"アセスメント"
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「スパークプラグ部隊を現場に戻すのは甚だ早すぎる。」

D.C アルフィーネ(al fine)──世界オカルト連合事務次長──は黝き虚空の中に立っていた。それを囲む108点の人工燈。今日、彼女はオードリー・ヘップバーンに極めて来た。ジバンシイのドレスに、傘、絢爛の帽。されども、オードリー・ヘップバーンは冷凶な目を見せる事は無く、傲慢不遜たる顔を表す事も無かった。たとえD.C アルフィーネがよく名だたる女優の服を身につけようとも、その鋭き荊を零せず、その渾名を雪げない。
"The Scary Lady"──おっかな女。

「先ず第一に、貴方方が理解しなければならない事は、スパークプラグは最高の評価班であるという事です。」
彼女は説明する。
「3人のベテランは超常的な分野において30年以上の経験が有ります。彼らはチームとして、10件以上の任務を成功させてきました。彼らは非常に良く調律された楽器でありました……ですが彼らは一つ重要な部品を失ってしまった。ええ、替えは置かれました、しかし、彼らはチームの構成要素の変化にまだ慣れていない。貴方方は彼らに、たった2、3ヶ月で現場に戻ってくるよう頼むなんて言う。それは余りにも早すぎるのですよ。」

一点の光がにわかに閃き、黒衣のローブの長身の男を菫色に照らす。胸の高さに字幕が浮かび上がり、アヴァターをマーカス・クロウリー卿──サタンと科学者の統一教会指導者たる対立教皇──であると明らかにした。
「貴女の工作員に対しての御考えは関心に値しますな、マダム。」
ローブを纏った男が唱え上げる。
「されども、無用ですな。貴女の工作員は最早用意を済ましている。如何か、ゆめゆめ御心を自己欺瞞に曇らしめさらぬように。」

「占いは彼の意地悪に賛成しているわ。」
手にもつれた糸を握る、白いガウンを着た女性が言った。彼女は硅のノルニルの代弁者であると同定された。

「これは同時に一致したに過ぎない報告なのですか、それとも単なる過半数を占める報告なのですか?」
アルフィーネは問う。

「合意です。ウルズ、ヴェルザンディ、スクルドはこの行動が正当であると一致していらっしゃいますわ。」

「私情は挿まぬよう。されど措置はとらねばならぬ。評議会はこの問題に附いて一致に至ったのですぞ。」
マーカス卿は言う。
「殊更に智計に悖り、愚行を選ぶ己を許してはなりませぬ。」

彼女を囲む108の星が煌めき、消えうせる。それは無言の同意だった。

「ならば、評議会の助言を聞き入れましょう。これ以上の問題が無いようでしたら、このコンクラーベ(秘密会議)を閉会とすることも考えましょう。」

星は一つまた一つと消え失せ、アルフィーネは虚空の静寂に独り浮き上がる。彼女は目蓋を下ろし、再びゆっくりと開けた。彼女はマンハッタンを見渡す国連事務局ビルの40階のオフィスにいた。額を撫で、気を鎮め、"収斂"による吐き気が弱まるまでじっと耐えていた。

事務次長は電話をとって、存在しないナンバーにダイヤルをした。ベルは一回で繋がった。

「PHYSICS部門を寄越して下さい。」


「君は財団について何を知っている?」
牛蛙(Bullfrog)は尋ねた。

「財団は、……最も巨大であるとは言いきれませんが……世界オカルト連合の一員では無い超常現象機関の一つでありますね。連中は超常オブジェクトの捕獲と獲得を第一にしています。世界中に隠した封じ込めサイトのネットワークを保持していて、蛇の手や、所謂カオス・インサージェンシーのような世界的な規模を誇る数少ない非連合の機関であります。議事規則では、非常事態を除いて財団との交戦は避けろと。レスポンスレベル3っす。」

「よろしい。」
牛蛙は頷いた。
「良くしっかりハンドブックを読んで来たな。そしたら、今お前が財団について、何を本当に知っているのか教えてくれ。」

蜘蛛(Spider)は内心ため息をついて、そして深く息を吸った。
「連中は溜め込み屋どもであります。」
彼女は言った。
「いくつかの組織とは違い、何をするに付けてもポリティカルな、それともエコノミックなアジェンダを持ち合わせているようには見えません。超脅威を開発するような事が少し有るとしても、第一は活動の蓄えになるようにしか考えていなさそうっすね。彼らは、アメリカ政府のバウ委員会とちょっとした同盟関係を結んでいた事も有りましたけれども、失敗に終わっています。職掌柄、連中は不当組織であります。でもっすね、ソデの下を握らせる国も多いようです。連合のお役所趣味な所や、取り締まりを良く思わない国の政府とかはよく。あと、ある3文字の並び方に相当御執念であります。最初、これは連中のオフィシャル・モットーに関係していると考えられていたんすが、今は言葉の並び方自体にオカルト的意味があるのだという論が展開されています。というのも、連中の内部文章から、フロント企業の名前に至るまで、色々なところで使われているっすからね。最近の命令でこの三文字の並びを使うのは、どんな時でも出来るだけ避ける様にと通達されました。伝染の原則より、連合の内部セキュリティが破られてしまう可能性が僅かに有るからっす。だから、私達のコンピュターじゃSCP(SecureCopyProtocol)を使う事もできないんすね。」

「良かろう、悪くない。」
牛蛙は言った。
「そいつで見解は完璧だ……事務勤めに限れば、だがな。よっしゃ、なら現場勤めはどう見るか教えてやろう。」

大男は拳をバキバキならすと、もう長い間、雲の間を行く小型個人飛行機の彼の席に凭れた。
「現場で工作員が出くわす財団ていう奴は、大抵収容班だ。連中はPHYSICSの評価班にほぼ等しい。奴らは上出来だ。トレーニング、機器、サポートの面で俺タチとどっこいどっこいって言った所だ。なら、どこが違うと言うと、俺タチの任務とゴールだ。」

「財団は超脅威の発見、捕獲、回収によくよく熱心だ。」
牛蛙は続けた。
「奴らの武装はこうだ。非致死性の武器にキャプチャー・ギア(捕獲装備一式)。対して、連合は五大任務に徹する。任務で超脅威を生かして引っ捕らえてこいなんて要求される事はねぇ。」

「もっと重要な事は、財団は殆どの評価作業に徴収人員を使うという事だな。奴らはそれを『Dクラス人員』と呼ぶ。政治的に望ましくない者、有罪判決を受けた者、そんな連中を、実際の機動部隊員が行きたがらないような危険な場所に放り込むんだ。だからな奴らのチームの士気は高くない事が多い。連中のチームの半分はそこへ行く事を望まなければ、任務も望んでいないからだ。」

「手短かに言おう、良きGOC評価班とは何たるか。財団を通り越して、連中を鼻先で出し抜いてな、そっからスタコラァサッサと去ったら、後はもう連中には何があったのか分からない。それをやり果せる奴ってわけだ。俺タチは財団が動き出す前に出し抜いてやったことも昔あるんだぜ。議事規則は可能な限り財団との接触を避けろとある……だが奴らがチンチンタラタラと超脅威を持っていくのを指を咥えて見てろってわけじゃねぇ。」
牛蛙は結論づけた。

「そいつァマジで、連中のイカ臭い手から超脅威を守るためのイカした手だなァ。」
スカンク小僧(Skunkboy)は言った。牛蛙の向かいの席で彼は、ぼけっと飽き飽きとした感じにポルノ雑誌を捲っていた。
「俺たちァ、あのヤロウ共が連中と一体ぇどうファックしてやがるのかわかんねーがな……ヤツラの超常の兵器庫にあンまりパンパンにモノを集めさせないようにするのは最高だろうよう。」

「当然これは、財団の収容班に出くわした場合を仮定している。機動部隊じゃあこう言う訳にはいかねぇ。」
牛蛙は説明する。
「奴らは代表チームだ。エリートだ。排撃班と同じぐらいだと考えろ。」

「そうだ、機動部隊に出くわしたならよぅ、超脅威はヤツラにくれてやれ。」
スカンク小僧は同意する。
「奴らを付けろ、何を獲ったのか記録しろ、やれる限りヤツラの情報を探れ、だけどよぅ、絶対ヤツラに近づくなよ。」

「了解。」
蜘蛛はそう言って、話をよく考えた。
「連中と私達は何か外交ルートを持っているんすか?何かコネとか、協定とか?」

「連合には有るが、俺タチにはねぇ。」
牛蛙は説明した。
「元GOC職員が財団に行く事も少々ある、逆も又しかりってわけだな。俺タチの組織と協定を結んだ事も数回ある……特定の行動指針において……仕方なしに一緒になるとかでな。一方で、連合の公式の立場で言ったら、財団は危険組織だ、会議で正式に承認する事も無けりゃ、特に連合に招待する事もねぇ。」

「牛の旦那が言いてぇ事ァな、行儀よく振る舞え、だがヤツラをダチと思うなってことさァ。」
スカンク小僧が言った。
「味方に近づくって事ァ、敵に近づくって事よう。そんなトコロ。」

蜘蛛は返事をして頷いた。蜘蛛は万年筆で2、3の項目を手帳にメモした。その万年筆は象牙の様な美しい嵌め込み細工に彫り取られるているが、実際は処刑された咎人の大腿骨から作られている。古く粗野な(それでも効果的な)魔法スパイからの防禦素材であるのだ。
「何か追加する事はあるっすか?仔猫(Kitten)さん?」
彼女はチームの第四のメンバーに尋ねた。彼女は通路で高速腹筋運動をしていた。

7フィート(213cm)の背の高い女は、ストマッククランチを途中で止め、手で髪をけずった。それでも、ぶっきらぼうな表情は変わらなかった。
「何も。」
素っ気なく言うと顔を背け、腕立て伏せを始めた。彼女の筋肉がツンと張った。

牛蛙は肩をすくめた。仔猫は多く語らない。

客室にシャリシャリとした音が響き、空電がパチパチとなった。
「こちら機長。空港をまで後15分だ。そろそろ席に着いて欲しい、全ての席を直立させ、トレイを元の場所に戻してくれ。現地時間は4時。天候は華氏80度(摂氏27度)晴れ。」

蜘蛛は手帳を閉じ、メッセンジャーバックに挟んだ。中にはグリモア──魔導書──、タブレットコンピューター、角を折ったロバート・W・サーヴィス(英系カナダ人詩人)の詩の全集の写しが収められていた。
「最後にアドバイスあるっすか?」

「おう、落ち着け。お前はよくやってくれる」
牛蛙は言うのにスカンク小僧が口挟む。

「地獄に行ったらクソの役にも立たねーがよう、少なくともバカなことして死んだって思わねーのがいいぜ。」

「体勢!屁こき小僧。」
牛蛙が怒鳴る。

「イェッサー。ゼンパー・ファイ(Semper Fi)はあの野生の青の中に飛び込むであります。」
スカンク小僧はぶつぶつと言った。

飛行機が着陸態勢に入ると、乗り物酔いとは関係なく、蜘蛛の胃がむかついた。


鏡の中の自分がにらむ。(私って可笑しい)、と蜘蛛は感じた。彼女の恰好はまるで出来の悪いテレビゲームの兵士の姿のようだ。

第3侵入密着服(The Mark Three Infiltration Skinsuit)は確かに効果的な個人装甲であるが、そのスレートグレーの密着した、軽くパッドの入った服には不運な副作用がある。彼女は繰り返し思う、今の私はダイナマイトな巨乳ボディーのように見えるだろうし、ジガバチのような体型にも見えるだろう、シリコンの胸のおかげで。このスーツでも、数ヶ月フィジカルトレーニングを詰んでもまだ、ウエストと腹回りの赤ん坊のような脂肪を削ぎ落とすことは出来なかった、この広い腰の大学職員をとりわけ蠱惑的に見せられる様に出来てはいない。

背が低く、筋骨逞しいずんぐりむっくりの肩の広い中年男性には、なおさら著しい影響が表れていた。四肢は木の幹のようだ。彼女が縛りヒモを調整する前、牛蛙は部屋に忍び寄って蜘蛛をしばらく睨みつけた。
「胸と腰あたりのヒモは緩めておけ、そしたら呼吸がジャマされる事はねぇからな。」
牛蛙はそう勧めた。

「仔猫はヒモを目一杯に締めていたんすけど……」
蜘蛛は指摘した。

「仔猫はクレイジーだ。」

良かった点。牛蛙が2、3分かけて彼女の戦闘吊りバンドや、雑嚢、その他附属品を取り付ける間、彼女はじっと待っていた点。
「お前がグレイスーツに慣れるまでもっと時間が有りゃあ良かったんだがな……。」
集中して、口をすぼめながら彼は言った。
「お前はまだ知らないが、こいつを着るにはコツがあるんだ。」

(ここまで早く、私達が訓練から引きずり出されたのは、私の失敗じゃない)、と蜘蛛は考えた。牛蛙が彼女の装備の状態に最終的に満足がいくまで、彼女は待っていた。それはPDW(個人防衛火器)を拾い、彼女の肩にかけるまで続いた。彼女は訓練に時間をかけたが、軽量武器はまだ厄介でよく慣れていないように感じた。

仔猫とスカンク小僧はすでに自分の密着服を着け、ブリーフィング・ルームで彼らを待っていた。仔猫が未来的なカービン銃と拳銃を装備し、おどろおどろしい巨大なナイフを腰に掛けているのを、蜘蛛は注目して見ていた。スカンク小僧は複雑な見た目のスコープを装着したセミオートマティックライフルと、大口径の拳銃、そして牛蛙は分隊支援火器と巨大な箱弾倉を運んでいた。3人は武器に熟練していた。長年の経験の賜物であろう。

「カモ(迷彩)確認。」
牛蛙は言った。

4人はヘルメットの制御盤に触れると、体を覆うグレイの服と武器がぼやけ、曖昧になった。カメレオン繊維は本物の透明マントではない。出来る事の全ては、反応顔料を用いて可能な限り周囲環境と調和する事であって、名前の由来となった動物の皮膚と同様である。欠点と言えば、暗がりの中、遠目でしか本当の効果を出さないという事、そして着用者が動かないという事も条件であった。利点と言えば、透明マントを失ったときとは違い、カメレオン服の一部を失ったとしても、+2世代技術を維持するために50マイルも爆撃する必要がないという事であった。

「最終更新。」
4人のチームが最後の調整を始めると牛蛙はそう言った。
「監視は財団の収容班がこのエリアにいて、超脅威を捜索していると考えている。標準ドクトリンを適用せよ。接触を避け、捉えられないように、そして連中を撃とうとするな。これ以上の質問は?」

無し。

「よし、行くぞ。」


道は良い物ではなかった。荒れて、窪みが多く、無舗装で、曲がりくねり、でこぼこ。車両がまだまともなショックを持っていたなら、そこまで悪くはなかったはずだ。有った所で、道に転がる小さな岩にバンプを通る度に、車両の酷いサスペンションから、シートの薄いパッドを通して、蜘蛛の尻、もも、脊柱に衝撃が直接響くのだが。

ドライバーはスカンク小僧だった。無灯火で、ダッシュボードのライトはプラグが抜かれていた。星明かりだけの薄暗い山道を慎重に走らせる。視界はARバイザーで向上されていた。ヘッドピースから生えている広いレンズで、彼の姿は奇怪なカブトムシの様に見えた。不気味な淡い星明かりは何の助けにもならないのだ。彼は低く声を殺して悪態をつくと同時に車両は前後に揺れて、大きく鋭い岩が蜘蛛の尾骨にとりわけ不快な衝撃を伝えた。
「予想到着時刻(ETA)?」
スカンク小僧は仔猫に囁いた。

「2分。」
アマゾネスの女は囁き返した。
「前の空き地に車を乗り入れて。私達は残りの方角に歩いて行くから。」
仔猫は小型のSUVのショットガンにまたがっていた。その理由の一つとしては、彼女がこの任務のナビであったこと、もう一つの理由としては彼女の高身長では後部座席は窮屈だからということだった。

もう少しの踏んだり蹴ったりの後、終に車両は森の中の小さな空き地に着いた。そして大きなイチジク科の樹の下に停車した。
「これからは口枷に覆面だ、声も無し、顔も無しだ。」
牛蛙は言った。

蜘蛛はARバイザーを降ろし、しっかりと紐を結んだ。訓練のように、目を閉じて10秒を数える。目を開けると、暗く不鮮明な視界だったが、左のスライダーを回して焦点を合わせた。

OCULUS──眼──はPHYSICS部門の有する、4つの機能を持った視覚強化装備であり、赤外線暗視と紫外線暗視を組み合わせている、第四の機能VERITAS(VITAL ENERGY RADIATION IMAGING TACTICAL AWARENESS SYSTEM──生エネルギー発散視覚化戦術知覚システム──研究開発部のチンピラどもがカッコ良いラテンの頭文字にしようと思って名づけた)は+2世代超技術を基盤としている。真キルリアン造影術を応用したもので、生体エネルギー(EVEまたの名をElan Vital Energy──発躍生体エネルギー)を感知することが出来る。VERITASを通せば、彼女の仲間は燃え盛るオーラに包まれた黒いシルエットに見えた。スカンク小僧は混沌として精力的で、牛蛙は激しく一点集中で、仔猫は冷たく穏やかでさながら波のようであった。

蜘蛛は手を空に掲げた。彼女のオーラは眩く不規則に点滅する不安定なものだった。まるで指先から静電気のアーク放電をしているようだった。

彼女は暗視モードに戻すと、侵入服のフードをでバイザー丸ごと頭を覆い、襟のジッパーを閉じた。面を下げた彼ら評価班スパークプラグの四人は、ちゃちなSF映画に出てくる顔のないロボット以上の何者ではなかった。牛蛙は、スカンク小僧が車両に迷彩布を覆うのを助けるのに手間取った。そして彼らの方を向くと、迷彩を確認しろと指示する意味で、喉を二度突いた。

「スパークプラグ3、マイクチェック。」
音を立てる事無く背の高いアマゾネスは言った。

「スパークプラグ2、俺のマイクは良好良好、チェック1……」
スカンク小僧は軽口をたたく。

「スパークプラグ1、聞こえるか?」
牛蛙は言う。

「く……」
蜘蛛は言葉を飲むと、唾を降ろした。微かな雑音でも、この夜にはひどく大きく聞こえる。彼女は終に言った。
「スパークプラグ1、大きくハッキリ聞こえます。聞こえますか?」

「ああ、大きく、ハッキリとな。」
牛蛙は言った。
「スパークプラグ班、配置完了、本部聞こえるか、オーバー。」

「本部、明瞭に聞こえる。」
低い男の声がイヤホンから鳴る。
「スパークプラグ、聞け、監視は財団資産が当地に居ることを確認した。我々は一時間の先制の利を得たと見積もっている。即座に終わらせろ、それが最善だ。」

「了解。アウト。」
牛蛙は武器を上げ即座にボルトを引き抜いた、銃火器が彼の体全体に置かれた。
「出るぞ。3、先を取れ。俺はしんがりを務める。」

背の高き、匿名の覆面の影、仔猫であったものが牛蛙に短く頷く。そして忽ち山道から森に入り、残り3人のスパークプラグが後に続いた。


蜘蛛の股が火照り、足が痛んだ。鼻と口を覆うマスク越しで息をするのが苦しかった。汗と恐怖の臭いが、微かな化学反応を起こすカメレオン繊維と混ざりあい、マスクの下に充満して、彼女の鼻を突いた。まったく、からきし一時一瞬とて、蜘蛛がこの行進を愉快に思う事は無かった。

キャメルパックから水を啜るのには、手間取った。水はストローがフードの下に通っているため、拘束マスクを外す必要なく飲む事が出来る。水はフラットで、ぬるく、僅かにプラスチック臭がした。気にはならない、それほどまでに彼女は渇いていた。

財団に遭遇するまで、チームは順調に2時間歩いていた。仔猫がいち早く連中の音を聞き、手を挙げ首をその方向に傾けた。そして素早くジェスチャーで残りメンバーに伝達すると、茂みに飛び込んだ。仔猫は即座に林道を離れた場所に居る牛蛙の後を取り、高い樫の根元の陰に滑り込み、そこでうずくまるとスーツの迷彩が一致するまで待った。牛蛙は彼女の上に葉っぱや小枝をちらし、彼女の輪郭を曖昧にすると、自身も数フィート離れて隠れた。彼も迷彩を一致させた。彼の姿は次第に、少々いびつな一塊の岩にしか見えない様になった。

仔猫はすくむと顔を振った。最初の財団職員の人影を捉えたのだ。彼らはATVに乗っていた。四輪駆動の全地形車で、大きく唸り上げる単気筒のオートバイのエンジンを積んでいた。連中はヘッドライトを付けていさえした。4台の車には2人ずつ、戦闘ベストとデジカメを持った男が乗っていた。五台目は小さなカートで、運転席の後ろにはオレンジ色のユニフォームを着た男が座っていた。彼一人だけが非武装で、手はカートと鎖で繋がれていた。

先頭車両の運転手が宙に手を挙げると、その小さな一団は停止した。二台目の車両の運転手と集まり、地図を広げて何かを相談していた。その他のメンバーは手足をのばしてくつろいでいた。

五台目の車両(例の人員が居るカート)の搭乗者が咳払いをした。
「ヘイ、やっこさん、俺を下ろしてくんない?」
彼は尋ねた。
「俺はションベンしてえんだよ。」

「待て。」
運転手(看守?)が言う。
「もう近くだ。」

「あんた、俺は深刻だぜ。なんならカートでションベンしたろうか。」

「くそっ。分かったよ、手を見せる様にしておけ。」
運転手は素っ気なく言った。運転手が鎖を解いている間、別のガードは拳銃を引き抜くと照準を囚人に合わせていた。注意深いことに、その間中、運転手は一方の手で武器を押さえていた。そして、それこそ蜘蛛の恐怖だった。搭乗者は蜘蛛の隠れている樫の木までまっすぐ来て、パンツのジッパーを下ろしたのだ。

完璧に動かないでいようとしていたが、夜風にアンモニアの匂いが漂うと、彼女は静かにすくみ上がった。事実、彼は彼女にションベンした訳では無い(神の小さな御慈悲に感謝!)、しかし彼女はずっと、木の根元が変にくねったのに気付かれていやしないかと、鼓動がバスドラのように早まったのを聞かれては居やしないかと、ハラハラしていた。

オレンジの落下傘降下服男は用を済ませ、ご機嫌に口笛を吹き、身震いすると、ジッパーを上げた。財団エージェントが再編成したので、彼女はゆっくりと息を吐き出した。その一団が車で走り去るまで、彼女の呼吸は浅くなっていた。まもなく、彼女はリスクを冒して、頭を少し上げると空き地に他のメンバーが居ないか見渡した。

牛蛙が彼女の肩を叩いたとき、彼女はギャッとしそうになるのを、舌を噛む事で何とかこらえ、沈黙を守った。牛蛙は、彼女が落ち着くまで根気よく待つ。その後で仔猫とスカンク小僧がどの道を行ったかジェスチャーをした。
「本部、スパークプラグ。」
彼女は彼の無声発話を聞いた。
「財団職員と遭遇した、注意されたし。相手はATVに乗っている。オーバー。」

「承知、スパークプラグ。本部、アウト。」

「一時間の先制を得たってぇ、話はどうなってるんだやがるんだ。」
スカンク小僧は通信を通してぼやいた。

「連中がATVに乗っているなんて把握してなかった。」
牛蛙が言った。
「連中があんなバカをするなんて思ってなかったぞ。」

「ありゃぁ、大スクープもンだぜ。牛の旦那。」
スカンク小僧が指摘する。

「通信は控えめにな。」
牛蛙はそうとだけ答えた。


更に1時間ぶっ通しで行進して、評価班スパークプラグは終に、財団収容班に追いついた。もうその時には、何もかも終わっていた。

超脅威は地面に倒れ伏し、銀の糸で編まれた網の下でもがいていた。三人の財団エージェントが負傷していて、その内の二人は生きている気配がしなかった。オレンジの囚人は脇でうずくまり、顔は血飛沫に濡れ、恐怖にふるえていた。

蜘蛛は、超脅威に釘付けだった。それもそのはず、彼女は今までユニコーンを見たことがなかったからだ。その美しさは、まぁ、学校に持っていくようなフォルダの表に描かれている、ほのかに光っている馬ほどではないが、何と無く馬のようで、角を持っていた。しかし似ている点はそれまでだ。12歳の女の子は誰も、こんなざらついた鱗に、ぼろぼろの獅子のたてがみ、雄牛の尾を、私の「マジカル・ポニー」に夢見ないだろう。

「本部、スパークプラグ。」
牛蛙が囁くのを通信越しに聞く。
「超脅威と接触していた。財団に先を越された。助言求む、オーバー。」

「スパークプラグ、こちら本部。財団が生きた超脅威を捕獲することを看過できない。独自判断で行え。どうか了解してくれ、オーバー。」

「本部。スパークプラグ確認する、財団が生きた超脅威を確保することを看過されないだろう。アウト。」

蜘蛛の食道がえずくのを感じた。唯一の有りうる選択肢とは。シー1──妖精族─は、彼らの神聖なる獣が人の捕虜となることを決して許さない。人とフェア・フォーク2との千ヵ年条約では、復讐権が認められている、破ったもの全てに適応されるものだ。彼女の知っている財団なら、どんな独特な超脅威の見本も手放すことはない。決して。

想像力を色鮮やかに描き立てる、血塗れの森のイメージが魔法のドアから展開される。何百のしなやかな骨のような者共が鹿角の冠を戴いて、突き進む虎と男鹿の背にまたがって、純粋の星明りで作られた剣を振りかざす。古の平和条約、人と並行宇宙で人に対応するものとの条約は破られる。全面次元間戦争。ワイルド・ハント3を打ち負かそうとも、GOC第二任務、人類から超脅威の実在を隠蔽しながら、妖精王国との全面戦争から生存することは出来ないだろう……

「提案、いいか?」
牛蛙が問うので、彼女の思考の脈絡は遮られた。

「準備に一分よこしな。俺ならユニコーンのドタマに二発食らわせられる。ヤツラに生かしてくれてやるよりマシだろうよう。」
スカンク小僧がそっけなく言う。

「生きてるなら、そのままが良い。」
仔猫が指摘する。
「まだ七人立っている。一人あたり二人、ルーキーは一人と囚人、ターゲットは余裕があるまでそのまま。」

「ヤツラを殺ると、ションベン掛けたみたいに財団はカンカンになるぜ。」
スカンク小僧は指摘する。
「マジでそんなヤベェことしてぇか?」

「ソッチのほうが、連中がウィンター・コート4全部をカンカンにさせるよりいい。」
仔猫が切り返す。

「俺ァ言ってんのはな、俺らがユニコーンを撃ったら、連中が得るのはヘンなカッコウの死体だって話さ。」
スカンク小僧が言い返す。
「俺達ァな……」

「分かった。所で蜘蛛、」
牛蛙が中断させる。
「お前の番だ。」

畜生。
「一待って、」
蜘蛛は無声通信する。彼女の頭が回転した。頭がグルグルする。とても手に負えない。最初の任務で、森の中央で足止めされている。ありうる超常戦争に直面して、最も強大な妖精王国か、この世で最強の超常組織の人員のどちらをカンカンにさせるかの選択に迫られて動けない。彼女の心は、この夜に解き放たれかねなかった恐怖に動揺していた。挙句の果てに、おかしなピッチリとしたキャットスーツを着けて、何とか使い方が分かる程度の銃を運び、漠然とおしっこの匂いが……

……漠然とおしっこの匂いがする……

彼女は慎重に隠れているところから数歩下がり、財団エージェントの方から顔を背けた。非常にゆっくりと面のジッパーを下ろし、頭を覆う装備を引き抜いた。新鮮な空気を吸うことに少し時間を取り、そして顔までフードを上げると、実験的に鼻すすりをした。

うん。確かに、繊維から微か極まり無いが尿の臭いがする。囚人のションベンが少しマスクに跳ねたに違いない、隠れて横になっている時だろう。

「蜘蛛?」
牛蛙の声は、ぶっきらぼうで、イライラしているように聞こえた。

初めて、この恐ろしい、ムカつく、ヘトヘトの任務で、蜘蛛は笑みを見せた。

「第三の手があると思います。」
彼女はいう。


半時間かかり、策戦を実行するに適した点を見つけた。スカンク小僧の報告では、一方の財団は傷ついた同士をかばい、ユニコーンをカートに乗せて運ぶのに手間取っているという。

牛蛙がカモフラージュクロスを彼女の頭から胸までかぶせ、蜘蛛は高耐久タブレットコンピュータを引き抜き、魔導書を取り出した。スクリーンは読めるギリギリの暗さで、ゴーグル無しでは読むこともままならない。望みの呪文を取り上げ、スクリーンをダブルタップする。複雑怪奇なフラクタル模様が、見るものすべての目を焼きつくさんがばかりに眩く輝き現れる。

ションベンの染みたフードをとって、パターンの中央に置き、黒い柄のアサメ──儀礼剣──をパンツポケットから引くと、その切っ先で左の親指を刺した。一滴の血が肌から湧き、布の上に落ちると、フラクタル画像が一瞬燃え上がった。

黒い柄のナイフをフードの上に置き、目を閉じて、手を伸ばした。

今、彼女には、応用魔術の教授の声が聴こえるようだ。
「伝染の法は、魔法において最も掟が多いものの一つである。さらに、最も古き実用的なものであって、センターが未だ教えとるのじゃ。原理は単純。Once Together, Always Together──いちど一緒、いつでも一緒にじゃ。部分は全体に影響を及ぼす、互いに接触していた二者は、魔法的繋がりを互いに維持する。これこそ、目論見のエジキのヴードゥー人形を作ろうとするとき、髪と爪がいる理由なんじゃな。聖人、殉教者の遺物が何故尊ばれ大切にされるのかという理由でもある。そいで、何故GOCの男子工作員諸君にアレの適切な処分が声高に叫ばれるのかという理由でもある……一義を終えた後のコンドームをよ……」

数滴の乾燥しきった尿は、蜘蛛が使ってきたものの中で最上の繋がりであるとは言えない、むしろ悪い。

D-75213は悪い男ではなかった。確かに人を殺したさ、それでも野郎が、彼の弟にやったことのツケが回ってきたまでのこと。彼は黒服と取引をした。一つの単純な理由のために。一ヶ月のほうが十五ヶ月よりマシだ、人生なら、とにかくどう見ても。服役が早くなればなるほど(檻の奥で費やすにしろ、おとぎ話から飛び出てきたバケモノの餌にされるにしろ)、家に早く帰ってママの世話ができる。全くからきし彼は、蜘蛛が彼に何しようとしているのか納得することは出来なかろう。しかし彼はマザーファッカーなユニコーンに殺されかけた、そして頭が正しい位置にはなく……

D-75213は意識的に、ユニコーンを網の上から穿つ、7つの銀の杭の一つに手を伸ばし、引きぬいたのではない。それでも、ユニコーンはすぐに気がついた。網を破り、杭が残るも、自由に突進した。D-75213を殺すつもりはなかったが、彼は行く先にいた……

真珠のごとく輝く角は、困惑の中の囚われ人を二つに裂き、暗闇へ駆け去るのであった。


「畜生め!」
バケモノが森の中に駈けた時、ロンバルディは叫んだ。数メートル追うが、すぐに諦めた。低い声で悪態をつくと、怒りで頭を震わせた。
「やめだ、荷造りしな、みんな。この任務はガサ入れにすぎん。」

「俺たちはまだやれるぜ、マックス!」
ヴァンスが叫ぶ。

マックス・ロンバルディは子分を振り回すと、若い男の襟首を掴みあげた。
「お前は、ユニコーンを処女と餌なしで追うというのか。好きにしやがれ!そんなら、俺はお前の葬式の花を荷造ってやる。俺は荷造りして、今夜は終いだ。三人くたばって、ウサギちゃんも無くなっちまった。俺たちにゃ、もう捜査は無理だ。」

「一体全体どうしてこうなったんだ?」
ベケットは尋ねた。
「奴は何で杭を引き抜いた?どうなるかわかんなかったってぇのか、ええ?」

「アイツ?知るか。知るかボケ。俺らの任務は中断に終わったんだ、それだけよ。奴をこう言ってやれ。神アホボケカス、クソ穀潰しの……5。」

ヴァンスは頭を振ったが、もう口答えしなかった。
日が昇る。七人の財団収容班は、三人の同僚(と一人のDクラス職員)の残骸を纏めて、家に帰る用意をした。


彼らは、ユニコーンがきのこの傘の横の短い草を食べているのを見つけた。変な見てくれで、グロテスクな生物が、サメのような歯で草を食んでいた。

ユニコーンは頭をふっと上げると、評価班スパークプラグを凝視し、空き地の角で立ち止まった。四人はその場で氷漬けになり、黙って致命的なその生物を見つめた。

ユニコーンは鼻を鳴らし、おもむろに蜘蛛の方に向かうと、頭を彼女にもたげ、鼻を彼女の開かれた手に擦りつけた。

びくびくと蜘蛛は息を飲んだ。それは鼻をこすりつけ、顔を合わせる。銅色の、ケトン混じりの口臭が、彼女の全身に死の瘴気のような気配を漂わせた。

そして日が昇る。瞬きの間に消える。同時に、渦巻く蛍の光を残して。

「お前処女だったのか。」
牛蛙が穏やかに言う。

「私のアイデンティティの再割当てっすか?はい。そうです。」
蜘蛛は囁いた。

ユニコーンがくすぐった頬を撫でる。小さなガラスのような鱗が取れる。鱗は忽ちに消え失せ、粉となった。それが在ったという痕跡は何も残さなかった。

「よっしゃ。」
牛蛙は言うと、喉を払った。
「長い散歩に戻るとしよう。始めるか。」


D.C. アルフィーネは任務報告書を閉じ、デスクに投げ、整然と積み上げられたプリント、読み出し情報、報告書の上に重ねた。

「全てのことを考慮すると、……」
彼女は誰に言うわけでもなく、
「評価班スパークプラグは、誰の予想以上によくやってくれました。」

「お告げに絶対嘘はありませんわ。」
代弁者が答える。彼女の姿がアルフィーネのコンピュータのスクリーンと癒合する。
「硅の女神はこの結果を予想なさっていました。」

「斯様は魔王陛下とて同じ。」
マーカス・クロウリーが耳の中に囁く。言葉に硫黄の匂いと、阿鼻叫喚の低声を伴う。
「貴女は、彼らの能力を見誤りましたな。」

「それでしたら、どうして貴方方は、それほど絶望しているように言うのですか?」
アルフィーネは問う。

「我々は決して──。」

事務次長はもう一つのフォルダを開き、机に上げた。
「硅のノルニルよる予兆の全報告」
アルフィーネは言う。
「何処で得たのかということはお答えできませんが、何が書かれているか言うつもりもありません。ノルニルは任務成功確率を95%と予想しました。そして50%の確率で、財団との緊張関係が増大すると。興味深いことに、ほかのチームでも同様の可能性を示しながら、それらの方が財団を怒らせる可能性が低いのですね。」

「そして貴方方……魔王の科学者はいつも、連合がアーサー王憲章を擁護することに反対なさっていた、そうですよね?」
アルフィーネは続ける。
「スパークプラグが財団を怒らせてしまったとしたら、もっとも起こりうるシナリオは妖精との緊張関係悪化です。そして、突如、偶然に二つの機関が、今まで協力し合ったこともないのに、会議の大多数票を作り上げた。スパークプラグを現場に戻せとです。興味深いことでしょう。」

「貴女は何を言わんするのか、こちらは露いささかも──。」

「何も意味しておりません。率直に言いましょう。PHYSICS部門を貴方方の個人的なアジェンダを進めるために使わないで下さい。」
アルフィーネはそっけなく言う。
「もし、貴方方のいずれかが、またそのような気配を見せるならば……。」

手を上げボタンを押す。突如、マーカス・クロウリーと代弁者が怖じ気づく。排撃班がそれぞれの場所に現れたのだ。透明マントを非アクティブにし、肩にライフルを揚げる。

「……私は貴方方が何で、どこにいるのか知っている。」
彼女は結論付ける。
「次、貴方方がこの面々を見るなら、それが最期に見るものになるでしょうね。」

「まさか──。」

「絶対に出来無い事でしょうか。第一、第二任務優先事項。『人類種の生存を守る』、『超常世界を隠蔽する』。これのために、二名の個人の命を切り札として切ることは出来ましょう。機会は延期されました。」

キーボードを再び押す。排撃班はライフルを収め、再び透明マントを入れると、後ろの闇に消えた。

D.C.アルフィーネが硅のノルニルと悪魔(と科学者の)教会がコンピュータスクリーンから消え失せる間際に見たものは、彼らの怒りと驚愕の顔だった。彼らはすぐにこれを許さない。

だが、彼女も同じ。


「これより、全任務最重要フェーズを開始する。」
牛蛙はいうと、ジョッキを上げる。
「任務終わりのチームとのビール。任務成功、誰も怪我無く死にもしなかったぞ!」

「そンで、ションベンマスクがこの日を守った。」
スカンク小僧が付け足す。

「乾杯。」

四人のチームメンバーはグラスを鳴らして、泡立つ飲み物を一気に飲んだ。ラッキー・キリガン・ハウス・ドラフト(Lucky Killigan's house draft)。バーはどこに地図にも、住所氏名録にも載っていない。専門的に言えば、違法営業の密造酒屋だ。オーナー、バーテンダー、客の全てがGOC工作員で、地元自治体は当然、取り締まっていない。

蜘蛛は、ビールをもういっぱい長く口に流し込んだ。冷たく、苦い飲み物を味わって、グラスを置くと喉を払った。
「空気悪くしたく無いんすけど……」
彼女はもがもがと言った。
「何だろうと思ってたことがあるんです。」

「行け、蜘蛛!」
牛蛙はそう言って、ビールをもう一杯注ぐ。

「ビーグル(Beagle)は、どうして亡くなられたんですか?」
クモは尋ねた。

三人はその場で凍り付いた。
「アンタ、知らねぇのか?」
スカンク小僧が尋ねる。

「ファイルには、『戦死』としか。それ以上は何も……」

「彼はドラゴンに食べられた。」
仔猫は言った。

「専門用語だ、異次元由来の非自生の生命体……」
スカンク小僧は説明した。

「300フィートあった。鱗があって、空飛んで、火を吹いた。」

「技術的には火を噴くって訳じゃねぇ。コロイド状黄リンと、水酸化……」

「ドラゴン。」
仔猫は強く言う。

「すげぇドラゴンだった。」
スカンク小僧は言う。
「どうにせよ、奴はアイツを食った。」

「生きたたまま焼いて、ポップコーン・チキンのように食べた。」
仔猫は同意する。

「最後の言葉は何だったか知ってるか。『続けろ、みんな。俺はコイツを抑えた。』だとよ。大バカ野郎め。」

「エージェント・ビーグルへ。」
グラスを再び上げて牛蛙は言う。
「俺が今まであった中で、最も勇敢な、最も輝かしい、最も大バカ野郎に。」

「乾杯。」

再びグラスを合わせて、呑んだ。

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