大切な人
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は暗く、狭い独房の中で目を覚ました。まどろみながら辺りを見渡し、鳴り響く警報、壊れた壁、飛び散った自分の大量の血液を発見した。元財団のエージェントだった彼がすべて
を理解するのに時間はかからなかった。
「久しぶりに外に出れそうだ」
代わりに死んでくれた友人の██ ██に感謝しながら、男は独房から脱出し、ほとんど壊れていることを除けば、見慣れた廊下を歩き、元同僚達に見つからないようサイト-81██の外に脱出した。

あそこに拘束されて自分の大切な人達に感謝するのも悪くはないが、やはり大切な人達のために自分は死ななければならない。財団に捕まる訳にはいかない。男は逃げ続けた。

「すみません。少し乗せていただけませんか?」
男はトラックの運転手にそう話しかけた。トラックの運転手はそれを快く受け入れ、██山付近まで乗せてくれることになった。男は彼との会話で最近の世間の情報を手に入れ、久しぶりの会話を楽しんでいた。そうして会話をしているうちに、すぐに██山に到着した。トラックの中で、男は礼を言い、そして降りた。男はトラックが走り去るのを見送りながら、ぽつりと呟いた。
「あなた、いい人ですね」
男がそう言うと、トラックはスピードを落とさないまま壁に向かい、激突した。男がトラックの中を確認しに行くと、運転席には誰もいなかった。男は彼に感謝しながら、真夜中の山中へと消えていった。

男はエージェント時代の調査により、山の中にほとんど人が住んでいない村があることは知っていた。男は村に着くと、明かりのついた「田中」という表札のある民家を尋ねた。
「すみません。道に迷ってしまって。一晩だけ泊めていただけませんか?」
民家には40代ほどに見える母親、中学生と思われる息子の2人が住んでいた。息子は男を怪しみ、泊めないよう母親に勧めたが、母親は男を哀れみ、一晩泊まることを許した。彼女は男に食事を振る舞い、布団まで用意してくれた。男は久しぶりの食事を楽しんだ。男の持つ人柄の良さに、最初は警戒していた息子も気を許し始めていた。

2人が寝静まった後に、男は布団に入りながらぽつりと呟いた。
「彼女はいい人ですね」
男はむくりと起き上がり、母親が寝ている寝室へと向かった。息子を起こさないよう彼の部屋の前をゆっくりと通り、男は寝室の中へ入った。そこには中に誰も入っていない、ぺたんと潰れた布団だけがあった。男はそれを見て安心し、自分の布団の中に戻り、朝までぐっすりと眠った。

朝になり、男は何か大きな音を聞き、目を覚ました。まどろみながら部屋から出て、辺りを見渡すと、息子が大騒ぎしながら家の中を走り回っていた。どうやら母親を探しているようだった。男はその様子を見て息子を落ち着かせてやろうと思い、息子の元へとちかより、話しかけた。
「彼女なら私の大切な人になりましたよ」
息子は最初は理解できない、という顔をしていた。そこで、もう少し詳しく話してやると、彼は引きつった顔をしながら、男から離れていった。そこで、
「君も私の大切な人になりますか?」
と聞くと、息子は台所へと向かい、包丁を取り出し、それで男を刺した。一度では死なず、何度も何度も。そうして男が死んだことに気づくと、自分のしてしまったことに気づき、家から飛び出し、そのまま逃げ出してしまった。

自分が母親を殺してしまったとも知らずに。

「ふう、また死ねた」
彼は██回目になる死からの目覚めを堪能しながら、その民家から出て、新たな大切な人を求めて動き始めた。

「ありがとうございました。田中さん」

彼女へ感謝をしながら。

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