おやすみ、財団
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暗闇の中の最後の灯りが消える。カーテンが夜の闇を覆い、ため息は静寂に還る。

次の日に太陽はいつものように昇り、時計は一定のリズムを刻み、人々は変わらず仕事をする。

しかしアルテール博士はほんの少しの違和感を感じていた。昼夜を分かたず仕事をしてきた中で、彼はいつも一番に明日を迎えていた。けどそんな辛い生活をする必要がなくなったとき、彼は紺色のヴェールがかかったかのような静寂の夜を恐れるようになり、夜横たわったときの呼吸音や心音がキーボードのタイピング音に取って代わるのが彼にどれだけの不安を与えるのかを知った。

全ての異常性が正常化した後、彼は博士の身分を捨て、身の丈に合わない白衣を脱ぎ去り、どれだけ付けていたかもわからない白黒の図案が描かれたカードを外した。彼はもう一般人で、二週間後には大学で授業をするのだ。

彼はその前、一般人の生活に戻りたいとの考えを持っていた、それも強烈な。しかしそれが叶った暁には、元の生活を捨てきれずに退いていた、戻れるわけもないのに。

今日は特別な日だった。彼は特別な場所ーー家から五キロ以上かかる精神病院で、特別な人のお見舞いに行くのだった。彼が気に留めていたと言えるような人の。

一時間後、彼はもうその人の病室の前に立っていた。中に入ると、背後で扉が閉まった。

部屋の様子はサイトの時のとなんら変わらなかった。あの本、あのチェスプレート、あの小さなテーブル、全てが同じようにあった。ただ場所が変わっただけ。アドラー。1それがその人の名だった。かつてはSCP-CN-325と呼ばれていたが、もうそうする必要はない。

アルテールが入ってきたのを見て、アドラーはかつて見せたことがないような笑顔を露わにした。そして、アルテールに座ってもらうと、チェスのコマを並べ始める。かつてのように。

アルテールは一歩を踏み出し、頭を上げてアドラーの目を覗き込む。彼の瞳にはわくわくしているような光が煌めいていた。

「最近の調子はどうだい?」

「いい感じだよ。お医者さんがもう退院してもいいって言ってた。でも少し躊躇ってる。どんな仕事をするかとかで。」

「お、なにをしたいんだ?」

アドラーは次のコマを進め、そして少し前に寄ってから、指を絡みあわせ、少し迷いを見せてから言いだした。

「えっと…僕としてはまず心理カウンセラーの資格を取って、それから仕事をしようと思ってる。」

「そうか…」

アルテールは慎重に自分の『ナイト』を前に一マス進め、軽く頷いた。

部屋を離れる前に、アルテールは自分の上着を腕に抱え、アドラーは両手を後ろで交差させながらそばに立っていた。

「ありがとう、アルテール博士。」

あのときと同じようなセリフだったけれど、今回のそれは真心と友情で満ちていた。それを聞いた彼は少し恍惚とし、振り返ってアドラーを抱きしめて、少し見つめてから離れていった。

精神病院を出ると、彼は車で休日に行きつけのカフェへ向かい、いつものようにカプチーノを一つ頼み、比較的静かで近くに人のいない席に座った。持ってきたファイルから一枚の紙を取り出して、カプチーノの表面のサラサラしたクリームを満足そうに飲んでから丁寧に読み始めた。

アイテム番号: SCP-CN-325
オブジェクトクラス: Euclid
…‥
説明: SCP-CN-325は身長18█cmの2█歳のアジア人の男性です。…』

アルテールは苦笑いを浮かべた。彼は文書を半分に折って、また折って、そして折り目に沿って破った。その後、カフェを離れるときにゴミ箱に捨てた。

(もうこれはいらない。彼はもう束縛されることはない。きっと一番の心のお医者さんになるよ。一番の。)

アルテールはそう思いながらも、目からは涙が溢れていた。


あの尊敬できる人々は、始まりの地へ戻った。
あの異常たちは、静かにいるべき場所にいる。
鳥が夜に飛ぶ必要がなくなったとき
やっと夜の模様を見ることができる
Good Night Foundation,Good Night
I can only hope you will remember all the simple things.

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