名前: 相良さがら 航こう
セキュリティクリアランス: レベル2
職務: 植物を中心とした生物オブジェクトの管理、および実験。フィールドエージェントとしての生体オブジェクトの確保。
所在: 主にサイト-8102
来歴: 19██年█月█日生まれ、██県██市出身。██大学大学院を卒業後、█年の間行方不明となっていたが、200█年に「イカに変身する男性」として警察に保護されていたところを財団が収容。当人は行方不明期間中の事柄を一切記憶しておらず非常に困惑した様子だった。財団による収容後、財団に対して敵対的な意思が希薄なこと、植物に関する非常に広い知見を有することを受け200█年より仮採用。後にGPSの常時着用を含む一定の監視の下、正式に雇用される。
人物: 相良研究員は身長177 cm、体重██kgの男性研究員です。植物学を専門にしており、関連オブジェクトの研究の他に、個人的な趣味でサイト-8102の花壇管理を行っています。相良研究員の外見的特徴として、眼球の構造がコウイカ目のそれと非常に似通っていることがあげられます。これにより相良研究員の瞳孔はゆるやかにカーブしたW字型をしています。勤務態度に問題は見られませんが、卑屈な性格であり、他者との軋轢を避けるために控えめな態度を取る傾向があります。また、相良研究員はその性格から日常会話においても過剰な敬語や謝罪を乱用するため、かえって相手の反感を買うことも多いようです。
相良研究員は自身の体を、巨大なコウイカに変身させる異常性を有しています。変身は意図的に中断させることも可能であり、これを行うことで「触腕を有するヒト」あるいは「ヒトの腕を有するコウイカ」の状態になります。これらの特異性に関して本人は「いつからこんな能力があったか覚えていない」「そもそもイカになれてもあんまり嬉しくない……」と発言しており、その由来は現在まで判明していません。変身後の相良研究員は完全なコウイカとしての生物学的特徴を有していますが、記憶や人格等は変化せず、通常通りの職務を行うことが可能です。この性質を生かし、相良研究員は海洋圏のフィールドエージェントとして派遣され、オブジェクトの初期収容や調査を行うことがあります。
相良研究員へのよくある質問・要望とその回答:
私に対し似た質問が多く寄せられたのでこの場をお借りしてそれに答えようと思います。変にスペースを取ってしまい申し訳ない……
Q: コウイカ状態の相良研究員って食べることは可能ですか?
A: いや、可能ですが勘弁してください……食べられた腕の再生は可能なんですが、すごく時間とエネルギー使うんですよ。ですので、その、申し訳ないです……
Q: コウイカの墨ってアミノ酸が豊富でおいしいらしいですね
A: これも同様に……申し訳ありません。墨はいざという時に使いたいので……
Q: 相良さんの触手を使った[編集済み]プレイは可能ですか?
A: ええと、可能です。可能ですよ?ただ私の吸盤にはかなり鋭い歯がいっぱい付いてまして、流血沙汰は避けられないかと……期待に沿えず本当にすみません……
Q: 無駄に謝るのやめてくれません?なんだかこっちが悪いことした気分になってきます。
A: 不快にさせてしまい本当に申し訳ありません……以後気を付けます、すみません。
やあ、どうもこんばんは。こんな夜更けに、君は何をしてるんだい。ああ、いや、待って、逃げないでくれ。危害を加えるつもりなんてないから。なあ、頼むからもう少しここに居てくれないか。奴はぐっすり眠っているから、大丈夫さ。
うん、落ち着いてくれたかな。なら良かった。
今こうして僕が君と話せているのには、正直僕だって驚いてる。本当さ。誰かと話すなんてずいぶんと久しぶりなんだ。ああ、そうだ、これも何かの縁と思って"僕ら"の話を聞いてほしいんだ。最近僕らは、というか奴は、周りからちょっと不審な目で見られてるだろ?まあ、奴の特性上仕方ないとはいえ、間近で見てる僕の身としてはちょっと辛くてね。せめてこうして話ができた君にだけでも弁明をしたいのさ。僕らはそんなにアヤシイ奴じゃないってことをね。ああ、でもそれじゃあ君にメリットがないね。ううん、そうだな……もし話を聞いてくれるなら、君が今咥えている右手の先10 cmをプレゼントしよう。話の最中、小腹が減ったら食べていいよ。どうだい?……OK、交渉成立だね。
さて、自叙伝をやりたいわけじゃないんだけど、僕らの身の潔白ってやつを証明するにはいくぶん自分語りをしなくちゃならない。君は退屈に思うかもしれない。でも、今は必要なことなんだ。"僕は"日本生類創研っていうイカれた施設で生まれた。知ってるかな?ざっくり説明するなら「生き物を使って頭のオカシイ研究をしてる人間たちが集まる場所」って感じだよ。生まれた後の僕は順調に、本当に何の障害や困難もなく成長していった。快適だったね。命の危機なんて感じたこともないし、周りの環境もすごくよかった。ただ、唯一問題点を挙げるなら、本当に退屈だったってことだね。狭い部屋で、ずっと同じ食事。まあ、僕はアイツらに文句なんて言えなかったから、その状況に甘んじて日々を過ごしていたんだ。あの日までは。
あの日ってのは僕が真っ白な机の上に置かれて、アイツらのイカれた実験に付き合わなきゃいけなくなった日の事なんだ。僕があの施設にいる奴らが、みんな少しイカれてるって気づいたのはその時だった。アイツら、僕の体にメスを入れてる間ずっと、執刀医も助手も、みんなして笑ってたんだ。当然マスクをしてるから、口がどんなにひきつってたかはわからなかったけど、目が笑ってるんだ。きっとアイツら、どこかがおかしいんだよ。たぶんだけど、倫理観とか常識ってやつが足りないんだ。人間味がないって僕が言うのもなんだけど、本当にそんな感じなんだ。
実験の後、アイツらはまるでフォアグラを作るみたいに、僕の胃に食事を流し込んだんだ。たぶん、僕をガチョウか何かと間違えてたんだと思う。で、そんな生活が30日くらい続いた。そのお陰でもともと小さかった僕の体は見違えるほど大きくなったし、食欲もちょっと過剰なくらいになった。アイツらは僕を観察しながら記録を付けてた。ただ、アイツらはいつだってにやけながら僕の方を見るものだから、これはちょっとばかし嫌な気分だったね。まさに好奇の目ってやつなんだ。あんな目で僕のことを見るのはアイツらか、いつか水槽のガラス越しにいた馬鹿なドチザメくらいだろう。
そうして僕は実験の第二段階に進むことになった。僕はそいつの行われる二日前から何も食べてなかった。アイツらが食事を持ってきてくれなかったんだ。腹が減って死ぬかと思った時だった。部屋に緑色の嫌な臭いのする薬品が投げ入れられて、その後派手な音を立てて僕の部屋に何か、食えそうなものが投げ入れられたんだ。僕はビビッて部屋の隅の方に逃てたけど、どうもそいつがピクリとも動きゃしないし、とにかく馬鹿みたいに腹が減ってたんで、とうとう僕はそいつに食いついちまった。たぶんあれが僕の人生、いや、イカ生の大きな転換期だった。
僕が食いついたのは相良っていうニンゲンだった。奴さんはあのイカれた連中の仲間で植物なんかを専門にしてたらしい。なんでそんなことを僕が知ってるかって?そいつが問題なんだ。アイツらが僕に施した実験ってのは、僕が他の生物に変身出来るようになる改造手術だった。部屋に撒かれた薬品を摂取した直後に僕が食った生き物に変身できるんだってさ。姿形だけの変身だったら、まあ、僕はそんなに気にしなかったさ。だが、なんとこの変身ってのがご丁寧に記憶まで受け継いじまったんだ。相良とかいうニンゲンの記憶をだ。だから僕はこうして君と会話できるんだ。普通のイカが、人間の言葉を話せるわけがないだろう?
ちょっと相良ってニンゲンについて説明したほうがいいかな。相良はアイツらの仲間だったのに、杉の木と人間を掛け合わせる実験にだけはものすごく反対したんだ。薗田とかいう上司の提案で始まった実験らしいけど、人間を木の中に入れる新しいタイプのコールドスリープを開発しようとしたらしい。で、その試験に使われることになった実験体に、この相良ってやつは酷く同情しちまったんだ。人間の方の実験体に情が移ったんならそれは美談だろうけど、奴がかわいそうだと思ったのは杉の木の方だ。奴も大概イカれたニンゲンだったんだよ。まあ、そんなことをきっかけに奴は上司と大喧嘩になって、最終的に殺されたのさ。まったく酷い上司だよ。かつての同僚を殺した挙句、他の実験の実験台にしちまったんだから。
とにかく、奴さんを食っちまった僕は"人間になれるイカ"になったわけだ。でもアイツらにとって僕が相良の記憶を受け継いでるのは想定外だったらしい。だからアイツらは急いで僕から「日本生類創研」の記憶を無くそうとした。僕を無理やり陸に引きずり出して、相良の姿にさせてからいろんな装置と薬品で"相良の"脳をいじくりまわした。だが、あいつらが不注意だったのは"僕の"脳に何もしなかったことだな。相良の記憶は僕の脳でバックアップされてたんだ。当然、イカの脳なんて人間のそれに比べればお粗末なもんだから、保持できる記憶の量も質も酷いけどね。そうして相良からは「日本生類創研」の記憶はばっちり消去されて、あいつはちょっと植物に詳しい一般人になった。僕がバックアップされた記憶を相良に戻せればいいんだけど、それは出来なかった。奴の記憶と僕の記憶は決して共有されなかった。僕が奴さんの記憶を一方的に利用できるだけだ。だから相良は、今でも自分が人間だと思ってる。
記憶に関するごたごたが済んで、アイツらは僕の観察と調整に時間を割くようになった。その時から僕は、あのイカれた施設から逃げ出そうと思ったんだ。外に出れば、アイツらのにやけ顔も見なくて済む。それに何より、相良の記憶を見て、人間界ってのが本当に刺激にあふれていて魅力的だってのを知ってしまったんだ。好奇心はイカを殺すかもしれないけれど、水槽の中で過ごす死ぬほどの退屈よりは幾分ましに思えた。だから僕は薗田とかいう研究員が水槽に近づいたとき、顔面に思いっきり墨をぶっかけて逃げてやったんだ。施設の構造は相良の記憶を通じて知ってたし、幸運にもすぐ近くは海だった。僕はそいつに飛び込んで一目散に沖へと逃げたんだ。
その後のことは君らが知ってる通りだよ。人間界で生きるためには、やっぱり人間の考え方をする奴の方が便利だったから陸に上がった後のことは相良に任せた。とはいっても奴さんは一部記憶がとんでたから、僕が多少サポートしつつ上手いこと人間界に溶け込もうとしたんだが、これは上手くいかなかった。ニンゲンは日常の中で突然イカに変身したりしないってことを、僕はうっかりしていた。だから僕らは君らに見つかって、今ではこうして緩やかな監視の下、君らと働いてる。いやあ、アイツらが相良の植物に関する知識まで消さなかったのは本当に幸運だった。おかげでガラスケースの中の退屈な生活に戻らずに済んだわけだ。
僕はもう相良に干渉することはやめている。君たち財団の下で、もう一度僕がやらかしたらマズいからね。僕は友人がゲームをするのを隣で眺め続けるように、相良の人生、いや彼はもう人ではないからこの言葉は不適かもしれない。まあ、そんなものをひっそりと、彼の内側から楽しんでいる。こうして君に僕らのことを打ち明けられたのも何かの縁だ。もう1つだけお願いを聞いてほしい。どうか、君たちは僕らをそっとしておいてほしい。僕には悪意なんて微塵もないし、相良にだってない。大丈夫。保障しよう。奴さんの考えることは僕には筒抜けなんだから。だから、どうか黙って僕らのいびつな2人3脚、いや僕の足は8本だから2人9脚?ああ、違う。"僕"は人じゃないから1人1匹9脚?だめだ、イカの頭じゃこんがらがる。まあ、僕たちが生きていく様を見守ってほしいんだ。
……僕の話はこれでおしまいだ。いろいろと話せてすっきりしたよ。さて、そろそろ奴さんが起きる時間だね。僕はここでおさらばするさ。君がかじってるその腕はもう少しそのままにしておいてあげるよ。それじゃあ、ありがとう。
酷い喉の渇きと頭痛で、私は目を覚ましました。寮まで戻らず、横着して研究室で寝たのがよくなかったのでしょうか。昨晩はどうにも寝苦しく、妙な夢を見た記憶があるのですが、その内容は全く覚えていませんでした。とりあえず水を飲もうと起き上がったとき、自分の布団から白い8本の足が伸びているのに気が付きました。どうやら寝ている間に体の一部がイカになっていて、そこから体の水分が逃げてしまったようです。急いで人間の体に戻そうと触腕を引っ張ったとき、右の触腕が妙に重たいことに気が付きました。何かが先端に付いているようですが、触腕の先は死角に入っていて目視で確認はできません。私はこの体質が異様なことを自覚してましたし、少しでも私が問題を起こせば、自分は「収容」されるということも知っていました。もしこの腕がさらに異様な変質を遂げていたら……そう考えると不安で仕方ありません。私は恐る恐る触腕を引き出しました。触腕を持ち上げ、その全貌を見ようとしたとき、その先っぽに黒い何かぶら下がっているのが見えました。
「……あの、川獺丸さん、おはようございます。その、すみません、いつまでも噛みついてないで放してください……あの、いや、なにもぐもぐしてるんですかちょっと。あ、逃げないでください!」
10cmほどなくなった触腕をはなし、川獺丸さんは研究室から脱兎のごとく逃げて行ってしまいました。