ガッフィアスはイケアの中
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UIUはバカの寄せ集めだってのはオリエンテーションでも聞いてた。
あー、まあこれはだいぶ端折った言い方だが、実際のところ、そいつは紛れもない事実だろう。
現に俺がそうだ。

今、俺が追ってるのはコードネーム"ミスター・ガッフィアス"、人型カンだ。
報告書を読む限り、こいつはワンダーテインメント絡みの事案みたいだ。

俺の心の中の話をすれば、ワンダーテインメントは単純に好きじゃない。
第一に、子供向けだ。あとヘンなモンのクセに注意書きが多すぎる。
んでもって、結局はそいつらは危険なブツでしかねえんだ。

ていうか、"ミスター・どこでもなんでも無料"って何だよ。ダサ過ぎないか。
"あまあま"だとか"あつあつ"だとかも大概な気がするが、こりゃワンタメのおっさんも終わりだな。

「おい、スコセッシーだ」

シワの多い服を着た俺の上司は指を指す。
ここまで散々バカにしてきたが、俺たちはガッフィアスに出し抜かれ続けている。
この前なんかガッフィアスを確保したと思ったらそいつは広告だった、なんてこともあった。

だが、今のあいつは完全に油断してやがる。まあ俺らがナメられている証拠でもあるが。
とにかく、こいつは絶好のチャンスなんだ。やるなら今しかねえんだ。

「行きますよ。見といてください」

俺はFBIから提供された車を飛び出してガッフィアスへとゆっくり近づいた。
ゆっくり落ち着いた、自然な足取りだ。

しばらく追っているとガッフィアスはイケアに入った。
完全に普通で、ありきたりの古いイケアだ。

正直、面倒なことになった。
ジャップのお前らは知らないと思うが、イケアはめちゃくちゃデカい。
容疑者を追うのには不便すぎるってワケだ。
ついでに言えば、やつの能力との相性が抜群なフィールドであるのも特筆事項だな。


マズい、迷った。
クソ、広過ぎんだろ、ここ!
ただ、容疑者を追ってる最中に道に迷った時の対処法を俺は知っている。
それは、店員さんに聞く、だ。
実際、FBIの名前をチラつかせれば、被疑者が店のどこにいるかは割とすぐわかるもんなんだ。

イケアの黄色いエプロンが見えた。
声をかけるために俺は背の高めな店員に近づいた。

「あー、すいません。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですけど」

無反応だ。
おいおい、なんだよ。もう一度、声をかける。

「ちょっと、道に迷いまして」

肩をトントンと叩いてみる。
店員はゆっくりと振り返った。それで俺は気づいた。

この店員がのっぺらぼうだ、ってことに。
こいつは明らかに人型カン、いや、ともすればこのイケア全体がカンの可能性がある。

マズいことは更に増えていく。
こいつは明らかに俺を殴りたがっている。というか、もう既に振りかぶってやがる。

とりあえず、入ったところに戻ろう。
ガッフィアスもどうせこのクソエプロン店員に殴られてるに違いねえ。

必死に入り口を探すが、無い。

全力で走る俺の後ろで、更に力のこもった足音が聞こえる。
どうしようもないな。

永遠のように長くて、遠くて、辛くて、汗と上がった息が苦しくて、耐えられなかった。
気づいた頃には店員の足音は消えてた。

それからも息を潜めながら俺はイケアサバイバルを切り抜けたが、このクソイケアの店員は全員あのクソ店員みたいなツラをしてるようだ。


そういうわけで1週間過ごして気づいたことが色々ある。
このイケアには昼夜がある。
店員は昼間は優しい、というかこちらをシカトするだけだが、夜になると丁寧にお客様をジェノサイドする。
出口は見つからない。

とにかく、俺は1週間を無事に終えたんだ。
そして、こいつには俺もビックリしたんだが、このイケアで町を見つけた。
この町の住人はあの店員なんかじゃねえぜ、まっとうな人間だ。

町の長らしい男からの歓迎を受けた。

「この町、カートオキバに来たからにはもう安心していいですよ。それにスーツでは動きにくい。これはここの女性たちが作ったものです。これを着るといいでしょう」

正直な話、異常事件課では、いや、FBIではこんな優しさを受けたことは無かった。
この人らならずっといてもいい、と一瞬思った。

ただ、そこで俺はやつを見つけたんだ、ガッフィアスを。

幸いなことに、俺は面が割れていない。
こいつと共に行動しこのイケアから生還できれば、晴れて俺は自由の身、ガッフィアスはお縄ってワケだ。

見た感じ、やつはコミュニケーションが得意そうにない。
ここで俺のペースに乗せれば、こちらのものだ。

「やあ、あんた、ここに来てどのくらい経つんだ?」

「ああ、君と同じく1週間くらいかな」

「あ、ん?なんだって?」

「UIUさん、よろしくね」

マズい、いや、これは何かの手違いだ。ああ、そうだ。

「俺は"UIU"なんてダサい名前じゃないね」

「まあそうだけど、君はFBIの犬だよ」

「違う」

「イケアに1人でスーツで来るやつなんていると思うかい?」

確かに、そうだな。心の中で素直に認めてしまった。

「こんなところにスーツ姿で来るのはUIUか財団しかいないだろうね」

もう開き直ろう。

「ハッ、だいぶ知ってるみたいだな」

「そして、君は計画なく迷ったからUIUだ」

「ちょっ、ちょっと待て。迷ったのはそっちも同じだろ?」

「まあね。そうかもしれない」

ちくしょう。誑かしやがって。煮え切らねえ態度だ。
だが、実のところ、こいつは賢そうだ。
カン人間に頼るのはUIUとしては堕ちたものだが、それはこの際は関係ナシだ。

町にはメシも寝床も揃ってる。
だが、これらもちゃんと補給あってこそだ。
男どもは皆、"採集"へと向かわされる。
もちろん、俺とガッフィアスもだ。

採集と言っても大仰なものではない。
レストランからチョチョっとご飯をくすねさせて頂くだけだ。

実際、明らかな窃盗をしているのにクソ店員どもは何も咎めないから不思議だ。
ちょっと触れさえすればイケアの果てまで追って来るクセに。

俺はガッフィアスに注意を払っていた。
やつは真面目に作業をしていた。当たり前だな。
こんなことを言うもんじゃないが、つまらないな。

カートオキバへと戻った。
事が起こったのはそれからだ。

俺は棚の説明書を読んでいた。理由はイケアに読み物なんてそのくらいしか無いからだ。
ペラペラ読んでるうちに次々とポップアップが出やがった。
別の説明書には「評価: 2」とか出やがった。この椅子は俺の家でも使ってるんだぞ!

俺はガッフィアスに説明書を突き出した。

「こいつはなんだ?」

「ああ、その説明書、わかりにくすぎるから注釈いれたんだよね」

「このクソレビューはなんだ!」

「これは実際に使い難いからさ」

「こんなところで広告屋ごっこをやってたのしいのか?」

「楽しいよ。みんなも楽しんでる」

「偉そうにしやがって」

「実際、説明書しか読み物のない世界なんてつまらないよ」

「良いか、よく聞け。お前はカン人間だ、容疑者だ。天下のFBIに追われてる身なんだ。今、ここでお前に手錠を掛けてクソイケアのクソ店員様に献上してやってもいいんだ。自分が何者であるかを知れ」

「何者、か。君は僕のことをどれだけ知ってるのかい?」

「そりゃあ、言えねえさ。調査した限りってとこだ」

「僕が作られた目的を知っているかい?」

「あ?そりゃあ、あの趣味の悪いワンタメ博士のミスターズの一員だから……」

「もう違うね。僕とワンダーテインメントは関係ないよ」

「なんだって?」

「首元を見てくれ」

「何が書いてあるかはもうわかってる。それが何だってんだよ」

「君は"ゲーマーズ・アゲインスト・ウィード"のことをどこまで知っている?」

そのフレーズが何かは未だに特定されていなかった。

「いや、それは答えられない」

「知らないんだろ?実際、僕はワンダーテインメントを知らない。でも、やつらのことは知っている」

クソ、また誑かしやがって。

「僕はジョークのために作られたんだ。ジョークってのはみんなを楽しませるため、もっと言えば世の中を良くするためのものだ」

「だからって、お前は能力で遊びすぎだ。狙われて文句は言えないぞ」

「君はわかってない。ジョークは世界を救うんだ。もっとクソでしつこい詐欺師のサイトだって僕の能力でイチコロだし、ここでもみんな僕の能力を気に入ってる。僕がやってるとは知らないけどね」

「まあ、ここではそうかもしれないが……」

「やつらはここみたいなだだっ広くて、家具とマニュアル通りな店員が大嫌いだ。そして、僕もここみたいなところは大嫌いだ。だから、ここに来た」

俺が次の言葉を選んでいる最中にやつは席を立った。
この話題はまた今度にしよう。


いつも通りの夜だった。
外で叫び声がした。若めの男だ。

本来、町の規則では夜の外出は禁止されているが、仕方ねえ。
俺だって連邦捜査局の人間だ。正義感のかけらはまだまだ残ってる。

俺はバリケードの下の隙間をこっそりと潜り抜けた。
声の方向へ抜き足差し足で向かって行く。

男を見つけた。うなだれている。
よく見ると頭が無い。もう潰されているようだ。

申し訳ないが無駄足だったようだ。
町に戻ろうとした。
事が起きたのはその時だ。

見つかっちまった。
いつものクソ店員のお出ましだ。

全て自分の責任だが、こいつは厄介ごとだ。
とりあえず、いつもの如く逃げた。とにかく走った。
いつの間にか町とは真逆の方面に向かっていた。

クソ店員の丁寧な退店のお願いが聞こえる。
振る舞いも伴えば良いのにな。

気づけば、店員は1人から2人、さらに3人と店員のもてなしは厚くなっていた。
使うか迷っていたところではあるが、FBI標準装備の拳銃を取り出してやつらに向けた。

「……くらいやがれ!」

引き金に指をかけたその時、背中に衝撃が走った。
後ろには例の如く店員が立っていた。
衝撃で拳銃は商品棚の下に滑り込んじまった。
痛む背中を庇いながら俺は立ち上がる。

UIUに入ってから異常存在に対する行動の仕方は色々学んだ。
もちろん、こいつらみたいにバカでかいやつらに関しても。
ただし、全て講義でしかやっていない。

実際のところ、自分がここまで危険な目に会うなんて考えたことが無かった。
実際にカンやカートに遭遇したことはあったが、それらは全てマジックの小道具の域を出なかった。

だけど、アレだ、俺は諦めちゃいなかった。
こんなやつらにも運の尽きは巡ってくるはずだ。

無限に撃てると思ったマガジンが1296発で打ち止めにされた男や、最高の運を持った人型カンが運に見放されて死んだ話を俺は聞いたことがある。

そうだ。俺だって運があるんだ。
俺は世界一ツイてる野郎なんだ。

その時だった。
どっか遠くから、いや、そこまで遠くではないか、イイ感じの音楽が聞こえてきたんだ。

そして、楽しげな会話の声が聞こえ出した。
その声は明らかにIKEAでショッピングをしていた。
もしここが本当に完全に普通の、ありきたりな古いイケアなら俺は違和感を持たなかっただろうが、ここはクソなイケアだ。
どう考えてもおかしい。

クソ店員は声の持ち主の接客へと向かった。

バカな俺は彼らの接客を邪魔しに向かおうか迷ったが、それを決めかねている内にやつが現れた。
ガッフィアスだ。

やつの顔を見て納得した。
あの声の持ち主はどうやらコマーシャルみたいだ。もちろん、イケアの。

「FBIを助けても何も得をしー」

やつに礼を言おうとしたその時だった。
ガッフィアスの後ろに、やつらがいた。

「当店は現在閉店しております」

店員が丁寧に退店のお願いを申し出たところでガッフィアスは店員に気づいた。

俺は迷った。
仮にもこいつは容疑者だ。
助けるべきか、否か。

判断は必然的に急かされる。

そして、俺は気づいた。
こいつに手錠をかけるのは俺の役目だってことに。

俺はバカの一人だが、俺の役目は守らなきゃならねえんだ。

乾いた銃声が暗いイケアに響いた。
店員は血も流さずに崩れ落ちた。

ガッフィアスはしばらく呆然としていたが、ようやく口を開いた。

「銃は、棚の下に行ってなかったか?」

「FBIでは予備の拳銃を支給されるんだよ」

できる限り、溢れそうになる安堵を抑えながら俺はさらに喋った。

「スコセッシー、いや、ゲーマーズ・アゲインスト・ウィードのミスター・どこでもなんでも無料」

「どうかした?」

「お前は運がいいよ」

「そうかな」

「もし、お前がスキッパー、まあ財団のことさ、やつらに見つかってればやつらは意地でもお前をここの外に連れ出してお前を収容する。でも、お前はこの俺、UIU、連邦捜査局異常捜査課の一員に見つかっちまったんだ。これは、俺とお前が、共に生きていかなければならないって運の尽きだ」

「それはどういう意味?」

「UIUはバカの寄せ集めってことさ」

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