挑戦を受けて立つ!
評価: +32+x

ドアの向こうから聞こえるくぐもった叫びと鈍いドスンドスンという音を圧して、甲高い警報の音が響いていた。収容室の中には相変わらず、金属製の箱を並べた長い棚の列とロッカーが、室外のカオスに掻き乱されることなく鎮座している。しかしドスンドスンの音は、その音源が何であれ、近づいてくるにつれて大きくなってきた。

やがて壁の一角が内側に崩れ落ちた。

埃や瓦礫の中から巨大な爬虫類が飛び出し、頭を左右に振って危険を、あるいは貪り食らう人間を見つけようとした。何もないと分かると、それは嘗て壁だった小山の上に登り、外部へのルートはないかと部屋を見渡した。

壁に空いた穴の反対側から銃声が響き、爬虫類は即座に頭を上げた。幾つかの弾丸が脇腹に命中すると、耳を劈くような咆哮が轟く。最初の数発を受けた後、その皮膚は金属的な色合いを帯び、弾丸は壁に跳ね返り始めた。

「厭わしき肉袋どもめが、お前たちの唾棄すべき落とし子の内臓を喰らってやろうぞ、お前たち自身の骨から髄を啜り取る前にな!」

爬虫類は反対側の壁に向かって走り、途上にある棚を倒して中身を散乱させた。前方の壁は突貫を食らって崩れ去った。

重武装の男女から成るチームが、爬虫類の入って来た壁を抜け、部屋の反対側へ慎重に歩を進めた。

「682はB6-17廊下に入り研究ラボへと進行中、我々が追跡しています。交差路B6-17-103で待ち伏せの準備を」

怪物が大穴を開けて通り抜けた反対の壁へ向かうチームの重いブーツが、壊れた石材・ガラス・金属をバリバリと踏み砕いた。待ち伏せされていない事を偵察が確認した後、残るチームは獲物を追って部屋を出て行った。

戦いの場が遠退くにつれて、咆哮と銃声は再び微かになった。室内の埃も、大破壊の後に残された瓦礫の上へと落ち着き始めた。

部屋は静寂に包まれた。

静かな音が、最初は気のせいかと思うほど微かに鳴り始めた。もし仮に誰かがここにいて音を聞いたら、それは床に落ちた金庫の1つから聞こえる低いビービーという音だと考えただろう。金庫は横倒しで、扉の半分が蝶番から捩れた状態だった。

「自己防衛モードが機能しました。ロボ男を傷つけないでください。損傷したロボ男はワンダーテインメント博士の保証対象外となります。ロボ男の内部を開くなどの、操作説明に従わずにロボ男を操作する行為は予測できない結果になります。ワンダーテインメント博士はロボ男の不適切な取扱いの結果による人間または資産への損傷・破壊に責任を持ちません。こんにちは、ロボのお仲間さん。」

残りの蝶番がジュウジュウという音を立て始めた。やがて、酸を吹き付けられて十分弱った蝶番から、ねじ曲がった扉がひとりでに外れ、内部の存在は自由になった。

玩具のロボットが摺り足で金庫の外に姿を表し、自身を起動した何かを探して瓦礫の中に立ちつくした。角ばったプラスチック製の身体で石膏や金属の欠片の上を移動するのは困難だったが、最終的に、ロボットはそれほど障害物のない平らな地面を見つけることが出来た。

「ロボのお仲間さん?」

埃の中でもう1つの姿が身動ぎし、玩具ロボットは音の方を向いた。

「こんにちは、ロボのお仲間さん。今日はロボ男と一緒にどんなロボ遊びをしましょうか?」

「図々しくも我をロボのお仲間呼ばわりするのは何者だ。我はクラッシュマスター、我が見渡すもの全ての破滅の運命である。我が力に瞑目し泣くがよい。名を名乗れ、そして我が破壊が誰が為に撒かれるかを示せ。」

それは塵の雲を通り抜けて姿を現した。こちらもロボットのようだが、機能してすらいないと思しきアイテムを寄せ集めて出鱈目に組み立てられている。頭部は故障した逆さの電圧計で、懐中電灯の胴体からはレンチの腕が突きだし、足はバネと金属パイプとスポークを組み合わせたようであった。

「私はロボ男です、ロボのお仲間さん。私は遊び時間の楽しみを最大限にするための、300以上の楽しいアクセサリーを備えています。」

クラッシュマスターはぎこちなく、数回ほどよろけながらプラスチックの玩具へと接近し、1mほどの間を取って停止した。小柄なロボ男より4~5倍は背が高い。誰かが見ていたら、一瞬前よりも少しだけ背伸びしていると気付いたかもしれない。

「我こそは血喰者ダイアフィスト、我の悦楽はお主を我が全能のブーツの下に踏み潰すことにこそ在り! 我が怒りに直面する心構えをするがよい。」

ロボ男はダイアフィストのスポークを見降ろし、再び顔を上げた。

「ロボ男はあなたのロボ楽しみを最大限にするためロボダンスに努めます。」

ロボ男はロボダンスを始めた。

「よかろう、ちっぽけな弱虫め。我、蛮王スパークロードは、お主の魂をちっぽけな欠片へと寸断する前に、お主とその同類に多大なる屈辱を与えるため、そのロボダンスとやらでお主を倒すとしよう。」

スパークロードは重心の周りを不安定に旋回し始めた。その動きは、ロボ男の身体のどこかにあるスピーカーから流れるちゃちな音楽とは絶望的なまでに調和していなかった。

「ロボ男はロボダンスの挑戦を認識しています。挑戦は受け入れられました。ロボダンス・バトルモードを起動します。」

「何でも好きなだけ起動するがいい、だがお主の運命は封ぜられているぞ。キル・オ・トロンに敗北は無し。我が怒りのダンシング・スキルでお主を塵に変えてくれるわ。」

2体のロボットは本格的にダンスを開始した。ロボ男は的確なダンス・プログラムにアクセスし、能力を最大限に発揮して踊った。キル・オ・トロンは開けた空間をよろけ回り、7回以上転倒し、どういう訳かレンチの片腕を失うに至った。

約30分後、音楽は停止し、2体のロボットも踊るのを止めた。キル・オ・トロンは何とか足部スポークの歯に絡み付いた金属ワイヤーを解いたところだった。

「ロボダンス完了です、ロボのお仲間さん。」

「ハッ。哀れな奴め。舞踏の分野では教養があると見えるが、それを教えたのは他ならぬこのメカノバスター、一千世界の神罰者であるぞ。お主という価値なき存在に終止符を打つ前に、我に跪け。」

メカノバスター、一千世界の神罰者は、勝ち誇って腕を上げ、残ったレンチを想像上の観客に向けて振った。

「ロボ男は勝者を決定するためにロボダンス判定プログラムを使用しています。勝者はロボ男です。おめでとうございますロボ男。」

「傲慢な輩め。破滅の調達者たるドクター・フォン・ヴルームの刺すがごとき一撃を覚悟せよ。」

フォン・ヴルームは、一本だけのレンチ腕をソケットで威嚇的にくるくる回しつつ、ロボ男に突進した。

「ロボ男は負けず嫌いを検出しました。ロボ男はハイドロキャノンを展開し、ロボのお仲間さんの潔さを教育します。」

ロボ男の胸部区画が開き、ウォータージェットがフォン・ヴルームに命中した。床が濡れてフォン・ヴルームのスポークは制止摩擦を失い、破滅の調達者は仰向けに引っくり返った。

「何と小癪な。 最高位スタビネーターの手でお主が破壊を味わえるように、今すぐ我を起こすのだ。」

ロボ男は、最高位スタビネーターが仰向け状態でもがくのを見ていた。床に小さな円を描きはするものの、それは湿ったコンクリートから自身を立ち上がらせることはできなかった。

「王の中の王にして貴族の中の貴族である破壊者デスキルが命ず、我が今すぐ直立出来ていなければ、お主の惨めな惑星上にお主の価値なき身体が痕跡すら残らぬようになるまで、原子を1つ1つ消し去ってくれるぞ。」

「ロボ男を脅迫しないでください。」

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。