フラミンゴ
評価: +8+x

注記: 以下の音声転写記録は、SCP-1507の回収任務中、アーサー・ウィンズワースの家庭用電話機に仕込まれているのが発見された盗聴器から回収されたものです。盗聴器の起源は現時点では不明であり、調査が進行中です。


「もしもし? 聞こえるか?」

「もしもし、こちら911です。どのような緊急のお電話ですか?」

「誰かがワシん家の芝生じゅうにフラミンゴを置いていきよった! どうやってここまで来たのか分からんが、連中がそこにいて、いなくなってほしいんじゃ」

「お名前とご住所をお聞きしても宜しいですか?」

「アーサー。アーサー・ウィンズワースじゃ。住所は… エー… そう、9丁目に住んどる。シェイディ・オークのな。警察に繋いでくれたら直接道を教えることができると請け合うぞ。ここの鳥を早く引き払ってもらわんと困る!」

「鳥の体調については教えて頂けますか? 傷を負っている様子はありますか?」

「傷? 何じゃ? いやいや。お前さん分かっとらんよ。連中は本物の鳥じゃあないんじゃ」

「本物ではない?」

「作りもんじゃよ! プラスチックの鳥、バカデカいピンクのフラミンゴがウチの芝生を乱しとる。誰かが置いていきよってな、こいつらにはいなくなってほしいんじゃ」

「すみません、それは正式な緊急の要件としては扱えませんよ。911のホットラインは緊急事態専用です」

「ああ、それは本当にすまんな、じゃがせめて誰か送ってはもらえんか? ワシは年寄りじゃからな、庭先まで出ていってどこぞの与太者が庭に置いていった鳥の群れを片付けるのは骨が折れるわい」

「そうですね、ウィンズワースさん、出来るだけのことはやってみましょう。今後は、もし“与太者”の件で何かしら問題が起こったら、直接警察に連絡して被害届を出してくださいね」

「あー… ウム… よかろう」

「失礼します、ウィンズワースさん」

「何? おお。そうじゃな。じゃあの」


「もしもし?」

「もしもし、こちら911です。どのような緊急のお電話ですか?」

「おお。うん。いや実はな、今朝早くフラミンゴのことで電話したんじゃがな、その件で人を送ってよこす必要は無くなったとだけ伝えたかった。結論から言うと、連中は実のところかなり人懐こい。一羽にデイヴという名前を付けてやったんじゃ。実に良い奴じゃよ」

「貴方の庭にあるというプラスチックのフラミンゴのことですか、ウィンズワースさん?」

「おお。そうじゃよ。いや、前に思っておったほどプラスチックという訳では無さそうでな。多分一部だけプラスチックなんじゃろうよ」

「そうですかウィンズワースさん、既に報告書は提出済なんですが、彼らにも知らせておきますね。良い一日を、ウィンズワースさん」

「おお、有難うな。おお、それとな、エー… お前さんも良い一日を。じゃな。うん。良い一日であるように。」


「こちら911。緊急の要件ですか?」

「鳥が! 鳥に襲われた!」

「何の鳥です?」

「庭先の鳥じゃ!」

「ウィンズワースさんですか、フラミンゴは人を襲いませんよ」

「じゃが襲ってきた! 誰かが置いていったんじゃ、分からんのか? 最初はプラスチックじゃった、そして今はワシを襲ってくる!」

「それこそ私が言いたいことなんです、ウィンズワースさん、フラミンゴは人を襲いません。プラスチックのフラミンゴなら尚更です」

「じゃが… じゃがワシは見たぞ。奴らは本当にやった! 一羽は危うくワシの目を抉りだすところじゃった… ワシはただ奴らにおいしいエビをくれてやろうとしただけじゃ。その気で奴を突き倒したわけじゃないんじゃよ。ワシは本当のことを話しとるんだ、頼むから信じてくれ、本当じゃ!」

「申し訳ありませんね、ウィンズワースさん。私の方で出来る事は何もありません」

「言語道断じゃ! ワシはアメリカ市民じゃぞ! こんな扱いに甘んじてたまるか… お前の上司と話をさせろ!」

「上司に取次ぎします、ウィンズワースさん、しかし彼も恐らく同じ事を言うと思いますよ」


「もしもし?」

「そちらは誰じゃ! 上の者か?」

「そうです、ウィンズワースさん。芝生飾りの件で何やらお困りだとお伺いしていますが」

「お困り! お前さんにはワシがどれだけ困っとるか分かっとらんよ。それと、奴らは間違いなくウチのものじゃない。誰が置いていったかワシには分からん。誰がやったにせよ、そいつらはテロリストじゃ。あのチビの怪物どもはワシを攻撃し続けとる。公衆の迷惑じゃ、分かるか!」

「ウィンズワースさん、理解してください。誰もそちらには向かいません。どれだけ待ってもです。諦めてください」

「もしもし? まだそこにいますか? もしもし? …もしもし?」


「ジェフリーズ警部ですか?」

「そうだエマーソン、何が起こった? 一日中連絡を取ろうとしていたんだぞ」

「申し訳ありません警部、また通信が切れちまって。ここに来れば見えるでしょうけれど、おっそろしくイカれた場所ですよ。例のおかしなフラミンゴがそこら中に置いてあります。家中にあるんですよ。爺さんはきっとこいつらをコレクションしてたんですな」

「彼に質問はしたか? 通信担当からは、少し取り乱している様子だったと聞いている」

「そこなんです警部。その爺さん、ウィンザーとか言いましたか、死んでます。ゲインズが正面玄関で見つけましてね、身体は妙な傷で覆われてました。イカれたガーデニング事故かなんかに違いないですね。知りませんけど。とにかく爺さんは死んでます、見たところ失血でしょう。もう既にカラスにたかられたようで、目と舌はありません」

「家に何者かが押し入った様子は?」

「いえ。上階の窓が一ヶ所割れてますが、それほど大きくないです、こう、鳥かなんかだったら通り抜けられるでしょうけどね」

「了解、エマーソン。遺体安置所に連絡して、職務に戻ってくれ」

「そうだ警部、もう一つ。電話線が垂れ下がってるんです。何かに切断されたように見えます。でも何が起こったのかよく分かりません、近くに木は全く無いんです。ここいらの鳥はまったく薄気味悪い事を始めたもんですな」

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。