ロケット・埴輪号
評価: +118+x

10体並んだ土人形の傍へ11体目の埴輪が転がり込んだ瞬間、不思議な現象が起った。埴輪達は互いの身体を融合させて、1つの巨大な飛行物へ変形し、飛行物はそのまま大きなエンジン音を響かせ、大空へ上昇した。
 
丁度稲作の世話をしていた弥生人はポカンと大きく口を開いて、発射していく円筒型のソレを見上げる。呆然とした人間たちにお構いなく「ロケット・埴輪号」はグングン大空を突き進んだ。高度100m、500m、1000m、2000m、3000m……大気圏を突き抜けて、埴輪号は宇宙へ進出したのである。
 
埴輪号の宇宙冒険は、そう容易いものではなかった。隕石の衝突、太陽フレアの接触、宇宙人の乗った円盤からのレーザー攻撃でそのボディはボロボロであった。ロケットの先端部分の埴輪は奇跡的に形状を保っていたが、最早限界だった。
 
飛行が不可能となる前に埴輪号が、安全を求め着陸を決めた場所は、かつて飛び出した地球であった。埴輪号は様々な宇宙空間の冒険をしている内に機体のコントロールは不可能になっていたが奇跡的に埴輪号は細長い島にほとんど墜落する形で着陸した。着地の衝撃で先端の埴輪は砕け散ってしまった。
 
埴輪号が降り立った場所は人気のない山中である。埴輪号は墜落後、破損した機体を出来る限り修復した。場所が山中であった為、不自然に目立つ土色のボディをカモフラージュし、周りの植物の色を装った。真似たのは色だけではない、見た目もそっくりそのまま擬態したのである。
 
自身が降り立った場所が生まれ故郷だと知らない埴輪号の操縦者は、知的生命体に助けを求め、遭難信号を送った。半径10m程度しか届かない脆弱な光であったが、これしか方法がなかったのだ。
 
遭難信号を送ってどれぐらい時が過ぎたのだろう。一日や二日ではない。最早助けなど来ないのではないかと諦め出した頃、一人の老人が山中を訪れた。藪を押し進み、山中を練り歩く。その途中、老人は発光する埴輪号を見つけた。老人は首を傾げながら柄を強く握り、光り輝く埴輪号を一刀両断にした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
後の竹取物語である。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。