彼らの罪、我々の罰
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我々は失敗した。

最初は一人の研究員の軽い考えから始まった。
危険なアイテムを彼らに使用させる。そのこと自体はいつも行われてきたことだった。
日常的な研究業務の繰り返し、単調ではあったが常にその危険性は認識していた、認識していたはずだった。
ただ、その日は唐突にやってきた、彼は偶然なのか意図的なのか、効果的にそのアイテムを使用してしまった。
浅はかな実験。些細なミス。軽率な行動。代償は大きすぎた。
我々が収容し、確保し、保護していた致命的なアイテム、その影響は解き放たれてしまった。
しかも、あろうことか我々自身がその標的となってしまった。
即座に最悪のミスを帳消しにするための最善の努力が我々の総力を挙げて続けられてきた、しかしその全ては徒労に終わった。
その結果、我々の組織は存在自体が失われつつある。
遠くない未来、我々は彼らに取って変わられるであろう。

我々は失敗したのだ。残念ながらそれを認めなければならない。
我々は我々自身を責めなければならない、彼を、彼らを責めてはならない。
彼らに扱えるとは思わなかった、など言い訳にもならない。
自業自得と言うには我らの罪は軽過ぎるかもしれないが、それでも罪は罰を持って裁かれねばならない。

我々は彼らに謝らなけばならない。
我々が彼らを含めた世界全体に対して保護し続けてきた様々な悪意を、彼らは彼らの世界を守るために確保し、収容し、保護し続けなければならない。
彼らは我々から全てを奪ったのだ、あらゆる知識や繁栄と、そして世界を守る責務も一緒に。
我々という種族が知性を失う前にその責務を全うできるようにお膳立てをする必要がある。

我々に最後に残った仕事は、下等なサルと蔑んできた次の支配者が知性を獲得するまでの間、悪夢のような悪意をせめて寝かしつけておくことだ。
彼らが知性を持つ日がいつになるかは分からない。少なくとも数千年、数万年かかるだろう。そんな日は永遠に来ないかもしれない。
我々最後の悪あがきは、刹那的な自己満足に終わるかもしれない。
でもせめて、我々が滅びず、知性を取り戻す可能性だけは捨てたくない、捨てるべきではない。

全てがうまくいき、彼らが世界を運営できた日が来るときに備えて、我々は肝に銘じる必要がある。
我々は彼らを許さなければならない。
その時、彼らは自分の罪を覚えてなどいないだろう、我々も彼らの罪を覚えていられるはずもない。
だからこそ、我々はすべてを許さなければならない。

許さなければならない、赦さなければならない、ゆるさなければならない1
いつか、やりなおすそのひまで。

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