『時代』だと 言ってしまえば ハイそれまで
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「よう、ここいいか」
「構わんぜ」
「最近はどうだ」
「耳から小さな仏が生やせるだの、鼻毛を伸ばして輪を作るだの、そんな奴らについてだ…こういう仕事をしていると、我々と彼らで何が違うのか、考えてしまうよ」
「哲学的なことを言うねえ」
「気紛れだ」


「なあなあ、最近8190に行ったか」
「いや、特に用事もないしな」
「凄いのがいる。喋るトカゲだ」
「何だって」
「特例というやつだ。腕は確からしい」
「そういうのは無条件で収容されるはずだ」
「適用できん位の大物ということかもな。まあ、自分から近づかん限り交友は無いだろう」


「よう、昇進おめでとう。これ、つまらんものだが」
「おっ。早速食べようじゃないか」
「話が早いな」
「どうせ訪ねて来るのなんてお前くらいの物だ」
「博士になってどうだ」
「…世界は広いな。俺より上に、頭がボールの女がいる。」
「は?」
「ちらと見ただけなんで、それしか分からんが」
「趣味かな」
「どうもあれ自体が頭のようだ」
「いや、さすがにそれは収容対象だろう」
「まあ、上が認可してるんだろう」
「そういうものか」
「財団の規範も、柔軟に形を変えていく。事実、ここ20年で収容環境も随分変わった。監視と制限はあるが、普段と変わらぬ暮らしを送れているやつもいる」
「時代、と言ってしまえばそれまでか」


「よう、久しぶり。昨日戻ったんだ」
「久しぶりだな。日本はどうだ」
「また妙な奴が増えたな。本、スライム…」
「おい、そういうの、結構問題になるぜ」
「そうなのか。冗談のつもりだったが、まずかったかな」
「なんだ、もう誰かに言っちまったのか。近々、上も分類について定めるつもりのようだぜ」
「ふうん。時間の問題とは思っていたが、あやふやだからこそ良かった部分もあるんじゃないのかな」
「文句を言う者がそれだけ増えてきたということだ」
「まあ俺たちにはあまり関係もないだろう」
「俺たちも年が年だ。そういうのが部下につくこともあるだろう」
「その時は…その時だな」


「よう。怪我、大丈夫か」
「問題ないさ。仕事に支障はない」
「例の、見たか」
「ああ。俺も幾つかのオ…職員の履歴書に判を押さにゃならん」


「よう。あー…」
「なんだよ」
「いや、話があってな」
「勿体ぶるなよ」
「…分類委が、お前を収容対象に指定したそうだ。昨日付けで」
「冗談はよせ」
「冗談じゃあない」
「いや…それだったら、俺なんかより、もっと先に収容すべき者がいるはずだ。確かに8年前の事故で俺は両腕を失った。異常性も得た。しかし、こうして文書を作成したりメシを食ったり、そういうレベルのものじゃあないか」
「…分類学が最近変遷を見せていてな。学術的に、微細でもヒューム値の上下を招く異常は身体異常を上回るものとして規定される、との発表が出た。学会もそれを支持している」
「しかし…」
「逃げようなんて思わないでくれよ。まあその程度の力、どのみち何もできんだろうが。すまないが、これも時代と諦めてくれ」

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