"ボブルとDクラスのコメディショー"
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20██年██月██日、SCP-993の新たなエピソードが二つ確認されました。以下はその記録です。

エピソードタイトル 内容
'ボブルの愉快な畑仕事' 場所はアメリカ中西部のコーンベルト地帯における農村と見られます。このエピソードにおいてボブルは一般的なトウモロコシ栽培と同じ方法を教えてくれます。しかし、番組の最後に行われる収穫においては、性別、人種の異なる約200ほどの人間が収穫され、財団が確認していない異常存在に捕食される場面が映されます。放送中に収穫された人間のうち数名は、財団の所持する所在不明Dクラス職員と一致しました

薄暗い部屋で、D-2930は報告書の一枚目に目を通すと、顔を上げた。
彼に背中を向け、椅子に座っている相手、明らかな高クリアランス職員は彼の方を振り向くことも無く問う。

「で、何か意見は?」
「意見は、と言われても困りますね。まさかアンタ達までDクラスは畑から生える、なんてこと信じてるわけじゃないでしょうに」

相手からの返答はない。クソったれ、D-2930は心の中で毒づいた。
だが、それを台詞の中に含ませることなく、半ばジョークめかして返す。

「…もしそうだとしたら、俺の記憶は何だってんですか、俺の人生は、アイツらの人生は、お得意の記憶処理の賜物ってことですか」

返事は無い。記憶処理、財団における一種のクードグラースめいたそれについて考えたことが無いと言えば嘘になる。
だが、そんなことをするほどこの組織の倫理が狂っているとD-2930は考えてはいない。思考の放棄ではなく、彼なりの結論だった。

「俺がやった事はまあ、許されざれることでしょう。それを知って、俺はこの仕事をしているんだ」

返事は無い。自分が犯した罪のことは覚えている。いや、それが彼にとって一種のよすがでもあるのかもしれない。
だからこそ、彼はここに立てているのだし、ここに立つ意味を見出している。

「…まあ、疑ったことがないわけじゃあないですが、…いや、まさか本当に」
「いや、そんなことはない。私が保証しよう」
「そりゃよかった」

ようやく返ってきた答えにD-2930は本人の意思と関係なく安堵していた。

だが、椅子が回転し、相手が彼の方向を。その顔には、悪趣味な道化のメイク。
D-2930が息をのむ。相手、ピエロのボブルはまるで何かを釣り上げる様なパントマイムを行いながらD-2930に笑いかけた。

「Dクラスは畑から生えるんじゃなく、水槽から釣りあげられるのさ!」
「…!」
「どうしたんだい? もうここはテレビの中だよ! さあ、君もピエロだ、僕は悲劇なんか望んじゃいない!」

途端にD-2930の周囲が変わる。ここは何処だ。周りは書き割りに、あるいはアニメーションへ変化する。
だがそれも一瞬のこと。すぐに視界が明滅すると、D-2930は水中にいた。息ができない、肺の中まで熱い何かが流れ込む。
視界の先にD-2930はピエロの顔を見た。水槽に反射する自分の顔を。無表情な道化の顔を。

「さあ、笑って? 今まで罪なく死んだ、生まれたことが罪だった、君の兄弟の為にも!」

D-2930は、水中の記憶を取り戻した。


エピソードタイトル 内容
'ボブルの釣り堀体験' 場所は釣り堀。ボブルは一般的な釣りの方法と、釣り堀におけるマナーを教えてくれます。番組内においてボブルが釣り上げるのはボブルと同じピエロのメイクを施されたDクラス職員です。番組の最後は釣り堀を上空から撮影した映像であり、釣り堀の中には無数のDクラス職員が確認できます。また、釣り上げられたDクラス職員の中には、現在行方不明となっているD-2930の姿が確認されました
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