D-2000
評価: +7+x

From: 財団グローバル管理局、徴用部門
To: ビザント研究員
Subject: SCP-4932に係るDクラス要求の承認


ビザント研究員
SCP-4932の試験に使用される1250人のDクラス人員の要求は承認されました。前述の数量のDクラス人員はサイト-18よりバイオサイト-84へただちに輸送されます。オーストラリア、アリススプリングに要求された数量が到達した際に通知されます。

F.G.A 徴用部門

ハワード・ビザントは一旦メールを読み終わると、椅子の背にもたれかかった。

「何これ?」彼は独りごちた。彼はDクラスを必要としていた。そして、承認は問題のアノマリーがどう機能するかの調査をかなり容易にしてくれるだろう―オムレツを作るには卵を割らねばならぬというやつだ。ハワードを驚愕させたのは、求めたが承認されたということであり、どこか外国から憂鬱な家畜のように飛行機か船で運ばれてくるということであり、リクエストを送ったのはつい昨日だということだった。

この反応の表面的な理不尽さが浸透するまで、ハワードは椅子の上で動かなかった。彼はもうじき、消耗用の囚人からなる小さな軍隊を指揮下に置くことになるだろう。全員がどう死ぬか、どれくらいで死ぬかを記録される、それ以上に大した目的もなくほぼ確実な死を与えられるための。1200の魂―オーストラリアで終身刑に服している人々よりも多い―骨を砕かれる前に、正常性に関する認識を粉々に打ち砕かれる人々。

ビザント研究員が再び前に身を乗り出し、SCP-4932に割り当てられた同僚たち宛てにグループメールを打ち始めたのはその時だった。Dクラスの到着のために用意せねばならなかった。彼らのための暫定宿泊施設を仕上げる必要があったし、テストが始まる前に得る必要がある、他の研究用具を手に入れねばならなかった。束の間同情したが、ビザント研究員はまず何よりも財団に忠誠を誓っていたし、その延長線上として、求める情報を得るために必要なことなら何でもやるつもりだった。

かたや彼らはDクラスだった。Dクラスはただ死刑囚監房から連れてこられただけで、そんな訳でどのみち先はないのだった。例外はプロトコル12が実施されたときで、そして財団は1800年代初頭以降、そこまで使い捨て人員に関して切羽詰まっていなかった。ビザント研究員が受け取ろうとしている1250の人間は、明らかに全員が人生のどこかで今の居場所にたどりつく羽目になるような、おぞましいことを何かしらやっている。何であれお似合いの末路だ。


「おはようございます、D-53682。私の名前はアマンダ・クラーク博士です。本日は私があなたの心理評価を実施します」彼女の声は温かく友好的だったが、偽の同情心の感覚を伝えてきた。彼女は数十万人のDクラスと話してきて、皆どちらかといえば似たり寄ったりの違法行為の繰り返しか、あるいは重犯罪の果てにここに来る羽目になった話があった。その後に続くインタビューの度に、彼女は彼らにどんどん飽いてきたのだった。もはやクラーク博士は、話しかける相手のことを実際には気にかけてなどいなかった。部屋に現れる前にすら、目の前の悲観的な男の反応をいつも予見していた。

「俺の名前はジェシー・ボールだ」彼は己の新しいアイデンティティとなった魂なき数字に不満だった。アマンダは手の内のクリップボードに留められた書類を束の間見下ろして、彼がまだ以前の名前に執着していることを示すボックスにチェックを入れた。常にいの一番にチェックが入る項目だった。

「結構です、ではジェシー、今日の調子はどうですか?」彼の反応の大半は無視し、必要であるわずかな情報の塊にのみ注意を払い、後はその日の彼女の調子と共に流した。本日すでに一ダース以上のDクラスと面談して、全員が同じ無実と助力の請願の話をしてきた。D-53682も例外ではなかった。クラーク博士は彼が新しい生活に違和感がを訴えている事を示すボックスにチェックを入れた。無実の主張を表すボックスにチェックを入れた。彼が―当然のこととして―もはや人生をコントロールできていないことを示すボックスに、チェックを入れた。

評価は1時間だけ続いたが、クラーク博士には永遠のように感じられた。この男が泣きわめきすすり泣き、解放か、あるいは合衆国のサイト-18に送り返すよう乞う間に、数年が経過したに違いなかった。オーストラリアはあまりにも家から遠すぎる、彼は過剰に主張した。

「少なくともおふくろに手紙を出してもいいよな?大田舎の農場に住んでんだ、俺がどこに行ったか心配するぜ……」と彼は懇願した。

「もちろんです。私達はあなたの手紙が届くようにベストを尽くします、ジェシー」男から手書きの手紙を受け取ると、彼女は立ち上がって彼をドアまで導き、外で待つ警備員にゆだねた。席に戻ると、クラーク博士は埋まった質問紙をクリップボードから外し、'完了'と記されたトレイに入れるとともに、手紙を近くのダストシュートに落とした。手紙は誰にも届かないだろう―届いたことがない。この犯罪者たちを気遣うであろう誰かは、すでに信じねばならないことを聞かされている。彼らは刑務所での喧嘩で殺され、見分けがつかないほど傷つけられていると。失望と悲嘆の中で、棺に戻したはみ出した手足が人間ではなく、曖昧に人型にされたただの動物の肉と骨であることに家族も友人も気付かないだろう。

短くグラスの水を飲み、クラーク博士はクリップボードに白紙の質問用紙を留めると、次の入室を合図する机のボタンを押した。次の入室者は悲観的な雰囲気の女だった。クラーク博士はわざわざ彼らの人種や先祖を特定しようとせず、彼女の肌が黒いこともほとんど書留めないところだった。前と同じぐらい思考することなく、彼女は話した。

「おはようございます、D-53683」彼女は呼称を質問紙に書きとめながら言った。「私の名前はアマンダ・クラーク博士です、本日は私があなたの心理評価を実施します」再度、彼女の声の同情心と温かみは、行ってきた無数の評価を通じて磨かれてきた偽りだった。前と同じくすでに反応を予測して、ファーストネームにのみ注意を払っていた。

「私の名前はジェシー・ボール」押しつけられた邪魔な数字の呼称に痛ましく抗おうと、彼女は答えた。他のすべての先人のように、そして後人たちのように、D-53683も失敗するだろう。

「結構です、ではジェシー、今日の調子はどうですか?」曖昧な既視感がアマンダの心を過ぎったが、最初のボックスにチェックを入れるにつれ、この仕事の影響として素早く見過ごされた。面談対象が喋る間、アマンダは上の空で一日のささやかな自由時間の計画を立てていた。夕飯には何を食べよう?目の前の女がくどくど話す間、彼女は思案していた。

他のあらゆるDクラス同様、D-53683はただの消耗品であり、死刑囚だった。微罪で死刑になる人間はおらず、彼女もここにいるならば自業自得だ。注意を向けるだけ無駄というものだ。

そしてD-53683の心配性で農場暮らしの母親宛ての手書きの手紙は、クラーク博士が質問紙を片付けて次を取る間にごみの山に捨てられた。特に考えもせずに、前回の面談と同様に。


鈍いどすんという音と1組のかちりという音と共に、次のDクラスが座席にベルトで留められ、繋がれた。これ以上彼らを拘束するための行動は必要ないので、エージェント・ドン・ブレイクは同じようにシートに拘束された40数名の側を通り過ぎ、カーペットを敷かれた通路を戻って次の1人を連れてきた。不運にも今日はこの地域が経験した中でも暑い日で、滑走路を通って飛行機に戻る道のりは短かったが、地面からの焼けつく熱は耐え難かった。

前の1人と違い、この繋がれた囚人はエージェント・ブレイクの引いていく腕に対し完全に従順だった。やや恰幅のいい男は、明らかにこのワイオミングの滑走路に着く前に心が折れたようであり、彼の存在を裏付けるのは鎖の鳴る音と重い足音だけだった。彼らはステップを登り、他の拘束された囚人たちを通り過ぎ、はるばる空席までやってきた。己に何が求められているのかをすでに知っている男は率先して前進し、鎖を座席に錠前で、そして同じようにウエストにベルトを留めるのに都合がいいように着席した。エージェント・ブレイクは踵を返し、外で待つ流刑者たちのところへ戻るために今一度飛行機を離れた。

ドンはフライトそのものについてはよく知らず、ただ心得ておくべき事柄しか知らされていなかった。100人強のDクラスはどこか曖昧な北の方にあるサイトからワイオミングのジャクソンにやってきて、そこからまた別の曖昧なサイトへと消え去るべく、オーストラリアのアリススプリングに飛ぶ。ドンは含み笑いした。無から無へ、次に座るべき者の痩せこけた腕をつかみながら一人思った。道程のこの部分では、乗客らはこのデジタルエイジにおいて人間が合理的になりうるかぎりの無に近づいている―誰も彼らがどこから来たか知らず、どこへ向かうか知らず、何者か知らない。今この時点では、彼らにはDクラス呼称すらないのだ。ここでの彼らは'男性'や'女性'に毛が生えた程度の存在だった。

あっと、こいつ以外は。エージェント・バークは繰り返し別の方向に歩きだそうとする牽引力を感じ、エスコートしている囚人を掴む力を強めた。こいつは特にスタッフを邪魔することにご執心のようだが、懲戒が要るほどではなかった。再び男が別方向へ歩き出そうとするのを察して、エージェント・バークは正しい方向へと荒っぽく引っ張った。どんな場所にも外れ者はいる、何であろうと逆らうことに固執するやつが。そういう連中はきっと目的地に着いた後でもこの調子だろう―ドンは一体、何人が命令に逆らって命を投げ出すことになるのだろうかと思わずにはいられなかった。彼はこれがいつまで続くのかと考えた。

束の間の強い引っ張りが囚人の方からあり、その後に無があった。彼が自分の思考と戯れているうちにバークが手を緩めてしまったに違いなく、脱走者は機を逃さず自由を得て、一目散に走っていた。彼は飛行機と警備員から離れ、出来うる限りの速度で滑走路を走っていた。エージェント・バークは追跡を始める前に停止の指示をがなったが、すぐに疲弊した―暑さが彼を天から地から打ちすえ、分厚いセキュリティギアがそれを一層耐え難いものにした。

「くそが」彼は一人ごち、ホルスターからハンドガンを抜いて狙いを定めた。小さな3つの炸裂音が静寂を貫き、自由を得た囚人が躓き倒れる音がそれに続いた。満足したエージェント・バークは銃をホルスターに戻しつつ飛行機に背を向け、衝撃を受けた囚人たちの集団のところへ戻っていった。

「もう死にたい消耗品のクズはいないな?」彼は起きたばかりの短い出来事に立腹して怒鳴った。断じて男を撃つことを強いられたために腹を立てているのではない―そうなると、エージェント・バークは死刑囚に同情したことになる。今乗客が1人不足したために憤っているのだ。代わりをどこかの地点で調達せねばならず、それはこの集団がどこから来たのかを見つけねばならないということであり、つまり山のような書類手続きが必要であり……

ドンは苛立ちながら鼻梁をこすった。くそったれの囚人どもめ。なんで言うことを聞かないんだ……行列の次の腕をつかみ、飛行機にエスコートしながら彼は考えた。


数日続きで起動したままにされていた音の源がようやく止められて、うなる機械やパイプを流れる液体の音がとうとう静まった。計器の値は正常域に戻り、コンソールで光が明滅し、すべてが成功裡に待機状態に戻ったことを知らせる、同期した警鐘の集まりが短く鳴った。

コンプレックス中に散らばった部屋の一つで、とても体格のいい男が自分の席で寛いでいた。火の点った煙草を強く一吸いすると、男は席の周りに配置された多数のスクリーンを見上げ、それぞれ次に移る前に少しの間目を通した。全裸で放心した成人が数千人、施設中の無数の部屋のポッドからよろめき出て、少数の男たちの部隊によって集められ、待機する車両に追い立てられていく様子を彼は見ていた。

「哀れな連中よ」彼は呟いた。「何が起きているのか知らず、何が起きるかもコントロールできず」この人間たちが精神的に不活発で、自由な思考を欠いていて扱いやすくなっているという事実についての言及だった。何人かは臓器の奇形のために生存できず、その場に倒れた。彼らは単に別の車両に放り込まれて数えられた。27人が死んだ。男の前でスクリーンが人型のシルエットを表示した。

「報告せよ」O5-11が不明瞭な合成音声で言った。座る男には応答する義務があった。

「月例生産は終了しました。本日の生産高は10万、うち27が生産後ただちに損失。残る99973は月要求高を満たすのに十分であり、散布のために表層へ輸送されています」長年の喫煙習慣が喉と肺を取り返しがつかないほど痛めつけており、彼の声は耳につき、喘鳴があった。窒息死か癌で死ぬか、しかしいずれにせよ彼は気にしなかった。

「修正は実装されたか?」O5-11はプロジェクトマネージャーの恐ろしく悪い健康状態を無視して訊ねた。

「はい。現在人格コンポーネントはより偶然性を持たせられるようになっていますし、血友病バグも修正されました」迫りくる咳の発作を感じて座る男はハンカチを取り出し、発作が襲うと顔に当てがった。咳はすぐに収まり、新しい血と痰の染みを無視してハンカチはポケットに戻された。

「失礼。今月スタッフの損失はなかったため、補充は不要でした。一部の装置に交換が必要であると判明しました。来月の生産再開前に行われるでしょう」

「煙草を止めるべきだな」報告より体格がいい男の健康状態を最低でも表面上は優先して、O5-11が言った。男の方は続ける前にまた深く煙草を吸った。

「煙草ごときがなんです、私が死ぬのが問題とでも?」肉体が十分な空気を処理しようとあがき、彼の笑いはすぐさま咳の発作に妨げられた。収まると彼はよりユーモアを欠いた回答をした。「発がん物質は生産品をより正真のものにするでしょう。今日日、殺傷性のあるものに晒されることなく育つのは無理ですよ。私が死ねば行き渡るでしょう」O5-11が答える前に短い沈黙が続いた。

「結構。続けたまえ」そして同時に画面は再び空白になった。席の男がスクリーンに注意を戻すと、生産品の最初の集団が地表行きの貨物エレベーターで発つところだった。

彼は己が己であることに喜びを感じていた。イエローストーンの下に隠された50万トンの機械の挙動を見張る仕事を押しつけられ、週に1、2時間しか地表で過ごせないのは他人からすればみじめだろう。しかし機械によって生み出された日から、彼に選択肢はなかった―これか、あるいは偽の経歴と条件付けを与えられて囚人になるかのどちらかだ。モニタの中の者たちのように。人類が作り上げた中で最も重要な機械を、彼を生み出したのと同じ機械を修理し維持している方が、1カ月以内に死んで原料である生物学的要素のスープにまぜ戻される運命よりよほど幸福だった。

しかしながら、彼は必然的にある程度条件付けされていた。監督官たちには彼が敵に離反したり、ちょっとした狂気で暴れまわったりしないという確信が必要だった。そこで彼らは財団への絶えることのない忠誠心と同様に、鉄の母親を守るという強い責任感を条件付けした。しかし彼の人格におけるいくつかの側面は独自に発達したものであり、条件付けの間の隙間を埋めていた。このうち最も顕著なものはテュカイ・ディー(Tukay Dee)という名前の選択だった。彼が第4モデルの労働者だということを考慮するとそう独創的とはいえなかったが、彼が出荷する使い捨てたちから区別するには十分だった。

有害だが慰撫する煙草の煙が再び彼の肺に入った。名前は彼の、ただ死ぬより守り助けるという、より高度な目的を示していた。彼が受けたどんな共感でも得たことを示していた―彼が何であるかではなく、彼がであるかに。彼と彼の被造物たちには何の差もないと予想され、それゆえに彼らの方には悪事と犯罪の幻の人生が与えられた。単に出自による見当違いな同情心が、彼らが本当に差し迫った死に値するものかどうか、割り当てられることになった研究者らを迷わせないように。倫理の鎖は財団を抑止し、締め付け、死に至らしめるだろう。

そこでテュカイ・ディーの制御下に置くことでひとつ必要悪が足された。財団が1月も経たずに破綻せざるを得ない、無限の要求を有限の死刑囚で埋めるやり方より、リサイクルされた囚人による無限の供給が作られた。以前の生の迫害と死のカーストに縛られ、循環から決して涅槃に至ることのない。

さて、どんな循環も完ぺきではなく、財団のDクラスも例外ではなかった。テュカイ・ディーはエレベーターの1つを映すモニターに目を向け、そこには汚染されていないとされる人間の屍が山積みされたダンプトラックが姿を現しつつあった。財団が管理するなかには危険で異常な生物災害があり、その一部は理解のために犠牲を必要としていた。これらの疾病で死んだ者たちは歪な意味で幸運だった。循環から死体が自由になり、真の意味で憩うことができたからだった。崩れてゆく遺体を除染するのは高価で難しく、そのため幻の"サイト-18"に送り返されるよりは焼却されるのだった。

機械には常時達成する準備が出来ていなければならない重大な目的があった。携挙に続いて時計をリセットし、人類を絶滅から蘇らせねばならない。生物学的素材のスープの中にどんな汚染物質が漂っていようと、機械は目的を達成できる―しかし、人類の完全性は結果として影響を受け、もしそんなことがあれば人類が根絶されるとまではいかなくとも、財団が研究してきた大量の生物災害が容赦なく居座るだろう。テュカイ・ディーはパラノイドに生まれついた訳ではないが、習いとしてそうなった。彼の職務として想定されていないが、入ってきた死体をすべて1つ1つチェックしていた。念のために。

席によりかかり、テュカイ・ディーは煙草を吸いながら労働者たちが仕事に行くのを見た。

同じ頃、テュカイ・ディーはを山と積まれた中から腐りゆく死体を持ち上げていた。厳しい肉体労働に見合った隆々たる筋肉を育てていたのは幸いだった。自分自身が新しい人間の一団を空の貨物エレベーターに送るのを、束の間手を止めて見守った。

工場のどこか他の場所では、テュカイ・ディーが欠陥のあるボカノフスキー分割機を残りの彼の母親に接続するボルトを緩めるため、自分の道具箱からレンチを手に取った。

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