21:30 本日はスタジオより生放送! ゲストには何とあの大人気小説家も!
評価: +6+x

『ロシアの新進気鋭の執筆家、グレイ様に本日は特別にスタジオまでお越しいただきました!!』

箱の中でMCが高らかに宣言すると共に、スタジオのセットの扉から全身がラバースーツで覆われたようないでたちの男が現れた。途端にスタジオは異様なまでの歓声と熱気に包まれる。最初に書いた一作がたまたま当たって大ヒットになっただけで偉そうに、と悪態をついた。
と、言いつつも僕はそれに耳を傾けながら、1本の鉛筆を手に執筆原稿に向き直っていた。もちろんそれはアイデアを盗むためだ。この番組は生放送であり、もしかしたらポロっとアイツが口を滑らせるかもしれない。幸いな事に、今僕の近くにはそのアイデアが使えるかそうでないかを判断してくれる立派な相棒がいる。相棒が、静かに僕に騙り掛けた。

「さぁ、始めよう」

『ではまず初めにグレイ様、まずは先月発売なされた【海の底】について……』
『あれかい? 実はもう新作を考えているんだ。そうだな、あの海の底にはあの事を覚えている、ああいや、あの事を覚えている人間の記憶を食べる化け物がいて』

MCからの質問に、意気揚々と答えるラバースーツは見ていて非常に不気味だった。こいつをスティーヴン・エドウィン・キングの再来だと称えている連中が存在すると言うが、どちらかと言えばこいつそのものがホラーなのではないか?

「事実は小説より奇なりだ、少年。それよりも君は知っているかね? 記憶を食べると言えば、インドにおける蛇神が存在するな。海底に棲むという言い伝えも存在するくらいだ」

『なるほど。では次の質問ですが、聞いた話によるとその続編以外にも新作を執筆していると』
『もちろん。今度の舞台は日本だ。日本に隕石が降ってくるんだ。でもその隕石は、日本と同じ、同じなんだ。わかるかい? つまり、二つの日本が、衝突する。するとどうなるか? それは是非、発売されたら買ってみてほしいな』

最近流行の曲のように、右手と左手を球体を持っているような仕草をして、それらを思い切り叩きつける動作で新作小説のアピールを行うテカテカ野郎。会場は大爆笑の渦に包まれているようだが、僕は小説家という職業を舐めているのかと怒りがおさまらない。

「落ち着きたまえ。異星人、君も聞いた事くらいはあるはずだ。もしかしたらどこかの宇宙には、確かに日本やこの世界と同じくらいの発達を遂げた文明が存在しているかもね」

相棒の言葉に浮き上がった腰を、何とか再び椅子へと落ち着ける。そうこうしているうちに、番組はいつの間にかエンディングへと突入していた。全く、結局何の成果も得る事ができなかった。

「番組は最後まで何が起きるかわからないものだよ、少年」

相棒に促され、仕方なくテレビを凝視する。すると思わぬタイミングで、テカテカハゲ野郎が口を開いた。

『そうだ、番組を最後まで見てくれた君たちのためのアイデアもあるんだ。えーっとね、色んな職業、そう、物理学者や数学博士とか、みんなが集まって、悪の組織に立ち向かうために、何かを作るんだ。これは子供向けになるかな? ともかく、続報を待ってくれると嬉しい』

そのアイデアを聞いた瞬間、僕の頭の中に一つのインスピレーションが浮かび上がった。相棒の制止する声も無視して、必死に原稿用紙に一つの「絵」を描きあげる。何故か近くにあったクレヨンを手に取り、必死に色を塗りたくり、出来上がったのはまるで―――
 

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おいおい。

 
まるでガキが考えるような、合体ロボットであった。

「なぁ、君は一体どこを目指しているんだ? 君のアイデアは全く持って陳腐で」
「いいや、これで行く」
「……正気か?」

灰色の鉛筆が僕に問いただした。もう今は、その批評も意味を為さない。子どもの頃を思い出したんだ。僕はこんなロボットに憧れて、ロボットに乗って悪の組織と戦っていた。そこは自分の世界で、誰も入り込める余地なんてなかったんだ。

「君がそう言うのなら、私からは何もないよ。……そうだ、私はまだ必要かい?」
「いいや、そうだな、執筆に困っている仲間に譲る事にしよう」

これから、きっと物語を紡ぐ時、傍に彼はいないのだろう。少し物寂しい感覚だったが、きっとその感覚は、これからの作品を完成させるにあたって必要な物なのだろう。

「そうか、それじゃあ短い間だったがさよならだ」
「ああ、さよなら」


サイト7の管理ロッカーを開けてみれば、ポリエチレンの香りが胸いっぱいに広がった。香りの源である容器を開け、見覚えのある鉛筆を僕は手に取った。

「久しぶり」
「……なるほど、なるほど、これは」

クスクスと笑いをこらえるようにして、相棒は再び僕の頭の中に語りかける。その一言は、多分、僕が彼に、批評家として一番言って欲しかった言葉であった。

「新奇、だな?」

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