清掃班員の憂鬱
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別室からロボットアームを使い廃棄物を慎重に1つ1つより分け、個々に確認していく。
カメラ映像による確認――異常なし。
生命反応――なし。
温度――室温と変わりなし。
ヒューム値――通常数値、現実改変の徴候はなさそうだ。
……少々機器のマイクの調子が悪いようだが、後でチェックしてもらおう。
最後に再度、映像による状態確認を行い、最終工程に移る。

サイト-8017から出たゴミをロボットアームで焼却炉に投げ込んで扉をロックし、俺はようやく一息ついた。
焼却炉の温度を確認する。問題ない。
軽くため息をつき、伸びをする。
今日の仕事終了。

やってることはただのゴミ処理だが、財団という組織の性質からそれなりに重要度が高い仕事となっている。
財団は異常なオブジェクトを確保、収容、保護する。では、そこから出てくる廃棄物は?
生物型SCPなら食事も取れば排泄もする(不要な奴もいるが)。得体の知れない分泌物その他を出す奴もいる。

もちろんそれを通常と同じ処理で済ますわけにはいかない。
安全とされている廃棄物でもいつ異常性を帯びるか分からず、最悪の場合は収容違反に繋がりかねないからだ。
実は財団からのゴミ処理専門のフロント企業もあるのだが、そこにも頼めないような代物の処理に関しては俺たち清掃班の出番になる。万が一ゴミから収容違反が起きた場合、サイトの外まで拡散しないよう食い止めるのも仕事のうちだ。
回収された廃棄物に対し専用の機器を使い、生命反応、温度、ヒューム値の確認等を経て、異常性がないと判断してから廃棄にとりかかるのがいつもの流れとなっている。

ま、表に出せないゴミの筆頭は終了されたDクラスなんだがな。
あれも暴露したSCPの効果によっては活性化することが……と考えかけて慌ててやめる。思い出したくもない。
一緒にあれに出くわした新人はまだ精神科の収容施設から出てきてなかったな、そういえば。

「お疲れ様ー」
顔見知りの研究員が声をかけてきた。
「あれ、珍しく散歩ですか?」
「一応テストよ、集音マイクの」
ああ、と納得した。彼女は財団で装備や機器の開発に携わっている。
普段はラボに篭もりきりなのに、何故陽の下に出てきたのかと思ったらそういうことか。
「また何か新しい機器が完成したんですか?」
「それほどのものじゃないわよ、市販のものにちょっと手を加えた程度だけど、性能はかなり上がってるはず……」
とイヤホンをつけて、彼女は眉をひそめた。
「何か聞こえる」
「え?」
思わずあたりを見回す。俺たち以外に誰もいない。
研究員は襟裏につけていたマイクをはずし、自身の携帯情報端末に接続した。
端末のスピーカーからかすかな声が聞こえる。

……ほのおがもやすなやめてくれほのおにもうやめてもえるどこへおれをおれはどこへいくんだやめろやめろおれおれがちらばるひろがるああああああああああああああ

なんだ。これはなんだ。
研究員の目は焼却炉の煙突から立ち上る煙に向けられていた。

「たぶん収容違反が起きてるわね」

彼女はそう言って、マイクをはずした端末で連絡を取り始めた。

「今日扱った廃棄物のリストはある? 関係各所への連絡が必要になると思う」

今日はSCPに直接関係する廃棄物は少なかったはずだ。
機器のマイクを先に調整してもらうべきだったか。大失態だ。
確認したリストにあるSCP-248-JPという文字を視界に入れながら、俺は頭を抱えた。

……しかしあれ、煙だよな。どうやって回収するんだろう……。

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