九死
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███9年9月9日、9時9分9秒、サイト-9999の9号棟9号人型実体収容室で、1人の男が生命活動を停止した。SCP-999-JP、財団においてKeterクラスに分類され、もっとも危険なオブジェクトのひとつとして管理されていたモノの突然の死は、担当者のみならずサイト全体で話題となっていた。

「なぜ彼は死んだのかね」

神山博士が問う。監視と管理を担当していた九山研究助手がおどおどと答えた。

「あの、正確には死んではいません。仮死といえる状態になっただけです。現状のペースから計算するに、1日に9回だけ心臓を動かし、9回だけ呼吸する、きわめて代謝の遅い状態になっています。しかし、死んではいません。」

「…で、なぜ、彼はそうなったのかね。」

イライラした神山を見てとり、研究助手はあわてて神山の求める回答のみをすることにした。

「わかりません。今朝彼は、いつも通り9時間の睡眠から目覚めたのですが、今日に限っては朝食を摂ろうとしませんでした。私がなぜかと問うと、彼は"時が来たから"とだけ、笑って答えました。」

「どういう意味だ。」

「わかりません。私も問い詰めましたが、それ以上の回答は得られませんでした。それから彼は椅子に座り、突然倒れたその時間まで、ベートーベンの交響曲第九番を口ずさんでいました。」

「変化の兆候は?」

「ありません。突然でした。もちろんモニタリングを怠ったりはしていません。倒れる直前まで、彼の生体データは何も異常を示していなかったのです。」

神山は天井を仰いだ。手がかりなし。突如Keter実体が無力化されたというのは、歓迎すべき部分もあるのかもしれないが、しかしそれをはるかに超える不気味な何かを、彼は感じ取っていた。

「特異性はどうなった。」

「失われていません。自発的に何かをすることはありませんが、彼の周囲は依然9で溢れています。」

「多分9日か、9ヶ月か、9年はこのままなんだろうな。99年以上だとありがたいんだが。」

「何か対策をとりますか?終了処分を検討するとか…」

「…いや、もう少し様子を見よう。悪さをするわけじゃないんだ、時間はある。それより現在の特異性についての調査と検討をしておこう。適切なメンバーを集めて対策会議をスケジュールしてくれ。さっそく今日…あー、そうだ、今日は別の会議があるんだった。明日で設定してくれ。」

「では明日、9月█日の9時から会議を設定します。」

「…よく聞き取れなかった、もう一度言ってくれ。」

「え?あ、はい。明日、9月█日の9時から会議を設定します。」

「…予定は変更だ、今すぐメンバーを招集してくれ。」


「というわけで、SCP-999-JPの活動停止により、SCP-999-JPに関わった人物を中心に"10進数の数字が9までである"という概念が失われ、我々の認識は9の次が█であるというものに書き換えられつつあります。たとえば、1から順番に数を数えると、"1,2,3,4,5,6,7,8,9,█,10,11"というようになってしまいます。実際にこれがどのような被害をもたらすのかは不明ですが、今後の予想が難しく、早急な対策が必要と思われます。今のところ影響はサイト内に限られていますが、徐々に広がりをみせており、民間への漏出も時間の問題かと思われます。」

「しかし…」

虎屋博士が口を挟んだ。

「神山さん、先ほど"10進数"とおっしゃいましたよね。9の次、という概念が破壊されているのに、10が現存しているのはどういうことでしょう。本来の10進数における11進数が、今の10進数ということですか?」

「詳しくはまだ分かっていませんが、10は依然として10のままであると思われます。書き換えられる認識は9の次、10の前であるにもかかわらず、10は10のままなのです。」

参加メンバー9人は、一様に首をひねった。

「で、具体的にどうしたらいいのかな」

「まだわかりません。まずは調査です。それからサイト-9999を情報封鎖してください。認識災害は連絡を通じても拡大するおそれがあります。」

「SCP-999-JPは」

最古参のメンバーが口を開いた。

「SCP-999-JPは、我々の思考の奥底に根付いた、10進数という考えの保護者だったということかな」

「…そうとも言えると思います。」

「では、SCP-999-JPを再活性化させたら、元に戻る可能性もあるということかな」

「はい。それはすでに検討項目としてあげております。」

「よろしい。それから、この現象は、9の次が█になるという以外に影響はなかったのかな」

「…こちらの写真をごらんください」

神山博士は、数枚の写真を取り出した。

「これは?」

「SCP-999-JPの管理を担当していた研究員の手のレントゲン写真です。右手だけ、指が1本増えています。もちろん以前はこうではありませんでした。SCP-999-JPの活動停止後、█本目の指が生えてきたのです。」

「…なるほど。手の指を数えたりでもしたのか、おそらく認識が肉体に影響するタイプなのだろうな。これは深刻なことになりそうだ。で、本人はどうしてる?」

「すべての数字から隔離して収容房に収容しています。」

「神山博士、あなたご自身の影響は?」

「SCP-999-JPを担当していた兄は、同オブジェクトの影響で死亡しました。今は弟である私が引き継いでいます。」

「死因は?」

「不明です。血圧が█になったか、█に関する時間に囚われ狂気に陥ったのか、何が起きたのか今となっては確認できません。」

「困ったもんだな…」

全員がだまりこみ、ペンをもてあそびはじめたとき、神山博士の携帯電話が鳴った。

「ちょっと失礼…はい…それは…ちょうど会議中です、早急に検討します。」

「どうした」

「SCP-999-JPの別個体と思われる存在が、アメリカで確認されました。」

「なんと…」

「9に起因して様々な事故や制御不良が発生し、エリア-99の第8から第16までの9つの区画が完全に破壊されました。現地時刻9時9分9秒のことです。」

「…被害甚大だな…おい、今なんといった、9つの区画?」

「はい。」

「連続して第8、第9、第10、以後第16までか」

「はい。」

「第9と第10の間はどうした」


「よかったな九山、後遺症もなく復帰できて。」

「はぁ…お兄さんのことはご愁傷さまでございました。」

「まあ仕方ないさ。とりあえず事態も沈静化したしな。しかし、そんなことより気がかりなのは、残りのことだ。」

「残り?」

「そう残り。SCP-999-JPの。」

「…あっ、まさか…」

「そう、SCP-999-JPは少なくとも」

 

「9人いる」

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