カクタスマンの生き様
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夢は長らく心理学者にとって論争の種となっていた。心理学者たちは、夢の意味は何たるか、激論を交わし合い、声高に意見を表すのであった。あるものは、夢とは日々のイベントを脳でなぞるものであると考え、一方その他は潜在意識が何か有益なもの、何かしらの問題の解決策を考えあぐねた故のものと仮定する。だが何時においても、寝癖やコーヒーばかりの科学者こそ、最も聡明であると定義できよう。何故ならば、このような科学者たちは夢についての理論を立てるよりも、夢で夢を実験することを優先させるからである。1

ここで科学者の殆どが懸念さえすることのない事がある。それは植物が夢を見るかどうかということだ。いや、植物は夢を見る。こと植物群落において、ハエトリグサは最もよく鉛色の悪夢を見ている。往々にしてその悪夢には日光と蜘蛛の形が現れる。這い伸びる蔓は夢を殆ど見ない。蔓は絡みつくことに疲れきっているのだ。

さて草叢の夢はこの物語に関わってくる。もっともサボテンとて夢を見る。俗人は、サボテンは水を夢見ると思うだろう。そうではない。水の夢などは、途方もなく退屈だ。水はそれ自体で多くの事はしない。一般常識として水というカタチは決定的ではない。サボテンの見る水の夢は、人の見る平原の夢に相当する。詩的に聞こえるかもしれないが、平原ですることは余り無いと一度悟れば、あとはただ長たらしく感じるだけだ。実に愚直で、荒唐無稽で、信じ難い考えだ。

いや、多くのサボテンは素晴らしいサボテンっ娘を見つけることを夢見て、良きサボテンの友たちから1ブロックしか離れていない素晴らしき砂地に根を下ろしたいと夢見ている。カクタスマン、ある時はダニエル・マッキンタイアの友として知られ、またある時は非常に可愛らしいサボテンっ娘たちにうごごうぎぎ[urrgghjhggjdf]2をしている。彼はその宿命的な朝、根を下ろす夢を見ていた。特に、キャリー・(RH)・イプサルシス[Carrie (RH) Ipsalsis]は、サボテンでは無いのにも関わらず、非常に可愛らしかった。また、カクタスマン自身も実際の所サボテンではなく、人間集団の高潔なメンバーであって、無垢な命を救うために、乾燥を防止するためにその身を捧げていた。

彼のまどろみを破ったのは唸り声だった。具体的に唸り声は、
「おい、ダニエル、起きろ!」
目から砂を払い、ショボくれショボくれにカクタスマンは部屋の向こうのカールを睨みつけた。カールはハンサムの見本と言った所で、青春を謳歌する背が高く逞しい男性であった。彼とカクタスマンは地元のリホームストアで出会った。カールも又サボテンであった。ならば今どの様にカクタスマンに話しかけたのか疑問を抱いたかもしれない。

カールが喋った言葉は英語だと常識人は仮定するだろうが、喋った言葉は仙語[Cactese──仙人掌語]だ。仙語は人間の耳では全く理解できない、その聞こえは主に一続きの轟きと唸りである。仙語は事実、13の特殊な唸り声からなる複雑な言語で、あらゆる人類には不明瞭に聞こえるよう設計されている。と言うのも、人は無辜のサボテンを掠奪することを意図しているかも知れなければ、サボテンたちをマントの上のトロフィーが如く取り付けようとしているかもしれないからだ。さらに仙語には少しの水の表現する語が73.5語ある。なぜならば、サボテンは大体楽観主義者で、人によってコップに並々と盛られた水に対しても、チクチクと文句をつけることは殆ど無い。

「ダニエル、目を覚ませ、ほら!誰かが君の助けを必要としている!」

誰かに平手打ちでもされたのか、サボテンの棘にでも刺されたのかのように、ダニエルはぐいっと起き上がると、シーツを払い除け、窓の側の朝食をパッと掴んだ。ヒーローと言えども、結局のところ、エネルギー抜きで窮地を救うことは出来ない。カールは、カクタスマンに詳細を言い続けた。

「彼女の名前はリリー、僕は彼女と植物養育園で出会った。彼女は僕にいつでも、十分な何十ガロンの水と日光を約束してくれていたよ。それにカワイくて、ね、なあ、一度見たことがあるはずよ彼女を──。」

「カール!要約を言ってくれ!」
ダニエルはカールの刺戟的な言葉を遮って叫ぶ。

「そうだな、そうだね。悪かった。ダン、彼女は誘拐されたんだ!連中は彼女を連れ去った!君は彼女を助けなければならない!彼女のお嬢さんが困っている!連中は彼女を、5739ノース・クラークに連れて行った!」

英雄的で厳粛な任務に駆り立たれて、カクタスマンはドアに駆ける。電光石火の思考、にも関わらず、彼は一時中断して、カールの方を向いた。
「どうやってこの話を聞いたんだい、一体全体?」

「ああ。情報ルートから聞いたんだ。」

ダニエルがカールをどれくらい長く見つめていたかということは、実用的なテキストの浪費であり、その見つめている時間帯に起こった別のことを書くほうが良かろう。眼光も筆に表すには非常に鈍いものだった。睨みつけ方を書く方法は多くあれど、大抵はその”鋭さ”を表現するものである。写実的に出来事を表すならば、立ち上がって、植物を見て、10分間それを見つめていたという所。まだまだ物語が続く。

物語におかえりなさい。ああ、それは退屈であった。

ダニエルは視線を外すと、何かその『信じ難いゴシップ』について呟くと、ドアに飛び込み、戦いに備えて棘を突き出すのであった。今日、悪が立ち歩くことはなかろう。今日、世界は明かりと正義に濡れるであろう。

カクタスマンは豪雨の中いやいや先に進み、時折、見上げてはストリート・ナンバーを見ていた。正義の歩みは台無しにされた、天気は天気で別の計画があったのだ。天気は余りにも長く行儀よくしていたのだ。ここしばらくの日、燦々と陽を注ぎ、朗らかな気温を与えていた。天気はこの日に備えていた。カレンダーに曇りを書き記したこの日に。曇りとは役立つものだ。

カクタスマンが5739ノース・クラークについた頃には、どんなサボテンも、その正当な権利を持ってして濡れてると言う程に彼は濡れていた。サボテンはユーモアの好む傾向があるように、天気にも好む傾向がある。乾燥している気候がよく、さらに望ましくはジョージ・カーリンも居るとなお良い3。背中から棘を引き抜くと、カクタスマンは静かにキーロックの完全性を調査していた。そして全く合法的に、同時に静かに入り口に這入っていった。

「僕は、いま獣の腹の中にいる……」
部屋を眺めたあと、カクタスマンはそう思った。部屋の様子から、この家に誰も居ないことは明らかであった。TVは付いておらず、怒り狂った住人に、「一体全体どうして知らん奴がここに立っているんだ、どうして中に入った。俺は残忍なポリスのボブを呼んでいるんだ、付いてたらお前みたいなチンピラにレッスンをくれてやるだろうよ。」と言われることもなかった。カクタスマンが期待していたような、粗野で極悪非道な連中がいる場所なんかでは決してなかった。この場所は、全くもって居心地が良かった。連中が朝食をもう済ましていているのは明らかであった。角には鉢植えが点在していて、ソファーはよく整備されて、敷物が敷いてあった。リビング・ルームは開放的で、魅力的で──「一体全体お前は誰だ!?」オーナーの声は怒りに満ちていた。派手なハワイアンシャツを着ている丸っこい男性で、ビールとプラスチックのピンクのフラミンゴがよく似合いそうだった。カクタスマンがここで何をしているか、知らない。おそらく冷静さを失っている。どうして彼がそこまで怒っているのか説明するまでもない。

彼はカクタスマンの顎に熱い拳で応じると、空を裂き、ソーセージを牽引している豚のような車両じみた腕4で突進してきた。カクタスマンの世界は新たな色で爆発(たとえるならばシロウン[sillown]色)。風圧で後方によろめく。どんなサボテンも一殺される力よりも遥かに大きな力を受けた。

カクタスマンは近くのコーヒーテーブルに凭れた。ハワイアンシャツの男は手にサボテンの棘が刺さっているのに愕然としている。驚愕の事態に、彼は大声を上げ、飛び退き腕を振り回さざるを得なかった。闇雲に彼の背中を握りしめたカクタスマンは、親しみやすいコーヒーマグを見つけると、ハワイアンシャツの頭へ、祝賀の言葉とともに、それを振り下ろした5

ハワイアンシャツは床に崩れ落ちていた。カクタスマンはロクデナシを用心深くまたぐと、覚えてあった病院に連絡して、シワを幾つか伸ばした。カクタスマンはハワイアンシャツは許容できるファッションであるかどうかなどと、無駄な疑問に耽っていた。彼を叫び声が空想から引きずりだした。

叫び声!少女が困っている!カクタスマンは騒音の元に走ると、ドアを蹴破った。彼女はそこにいた。

リリーは、男が忘れることの出来ないような見た目だった。芝生について取り留めもなく喋る老年期のものでも、学校にいく途中で丘に足を取られ、その最中オオカミがよじ上がってくる様なときでも、リリーを見た瞬間を忘れないだろう。彼女は花を、頭の上にくくし上げていて、柔らかい彼女の体に色のアクセントとなっていた。部屋に光が差し込む。彼女の可愛らしい顔が嘆願するようにカクタスマンを覗く。カクタスマンは彼女のカーブする体を束縛する装丁から彼女を解き外した。彼女のポットの土から値札がつきだしていた。

全てを考慮にいれても、彼女は可愛らしいサボテンであった。

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