茹でるか、炒るか、目玉焼き
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SCP-049は不調だった。この財団施設に収容されてから初めて、何か様子がおかしかった。セキュリティカメラ越しで確認すると、腹部を押さえて呻き、収容室内をよろよろと動いている様子で、時々横になる為に立ち止まっていた。医療スタッフの見地でもその答えは知れず、ペスト医師は腹痛を除けばいたって正常としか言えなかった。そもそも彼のローブ状の皮膚の下を確認することができないのでどうにもできなかった。やがて、SCP-049は精密検査のために医療施設に移送された。彼の世話は、人間型異常物体を専門とするリチャード・オメル博士が担当することとなった。

「博士、頼む。どうかそっとしておいてくれ。私はこの痛みに耐えられることを約束する。」
オメル博士が診察する最中も、SCP-049は拘束に対してもがいていた。

「なあ、何があったんだ049?実に奇妙なことだ。」
オメル博士は手袋越しに、SCP-049の腹部にふくらみがあることを確認した。腹部膨満だろうか?するとSCP-049は呼吸を荒げつつ応えた。

「大丈夫だ。これは前にもあったことだ、そして病ではないと言い切れる。」

「君は君自身に起きていることを把握しているのだね?なぜ何も言わなかった?」
オメル博士は触診を中断した。

「信じてもらえないと思ったから言わなかった。博士よ、私は……妊娠しているのだ。」

「妊し……何ィ!?」

「すまない、しかし説明が難しい。頼む、黙って収容室に返してくれ。私は適切な準備をしなくてはならない。」

「いや、というかどうやって妊娠した?我々はずっと君を監視してきたんだぞ!」
SCP-049は体を竦め、呼吸が早くなった。相当な痛みを感じているらしい。
「049、大丈夫か?」

「どうか気にしないでくれ。時間はかからない。」
オメル博士は医療スタッフ増員のために部屋から駆け出した。SCP-049は引き続き痛みにもがいて呻き、やがて震えて悲鳴をあげた。オメル博士やスタッフ達が戻る頃には、彼のローブの下から真珠のように真っ白な卵がころりとこぼれ落ちていた。SCP-049は平静を取り戻し、答えた。

「博士、どうかこの拘束具を解いてくれないか?卵の世話をしたい。私がやらなければ死んでしまう。」
オメル博士は衝撃のあまりに要求に応えてしまった。SCP-049は優しく卵を抱き上げ、その腕であやすように揺らした。

「すぐに報告を。」
1人の医師がようやく呟いた。
「こんなことは初めてだ。」
尻目にSCP-049は卵をゆっくりと左右に揺らしていた。


財団は研究目的として、SCP-049の卵の世話を許可した。この5日間、SCP-049は卵の世話に尽力した。時折、布や紙を要求し、財団がそれを支給すると、彼は部屋の隅に小さな巣を作った。卵は柔らかな巣に安全に収められ、049は温めるためにその中に座った。多くの研究員は、スピーカー越しに卵から静かな物音が聞こえることを報告した。

オメル博士は監察室にいた。彼はこの出来事からSCP-049の報告書をまとめていた。049は健康のようだし、卵の状態も良好だった。それにしても奇妙なことだ。確かにSCP-049は鳥を彷彿とさせる外見をしているが、まさか本当に鳥なのだろうか?オメル博士は、卵を優しく突く049に尋ねることにした。

「049、君が今、何を企んでいるのかを教えてくれないか?」
049の収容室内に、オメル博士の声が響いた。

「何を説明しろと?私は自分で産んだ卵の生命反応を確認しているだけだ。」
SCP-049は立ち上がり、卵を巣に戻すと、またその上に座った。

「君は鳥か?」

「何?」

「鳥なのかと聞いているんだ。なにせ…君のような、人型異常実体が卵を産むというのは、あまり普通とは言えない。」

SCP-049はしばし思案した。
「……いや。少なくとも私が知る限り、私は鳥ではない。ただ、私にとって卵を産むことはごく自然なことだった。」

「どのくらいの頻度で発生する?」

「さすがに覚えていない。ただ、ここ数十年はなかったと思うな。」

「ああ、そう…。」
これを正式な報告書に書かなければならないと思うと頭が痛い。SCP-049はまた鼻歌を歌いながら、巣の上で左右に揺れた。


卵の出現から10日目。SCP-049の収容室内には、カメラとノートを持った研究員達でいっぱいになっていた。万が一SCP-049が行動した時のために、部屋の真ん中にガラスの壁が立ち、複数の警備員が待ち構えていた。本日は重大なイベントだ。中身が何であれ、あの卵が孵化するのだ。SCP-049は、壁の向こうで囁き合う研究員達を前に、用心深く巣のそばに寄り添った。

卵は揺れ、やがて中央のヒビが大きく広がり始めた。ついに何かが殻を割り、姿を表した。白い嘴が殻を脱出し、やがて内側のモノは両手で這い出てきた。それは── もう1体のペスト医師だった。それは小さく、父親と比べて少々愉快な姿をしていた。SCP-049は感嘆し、小さな医師を優しく抱きしめた。

「えっと……どうすればいいんですか、これ?」
感動がクライマックスを迎えたところで、研究員達は、たった今、正体不明の新たなアノマリーの誕生を目にしたことを認識した。なぜ……帽子を被っているのだろう。なぜお花畑の匂いがするのだろう。警戒しつつも、最初に近寄ったのはオメル博士だった。

「049、えっと…その、それをちょっと、おろしてくれるか?感動しているのはわかるが、我々も観察しなくてはならないし、それに…」
オメル博士は049に手を伸ばそうとしたが、小さなペスト医師の振り回した杖に打ち据えられたところで身を引いた。

「医師に触れるでない!」
小さな医師はSCP-049の腕から飛び出し、誰もが反応しきる前に収容室から駆け出してしまった。収容違反のベルが鳴り響く中、SCP-049は歓喜の涙を拭っていた。

「あれこそが──癒しだよ。」

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