Dクラスのオリエンテーション
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すみません、お願いします。みなさんちょっとこちらを向いて……オーケー、落ち着いて。そうしてくれないと……みなさん静かにしてくれないと! 静かにしろと言ってるんだ! どうか全員黙れ、クズども!

エヘン。こちらを見て頂ければ、始めることが出来ます。ぼくは下級研究助手のドクター――黙れと言ってるだろうが! オーケー、申し上げたように、ぼくがみなさんのオリエンテーションを担当します。ええと、みなさんは自分がどこにいるのか疑問に思ってるかもしれません。それは機密事項になっています。みなさんは我々がだれなのか疑問に思ってるかもしれません。これも機密事項になっています。それでも、ここは研究施設のようなところだとお話しすることができます。

みなさん、おぼえてると思いますが、エージェントたちがみなさんひとりひとりと交渉して、オファーを持ちかけたはずです。死刑囚棟で執行の時を待つか、一ヶ月間、我々の試験に参加するかどうか。言うまでもありませんが、みなさんは協力に同意したわけですね。これに必要なのは――なんですって? 同意なんてしてないとおっしゃる? もし参加したら、一ヶ月後には自由の身だと言ってるんですよ、いったいだれが断るなんて――守衛さん、すみません、守衛さん、ちょっと彼を――いや「これ」を――ええ、左の三番目のドアに――どうも。いま言ったように、もし試験の手続きに参加してくれるなら――いえ、悲鳴なんて聞こえませんね。もし試験の手続きに参加してくれるなら、一ヶ月後には解放いたします。ただし、全面的に協力してくれた場合の話ですよ。いい取引のように思えるでしょ? だれが断ると言うんです? よろしい、続けましょう。

いま言ったように、生き残れたら、みなさんは自由の身です。いえ、もちろん、死刑宣告ではありません。いやいや、「生き残れたら」の意味は、「我々にちゃんと協力してくれたら」の意味ですよ。つまり……ええ、危険なものです。それが死刑囚を使っている理由です。いえ、いえ、ほとんどの実験は害の無いものです。危険だと言ってるのは、えー、たとえば爆弾で遊んだら危ないということです。みなさんは爆弾で遊ぶようなことをされますが、我々の言うとおりにしたらとても安全なはずです。危険なのは、みなさんの足が震えてしまうかもしれないことです。前のDクラス? だれも死んでませんよ。全員が一ヶ月後に解放されました。ぼくもそこにいましたよ。荒野に向かって走って行くのを見ました。可愛い殺人子猫の集団みたいにね。我々が言うことをしさえすれば、家に帰って愛する奥さんと子供たちに会えるんですよ。ああ……あなたは違うと。奥さんと子供たちを殺したとおっしゃる。義理のご家族には説明がしにくいですね。ああ、いえ、どうやったかは教えてくれなくてけっこうですよ。

よろしい、このオリエンテーションが終わったら、廊下の先に行って、手首と胸に番号識別用のタトゥーを入れてもらいます。これはほとんど痛くないもの――ん? なぜ胸なのかって? ええ、爆発が起きたとき、身体の中で残りやすい部分だからですよ。

ハハハ、ジョークですよ! もちろん、ジョークを言ってるんですよ。ええ、約束します! 爆発が起きるなんて、とてもとても小さい可能性です。この二ヶ月、爆発は起きてません! ハ、彼を見てください! 彼はぼくが本気で言ってると思ってますよ! へへ、でも、ああ、違います。胸にタトゥーを入れることになるのは本当です。そこはジョークではありません。ええ、必要なら、一ヶ月後に消すことが出来ますよ。いえ、料金なんてとりませんよ。ほとんど痛みのないやり方ですから、本当に。

オーケー、新しいタトゥーを入れたら、Dブロック・アルファ-6に案内されることになります。ここがみなさんの新しい共同部屋です……ここで食べ、眠り、風呂に入ります。……いえ、あなたは刑務所で甘やかされていたようですね。あなた用の個室なんてありません。私が個人用のオフィスを持ってないのに、あなたが個室ですって? とにかく、ごまかしがないように、みなさんはビデオで監視されることになります。この変わった刑務所ビジネスで我々が求めていることはありません。あなた方がだれかを刺したなら、ガス室……死刑囚棟に連れ戻されることになります。あなた方が我々を怒らせたなら、死刑囚棟に連れ戻されます。ええ、本気ですよ。一ヶ月で自由になれるんです。チャンスをふいにしないように。

オーケー、ほとんど片が付きました。質問は? そちらの――なんてこった、顔にバックショットの散弾を食らった? ええ、その質問についてですが。わかりました、我々は世界最高のすばらしい医療チームを持っています。ここでは医療保険の心配はありませんよ。とにかく問題はありません。次は?

ああ、後ろから二番目の。いえ、死刑囚棟を選ぶには遅すぎますね。なんで最初の段階でそれを望まなかったのか、私にはわかりません。ええ、あなたは顔に巨大な鉤十字を刻んでるので、人生の決断をするのは最善とは思えませんね。

もう一人……ああ……ええ、そこのあなた、片耳のない方。……母のそれを尋ねるのは質問と認められませんね。あなたは――母は天国にいるもので、それ以上言うというのなら――守衛さん、すみません、お願い――我々が行く場所に……そっちじゃなくて、そうです、あとで用務員を送ります。みなさん、わかりました? 秩序正しく、協力してください。一ヶ月たてば、解放される。もう二度とここを見なくていいんです。本当に、単純なんですよ。オーライ、次のDたちが来ています。守衛さん、彼らを連れて行ってください。そうだよ、アルファ-6。オーケー、どうもありがとう。彼が言ったことは気にしてませんよ、母は天国にいるので。ああ、このグループが解放されるときは教えてください。見てみたいんですよ。

エヘン。ようこそ! みなさん、私は下級研究――ああもう、どうかお静かに……

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