唐揚げおいしい。
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「へぇ。エージェント木村のお料理教室、ですか」
 
虎屋博士は事務用椅子を軋ませながら、ワニのぬいぐるみを抱え直した。休憩中の研究室にはコーヒーの香りが漂い、3人の研究員たちも思い思いにくつろいでいる。
「ええ、本当に料理がお上手で。来週はハロウィンのお菓子を教えて下さるんですって」
「仕事終わりに皆で料理するの楽しいよね」
「で、少しは上達したのかよ賀鳥?」
「うっさいわね。アンタこそ料理出来るの?」
「舐めんなよ、チャーハンなら作れるぜ」
「どうせそれしか作れないんでしょ馬場君は」
「ちぇっ、犬飼まで何だよ」
盛り上がる研究員たちから視線を外し、虎屋はワニをもふもふしながらふと考え込んだ。
 
「……料理教室、参加してみようかなぁ」
 
途端に研究員たちの表情が凍りついた。
「いやいやいやいや」
「待ちましょ博士、考え直そう」
「どうしたんです皆さん」
きょとんとした顔で部下を見渡す。自身が作り出す物体の評判――『殺戮兵器』『暗黒物質』『新しいオブジェクト』等とそれらが評されていることに、彼はまったくの無自覚であった。
「勤務時間外に何しようが私の勝手じゃないですか」
「いややめたほうが良いって博士、ほんとマジで――」
「ぽちっとな。はい、参加申し込み完了です」
「ああっ」
「そんな」
「最悪だ……」
財団の携帯端末からメールを送信し得意げに湯気を出す唐揚げの前に、研究員たちは膝から崩れ落ちた。
 
 
 
 
「……それで、結局どうなったんです?」
報告書を携えやってきたマオに問われ、虎屋はフフンと鼻を鳴らした。
「いやぁ実は、木村さんに会ったら『虎屋博士の腕前は聞いています!ぜひアシスタントとしてお手伝いいただけますか?』なーんて言われちゃって」
「まじっすか」
「うん。それでひたすら、皿の上の豆を数えてたんだ」
「……ははぁ、そうでしたか。楽しかったですか?」
相手の呆れ顔に気づかない唐揚げは、ほくほくと食欲のそそる匂いを振りまいた。
 
「とっても!」
 
 
 
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