くそ
評価: +107+x

もう何もどうしようもありませんでした。

面白いのは間違いないとは感じましたがそれ程でもないな、と思っていた他人の作品ばかりが高い評価を得て、
自分の中でも会心の出来であると思った物が軒並み掃いて捨てられる様に評価されなかったのです。
一次選考にも引っ掛からなかったというのは何の連絡も来なかった事からも分かります。
メールの一通もありはしなかった。
今日もです。
応募作がどれだけ届きましたよ、といった幾らかの大きな数字の中の一つにしかならなかったのです。

全く同じ作品は出せないというので、今日もまた私が頭を捻り、
カップ十数杯分のコーヒーと茶と、ノートパソコンのバッテリー用の若干の電力を消費して形になったアイデアは使えなくなった。
ぐちゃぐちゃの有様からどうにか持ち直したものも、
最初から最後までかっちりと決まりに決まったものであっても何も変わりは有りません。
他者の中ではもう終わったのです。使えないのです。

普段ならば新しいアイデアを見つける、思いつく為に行っていた日課の散歩も、今日は、
今日も気晴らしの為に行うしかありません。適当な自販機で買った飲み物を飲みながら、満足するまで家の周りを歩くしか有りません。
新しいアイデアなんて湧き出て来る余裕も何も有りません。
ひねり出したアイデアはほんのその時にはとても素晴らしいのだ、と思ってメモに書き留めたりしますが、
良い方へとは転がせずに今日もまた時間だけが過ぎていきます。アイデアを上手く扱えないのでしょう。次もまた。

子供がたまに遊ぶ事も無くなった雑草が生えた空き地にまで辿り着くと、其処に一頭の乳牛がいました。
最初の内はほんの遊具が何かだろうかと思っていましたが、落ち窪んだ瞳は横を通り掛かった私を見ていました。
驚きもありました、警察に通報しようかなと考えましたが、来るまでの間牛が空き地から離れないという保障も有りません。
ついうっかりふらふらと歩いていた所見かけましたなんて言葉を信じるかどうかも怪しいなと思っていると、
牛の隣には糞がありました。

その糞の中には私が使っていた鉛筆が、作文用紙がありました。

間違いなく私が過去に使ってみようと思ったものでした。読書感想文を書く為に使用した用紙と鉛筆でした。
牛はいつかの動物番組で見た時の様にもぐもぐと口を動かすばかりです。食べているに違いないのです。
私が生み出す事になっていた素晴らしい世界をです、素晴らしい作品をです。
ただ牧場に生やされた牧草を食べているのと同じに呆気無くこの牛は私と私を取り巻く全てを食べてしまったのです。
私は転がっていた手頃な石を両手で抱えて、牛の頭に振り下ろします。

鈍い感触がしました。
当然牛の頭を石で叩くのは初めてで腕は軋みを上げて、案外牛は平気そうでした。
だから何度も続けようとました。牛の中には私が詰まっている様な気がしたのです。とても取り返したかったのです。

返して下さい。私の作品を返して下さい。
私のアイディアから生み出された素晴らしいものを返して下さい。
こんな筈では無かったんです。
私の方がねじくれた感覚で誰からも評価されない訳では無かった証拠が欲しいのです。

次第に白黒の毛並みに赤が飛び散っていくのが分かります。
目は何も変わらないですが、私を前にして口をもぐもぐと動かしてまた私が食べられ続けていました。
この世界にしかこの私がいなくなったのです。

このまま誰からも評価されない私が残るなんてあまりにも惨めな気がしました。
指に血が滲むぐらいきつく握り締めた石を叩き続けようとして、振り下ろした石ごと私の両手を牛は口の中に咥え込みました。
踏ん張っても無駄な事でした。するりと入り込んで滑った中に閉じ込められました。
私もこの牛に全て食べられるのでしょう。音も聞こえませんし、匂いも有りません。溶かされるだけ。
ただ私はこの世界で評価されたかっ

吐きそうだ。


収容違反を起こしたSCP-1800-JPはサイト近隣の住宅街で確保され、近隣に住んでいた██氏含む█名が捕食されたと予想されています。顔を中心にした負傷と出血は生命活動に問題は無い軽傷であると診断されています。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。