より良いディスカッションの為に
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注記: この記事は、私、執筆者Ikr_4185Ikr_4185の、個人の知識・ノウハウ・私見に基づくエッセイとなっています。他のエッセイ同様、"守らなくてはならないルール"ではなく、サイトメンバーへの強制力を持った物ではありません。また、サイトスタッフとしての公的な見解でもありません。

但し、本文中に禁止文言で表記した以下の行為は、サイトルールで禁止されている行為を踏まえているため、"禁止"と考えた方が無難です。

  • 一方的な持論の展開 → 一般メンバー/義務:2 "批判の受け入れ"
  • 価値観を押し付けるような行動 → 注意を受ける対象:1 "他のメンバーに対する失礼な態度"
  • 「隠れた攻撃的メッセージ」全般 → 一般メンバー/権利:1 "個人攻撃"
  • 「直接に私刑を~」 → 一般メンバー/義務:1 "議論に熱くなりすぎる"
  • あえて相手の感情的反応を引き出す事で、自分の意見を通す手法 → 永久規制:3 "感情的な反応を狙ってフォーラムにコメントすること"

はじめに

このエッセイは、ディスカッションにおける心構えではなく、より実践的なディスカッションの方法論を提示する事を目的としています。

本稿での最終的な目標は、議論において、相手から感情的反応ではなく、理性的な反応・応答を引き出す方法の習得です(本稿では「議論」と「ディスカッション」を同義として用います)。
また、本稿では相手が納得できるように主張を述べる努力をする事が絶対の原則です。

"相手が納得できない主張"を展開しても、時間と労力の無駄になります。また、双方向のやり取りを意図しない一方的な持論の展開は、意見交換の場においては障害と成り得る為、場合によっては警告の対象となるでしょう。まずは、"相手が納得できること"を前提にしましょう。

なおこれは議論慣れしている方向けの付記ですが、SCP_Foundationにおいて議論に臨む際、「相手が、感情論抜きで否定的意見を汲み取る事」を前提とする事は、最適な選択ではありません。なぜなら、SCP_Foundationはアカデミズムの場ではない、立場や年齢も不定な創作コミュニティですし、そもそも誰しもが出来る事ではないからです。もし「そうするのが当然で、そうしないのは間違っている、誤っている」と考えているなら、それは貴方(または、貴方の所属するコミュニティ)の基準による価値判断であり、必ずしもその考えを共有できるとは限らない事をご認識ください。SCP_Foundationは"成熟した大人"が前提のコミュニティであり、価値観を押し付けるような行動はするべきではありません。

「議論(ディスカッション)」とは?

辞書的には「互いの意見を述べて論じ合うこと」です。「討論(ディベート)」とは違い、相手を打ち負かすことは目的としていません。

当サイト上での議論は、一つの問題/課題に対し、様々な観点から意見を述べ最適解を導き出す、問題解決の手法として行われています。議論の対象となるのは、記事の評価や、またはサイト運営に関する諸課題です。

ここで認識して欲しいのは、誰かの意見が正解であるという訳では無い事です。「討論」では、どちらかの主張が通り、どちらかの主張が退けられる事が当然ですが、「議論」ではそうでは無いのです。特に、記事評価はメンバーの価値観によって大きく異なるため、"正解"は存在しえません。

それぞれの意見に、優れた点・改善点が存在しており、議論の場では、それらを参加者が互いに吸収し合い、よりよい解決策を模索していく事が求められます。

まずは、相手の意見に耳を傾けましょう。そして、それを踏まえた意見を出してください。一方的な主張をする事は、当サイトでは期待されていません。当サイトのメンバーの価値観は多様であり、その価値観を変えさせようとする行為は歓迎されないのです。メンバーは相互に、"成熟した大人"として見做されるべきです。

議論における「主張」に必要とされるもの

これは基礎的なコミュニケーション論ですが、何かを主張する場合、最低限下記は必要となります。
どれか欠けると、非常に説得力の弱い主張となるため、気をつけましょう。

1. 結論 (最初に言いましょう。ビジネスマナー書や小論文の参考書を見てみてください)
2. 根拠 ("あなたがやりたいだけ"、"あなたがそう思っているだけ"になっていませんか?)
3. 論拠 (何故その根拠から、その結論が導き出されるのか、論理的に破綻していませんか?)

論理的な主張とは?

はじめに断っておきますが、私は論理学を専門的に学んだ事がありません(専門は経済学でした)。そのため、ここでは一般的な議論における"論理的な主張"に限定して説明します。もし誤り等があれば、ご指摘頂ければ幸いです。

誰かに意見する際、相手に納得感を出させる方法の基本が、「論理的」である事です。「論理的」と書くと、何か難しい事のように感じますが、要は「話に筋が通っている」と言い換えられます。

筋道の通っていない主張を受けても、内容にも依りますが、大抵の相手は納得感を得ることは出来ません。理由が明確ではない為、何故そうするべきなのかが伝わらない為です。

相手に意見を納得して貰いたければ、「そういうものだからそうしてくれ」ではなく、何故そのような主張をするのか、何故そうするべきなのかを明確にするべきです。特に、大きく異なる価値観を持つ相手では必須に近くなります。

ここでは論理展開の方法について触れていますが、難しいと思う方は、これだけは守ってください。
何か主張する際は、筋の通った理由を示してください。

以下では、その方法論について説明します。

論理展開の基礎は「演繹法」と「帰納法」と「アブダクション」

論理の展開には大きく分けて3種類あるとされています。それが、演繹法と帰納法、アブダクション(仮説生成)です。
自分の主張が、下記のいずれかから大きく外れていたなら、注意が必要でしょう。

演繹法 ~AならばB、CはAに含まれる、だからCならばB~

演繹法は、既知の前提から、別の前提を導き出し、最終的に必然的な結論を導き出す方法です。いわゆる三段論法もこれに含まれます。

演繹法では、前提が正しければ結論も必ず正しくなります。逆に言えば、何処か一つでも前提に誤りがあれば、100%正しいとは言えなくなります。

これに対し、主な反論は「その前提は本当に正しいのか?」というものになります。

【例】

前提1: 「ブライト博士は(A)人である(B)」
前提2: 「人であれば(B)いつか必ず死ぬ(C)」
結論: 「よって、ブライト博士は(A)いつか必ず死ぬ(C)」

反論: 「ブライト博士は本当に人と言えるのですか?(前提1 に対する反論)」

帰納法 ~AもBもCもZだった、だからDもZになる~

帰納法は、複数の事例・データから、共通項を見出し、一般論や普遍的な原則・原理を導き出す方法です。

帰納法は、演繹法とは違い、結論は予測になるため、「"必然的に"正しい」とは限りません。ただし、元となる事例が多ければ多いほど確度は高まります。そのため、論理の世界では根拠となるデータが重要視される、と言うことも出来ます。

帰納法の場合、主な反論は「その事例・データはサンプルとして正しいのか?」「例外は存在しないのか?」という内容になります。

【例】

事例1: 「前原博士は(A)、人である(Z)」
事例2: 「神山博士は(B)、人である(Z)」
事例3: 「三国技師は(C)、人である(Z)」
結論: 「よって、財団職員は(D)、人である(Z)」

反論1: 「神山博士は、本当に人なのですか?(不適切なサンプル)」
反論2: 「財団職員には、ニホンカナヘビもいます(例外の存在)」

アブダクション(仮説生成) ~AのときB、現在Bである、だからAが起きた~

アブダクションは、既知の法則・一般論から、実際に発生した事例の原因・前提を、仮説として立てる推論の方法です。事実と、一般的な法則や原理にもとづいて推理する、謂わば探偵の思考です。

反論としては、「他の原理が働いたのではないか?」「データは本当に正しいのか?」等です。

【例】

一般論: 「銃で頭を撃たれると、人は頭から血を流して死ぬ」
事例: 「クレフ博士が、頭から血を流して死んでいる」
結論: 「よって、クレフ博士は頭を撃たれた」

反論1: 「殴られたのでは?(他の原理)」
反論2: 「流血は、頭からではなく首からかも知れません(状況誤認)」

「誤謬」に注意してください

上記の演繹法/帰納法の中で、論理展開のミスとして「前提が誤っている」「用いた事例・データに誤りがある」等を挙げましたが、他にも、ありがちだが気づかれにくい論理破綻があります。それが「誤謬」です。

【例】

「アメリカ人は英語を喋る。よって英語を喋るならアメリカ人である」
「ガイドを読まない人はミスをする。お前はミスをした。だからお前はガイドを読んでいない」
「参加率が高ければやる気がある。なので、参加率が下がったお前にはやる気が無い」
「我輩は哺乳類である。猫も哺乳類である。よって我輩は猫である」
「人を殺してはならない、ということは、人でなければ殺してもいい」
「47都道府県について、過去15年の統計資料を基に算出した、ワーキングプア世帯の全世帯に占める比率と、母子世帯の全世帯に占める比率は、有意に相関する。よって、ワーキングプア世帯の増加の原因は、母子世帯比率の上昇にある」
「彼は文才がある。そしてバイクを愛している。よってバイクを愛せば文才が得られる」

上記の例は、全て論理的に破綻しています。もしどれかに納得してしまったなら、注意してください。

誤謬は殆どの場合、「集合」の捉え方を間違う事によって起こります。必ずしもそうではないのでは無いか?他のケースもあるのではないか?という視点で、批判的に自分の主張を見なおしてみてください。

誤謬に気がつく簡単な方法として、「"対偶"を取る」という方法があります。これは論理学の領域になるため、深くは解説しませんが、「AであればBである(命題)」場合、「BでなければAではない(対偶)」は必ず正しくなる事が知られています。

更に、「逆に言えば」系の反論で、「対偶」ではない物を指摘している場合がよくあります(論理学的には「逆」「裏」と呼ばれる物です)。それらは、必ずしも正しくなるとは限らない為、反論の根拠に用いることは出来ません。根拠として用いた場合は、論理の飛躍にあたります。

【命題/逆/裏/対偶】

命題: Aであれば、Bである
逆: Bであれば、Aである → 必ずしも正しいとは限らない
裏: Aでなければ、Bではない → 必ずしも正しいとは限らない
対偶: Bでなければ、Aではない → 必ず正しい

これを利用して、論理的に矛盾した話を見出すことができます(上記で挙げた例も、矛盾点を見出せるでしょう)。すべての論理矛盾に気づけるわけではありませんが、自分の主張のセルフチェックとして使ってみてください。

「言葉の定義」がフラついてませんか?

同じ話について議論しているつもりでも、実は「言葉の定義」がすれ違っている事があります。
そういった場合、話がどんどんずれていってしまい、収拾がつかなくなる場合が多いです。

元々意味が曖昧な言葉はもちろんですが、比較的一般的な用語でも、どういう意味で使ったのか明確にした方が、後々の議論がスムーズになります。

【例】

A 「特別収容プロトコルについて、些か長過ぎるように感じます。もう少し短くしてはどうでしょうか?」
B 「私はそうは思いません。他記事と比較しても、一般的な長さだと思います」
A 「どの記事をご覧になったのでしょうか?20記事程度を参考にしましたが、明らかに長いと思います」
B 「そもそも、長くても問題があるのでしょうか?高評価の記事のなかには~(云々)」
A 「仰る意味がわかりかねます。まず、当時の評価と現在の評価とでは~(云々)」
~以下サイトスタッフが止めに入るまで続く~

ずれていた言葉: 「特別収容プロトコル」 Aの定義: 「一文の長さ」 / Bの定義: 「全体の長さ」

ただし、過度に定義を厳密にすると、却って冗長かつ論点のわかりにくい文章になります(法律関連の文章、利用規約の類、SCP-184-J 等が良い例です)。最低限必要な箇所の定義をしっかりさせる、という事が重要です。

「そもそも論」もやめましょう

また、上記例で「そもそも論」が始まっていますが、これは話の論点をすり替え、議論を迷走させる原因になります。

論点のすり替えは無限に続ける事が可能なため、議論が終わらなくなります(自分の主張が通るまで、相手が根負けするまで続けられる事が多いです)。

別の話題なら、別でスレッドを立てましょう。原則的に、「1スレッド1議題」が好ましいです。

それ、本当に"当然"ですか? -「隠れた前提」-

議論のなかでは、話が長くなることを避けるため、しばしば前提の省略が発生します(多くは無意識に)。
この省略された前提のことを、「隠れた前提」と呼びます。例えば、「自動車は、左側通行である」の隠れた前提は、「日本国内では」です。

しかし、主張する人の頭のなかでは当然と思っていても、他の人はそうではないことがあります。そのため、相手に主張が理解されていないケースが、良く見受けられます。特に、自分の価値観に基づく主張や、言葉の定義が曖昧な場合に多いです。

自分の"当たり前"は、普遍的な物とは限りません。注意しましょう。

【例】

「あの人と目がよく合う……あの人は私に気があるんだ」
隠れた前提: 目があったら好意がある証拠である。

「このルールは意味が無い。だから削除すべきだ」
隠れた前提: 意味が無いものは存在するべきではない。また、この主張では"意味"の定義も隠れている為、主張した人にしか"意味の有無"の判断ができない。

「明日は良い天気なので、お気に入りの傘を持って行こう」
隠れた前提: 雨こそが良い天気である。(注意してTVの天気予報を見てください。"良い天気"という言葉は殆ど使われていません)

価値観に基づく主張なら、"交渉"に変えましょう

人間の判断には、「事実判断」と「価値判断」の二種類があります。

「この鳥は青い」は事実判断ですが、「この鳥は美しい」は価値判断です。文字通り、「事実判断」は客観的な事実について、「価値判断」は主観的な価値について述べています。

【例】

「南極は、寒い」→価値判断
「南極は、観測史上世界最低気温を出したことがある」→事実判断

「この本は、1972年にドイツで出版され、学術的に非常に意義深い本である」→価値判断
「この本は、四角い」→事実判断

「○○氏は、代表者としての責任感に欠け、続投は不適切である」→価値判断
「○○氏は、規約△△条の規定上、続投できない」→事実判断

さきほどの「隠れた前提」には、このうち「価値判断」が、多く見受けられます。この場合、主張の説得力は弱いものになる上、価値観のぶつかり合いになり議論が泥沼化しやすくなります。「自分の価値判断は正しい」という根拠は、論理的に存在しえません。議論においては、出来るだけ避けたほうが無難です。

もし、議論が価値判断の違いにより停滞しそうになったら、相手の価値観を尊重した上で、妥協点を探すのが最も合理的なのではないでしょうか。つまり、ここから先は「交渉」です。

もし、「私は相手の価値観を変える事ができる!」と思っていて、それは実行に移そうとしているなら、「批評に関するポリシー」を読み直し、本エッセイも最初から読み直してきてください。

"交渉"をしましょう

何かを主張しようとする時には、まず初めに、自分の主張に3度、「何の為に?」と問いかけてください。何処かで″それは良い事だから″や、″そうするのが人として当然だから″等、道義的な価値基準が出てきたら、根拠とするべきではありません。何故なら、価値観は人それぞれであり、貴方の価値基準に賛同できない人が必ず居るからです。どうしても納得出来ない人が、必ず出てきます。

根拠として優れている物としては、メリット/デメリットです。これは万人に(形は異なれど)共通して存在する物ですし、議論を合理的な物にすることが出来ます。

しかしそれでも、自分の価値基準に基づいた主張で他人を説得したい/する必要がある場合は存在します。人間は理性と合理主義だけで出来ているものではない為です(そうでなければ、そもそもこのサイト自体存在しないでしょう)。そういった場合は、貴方の主張の中に、相手の便益を含めるべきです。そうする事で相手が、貴方の主張を受け入れてくれる可能性が格段に高まります。つまり、「交渉」をしてください。討論のように、論破すれば良いというものではありません。

記事/taleの批評においても、「交渉」という考え方は役に立ちます。

多くの場合、貴方の意見の根拠は「面白いと感じなかった」という価値判断でしょう。そのまま言っても納得感は少ないです。何故なら、執筆者はその作品を「面白い」と思って執筆しているからです。価値観に相違がある状態です。

そこで、相手の便益を考えます。多くの人は「より高い評価を受けたい」「より洗練された作品にしたい」が、批評を受ける目的です(勿論、本質的にはこの2つは同義です)。貴方の意見により、これらの要求が満たされると説明します。更に、それは何故なのか、客観的な根拠を示すと納得感は増します。例えば、過去の実例は優秀な客観的根拠となるでしょう。

最後に、結論に至るまでの論理的な筋道(論拠)を示せば、完成です。こうして、「○○は××にするべきでしょう。△△の方が、より評価は高くなる傾向にあります」といった主張が出来上がります。これは、「面白く無いです。××にするべきです」と言うより、遥かに建設的な意見です。

"上から目線"を避ける

議論を行う場合、当然ですが「相手が話を聞く」必要があります。多くの場合で、否定的かつ複雑な意見を、相手に"汲み取らせる"目的や必要があるフォーラムディスカッションでは、特に重要な部分になります。

ここで、相手が話を聞いていないように思える場合、こちら側で対処できる方法としては下記が考えられます。

1. 複雑な部分をわかりやすくする
2. 相手が否定的な意見を受け入れられるよう、言い方を変える

厳禁なのは"話を聞かないのは、相手に原因がある"という考え方です。そうとしか思えないとしても、対処の立てようが無い為、考えるだけ無意味です。貴方が直接コントロールできるのは貴方だけです。

このうち、対処が難しいのは「2. 相手が否定的な意見を受け入れられるよう、言い方を変える」です。
順番に説明します。

1. 複雑な部分をわかりやすくする

「1. 複雑な部分をわかりやすくする」については、要点を絞ったり、難しい表現を平易にしたり、例を出したり、省略された前提を説明する、などで対処できます。

参考として、私はディスカッションへの書き込む際、原則以下を守るようにしています。
冗長な説明は伝達ミス・誤解が出るため、「わかりやすく、必要最小限で」が基本となります。

1. 要点を絞り、重要度順に述べる
2. 必須でない文は、徹底的に消す
3. 文章の見た目はシンプルに (平易な言葉を極力使う、箇条書きにする、装飾は最低限かつ適度にする等)
4. 説明が難しい物は、具体例を出す
5. 投稿前に読み返す

この辺りは「ビジネスコミュニケーション」で調べると、良い資料が見つかります。これは純粋なライティングスキルの部分ですので、本稿では割愛します。気になる方は、拙作「SCP記事の文体とは?」で、分かりやすい文章の書き方に触れていますので、そちらも御覧ください。

2. 相手が否定的な意見を受け入れられるよう、言い方を変える

2.の対処として有益な方法は複数考えられますが、経験上最も効果があるのは「相手に対する敬意を感じられる言い方」です。これだけだと漠然としている為、具体的に要素を分解します。

1. (どんな相手だとしても)"尊敬している相手に対する文章"を書く
2. "隠れた攻撃的メッセージ"に気づき、排除する
3. 正しい敬語を用いるよう努力する

議論の場において、敬意は、道具です。相手に対して、本当に敬意があるかどうかは問題ではなく、あくまで議論・主張を円滑に進めるための道具と、ここでは見做してください。本稿の目的が「感情的反応ではなく理性的反応を引き出す事」である事を思い出してください。

解説します。

1. (どんな相手だとしても)"尊敬している相手に対する文章"を書く

もし、あなたがいわゆる"経験あるメンバー"である場合、最も注意が必要です。

再確認ですが、ここでの目的は「相手が、感情的反応ではなく、理性的な反応・応答をする事」です。
そのため、感情的な反応を引き出す言い方は、最大限排除する必要があります。

そこで最もありがちで、問題となりやすいのが、「自分の方が立場が上である事」を前提とした発言です。
「自分の方が立場が上である事」を前提とした発言は、相手に感情的反応を呼び起こしやすい傾向にあります。

例えば、議論や批評の際、こちらのスキルが高く相手が低い場合、「正しい事実/優れた考え方を教える」形となるケースがあります(経験量、文章スキル、論理展開スキル、各種知識、判断力、他者への影響力等)。この事自体は当然発生しうる自然な事なのですが、この時、「"スキル"が上」ではなく、「"立場"が上」の言い方をしてしまっている場合があります。これらは本来、全く別の物です。

まず、スキルの優劣・経験の優劣・スタッフ権限の有無にかかわらず、メンバー間に地位や身分(目上・目下)の優劣は無い事を、前提としてください。なぜなら、これは個々のメンバーの価値観に左右される、曖昧な基準だからです。曖昧な基準による行動は、往々にして混乱や反発の原因となります。互いに顔も名前も見えないSCP_Foundationでは、全メンバーが"同格"であり、"平等な立場"であるべきで、サイトルールもこの事が根底になければ、運用が成立しない物になっています。

しかしながら、スキルの低いメンバー(スキルが低いと"貴方が"見做したメンバー)に対し、無意識に「格下」として対応してしまっている場合があります(これはSCP_Foundationに関わらず、一般社会において広く見られる現象です)。これに加えて、相手方もあなたに対し"畏敬"や"権威"を感じている事があり、"格"に優劣をつける風潮を助長している事もあります。

相手が"格の差"を受け入れている時点ではあまり問題ありませんが、問題となるのはその先です。「"格"の優劣」に基づいた対応に慣れてしまうと、やがて「すべてのメンバーは"同格"である」という考えを持ったメンバーにも、同じ対応をしてしまう事になります。そうなれば、相手が非常に不快な思いをする事は、想像に難くないと思います。

これらは、「相手を尊敬した言い方/書き方をする事」で解決します。たとえ、どんなに相手のスキルが低いとしても、「格下/目下/年下」に対する言葉遣い/説明等はせず、例えば「同格/同い年」の相手に対する物に変えてください。そうすれば、少なくとも上記のような問題は発生しない筈です。もし自分にその傾向がある、または同格相手では言葉が雑になる、という自覚があれば、「格上/目上/年上」に対する物にするぐらいが適切かもしれません。それでも駄目なら、敬語の使い方を見直すべきです。

具体的な言い回し、対応方法については、一般的なマナーの範疇で問題ありません。もし不安であれば、調べてみてください。

2. "隠れた攻撃的メッセージ"に気づき、排除する

理性的な反応・応答を引き出すために改善できる点は、表面的な言い回しのテクニックだけではなく、話の内容にもあります。例えば、下記のような批評・主張の展開がしばしば見受けられます。

「~することは当然だと思います。」「常識的に考えて、~ではないでしょうか?」
「(自明な誤りに対し)何故、~なのですか?(皮肉っぽく)~、という意図なのでしょうか」
「~を見る限り、恐らく~さんは~なのではないでしょうか。宜しければ、~をお勧め致します。」

しかしこれらは、議論の場において感情的な反応を引き起こす好例とされています。なぜならば、これらは発言者の自覚のあるなしに関わらず、「相手の知性・価値観に対する攻撃的なメッセージ」を暗に含んでいる為です。

1. 「~するのが当然」「~は常識」といった"決めつけ"が根拠になっている意見
2. 自明な誤りに対する過度な質問。または、それを正しいと故意に仮定した皮肉めいた発言

これらは、「あなたは常識/当然の事もわからない、低い教養/知性しか持ちあわせていない」という意味を内包します(特に2.は、単なる揚げ足取り行為です)。そのため、軽度の人格攻撃に該当しています。如何なる場合でもです。例外はありません。

目に余る場合、警告対象になるでしょう。

3. 人格に対する過度な分析と、それをもとにした提案・忠告

これは先程述べた通り、相手を格下と見ている事になります。相手の事を想っての行為だとしても、相手は"成熟した大人"のはずです。本サイト上では推奨されない行為です。また一般論としても、親しい間柄でない限り、するべきではありません。

3. 正しい敬語を用いるよう努力する

敬語は正しく使わないと、信頼感を損なう原因となります。
尊敬語・謙譲語の間違いや、いわゆる"バイト敬語"などは、最大限避けた方が無難です。

また過剰な使用も、"慇懃無礼"になったり、単純に冷たい印象を与える原因ともなります。

いずれにせよ、TPOに合わせ、臨機応変に対応できる事がベストでしょう。

敬語の使い方に関しては、SCP_Foundation外の一般知識として、ここでは割愛します。

トゥールミン・モデル

これは参考程度の話です。
議論中の主張をモデル化した、「トゥールミン・モデル」というものを紹介します。

これは、イギリスの哲学者スティーブントゥールミンが提唱したもので、議論の教科書等ではしばしば見かけるものです。
ただ、実際使えるのか?と言われると微妙なので、「こういうのもあるのか」程度に見てください。

トゥールミン・モデル
  「根拠(Data: ジョンはニューヨーク出身だ)」
   「論拠(Warrant: ニューヨークで生まれるとアメリカ国籍を持つから)」
   + 「裏付け(Backing: アメリカ合衆国憲法修正第14条の市民権条項によると)」
   + 「限定(Qualifier: おそらく、~だと思います、などの婉曲)」
   + 「反証(Reservation: ジョンが国外へ帰化していない限り)」
  「主張(Claim: ジョンはアメリカ人だろう)」

トゥールミン・モデルに基づいた主張
「ジョンはニューヨーク出身です。アメリカ合衆国憲法修正第14条の市民権条項によると、ニューヨークで生まれるとアメリカ国籍を持つ為、ジョンが国外へ帰化していない限り、ジョンはアメリカ人だと思います」

tips

・他所ではこうだった、だからSCPもこうして良い、こうしなくてはならない、と言った主張は避けるべきです。貴方の言う他所を、我々は知らず、我々は独自に培ってきた文化・価値基準・ルールがあります。それを尊重して頂きたいです。勿論、多くの場合では、その知識・ノウハウが本サイトで大いに役に立ちます。是非ご助力ください。しかし、必ずしも過去の経験や知識が正しいとは限らないのも、歴史の必然です。一歩引いて、自分の判断基準も客観視してみてください。何故それが我々に役立つのか、行動前に立ち止まり、一度考えて頂ければ幸いです。

・あえて相手の感情的反応を引き出す事で、自分の意見を通す手法も、確かにあります。しかし、それはコミュニティ全体の寿命を削って、貴方(もしくは貴方の仲間)の利益とする行為です。そのような自己中心的な行動は、断じて許されるものではありません。スタッフによる、厳しい対応の対象となるでしょう。

・自分の感情が高まっていると感じたなら、行動する前に、一度サイトから離れて気持ちを落ち着かせてください。それでも許せないなら、モデレーター等、スタッフを通してください。直接に私刑を加えようとするのは、サイト全体の秩序を乱す行為でしかありません。何故、近代国家で私刑が禁じられているのか、落ち着いて考えてください。

・これは敢えて本論から外しましたが、"不必要に強い言葉"も、避けるべきです。ここで言う"強い言葉"は、「~に違いない」「~べきだ」などの確信的な表現、「あまりにも」「全くもって」等の強調表現等です。これらは相手に感情的な反応を起こしやすい為、議論の場では無闇に多用するべきではない表現とされています。ただし、特に主張したい事であるなど、必要であれば、勿論普通に用いられます。そのため、ここは裁量に任される部分です。私からは、印象が悪いのであまり多用はお勧めしない、とだけ記しておきます。

・良かれと思った行為が、裏目にでる事があります。数多の非難を受ける事もあります。貴方は気を落とすでしょう。しかし、過度に反省する必要はありません。偶々視野が狭かっただけで、今回で視野が少し広がった筈です。その経験は、後々必ず活きてきます。反省したならば、その後は縮こまらず堂々としましょう。私は、多様な意見が出なくなる事を懸念しています。

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