伝承者最終試練
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エージェント・斑鳩は財団神拳伝承者の継承のため、最終試練として現伝承者の師匠と闘っていた。

師匠の青白く発光する手刀が斑鳩の頬を掠め、道場の壁に突き刺さった。手刀が刺さった場所から金属製の壁がバターのように融解していく。斑鳩は共振遠当てを撃とうとしたが、引き千切られた壁を投げつけられ回避せざるを得なかった。あまりの威力差に斑鳩は反撃に移れずにいた。

師匠は財団神拳最大の威力を持つと言われる『臨界の構え』により核分裂連鎖反応を制御している。生半可な鍛え方では拳から発せられる放射線だけで即死するだろう。明らかに人へ向けて良い技ではない。

この奥義の弱点は明白だ。財団神拳は科学的根拠に基づく武術であり断じて奇跡や魔法の類ではない。強大な技ほど消費カロリーが激しいため、耐えればいずれは自滅する。現に師匠はわずか5分間で10kg以上の体脂肪を燃焼させていた。エネルギー保存則の前で人類はあまりにも無力である。

だが、斑鳩に課せられた試練は本気の師匠を打ち倒す事だ。師匠はこの試練に命を賭しており、餓死するまで臨界の構えを解く事は無い。

闘いの中で室温は100℃を超え、ガイガーカウンターは悲鳴を上げている。斑鳩はかつて闘った強敵ともの技でこの過酷な環境に耐えていた。イワナガ流ミヨコ派の奥義『高密度美肌法』により、斑鳩は極限まできめ細かく滑らかな美肌を手に入れていた。密度の高い肌は紫外線だけでなく熱波や放射線の遮蔽も可能である。

斑鳩は一人で戦っている訳ではない。日々の鍛錬が、強敵との闘いが、師匠の想いが斑鳩を支えている。一日一本の論文提出で鍛えた脳細胞がその気持ちに応えるように覚醒し、師匠を超えるための解を導き出した。

斑鳩が財団神拳奥義『量子歩法』によるトンネル効果で壁をすり抜けると、師匠は瞬時に壁を破壊し間合いを詰め、秒間100発以上の突きを放った。斑鳩はそれに合わせ、量子歩法と融合させる形で日本生類創拳の『ブラウンウォーク』を繰り出した。斑鳩はまるで溶液中のコロイド粒子のように、師匠の突きのエネルギーを受け流し自身の不規則な運動エネルギーへと変換していく。

斑鳩は師匠の突きの間隙を狙い蹴りを放った。その蹴りは足裏の美肌化で踏み込んだ足が滑ってもつれたような動きとなり、空を切ったかのように見えた。しかし師匠の体には斑鳩の蹴り跡が残っている。

そう、斑鳩は師匠の膨大なエネルギーを利用し量子もつれを発生させていたのだ。量子もつれの制御により、斑鳩の間合いは観測可能な全宇宙にまで広がっている。

斑鳩は間髪入れず『量子テレポーテーション正中線四段蹴り』を放った。大爆発と共に師匠の体は壁に叩きつけられたが、その手ごたえは薄い。師匠は当たる寸前に核爆発を起こして打点をずらしダメージを最小限に留めていたのだ。正に達人の動きである。

二人は顔を見合わせるとにやりと笑った。闘いはまだ、始まったばかりだ。

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