ファイブワーズ・センテンス
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2018/02/04

私がこの収容施設に配属されてから、一年が経過した。
最初は戸惑っていたこの収容方法にも慣れ、今では収容対象から受ける数々の罵倒や怒声にも慣れ切ってしまっていた。
恐らく、私は疲れきってしまったのだと思う。そこにあった恐怖や理不尽を、この施設の中のどこかに置き忘れてしまったのだろう。誰かが拾って戻してくれないだろうか。
今日も新しく、一人の男性が収容施設の中へとやってきた。その男性は収容施設に設置された通信用端末を見つけると、一目散にそれに駆けより、私のいる監視室へと通信を始めた。
おかしな収容状況だと感じる人間もいるだろう。私も最初は困惑した。何故、対象とわざわざ通信を介して言葉を交わさなければならないのか、そして何故、私はこのセンテンスしか話す事が許されていないのか。
しかしこれが実験の内容であり、収容を進める上で重要であるのだから仕方ない。
そうして私はいつも通り、そのセンテンスを口にした。

 

2018/02/05

ついつい対応中に欠伸をしてしまった。いけないいけない。
すると対象はその欠伸に対して激怒し、また昨日と同じ、いや、昨日よりも酷い罵声を私に浴び付けた。ビッチだの、クソだの。
私はそれにため息を吐いて、再びセンテンスを口にした。
全く。こんな職場じゃ色恋の一つもできやしないのに。

 

2018/02/06

退屈。

 

2018/02/07

対象が今までの罵倒や恫喝に関して、謝罪を行ってきた。しかも、君ともっと話したいだの、下心の見え透いた殺し文句まで使いながら。
愉快であった。ようやく自身の置かれている状況を理解し始めたのだろうか。
なので今までの鬱憤も交えて、少し皮肉っぽく、私はいつものセンテンスを口にした。

 

2018/02/10

これは政府による秘密裏に行われている実験なんじゃないか、と対象が語り始めた。
惜しい所までは行っていると思う。ただし、これは政府は一切の関係を持たない。
私や同僚だけが知っているその情報に、にやけながらモニターをチェックしていると、その間の沈黙を対象は肯定と受け取ったのか、マシンガンのように質問を始めた。
それが少し癪に障ったので、いつものセンテンスで対象を黙らせた。このセンテンスはこういった場面で便利だ。

 

2018/02/11

通信端末の電源も切らず、監視室でリラックスしていた場面を対象に運悪く聞かれてしまった。
それに対して上司はご立腹らしい。これからそっちに向かわなければならない。憂鬱だ。
この監視に対して退屈を覚えないという方が無理な話であるのに。

 

2018/02/12

やってしまった。
自分では気を付けていたつもりであったのに、また通信端末の電源を切り忘れ、監視室で談笑していた所を対象に聞かれてしまった。
慌てて咳払いをして、いつものセンテンスを口にした。数度、そのセンテンスを口にすると対象は沈黙し、通信端末の電源を切った。
これからまた上司の元へ行かなければならない。ただひたすらに憂鬱だ。

 

2018/02/15

上司との対話中に、対象から通信が来たせいで、話を切り上げて監視室へと戻らなければならなかった。
これでまた上司の印象が悪くなる。吐き気がしてきた。
「君の代わりはいくらでもいる」。うん、まさにその通りだと思う。
これが最後の仕事になるかもしれない。気分が悪い。

 

2018/02/17

対象が昨日の自殺未遂をきっかけに非常に衰弱しているように見える。
これ以上は有用な結果は得られないのではないかと上司に進言したが、まるで聞き入れてはくれなかった。
観察を続ける。

 

2018/02/24

私の任期終了が言い渡された。
それと同時に、この長い観察実験も終わりを迎える事になった。
モニターの向こう側では、対象が無残な姿で倒れていた。結局あれから有用な結果を得る事はできなかった以上、私にとっても、この男にとっても、この一週間は無味なものであったと感じる。
そうして私は、自身の任期と実験の終了を告げるアナウンスを施設内へと響かせた。

 

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