耐久実験
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――赤い世界に一人立っている。
私の名は小林、財団に籍を置く博士の一人であり、現在はSCP-444-JPの実験の真っ最中である。

辺りを見渡せばどこまでも赤い平原が、そして頭上には夕焼けよりも赤い空が広がっている。SCP-444-JPの報告通りの光景である。
深呼吸をひとつして、心拍数、呼吸、そして僅かな筋肉の動きから心身共に正常である事を確かめると、まず左足を踏み降ろし、次に右足を軽く上げ、地面に降ろした。
「時間差共振爆砕脚!」
赤い平原に亀裂が走った直後、爆撃を受けたかのようにクレーターが出来る。これは両足から時間差で発生する振動によって地面を破壊する技で、習得には████時間に及ぶ修練が必要だ。
「体の動きにも問題はなさそうだな……」
クレーターの中心で軽く体操をすると、爆ぜた地面に転がる小石を懐一杯に詰め込んだ。この実験ではこれが文字通り命綱になる。

そうしている間に、ふと自分が鳥のように空を飛べるのだと「気づく」。これも報告書通りだ。
やがて被験者は強い欲求に従って空を飛ぼうとするのだろう。しかし私は、そんなものが無くても空を飛べるのだと「知っている」。
左手に小石を一掴みして脚に力をこめた直後、いくつかの事が同時に起こった。

まず左足、ついで右足が地面を離れる。飛んだかのように見えるが、これ自体はただの跳躍に過ぎない。
次に左手を力強く振り下ろし、そして手に持っていた小石のひとつを地面に向けて投擲する。この動作により鉛直方向に対し作用・反作用が発生することは物理学の素養を持つ者にとっては自明の理であろう。
更に地面に向けて高速落下する小石を左足で踏む。そして跳躍。この一連の動作によって得られる反作用の合計は空気抵抗を無視することで[削除済み]ニュートンに達し、結果として時速約██kmの推進力を得る事が可能となる。すなわち、
「二重反作用空歩術!」
僅か1秒にも満たない時間で全ての動作を完了する必要があるため、有能な人間の集まる財団内ですら行使できる人間は限られる、それほどに困難な技のひとつである。
数歩で十分な高度に到達したことを確認すると、小石をやや後方に向けて投げ落とし、同時に前方へと跳躍する。二重反作用空歩術によって頭上以外の方向へ移動するためには文字通り血が滲むほどの修練が必要となることは、あえて言うまでもない。

しばらく歩を進めていると、やがて前方より強烈な殺気が迫ってくる。巨大な、赤い鳥だ。つい先ほど食らわせたはずの摩擦熱切断手刀(押し付けた手刀を高速で擦り付ける事で鋼鉄すら切断するほどの高熱を発生させる技だ)による致命傷が嘘のように消えている。
赤い巨鳥は血走った眼をこちらに向けて、今度こそ喰らってやろうと大口をあけて突っ込んでくる。
私はにやりと笑い、幻想世界で巡りあった好敵手に向けて実験開始を宣言した。
「待たせたな。第███ラウンドと行こうじゃないか!」

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