半収容
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 "半収容"、なんていう非公式の言葉がある。

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 財団は「人知を超えた異常な存在」を片っ端から確保、収容、保護する団体だ。それは間違いない。
 しかし、その異常な存在を全て確保することなんてサイトがいくらあっても不可能だし、それら全てを24時間365日、終始監視しつづけるなんてことも無理である。
 もちろん、「そうしなければ世界が終わる」という存在に対してであれば、惜しみなくそういった厳戒態勢を敷くが……そこまでしなくてもいい異常存在というものもたくさんいる。

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 公式レポートにはあげられず、簡易的な書類と定期的な検査で済ませられる異常存在。
 それらを我々は、"半収容"と呼ぶのだ。

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 「おじゃましまー」
 「「おねーちゃーん!!!」」
 「にゃー!!?」

 がばぁん、どさっ。

 エージェント・猫宮が門を開けた瞬間、彼女は横の茂みと木の上から飛んできた何かに覆いかぶさられた。
 その何かとは、大きな猫耳を頭から生やした2人の少女。腰の後ろからは二股に分かれた尾を生やしている。

 「ねえ、きづかなかったでしょ!? すごくない、私たちの隠れ方!」
 「ほめてほめてー!!」
 「す、すごいからどいてー……」

 猫宮にのしかかったまま、きゃっきゃと無邪気に笑う二人に、猫宮はへろへろと返事するのが精いっぱいだった。

 「コラァー!! 猫宮さんに何してんのあんたたち!」
 
 と、そこへ猫宮に救いの手。声がした方向を見れば、不動明王……ではないが、そうとも見間違えるような、憤怒の形相の女性が仁王立ち。

 「げー!! おにばばだ!」
 「おにばばー!」
 「誰が鬼じゃ!! いいから猫宮さんから早く降りなさい!」

 女性が一喝すると、慌てて少女たちは猫宮から離れる。やっとこさマウントポジションから開放された猫宮が立ちあがると、女性はぺこぺこと頭を下げ始めた。

 「申し訳ありません、ほんともう、うちの子たちがいつも……」
 「い、いえいえ、いいんですよー。元気なのはいいことですから」

 たはは、と猫宮は苦笑いした。

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 半収容にあたる存在は、いくつかの特徴がある。
 ひとつは、「財団や人類に対して敵対的でないこと」だ。

 もちろん、ただ「敵対的でない」というだけでは終わらない。
 人の社会に十分溶け込んでいて、それでいて何十年も大きな問題を起こしていないような存在である。

 猫宮が訪れたこの家は、何百年もの昔から日本に存在する妖怪のひとつ。
 猫又の家だった。

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 「ええっと、来年から娘さん方は小学校に入られるんですよね? やっぱり、里の方に?」
 「ええ、早いうちから人の間で慣れた方がいいと思いますから」

 なるほどなるほど、と猫宮はメモを取っていく。
 家に通された猫宮は、応接間で簡単な質疑応答を行っていた。もう何度も彼女はこの家に訪れており、これからの方針なども大体は頭に入っているのだが。

 「それじゃあ、耳や尻尾の方も?」
 「かくせるようになったよー!」
 「できるもんねー!」

 傍でおとなしく聞いていた二人の姉妹も、えへんと胸を張る。そして何事かむにゃむにゃと唱えると……
 ひょん、と音を立てて尻尾と猫耳が彼女たちから消えた。

 ……姉の方は猫耳が、妹の方は尻尾が残っていたが。

 「……う、うん、よく頑張ったね? もうちょっとだよ!」

 ちょっと涙目の姉妹の頭を、猫宮は撫でた。なでり、なでりと。
 まぁ、春には間に合うだろう。

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 半収容に当たる存在は、人型オブジェクトが非常に多い。
 会話能力があり、友好的かどうかが判断しやすいこともあるが、大きな理由の一つとして、「オブジェクトたち自身が、可能な限り"自己収容"の努力」を成そうとする点である。

 山奥でひっそりで暮らすような生活を続ければ、他者に発見された時に大きな騒動となりやすい。
 ならば最初から人の間で生きることをごく自然な状態にすれば、そういったリスクは小さくなるものだ。

 猫又たちが猫の姿を基本にするのではなく、人の姿を取る暮らし方を選んだのは、明治の頃だという。
 
 百年以上もその生き方を続けられたのであれば、これからもできるだろう。

 財団はそう判断している。

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 さて、そんなこんなで質疑応答は完了した。

 「おつかれさまでした、今回も問題ないと思います」
 「ありがとうございます。いつも足を運んで頂いてしまって……」
 「いえいえ、外回りも仕事ですから」

 「おねーちゃんもうかえっちゃうのー」
 「いっしょにごはんたべよーよー」
 「ごめんごめん、今日はまだお仕事あるから今度ね?」

 そんなたわいもない会話を続け、猫宮と猫又一家は玄関へと歩き続ける。
 ……そして猫宮は、ひとつの部屋で立ち止まる。

 部屋の中には、仏壇が一つ。

 「お邪魔しました」

 ぺこり、と。猫宮は仏壇に一礼した。

 仏壇の主は、姉妹の父であり、女性の夫である。
 猫宮がこの家族の担当になる前には、既に亡くなった者だ。
 猫又の家族たちもまた、その仏壇に手を合わせた。

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 半収容が「SCP」オブジェクトたりえない最大の理由。
 それは「死亡した後、完全に無力化されることがわかっている」という点である。

 多くのSCPオブジェクトは破壊された後や死亡後に何が起こるかは分からない。故に破壊できないものも多いし、そもそも破壊が不可能なものも少なくない。
 死亡することで、あるいは破壊されたことによって、より凶悪な存在にもなりかねない。それが財団がSCPオブジェクトを「確保、収容、保護」している理由の一つである。

 だが、死んだ後に無力化されることが分かっているなら、何のことは無い。
 もし「半収容」が問題を起こしたのなら、その1体を「終了」させればいいだけのことである。
 多くの「半収容」は、個体維持に十分な数を有しているのだ。1体や2体終了したところで、"収容"には何の問題も無い。

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 さて、と。
 猫又一家の家を離れた猫宮は、ぐいんと伸びをして、次の行き先を調べた。

 「……次は吸血鬼さんのとこかぁ」

 覚えず、猫宮は呟いた。
 日本には、外国から来る妖怪も多い。八百万の神の信仰があるこの国は、多様な妖怪にとって住みやすいらしい。
 この吸血鬼もその一人だそうだ。

 猫宮は吸血鬼の家に行くのは初めてだが、話は聞いていた。
 現在の吸血は輸血パックで済ませているらしい。しかも西洋の存在のくせして、すっかり日本かぶれになっているとも……。

 「ま、会ってみなきゃ分からないよね」

 そう、猫宮は意気込んで。
 彼女はゆっくりと歩き出した。

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 しかし、育良くんは大丈夫だろうか。
 ふと、猫宮はそんなことを思った。

 確か担当の急病だということで、彼は代理で鬼が島に向かっているはずだけれど。

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