クレフ博士は、如何にして、クリスマスを守りぬいたのか?
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会議室の中に、サイト-19のシニアスタッフがひしめき合い、12月中旬の凍える空気からお互いを暖め合っていた。コートや帽子は、壁に吊り下げられていたり椅子の背もたれに掛けられていた。氷と雪が、タイルの床の上の水溜りに滴り落ちていく中、持ち主たちは取り留めもない会話をしたり、発泡スチロール製のカップに強いブラックコーヒーを淹れて飲んでいたりしていた。
誰も緊急会議が招集された理由を知らなかったし、何故通知が手短で簡潔であったのか、何があって休みの正に中頃の日曜日の早朝に呼ばれたのか分かっていなかった。
そして、そのくぐもった談話はサイト・ディレクターのアイヴスが部屋に入ってきたのと同時に止んだ。彼は書類の束とスライドのリールを運んでいて、正面の演台に向かっている所だった。
ディレクターのスーツにはシワが寄り、ネクタイは外れ、剥げかかった男の額の上には汗のビーズが滲んでいた(しかし、暖房はまだ効いていなかった)。彼は書類をパラパラとめくり、集まりに対して説明を始めた。

「グッドモーニング、皆さん。」
アイヴスが言った。
「このような手短な通知でお集まりいただきありがとう。時間が早過ぎるなんてことや、たいていの皆さんが休日中であったことは承知していますが、しかし、議論すべきことはかなり多く、また果たされるべき仕事も多い。私は今しがたO5評議会との電話会議を終えたところです、だが、若干の悪い知らせをお伝えしなきゃならないようで申し訳ない。」

アイヴスは話すのを止め、再びメモをパラパラとめくり、話を続けた。
「0532、グリニッジ標準時時点において、北磁極近くのエリア36からの緊急遭難信号を受けとりました。保安人員によると彼我不明機がSCP-4040のメイン施設周囲の除外領域に侵入したとのこと。敵対的攻撃が差し迫っているものであるとの見解を示しました。」
アイヴスは話を中断した。
「その3分後、我々とサイト36との全通信が途絶。直接SCP-4040の封じ込め解除を試みましたが、反応は得られず。」

「当時を以って、高度警戒態勢に移行。機動部隊アルファ-7をモントリオールから派遣。当機動部隊はおよそ0930に現場到着しました。」
アイヴスはスライドのリールを、正面の机のプロジェクターにセットし、壁のスクリーンを引き下げた。
「エーデルスタイン君、明かりを暗くしてくれるかな?」

エーデルスタイン博士は正面のドアのスイッチを弾き、部屋を暗がりに変えると、アイヴスはスライドプロジェクターを入れた。
「MTF A-7が到着した時、彼らが見つけたのがこれです。」
アイヴスがボタンを押すと、スクリーン上にスライドがポップアップした。
スライドは一軒家を表示していた。極地ツンドラでぽつねんと佇んでいる──とにかく、家の残骸が。窓は打ち破られ、ドアは蹴り破られ、内部は冷たい北極風と永久の冬の薄暮に晒されていた。巨大なキャンディー棒が住居の前に起立し、2本のキャンディーが住居を突き破っていた。住居の元の色が何色であったにしろ、奇っ怪な軟泥の類に覆われて、それは、暗い色をしていたり、赤色をしていたり、屋根から滴って深紅のつららを形成し、日除けから何本の吊り下がっていた。

「中はそれほど良くはない。」
アイヴスは次のスライドに変えた。スライドは小さな家のパーラーだった──家具はひっくり返され、破られ、キャビネットは床に無造作に散らし空になっていた。その全てが、例の濃い赤色の膿漿に塗れていた。
「アネックスも同様でした──死体を除いて。」
次のスライドには小さなヒューマノイドが映っていた。ほんの4フィート高しかなく、床に死に絶えていた。その肌は悍ましく爛壊、互いが融着し、まるで燃やされたかのようで、溶けた肉がその緑の一式にこびりついたいた。また、赤に浸されていた。
「16体のSCP-4040-3がアネックスで死んでいました。184体は行方不明。我々で所在を突き止めることが出来た生存者はなし。現場のセキュリティチームも全員KIA。」

「SCP-4040-1とは、一体?」
ジョンソン博士は尋ねた。

「今現在、機動部隊A-7はSCP-4040-1、またはその残骸を発見できていません。」
アイヴスは言いながら、スライドをいくつか切り替えた。どのスライドも、似たり寄ったりの北極の作業場が荒廃した場面だった。

「そして、ト……」

「全9体のSCP-4040-2も同様に不明、すまない。」
アイヴスはエーデルスタインに明かりをつけるように合図をして、プロジェクターを閉じた。
「エリア36は完全に損失、そしてほぼすべてのSCP-4040は死亡したか、敵対的勢力の手中にあります。お分かりの通り、今年のイベント1225-極点の予定まで、後5日しかない。施設への損害を考慮して、たとえSCP-4040構成要素の生き残りを回収したとしても、残念ですが……」
アイヴスは文の途中で言うのをやめて、研究者たちを見渡した。

「遺憾です。」
気を取り直したアイヴスは続けた。
「私はこれまでクソみたいな記録を多く日々に刻んできましたが、まさか、こんなこと言わなきゃならない日が来るとは思っていませんでした、しかし、仕方なさそうです。つまり、我々はクリスマスを中止しなければならない。」

部屋に、苦悩満ちた激しい抗議の声がどよめいていた。
「クリスマス中止?」
「プレゼントなし?」
「子供に何て言えばいい?」

「どうか、皆さん。落ち着いて。」
アイヴスがそう言うと、集団は静まった。
「集められうる限りの証拠を、出来る限り速く照合していますが、今この時必要問していることは、情報管理です。O5評議会もそれを感じていますし、我々に最小限の先行時間があると仮定して、プロシージャ1843-スクルージ-ヘイマーケット-4 ── ちなみにこれは、『エルフ連合ストライキ』ストーリーです ── プロシージャが、メディア向けに適したカバーストーリーです。私たちには、この事実を隠蔽して、一般市民世界にサンタの不在を心配させないようにすることことが出来るはずです。我々が代替の玩具の配達を稼働可能にすることが出来るまで。」

ジョーンズは手を上げた。
「容疑者のアテは既にあるのか?」

「我々が知っていることの全ては、GOC、又はアカ──共産主義者──による違反ではないことが確かめられたということだけです。」
アイヴスは言った。
「この事態が始まってから、継続してジュネーブやモスクワと接触してきましたが、彼らだって我々と同じくらい暗中模索常態です。同様に、CIによる犯行にも思えない。サインがそこにはありませんでした。空薬莢一つすらも無い──この場所を打ちのめしたのが誰やの者にしろ、一撃もなく成し遂げたのです。」

ミシェル博士が、続けざまに率直に言った。
「写真のあちこちにある、その泥は何?それって、……エルフの血って、訳ないでしょう?」

「いいえ、神に感謝ですね。」
アイヴスは応えた。
「あれは、全くもって奇妙極まるものです。本当に。研究室の坊やたちも、それが何であるかを判定しようとしていますが、我々が話せる限りのことは、あれはトマトソースです。普通の、ありきたりの、一缶5セントのトマトソースに少々余分の塩が入っているトマトソース。とにかく、Q&Aの時間は後に用意するでしょう。おっ始めなきゃならんのですよ。」

アイヴスは台の横から書類鞄をとって、テーブルに置いた。そして、書類鞄を開き、数枚のマニラフォルダを見せた。その中には、予め用意してあった文章が詰め込まれていた。
「これが仕事場所、そして、皆さんの権限以下の人員に広めてほしいことです。アンダーソン、これを至急プレスしてくれ──LAタイムズ、ニューヨーク・ポスト、CBS、NBC、ABC、BBC、CBC、全部だ。」

「イエッサ」
アンダーソンは言った。

「ジェンキンス、AFL-CIO(アメリカ労働総同盟・産別会議)と全米トラック運転手組合を電話口に呼び出し、エルフ組合に関わる『同情ストライキ』を手配できるかどうか見てくれ。」

「直ぐに、ボス。」
ジェンキンスは応えた。

「クレフ、君には共和党に連絡をとって、ゴールドウォーターか誰かにサンタ賛美のスピーチをしてもらうよう取り繕って貰いたい。」

反応はなかった。混乱した呟き声が部屋に満ちて、研究者たちは行方知れずの管理者を探した。

「誰か、クレフ博士を見たか?」


小妖精フィッツロイが目覚めた所は、スタートのそばであった。眩いラインがフィッツロイの顔に向けられていた。
フィッツロイの関節は痛み、皮膚はまだヒリヒリと焼けていた。緑の衣を纏った男どもに熱い液体を頭から吹きつけられていたから、頭はまだガンガンと傷んでいた。
彼はゆっくりと、疼く瞳子を開けて、眩いラインの閃光に順応させようとした。あたりを見渡せば、大きな部屋の中で、天上は高く、壁は遠くにあった。足が椅子に繋がれ、二本目の鎖は胴回りに結び付けられ、腕だけが自在だった。
正面には長い1つのベンチ、5脚の内の1脚で、5脚で部屋の長さ程あった。前には他の小妖精が、フィッツロイと同じように繋がれ座っていた。
それぞれの目の前には、彼の目の前にも、奇妙な一連の付属品が据え付けられていた──ホットプレート、スプーン、ポテトピーラー、包丁、アイスボックス。

フィッツロイは眩暈に悶えながら、どうやってこの席に着いたのか思い出そうとした。
あれは、ビッグデーを翌週に控えたある朝のこと、ボスのビッグ・デリバリーのための玩具を造るためのシフトに入っていた。少なくとも、明かりが消えて、緑の衣を纏った男どもがドアを蹴破って殺到して来たまでは思い出せる。今でもベンチの間を数人の男どもが行ったり来たりしているのが見れた。緑のドレス(又はトガだろう、おそらく)を床の後ろに長引かせ、お揃いの棘付き王冠の影に顔が覆われてた。それぞれ肩にタンクを背負い、タンクは例の燃えるように熱い、赤い液体を噴出するノズルにつながっていた。あの液体に彼の友人は死に至る熱傷を負わされ、彼は緑の衣を纏った男どもに何かを注射され、気づけば袋の中で揺さぶられていた。

フィッツロイに監禁されている状況について考える時間、況してやボスに降りかかった運命を考える余裕も与えられぬまま、大音声の凶悪な声が、垂木の中に隠された拡声器から鳴り、洞穴のような建物の中全体に響き渡った。
「こんにちは、私のハッピーで小さなエルフたち。」
声が宣言した。
「気の毒なことに、この休日の作業スケジュールに少し変更があるんだ。これから二日間、君たちは4交代制で働いてもらうだろう。食事、煙草休憩はキャンセルされたし、もう玩具を製造してもらうことはない。作ってもらうものは、その……違うものだ。」
声の主は一人笑いをした。
「ビッグデーに間に合うように仕上げないとならない、でかいノルマがあるんだ、そして、君たちの魔法の小さな指が実現させてくれることを、私は期待しているからね。一旦終われば、君たちみんなで幸せでささやかなエルフの家族の元に戻れるよ、平穏無事にね。」

「おっと、ところで……」
声は付け加えた。
「君たちのボスは私のもとだし、彼の……愉快なかわいらしい動物のご友人は同じように囚われの身だ。抵抗する、反撃する、意地になって動かないなら──そうだね、私は保証できない。このクリスマスにトナカイのソーセージを食べたりしないなんてことはね。」
声の主は笑っていた、邪悪で、耳障りなたけり叫びが、拡声器から轟いていた。
「さて、時間を無駄にするな!取りかかれ!クーラーの中にレシピガイドがある。まずはホットプレートを中温度にして、それから大さじのバターを少し加えて……」


「号外!号外!」

新聞販売人が五番街を行き来している陰気なビジネスマンの群れに対して叫んだ。
「特別版!小妖精の組合が交渉を絶った!LBJはクリスマスカタストロフィに対する即座の回答を要求しています!」
トレンチコートを着てフェドラハットをかぶった男が、ニュースマンにニッケルを投げ、積まれたニューヨークタイムズから一部つかみ、読みながら歩いて行った。

クリスマスの危機、ストライキ続行中

新年までエルフたちは座り込みストライキを決行するとほのめかす

「1896年以来初めてのクリスマス中止です。」とサンタクロースは語る。

この時期にやる理由は未だあるのだろうか?

男は新聞を折って59番通りを越えると、FAOシュワルツの外の群衆の中に向かっていった。
子供たちに玩具を届けるエルフが居ないなんて、街の両親たちは気が変になっていた。
男は窓越しに、殆どすっからかんになった棚を見つめる。スーツを着た紳士たちは、動物のぬいぐるみとバービー人形を取り合い、さながら綱引きのような有り様にあった。

「てめえ、まだ自転車あるんだろう!」

「ジャック・プロトンの玩具はもっとないの?私は幾らでも払う!幾らでもだ!」

「彼女がいくら払っても、私はその2倍を払う!」

ドアのそばには男が、テディベアの箱を1つ抱えて、最高入札者に売っぱらおうとしていた。それに向かって、コートを着た紳士が、人を脇にやって進んでいた。
群衆が札束を宙に振り、表情は自暴自棄だった。まるで彼らはマンハッタン最後のパンのローフに値をつけているようだった。
手を引こうと決めると警察が出張ってきた。警察は男が電話ボックスのある角に向かっていくのを見た。
男は冬の凍えを入れぬようにドアを閉めて、ポケットの中の釣り銭をまさぐり、7桁のダイヤルを回すと、スロットに1ダイムを突っ込んだ。ベルが5回なり、やっと狙っていた相手につながった。

「もしもし?」

「ドク。私だ。」

「どちら様?」

「ああ……なにものでもない。聞け。クロンカイトは正しかった。ここは、正気では無くなってきました。」

「それで?」

「生産速度を上げなければなりません。私たちはそのつもりだ。少なくとも、さらに10,000のユニットを追加して、棚に奴らを惹きつけるのだ。クリスマスまでに。それが出来なければならない!」

「あんた、おかしいの?私はそんなに早くできないよ。」

「これは、私たちのチャンスだ、ドク!この島のおもちゃ屋さんは全て売り切れている。外いる人々は、クリスマスツリーの下に置くものを何か買わないとといけないんだ。今、サンタはビジネスの外だ。そして、その何かは、あなたのおもちゃでも良いってことですよ。」

「上手くいかなかったらどうするの?このテクノロジーはまだ完璧じゃないってこと分かっているでしょ。」

「落ち着いて、ドク!これは、一生に一度だけの機会!私たちがこの遊びを上手くこなせたら、マンハッタン中の少年少女はあなたのおもちゃで遊ぶことになるのです。一度噂になれば……今年は全世界が『ワンダーテインメント』の名前を知る年になることだって、あり得るんだ!」


ジェイコブ・アンドリューズ博士は、手許のフラッシュライトで、サイト19の狭苦しい地階の闇の中を進んでいた。
大抵の人は地階の存在をどうにかこうにか知っている程度なのに、ましてや、地階に行く理由なんてなかった。底の方で、古ぼけた霊能者が作ったインチキアーティファクトを掻き回して、防虫剤が突っ込まれた第二次世界大戦由来の電子機器や、大量の、まさしく大量の手書きのSCPファイル(ラジウムとかダゲレオタイプが異常であると考えられていたような時代の)をひっくり返す必要なんてなかったのだ。
だが、アンドリュースには、理由があった。昨日の朝の会議以降、誰もクレフ博士の姿を見ていない。みんな勝手に、クレフは家に帰っただの、出て行っただの、どこぞの研究室にこもっているだの、何やらだと仮定していた。
しかし、アンドリュースの方が知っていた。
保存加工されたエジプトのミイラの棚をオルメク族の顔のところで左に曲がり、アンドリュースは煉瓦塀の場所に着くと、煉瓦を数えて、一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ目の煉瓦を掴んでメーソンリーの上へ、引き上げた。

壁はすぐに開いた。塩水と昆布の匂いが重苦しく漂う中、アンドリュースはサイト19の隠されたグロットの下に続く階段を降りて行った。
壁に沿って彫られた貝のモチーフに恐れ入りながら、フラッシュライトをオフにしたまま、階段の底の方のよく照らされた場所に接近した。
アンドリュースが巨大な洞穴のメインルームに入った時、新しい匂いが鼻を叩いた──疑う余地なく、クリームをとろ火でにた匂い、ベーコンと油で優しくソテーしたジャガイモがジュージューなる音、そして疑う余地ないMercenaria mercenaria sitenineteenia(このグロットの清流のみに生息するホンビノスガイの固有種)の香ばしいアロマ。
チャウダーの洞窟──チャウダーケイブ──の曲がりくねった道、低い天井。このために、よそ者が迷わずに進むことは、ほぼ不可能であった──だがアンドリュース博士はよそ者では無い。故に30秒ちょうどで『キッチン』に着いた。この地下秘密基地のアルト・クレフ博士の根城だ。
クレフ博士は黒のシェフコートに身を包み、料理用コンロを監視し、ポットを攪拌しながら、フライパンのジャガイモを転回していた。1ダースほどのスパイスを入れた小瓶が、そばの棚に積まれていた。

「ここの下にいると思ったよ、アルト。」
アンドリュースは没我しているシェフに言った。

クレフはコンロの上の煮えたクリーム色のブイヨンにスプーンを下ろし、それを口元に運んで行った。
「白胡椒が必要だな。」
クレフは独り言をつぶやいた。

「我々は君のことを心配していたんだ、アルト。一晩中この下にいたんじゃないか?」

「私はこの鍋を煮上げなければならないんだ、ジェイコブ。」
クレフは答えた。
「お互いにわかっていることだろうが、財団全体で、件の『サンタの居眠り』を影で糸を引く男を取り扱う資格があるのは、私ただ一人だ。」

「彼であるとはわかっていないだろう。」
アンドリュースは言った。
「北極がトマトソースで覆われていたからといって、それがマ──」

「誰があんなものを食うか!」
クレフは怒り気味に返答をした。クレフはジャガイモを火から降ろして、コンロから振り返った。
「他に誰があり得る?」

「5年前のロードアイランド料理コンテスト以来、彼は目撃されていない。あの男は、君に半殺しにされたし。」

「思い出させるな。もしパセリに関して、ほんの少しでも先走っていたなら、私は──」

「やめろよ、アルト。」
アンドリュースは言った。
「君はこの5年間、そのコートを着ていなかったじゃないか。君が若返ったわけではないが、まあ……いい、みんな全員、君に頼っている。この場所を、共に守るために。」

「サンタだって、我々を当てにしているさ。」
クレフは言った。
「GOCの連中も、我々があの老人を監視するのに賛成じゃ無いならば、数年前に北極をガラスに変えていただろうよ。我々は彼を失望させた。何か手立てがあるならば──彼を助けるための手があるならば、何であろうが……たとえそれが、あの帽子を二度と被らない約束を破ることを意味していても……わたしは決行する。」

アンドリュースはため息をついた。
「君の心構えは見れたよ、それでは。」
その博士は向きを変えて、階段の方に帰っていた。

「待ってくれ!」
クレフは叫んだ。
「私は……君の助けを受けてもいい。」

「かつてのようにかい、ええ?」

クレフは微笑んだ。
「チャウダーコプターの燃料を確認して、行く準備をしてくれ。おっと……それと、白胡椒を少々、サイトの食糧備蓄庫から持ってこれないかどうか頼む。」


トーマス・ドーズ将軍は廊下の深く、より深くを進んでいた。
ここは、北米航空宇宙防衛司令部の最暗部。
左に着いて来るのは、ジェームズ研究員、財団からの特殊密使。
右にはもう一人軍人が附いている。身に纏うはドーズに青に対して緑の制服;アーサーT.バッカー大佐、世界オカルト連合からの特殊密使。

「将軍。」
ジェームズ研究員は言った。
「今再び私の反対の表明を申し上げる。GOCがこの場に公式に存在するのは看過しがたい。GOCのSCP-4040に対する姿勢は確立されており、現下の目的に無益である。」

「世界オカルト連合としては、KTE-4040-1と称される制御不能の存在は、国際安全保障に対する明白かつ眼前の危機であるという確信に立っております、将軍。」
バッカー大佐は薄笑いを浮かべながら述べた。
「併しともあれ、当該存在に関して、最高司令部は1935年3月付けの財団との諒解覚書に於ける合意を全面的に遵守する態度であります。」

「私の坊主どもが、サンタクロースが制御不能の存在であるということに同意するかは判らんなあ、大佐。」
ドーズ将軍は語りながら、その三人組は廊下の突き当たりの封じられた扉に近づき、将軍はドアベルを鳴らした。
「だが、彼をどうすべきかどうか決断付ける前にさ、彼の居場所を見つけられるかどうか確かめてみようじゃないか。」

扉の向こう側の警備員が封を解いた。
「エリア ── 注目ッ!」
航空兵は叫んだ。将軍が元の場に戻るように命じるよりも前に、かすかに照らされた空間で不動に姿勢を取っている十数名の航空兵に合図をした。

ジェームズは前後を見渡し、周囲の状況を出来る限り把握した。
薄暗い赤ランプの下、レーダー端末の前に列をなして男達が座っている。それぞれ、端末上の半ダース、又はそれ以上の緑のモニターを検覈けんかくしてる。数名の将校が電話に列を組んでいる。ほとんど全員ワシントン、モスクワ、北京、其処とも知れぬ場所と議論をしている真っ最中だった。

「ここは魔法が起こる所だ、紳士諸君。」
肩の塵を部屋に飛ばしながら、ドーズ将軍は言った。
「人民の大方は我々が此所NORAD──北米航空宇宙防衛司令部──で営んでいることは、ソヴィエトの空襲を警戒することだけだと思っているだろう。それも勤めの一つだ、相違ない。だが、我々は世界中に何百も最高機密のレーダーを備えているのだよ、この部屋に直通されているレーダーをね。ひょっとすると、我々がこの場所に座っているだけでDoD──国防総省──の予算を食いつぶすかもしれない、24時間、世界中の鳥どもを残らず全て追跡してるならばな。」
将軍は笑い飛ばした。
「併し、この機材はそんなことの為に在るのではない。これは魔法のレーダーなんだよ、なあ。」

「魔法のレーダー?」
バッカー大佐は訝しげに尋ねた。
「最高司令部はNORADが魔法的機材を所持していることを承知していませんが。」

「オーイ、魔法っていうのはレーダー自身じゃあ無いよ、大佐。」
ドーズ将軍は答えた。
「このレーダーアレイは魔法の力によって推進する飛行物体を追跡するように設計されている。このシステムはその為にある、毎年この日の為に。そう、サンタの雪車そりを追跡する為。」
将軍は電話の前に配備されている一人の男の方に振り向いた。
「クレムリンから何かしらニュースはあったかね、キャプテン?」

нет──No──です、サー。」
将校は自分のかましたジョークに笑いたかったが咬み殺して答えた。
「ビッグ・マンの兆候はなし。」

「御尋ねしても宜しいかね?」
ジェームズが嘴を入れた。
「これの何処が、誰がサンタを拉致したのか、或いは何処に連れ去ったのか知る手立てになるとでも謂うのですかな?」

「ホワイトハウスから件のサンタ行方不明の報を受け取るなり、我々はレーダーアレイからのログの詳細を調べ出した。果たせるかな、若干の記録があった。サンタさんと、そのトナカイを掠奪したものが何者であれ、サンタの雪車に乗ってウィスコンシンの都心から外れた場所に飛ばして行った。グリーン・ベレーを遣ったが、着く頃には、とっくに居なくなっていた。屹度、雪車とトナカイをトラックか何かに積んで、その場から陸路で動かしたに違いない。」

「いずれにせよ、無論、現在クリスマスイブの朝。だが、西太平洋では7時間前、公式にクリスマスが開始された。誰だって、サンタさんは真夜中の鐘が鳴った時に仕事をすると言うことは知っている。だから、我々は17の真夜中に向かわせた。」

「それで?」
ジェームズが尋ねた。

「いいかね、サンタを捉えたものが何奴だとしても、一切の身代金要求をしていない。我々の推測では、連中の望みはサンタに何かをしてもらうことだ、このクリスマスに?何故に、トナカイと小妖精を一緒くたに連れ去った?小妖精に何か作らせたかった、サンタにそれを配達してもらいたかった ── 紛う方なくサンタは真夜中に配達させられる。サンタさんが行動を起こせば、直ぐに居場所が知れる。」

「何を届けるのです?」
バッカー大佐が尋ねた。
「重火器?爆弾?生物戦争?ならば、いよいよピチカート事態になるのでは、将軍。」

「それは、突飛な憶測に出ましたな。」
ジェームズは答えた。
「この場で結論を急ぐことは出来ません。」

「私は二流のマッドサイエンティストに、後々とやかく言われるのは気に食いませんねえ、『リサーチャー』。」
バッカー大佐は言い返した。

「マッドサイエンティスト?貴方のようなジョン・ウェインのワナビーがそんな事を抜かすとは、傑作ですなあ。SCP-1609の貴方がた頓馬が起こした、例の大混乱以降、私は貴方がたに野良犬一匹の無効化もロクに任せられない。」

「私は君の一件記録を読んだよ、ジェームズ。君だってこの部屋にいる資格は無い。サイト82に帰って……なんだったかな、君の『トイレのお化け』?とでも話してきたらどうだい?」

「そいつは『ケツの幽霊』だ、お前、お前は──」

「諸君!作戦室で戦争は困る!1
ドーズ将軍は叫んだ。

ジェームズとバッカーは静かにドーズを睨んだ。目には混乱と侮蔑の感が混ざって浮かんでいた。

「家内が、あの映画が好きでね。」
ドーズは言った。

「将軍!」
端末の前の航空兵の一人が叫んだ。
「何か捉えました!」
航空兵の椅子に向かって三人組は走り、群がった。スクリーンの右上の一点のレーダー反応が進んでいた。

「我々が今見ているのは何だい、エアマン?」
バッカー大佐が問う。

「たった今中西部上空を飛行中、超音速、明らかに魔法的。」
航空兵は応える。
「60度北北東を進行──何だと。」

「何だ?」
ジェームズが訊く。

「進行方向を維持するならば、日暮れまでにニューヨーク市に至ります。」

(ニュー・ヨーク・シティー……)
ドーズは心に思う。
(サンタはニューヨークに何を望む?)

「チャウダー……」
ジェームズは声を潜めて呟いた。

「もう一度言ってもらえます?」
バッカーは言う。

「私は……えー……チャップリンと申したのです!ええ。チャップリン計画。誤警報ですな、将軍。あれは、私ども鳥の一羽ですよ。」

バッカーはジェームズを覗き込んだ。その目は猜疑的に光っていた。
「我々の諜報機関から、財団が魔法的航空機を持っているとは報せは来ていませんがね。」

「新しい計画ですよ。最高機密。私どもは、SCP-1115に付いていくことが可能な飛行機を開発していたのです。単なるテスト飛行らしい。目標の機首方位が前後に少々揺れ動く様子が観察できますかな?それが……それが、動作方法です。こう、人が多い状況では全ての詳細を共有することはできませんがねえ。分かるだろう、大佐。」

「SCP-1115?空飛ぶロボットどもか?」
ドーズ将軍は笑った。
「連中の後を終えるよう幸運を祈ろう。先の戦争で、私は連中の一匹をP-38で撃ち落とそうとしたんだがな。生き延びて、あれが何か理解できたのは幸運だったと思うよ。」

「さてと、これが誤警報だとしたとしても……」
バッカーは言った。
「最高司令部に現在の状況を、是が非でも伝えられなければならいのです。近くに私用電話はありませんか?」

「二つ部屋を下ったところに。」
ドーズは言った。
「ロドリゲス航空兵が、回線の繋げ方を示してくれる。」


「こちら最高司令部交換台、電話のご用件は?」

「すぐにエイブラムズ将軍に接続してくれ。優先度ゴールド、セキュリティーコード:デルタ・オミクロン・Six Six Nine・エプシロン・タウ。」

「少々お待ちを、大佐。」

「こちら、エイブラムズ将軍。」

「サンタはニューヨーク。財団は既に空路の途次に鳥を得た。」

「座標は?」

「現状未知。連中は魔法レーダを所有している。我々の一時レーダーをオンラインにし、連中の鳥を監視する。それは……はためいている。連中が地上作業を済ませたならば、間違いなくサンタを雪車に乗せて自由にさせるはずだ。」

「そこでKTE-4040を消す、そうだね?」

「私の考えはまさしくその通りです。将軍。」


サンタクロースは、沸騰したハマグリの出汁の上に、逆さまで吊られていた。ロープ一本だけが、愉快な老人もとい、不愉快な老人が湯気立つ釜に落ちる破滅から守ってくれていた。
視界の正面には誘拐犯が立っている ── 白髭混じりの老人、赤いシェフコートを纏って、頭に冠ったトークは血の色ほど赤く、心臓の場所にはトマトが刺繍されていた。
男は口ひげをいじりながら、サンタの前をウロウロとしていた。男は前にあるコントロールパネルに手を伸ばして、一番のレバーを少し引く ── するとロープが緩み、聖ニコラウスは数インチほどスッと釜の下に落ちていった。

「やたら尋ねているわけじゃないんだよ、サンタさん。」
男は言った。
「ちょっと呪文を教えて欲しいんだ、あんたのトナカイ達を空に浮くように分からせたいしね、それから行ってきますをするんだ。いったん、全ての良い子の少年少女に私のスペシャルプレゼントをお届けすることが終わったなら、お前を解放する。お前のエルフたちも、トナカイたちもだ。そうすれば、北に帰れるし、小さなお宅も小さな工場も、もう一度築けるだろうし、こんなこと何事も起こらなかったように続けることだって出来る。」

「絶対教えん!」
サンタは喧嘩腰で叫んだ。声が捨てられた倉庫にこだました、いや、倉庫は一週間前にサンタを捉えたものによって搾取工場に変えられていた。
「貴様が何を計画していようとも、全ての良い子たちに何もさせない!」

「ちっとはそう言って欲しかったんだ。」
男は言って、コンソールのインターコムを押下した。
「リバティーンズ!了解かな?」

「イェッサー。」
声が無線でバリバリといった。

「トナカイを一匹地下に連れて行け。私は構わないよ …… 変な奴にしよう、アトミックな鼻の奴。今夜はご馳走だなア!」

「やめろ!」
サンタが叫ぶ。
「頼む、ルドルフを傷つけてくれるな。」

「これを止めるにはどうすればいいか、わかっているでしょうサンタさん。」
赤い男は言った。
「呪文を教えろ。」

サンタの目から涙がこぼれ、禿頭を伝い、ハマグリの出汁に滴っていくと、たちまちに蒸発した。
「わかった。ここに来てくれれば、全部教える。」
男はポットの角に凭れかかり、サンタは涙ながらに、男の望む言葉を全て話した ── トナカイを飛ばす方法、音速の壁をぶち破る方法、太陽が昇る前に全部の家を回るため、時間を長く止める方法。

「いやあ、結局は道理がわかると思っていたよ。」
誘拐犯が言った。
「今から行って、トナカイバーガーの命令を取り消そう。」

「あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あー!うぎゃあああああああああああああああ!燃えるッ!」
内線ボタンを押すや否や、物凄まじい悲鳴が鳴り響き、誘拐犯は飛び上がった。

「これはどういう意味だ、サンタ?私は誓うぞ、お前のトナカイを私の自ら屠殺する、もしお前が……痛ぇッ!」

誘拐犯が言葉を言い切る前に、陶器の盛り皿が頭に直撃、破片が四方八方に飛び、熱々のクリームが男の綺麗なコートに跳ねた。
男はドアの方を振り向いた。護衛がいる。しかし見れば、護衛は同じぐらい熱々の煮え立ったブイヨンでびちょ濡れになって、床に倒れていた。
その間に立つのは、彼の敵役 ── 黒のコート、黒の帽を身に纏い、巨大なタンクを背負って、12の盛り皿をベルトにかけて、長いチューブはタンクと手元の巨大なキャノンを結び、高潔にあざ笑う男。眼差しの先はサンタクロースをさらった男。

「チャウダークレフ!」

「ザ・マンハッタニート。」
クレフは目の前の朱色の悪漢に睨みを利かせ答えた。
「サンタの作業場がマンハッタンスタイルのチャウダーに覆われている写真を見た瞬間、お前だとわかった。」

「不可能だ!私をここまで追跡する方法はなかったはずだ!」

「実に可能な話なんだ、何から何まで、なあクリスマス気分のブルゴーニュカラーの押しこみ強盗やろう。」
クレフは言いながら、第一のライバルに近づいて行った。
「お前が使ったハマグリはイーストリバーの固有種だった。それがわかったなら、後の問題は不動産記録をチェックして、最近持ち主が変わった水際倉庫を探すことだけだ。今は一時休戦だ ──私はお前を連れて行き、サンタを解放する。」

「一歩も進むなよ!」
ザ・マンハッタニートは、クレフのチャウダーカノンのブラストを避け、コンソールにサッと飛んでいくと、レバーを握った。
「もう一歩でも動いてみろ、ここでのクリス・クリングル2は、サンタ・シチューになるぞ!」

「この人でなし!」
クレフは叫んだ。
「とにかくだ、お前は聖ニックから何が欲しいんだ?」

「もはや誰もマンハッタンスタイルのチャウダーを食べなくなった。」
ザ・マンハッタニートは独り言をぼやいた。

「何だって?」
クレフは言った。

「チャウダー!最近はどこにだってある!サフォークから、シアトルまで、サンディエゴまで!ラファイエットから、ラスベガスまで!マイアミから、マニトバまで!DCから、ダラスまで!タンパから、ティンブクトゥまで!今や歩けば。シーフードレストランの扉に突き当たり、入ればボールの中のチャウダーを顔にすくい上げざるを得ない!だが、わかるか、チャウダークレフ?」

「何がだ?」

「どこに行っても、この広い世界の全て何処だって、チャウダーはニューイングランドスタイルだ。誰にも、素朴なハマグリとトマトソースを味わう至福の時間は無い。チャウダーは全てヘビークリーム、ベーコン、ジャガイモ、跳ねたシェリー酒……それが私の血を煮え上がらせるのだ、チャウダークレフ!お前ですら、その残飯を沸騰させることはできない──あっ違う、それは沸騰点近くまで煮立たせた牛乳だ。私たちはチャウダーに対して繊細でなければならない。」

「今はその時だ。世界は本当のクラムチャウダーの全てを知らなければならないのだ、友よ。そういうわけで、私はこの一週間エルフたちに一生懸命作ってもらうことにしました。エルフたちは一時間前に仕上げてくれたよ。知ってるかな、あの魔法の雪車って驚くほど凄く働き者なんだ──私だって、3,268,896,174ガロンの熱々のチャウダーを載せることは出来ないと思っていた、しかし信じ難いかもしれないが、雪車がピッタシになったんだよ。」

「3,268,896,174ガロン?」
クレフは恐ろしい意外な事実を知ってしまった。
「なぜ、正確……」

「正確だ!」
ザ・マンハッタニートは叫んだ。
「正確に1ガロンを皆に!朝が来た時、小さな少年少女たちは、クリスマスツリーの下に行っても、ホパロングのブーツや喋るお人形さんも見つけられない。否、彼らはこの上なく素晴らしい贈り物を見つける ── シューシューと煮え立った熱いチャウダーだ。

「お前は正気ではない、マンハッタニート!」
クレフが怒鳴る。
「お前はみんなのプレゼントを奪い去ることはできないし、お前のうんざりするトマトスープを配ることもできない。みんなそれが大嫌いだ。私たちの手で革命を起こそうじゃないか!」

「革命、真の!」
ザ・マンハッタニートは叫んだ!
チャウダー・レボリューション!我々はニューイングランドの暴君を、これ最後に打ち倒さなければならない!始まりは──今!
ザ・マンハッタニートはコントロールレバーを下げ切って、手でボキりと折った。するとサンタはハマグリの出汁の大桶へゆっくりと下がってきた。

「お前の選択の時間だ、チャウダーチャンピオン ── サンタを救うか、私を追うか!」
ザ・マンハッタニートは3発のチャウダーキャノンのブラストを避け、部屋の角のドアから飛び出していった。
クレフは追い初めたが、立ち止まった──サンタがスープに沈むまで30秒もない。
クレフは出来る限り速やかにチャウダーキャノンの操作ノブを#2にセット、一皿分のおいしいクリーム状の完成品を盛り皿に注ぎ、それを最速で飲み干した。体から力が湧き上がり、ω-3脂肪酸が静脈を走る。筋肉が二倍サイズになったかのようだった。
サンタは、クレフのまくられた袖から垣間見える二頭筋から様式化されたクラムシェルのイメージを見出した。
クレフは熱いポットの表面に手をセットし、熱い鋼から来る痛みを物ともせず、逆さまに裏返し、致命的な内容物を階段に流した。丁度階段には漆黒のシェフに立ち向かうべく、駆け上がってくる自由の女神ドレスを着ている6人ほどの警備員がいた。

クレフはベルトから包丁を投げロープを切断、サンタはクレフの腕に落下、サンタは立ち直った。
「おやマア、まさかアルトちゃんじゃないか?」
サンタが言った。もう声は典型的な好々爺のそれに戻っていた。
「もしかして、君が小さかった頃にあげたお子様ベークオーブンのお礼かな、そうかね?」

「サンタさん、大丈夫か?」

「意味もなく、冬に長い居眠りをしていたわけじゃあないんだよ!信じてくれるなら、ワシは君を次の年まで『良い子』リストに入れてあげるからね!」

「サンタさん、まだ今年の心配事があるぜ。どこだ、ソ──」

クレフは文の途中で言うのを止めた。窓の外でベルが鳴っている。そして振り返ると、丁度サンタの雪車が夜空に登っていく所だった。グツグツ湯だったチャウダーの釜がサンタのおもちゃの袋の代わりに載せられていた。
「ホ・ホ・ホー!メリー・チャウダーマス!」
ザ・マンハッタニートに声がは人通りの少ない通りに反響していた。

「チクショウ!」
クレフは叫んだ。
「遅すぎた!」

「アルト坊や、無分別な言葉遣いをするもんじゃない!まだ完全にミッドナイトではない……」
サンタは言った。
「彼はクリスマスの日が来るまで、私の魔法の力を全て使えるわけじゃないんだ。まだ君は間に合う!」

「不快に思わないでくれ、聖ニック、だが私は貴方のトナカイの能力を知っている。私のチャウダーコプターには、魔法のハマグリ力を備えているかもしれないが、それでも追いつくことはできない。時間までに、追いついて捕まえる方法はないんだ!」

「おやマア?」
サンタはウィンクをして、口に指を突き刺し笛を鳴らした。すぐに、一階から不気味な赤い光が階段より放射されてきた──そして、一歩きのトナカイが階段を駆け上がってきた。リバティーンズがチャウダーに肉を焼き払われた苦しみにのたうち回る合間を通り越して、トナカイの赤々とした鼻が部屋をクリスマスツリーのように照らした。

「お呼びでしょうか、サンタ?」
トナカイが尋ねた。


サンタと小妖精たちは、闇に鎖された工場の屋根の上に立ち、雲の中に何かの印を求めて、空を望んでいた。サンタは懐中時計を確認する ── 1時15分。ため息を吐く。

「チャウダークレフは大丈夫でしょうか?」
フィッツロイはサンタに尋ねた。

「どうだろう……今年のデリバリーは遅れてしまうんじゃなかろうか、坊やたち。」

「待って!」
一人の小妖精が声を上げた。
「あそこを見て!」
東の雲の裏からわずかな光が溢れてきた。ひょっとすると、それは川の上のビーコンから発せられた一点の警告灯だったのかもしれない ──
それでも彼らは見た、見つめた、見つめていた。光は輝きを増し、明るく、より明るくなっていった。 ──
やがて、赤鼻トナカイルドルフが霧から現れた。 ──
後に続くは、ダッシャー、ダンサー、プランサー、ヴィクセン、コメット、キューピッド、ドナー、ブリッツェン、その後ろに雪車 ──
雪車に座るは、ただ独り、微笑んで、頭からつま先までトマトソースでぐしょ濡れなのは、チャウダークレフ。
小妖精から歓声が上がると、雪車が屋上に舞い降りて、クレフが雪車から下りてきた。

「アルト!」
サンタは叫んだ。
「君ならやってくれるとわかっていたよ!」

「簡単ではなかった。」
クレフは語る。
「GOCは私たち両方を撃ち落そうとしていた。連中は、今年なら、サンタとトナカイをたまたま偶然空対空ミサイルで吹き飛ばしたとしても、誰にも分からないと考えたんだろう。ここの始末が付いたら、連中と話すつもりでいる。今はコイツを──」
クレフは赤鼻の乗馴鹿の頭を小付いた──
「今、こいつは本当の一員だ。」

「ありがとう、クレフ!」
ルドルフは言った。
「あなたに言われた通りにバレルロールしただけなのに。」

「そんな謙遜するなよ、ルドルフ!君が間合いを詰めていったから、雪車にジャンプすることが出来たんだ。」

「だが、どうやってザ・マンハッタニートを止めたんだい?」
サンタが尋ねた。

「ああ、サンタさん、私は戦いの最中にマンハッタニートに質問をしたんだ。」

「なんと聞いたのかな?」

「マンハッタニートの一生はニューイングランドスタイルのチャウダーを絶滅させるための戦いに費やされてきた。だから私は、実際に味見をしたことがあるのかって聞いたんだ。」

「つまり、彼は食べてみたことが無かったとでもいうのかね?」

「私はマンハッタニートの為に特別なものを仕込んできたんだ。人呼んで、クリスマスプレゼントだ。」
クレフはチャウダーキャノンのレバーを三回動かし、ファイナルセッティングに変えた。
「私はこいつを仕込み切るのに数日を費やした ── そして仕込みが完璧であることを確認して、なお、それをSCP-914のVery Fineにかけた。マンハッタニートは一匙で泣き出したよ。奴はポットの中身を大西洋に流して、パラシュートで脱出していった。」

「素晴らしい、アルト!ほらね ── クリスマスは、一番邪悪な男の心だって和ますことができるんじゃ!」

「ああ、でも彼のことが見納めになるかどうかは疑わしいんだ、サンタさん。奴とスープの覇権を巡って戦ったのはこれが初めてではない ── これで終わる筈がない。」

「まあ、重要なことは、ワシの雪車とトナカイ達が戻ってきたことだ!君の支援にありったけのありがとうを、アルト ── ワシはクリスマスを守り抜いてみせる!

「もう1時15分は過ぎている、サンタさん。」
クレフは俯いた。
「遅すぎたかもしれない。」

「マア、アルトよ。真夜中ならいつでも魔法が働く!まだ6っつ可能性は残っているんだ!」

「だが、おもちゃはどうする?」

「マンハッタニートはおもちゃたちには全然近づかなかったんだ、アルト!ワシは、おもちゃをとても安全に保管しているんだよ。」
サンタはウィンクをした。
「あとはおもちゃたちを迎えに行くだけなんじゃ、それと ── ところで、アルト?」

「はいサンタさん?」

「遅れを取り戻すために、もう一つできることがある。もうしばらくの間、手を貸して欲しいんだ ── そのキャノンを貸してくれるかな……」


アンドリューズ博士は発泡スチロール製のカップをとって、コーヒを啜りながら暗い道を車で帰っているところだった。
彼の時計は午前5:32。クリスマスの朝。
この三日間、一睡も取らなかった。サイト19の誰だって寝ていない。人々にサンタと小妖精の労働争議の話がすぐに、良いように決着がついたと信じさせる仕事に付きっ切りだった。
彼は徹夜で、シャイアン・マウンテンのジェームズ研究員と電話していた ── 東海岸全周囲の奇怪なレーダー照準を追って、最終的にGOCが交戦規則を破ってまでサンタの雪車と、雪車を追っている未確認オブジェクトを撃ち落そうとしている所を現行犯で捉え、その後ガス欠を起こしたのに対処しているところだった。
その後に起こったことは誰にもわからなかった ── NORADはGOCの密使に所有している魔法レーダーを"無効化”されそうになったのに、持ちこたえていたことは奇蹟だった。

アンドリューズは郊外の小さな家の車道に入って、エンジンを止めて、夜明け前の空気の中に這い出していった。
サイト・ディレクターのアイヴスは親切にも、朝は自宅で過ごして娘になぜサンタさんが来なかったのか説明してもいいとしてくれた。
彼は戸口の踏段に転がっている朝刊の見出しを見て呻き声を上げた。

サンタの兆候なし、クリスマスは瀬戸際

LBJは北極にストライキを続けるよう土壇場の呼び出し

ニューヨーク、L.A.、ロンドンで売り切れのおもちゃ屋の前で暴動

バックリーとヴィダルが討論:「サンタは"アカ"か?」

しかし、アンドリューズはリビングの絵のような光景を見るなり、驚きで新聞を落とした。
彩られたクリスマスツリーの灯りの下には、たくさんのプレゼント。すべてラッピングされて、蝶結びのリボンがしつらえてあった。
彼はプレゼントを買っていない。
カレンはプレゼントを買っていない。
誰が?

ワクワクした男の子のように、彼は膝を折ってタグを調べた。
「ジェーンへ。サンタより。」
「エミーへ。サンタより。」
「おかあさん、おとうさんへ。サンタより。」

彼はやったのだ!どうにかして、彼の狂ったブラックコートを纏った旧友はやりきったのだ!
サンタは無事。結局はメリークリスマス。
アンドリューズは二階に駆け上がって皆んな起こそうとした。すると、何か他のことに気が付いた ── 隣の部屋から何やら濃い香りが漂っている。
彼は台所に通じる角を曲がると、オーブンの上に温かいものがあるのを見つけた。コトコトと泡立つクリーム、ジャガイモ、ハマグリ、そして間違いないベーコンの気配、シェリー酒が少し。
彼は脇にあったメモを読んだ。
「アンドリューズ・ファミリーへ ── サンタ・クレフより。」
真新しい陶器の盛り皿、輝く銀のスプーンがオーブンの横のカウンターで使われるのを待っていた。
恐る恐る、アンドリューズはスプーンをポットに浸して、味見をしてみた。

「むむむ。」
彼は心で言った。
「白胡椒で本当に、変わるものなんだなあ。」

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