博士と彼女
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私は彼を見続けている。
彼はやせ細った体にどこか異様なほどぎらぎら光る目を充血させて図面と向き合っていた。
鼻をクンクンとどこかへ向け、彼は私が来たことに気づいたようだった。

「ああ、見てほしいんだ、ついにできたんだよ」
「本当ですか、やっと完成したんですね」

そうか、ついに完成したのか。

「これでみんながもっと幸せになるんだよ!」
「おめでとうございます」

そう、彼はずっと作り続けていた。人を幸せにする何かを、人を楽しませる何かを。そんな技術もろくにないころから。
昔筋肉質だった体は度重なる激務と疲労でやせ細り、ひょろひょろと伸びた体にチョンとついた顔からかつての眼鏡だけがずるりと滑り落ちる。

「忌々しいニセモノ作りもこれは真似できないぞ! きっとみんなが楽しんでくれるはずさ!」
「ええ、そうに決まっています。貴方の作るものですから」

そう、みんなを楽しませて幸せにするために彼はずっと作り続けていた、いつからか。
うきうきと部屋中を跳ねる彼の背後には、手術台と工場が混ざったような台。そしてその上に誰かが眠るように倒れている。

「彼はね、ミスター・あなただけ! 彼をずっと見た人は、自分の愛している人だけしか見えなくなるんだ! 素敵だろう?」

ああ、それではきっとその人は困ってしまうだろう。そう思っても私は口に出さない。
だって彼の考えることだから、きっと素敵で楽しいことだから。

「ああ、楽しもう、楽しんで、楽しんで、楽しんで、…あれ、僕はいつからこんなことを?」

突然彼の目がぐるぐると回りだした。いけない、彼が不安になってきている前触れだ。

「そんなこと気にしないでください、博士、星を見に行きましょう、きっと新しいインスピレーションが湧きますよ」
「あ、…ああ、そうだね! きっと、きっと、楽しいね!」

彼は狂っている。彼の楽しさは、人にとって唾棄すべき悪意となる。怒りをもたらす邪悪となる。
いつから狂っていたのか、そんなことは分からない。気づけば彼はこうなっていて、気づけば彼は博士だった。
私が原因かもしれないと考えたこともある、私が彼を捕えたせいかもしれないと考える。

空白
空白

…………でも、やっぱりそんなことは些細なことだった。
空白
空白

だって、彼と一緒にいれるのだから。彼は私だけを見てくれるのだから。私だけが彼を理解できるのだから。
彼が楽しければ私も楽しい、彼が悲しければ私も悲しい。だから。

「うん、楽しもうね! 博士…、光希ちゃん!」

ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと。一緒に。

空白

空白

楽しもうね!

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