り立っている物語だったので、理論を削ることは面白さを削ることになってしまい、私の力ではこのバランスの兼ね合いが難しかったのです。なので、ご指摘を取り入れられずk-cal様に申し訳ないと思いつつも、概ね現行のままで行くことになりました。

またTwitter上でsolvex様に批評依頼をし、批評をしていただきました。いただいた批評で気がついたのが、物理学的には当たり前のことでも一般的には当たり前でないことがある、ということです。例えば「相転移によって現実子が正現実子と反現実子に分化した」というところでは、最初私は「なぜ相転移すると分化するのか」というところを説明していなかったのですが、これは読者に不親切だと分かりました。物理学の本なんかでは「相転移」やそれによる分化はよく出てくる言葉だったので当たり前に使ってしまっていたんですね。今後科学系の記事を書く上でも、こういうことは気をつけたいなと思います。また、solvexさんからは「読者の心情を代弁する文章を入れてはどうか」というアドバイスをいただいていました。SCP-3984 - 死神は健在なりや？や、SCP-1669-JP - 狙撃手みたいなやつですね。確かにこれを入れれば分かりやすくなりそうと思い、入れてみようとしたのですが、私の実力不足によりうまく行きませんでした。物語的、小説的に人の心情を書くという行為をこれまで私はあまりやったことがなく、報告書的ではない文章を書いた経験があまりにも不足していました。k-cal様にも文例を見せていただいたりしたのですが、今の私にはちょっと書けそうにありませんでした。せっかく改善案を頂いたのに反映できず、solvex様には申し訳なかったのですが、これは削ることになりました。

また、同じくTwitter上でposhirona様にもご批評いただきました。主に理論の面で批評していただき、分かりにくい表現や矛盾していることなどについて色々とアドバイスいただきました。例えば、「速度という概念は宇宙によって異なるものであるため現実次元の距離を現実子の移動速度で計測するのは不自然ではないか」ということや、「説明なく急に虚数現実次元が出てくるのは分かりにくいかもしれない」ということを指摘していただいたりしました。このようにして理論をブラッシュアップしていきました。

そして、ページソースを見ようとすると「警告: 頁源構成記号配列を閲覧することは許可されていません！」と表示される仕掛けはMikuKaneko様に作っていただきました。私は構文についてはまだまだ初学者であったためにdiscordの構文チャンネルで質問したところ、MikuKaneko様に相談に乗っていただきました。そして、「ページソースを見ようとしたら警告文が出るようにしたいです」と大まかに伝えたら完璧なものを作成していただきました。ありがとうございます。ちなみに、何故警告文を出したかったのかというと「分岐エンディングにしたかった」、「パスワードを入れて他のエンディングを見る仕様にしたかった」からです。隠し要素的なものを入れるに当たって、すべての文章が丸わかりなページソースは隠しておきたかったので。なのでこのように警告文が出るようにしたいな〜と思いました。それに、財団からしても上位実体にページソースを見られることにメリットなど無い（むしろデメリットだらけ）ので、これを隠したいと思うことは自然でしょうからね。空想科学部門の頑張りの成果です。

それとこの提言にもSCP-2360-JPと同じく技術紹介パートがあります。超越死生学的絶対終了弾頭とκύων級終末論的攻撃ですね。これは欠かせません。

以上です。簡単に書くとこんな感じに提言を執筆しました。

• まず、現実子をダークマターの正体だとすると現実子の質量に制限がかかります。軽すぎるとLHCとかで実際に行われている実験でも現実子が発見されることになってしまいますし、重すぎるとダークマターの分布密度に合わせるために現実子の分布密度がスッカスカになるという問題がありました。なので最終的には「重力は余剰次元に漏れているので現実子はその質量に比べて重力が小さくなっている」とすることで質量が大きくとも密度を大きくできるようにしました。

• 素粒子物理学部門の囲み枠は空想科学部門の囲み枠の反対色です。

• 最後のところに「理解していないので読み返す」の選択肢がないのは「理解する以外の選択肢はねーぞ」という財団からのメッセージです。

• 1ページ目の、ページを下にスクロールしていくと謎の画像があるという構成はSCP-001ハブのオマージュです。

• 「mktql」はキーボードのかな入力で打つと「ものかたり」となります。

• 最後の入力欄に「mkqtl」と入力すると、「螟夜Κ縺九ｉ縺ｮ荳肴ｭ｣縺ｪ蟷ｲ貂峨ｒ讀懃衍」と出てきますがこれは「外部からの不正な干渉を検知」という文を文字化けさせたものです。

• 細長い画像に隠しメッセージがあるという仕掛けはSCP-1000-JP - 特別回収任務のオマージュです。しかし、1000JPと同じように画像URLに文字コードで文章を仕込むのは、ページソースを閲覧してほしくない都合上アレだったので、title構文でやりました。

• κύων級終末論的攻撃の「κύων」というのはギリシャ語で犬を意味します。なぜ犬かというと、この攻撃はSCP-1739 - もう使わないラップトップに登場する「その影が通過するだけで全ての宇宙を破壊できるような不可解な何か」を動力源としているからですね。

記事には書ききれなかった諸設定をQ&A形式で書いていきます。

Q.SCP-001-JPに対する説明がエンディングでは「物語漏出災害を防ぐために作られた物語宇宙」とされていますが1ページ目には「以下の物語」、2ページ目には「誘導灯（すなわち2ページ目の内容）」と説明されています。SCP-001-JPとは結局どういうものなのでしょうか？

解説図

A.この図を見てください。SCP-001-JPは物語宇宙であり、誘導灯であり、2ページ目の内容です。この図において青枠は宇宙であり、SCP-001-JPの"報告書"（1ページ目）もこのように宇宙の中にあります（SCP-001-JP-M）。そして"誘導灯=2ページ目の内容"も同じように宇宙の中にある感じです（下位現実次元に直置きされているのではなく）。ただ、ここではその宇宙もその中身もどちらもSCP-001-JPとして指定されています。これは例えるならスイカについて言及する時、スイカの皮とスイカの種を別々に呼び分けずにまとめて「スイカ」と呼ぶのと同じです。

Q. 1ページ目に「焚書坑儒計画のロゴとベリーマン=ラングフォード・多量情報挿入用ミームエージェントを合体させたような画像」があるのは何故ですか？
A. 1ページ目ではあなたはまだ上位現実次元（財団から見て）におり、そこから下位現実次元にあるSCP-001-JP報告書を見ています（SCP-001-JPではなく）。そしてその報告書に、さらに1つ下の下位現実次元にあるSCP-001-JP（誘導灯）を見ることができる「覗き穴」のようなものがあり、そこからSCP-001-JPの一部がなんとなく覗き見えています。2ページ目に移動したとき、あなたはS.W.A.N.N.エンジンによって報告書があるSCP-001-JP-Mに誘引されており、そこにある覗き穴からSCP-001-JP/誘導灯/物語宇宙を閲覧している感じです。

Q. 2つ上の上位現実次元からとはいえ、スーパーコンピューター"極"に接続していないのにミームエージェントを見ても大丈夫なのですか？
A. そもそも財団の世界でミームエージェントが機能するのは、私たち上位現実次元実体がそういう世界（ミームエージェントなる存在があるSCP財団という創作物）を想起し、カルツァ-クライン現実子理論に基づくプロセスで下位現実次元にSCP財団の世界が作られたからです。なのでSCP財団の世界にはミームエージェントがうまく働くような法則があります。しかし、私達の世界（財団から見て上位現実次元）はそのように作られていないので、ミームエージェントは機能しません。そのため上位現実次元からではミームエージェントを見ても平気なのです。ちなみにですが、SCP-001ハブやその他のSCP記事にあるミームエージェントを見てもあなたが死なないのは、これのためであると説明することもできますね。