苦悩せし君主の影の中で
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優雅に彫られた柱たちがその狭いオニキスの廊下に並んでいた。この場所が存在することを知る者は、その王の宮廷の中においてさえも、ほとんどいなかった。そして喜んで来る者はもっと少なかった。その請願者はその廊下を歩いた、彼のコツコツという足音と彼の心の闇だけに付き添われて。彼をここへと連れてきた恐怖は、どうやら、苦悩せし君主の所有するこの隠し通路の中にいた人々を伴わなかったようだ。ひょっとしたらそれは始まりの為の一つの隠喩に過ぎなかったのかもしれない。彼はその考えを自身の心から振り払い、道を歩み続けた。だがそれでもなお、彼の中にある明快さは彼の心を鎮めるには未だ不十分であった。

永遠にも思える長い時間の中で初めてその都市の乱交と喧騒から離れ、彼は自身が恐ろしいほど孤独であることに自身の思考をもって気が付いた。この黒い羽のローブ、これらの鉤爪、この頭蓋骨……両の鉤爪の先が彼の頭蓋骨の隆起たちに触れ、弱いカタカタという音を立てた。私は今までいつもこの仮面を被っていたのか? 彼はその廊下を再び進み始めた、足早に。なぜこの道は私がいくら歩いても私をどこにも辿り着かせないように見えるんだ?

「立ち去れ、病んだ声め」拷問されたものが叫んだが、彼は自身の発する痛々しいカアという鳴き声だけを聞いていた。体を曲げ、彼は死に物狂いで自身の見覚えのない顔を引っ掻き、必死でその後ろにある思考を引き裂こうとした。

痛い。

病気!!SICK!!

なぜ私は決してこれを取り外せないんだ?

死んでくれ私をほっといてくれ!DIE AND LEAVE ME BE!

混乱した、悲痛な呻き声と金切り声がその廊下中に響き渡った。苦悩せし君主のための一つのシンフォニーが。ぶるぶると体を震わせ、真夜中の如く赤い血に濡れ、それはその顔が死ななかったことに絶望した。それは憔悴し、恐怖し、自身が孤独であることを知った。

そしてそれはそうではなくなった。

そのひび割れた男は近付いた、この悪夢めいた都市の土着の住人がやる奇妙な、前触れもなく突如その場に現れるという方法で、そしてその拷問された獣へと目を落とした。もし彼が死にかけていなかったなら、彼はそれのことを気の毒に思ったかもしれない。

「お前さんも来たのか、ここへ、死を逃れる為に? それともお前さんは罠に引っ掛かったただのイカれた獣か?」その男の磁器でできた両頬が砕けてパキッという音を立て、彼が動くたび彼の崩壊しつつある姿にとても小さなひび割れたちが加わった。彼の顔は既にほとんど剥がれ落ちており、その中にある空虚な形を露出させていた。彼のただ一つの残っている目玉はそれの連れを飲み込んでしまった亀裂すれすれの位置から外を見た。

「死……死は問題ではない」その生き物の瞳孔がその音が鳴るのと同時にゆっくりと収縮した、彼の視界の中でこの新参者に焦点が合わせられるまで。「だが君の中には病気がある。私は知るべきだ――私は知るべきだ――君の治し方を!」それが言葉を発すると同時にそれの体が立ち上がり、そしてそれは片方の骨張った鉤爪を凝視し、そのひび割れた男に向かって差し伸べた。彼のもう片方の鉤爪はそうすることを試みたが、すぐに弱々しく、それの着ていた肉体から自分自身を解放して剥がれ落ちてしまった。「まだ私はこの永遠に呪われた街でこの悪夢のような仮面を被り続けている……」彼は固まり、四人の君主の支配するこの世界の時の流れそのものをじっと見つめた。彼の呼吸は速くそして不規則になり、彼の思考は一つの小さな、恐ろしい呻き声として浮かび上がった。彼がこの争いと罪の街の中で迷い込んだ永遠なる非道に。

黒い獣はよろめきながらその廊下を、そのアラガッダの土着の民の人工的な単眼症に罹った眼球から投げかけられる一本の愚弄するような視線を描くその廊下を二、三歩歩いた。彼はそのよろめいている生き物の隣にもう一度現れ、彼の姿勢と位置は誰にも見られることなく過ぎ去った数秒の中で変わった。

「お前さん自身の為に言うよ、気の毒な奴、お前さんはあらゆる点でこの俺と同じくらい病気なように見えるよ」その指摘は間違っていなかった。彼の疾患は彼が自身の口を失わないように自身の言葉に思慮深くならなければならない段階にまで進行してしまっていた。

「私は病気じゃない、違う、違う、決して病気なんかじゃない。君だ! 病気でそしてひび割れ――ている――ひび割れ――ている」それは悲嘆の中で彼に向かってカアカアと鳴き声を上げた。それは心を痛め、一人の男は白日の悪夢の中で楽しい夢を思い出そうとした。「だが私の本、私は今までそれ無しでここにいて――手順を忘れてしまってからもう随分と長い時間が経っている!」その鴉の羽の生えた治療者はもう十二歩をよろめきながら進み、それから再びその男、軽蔑の眼差しで自分の大股歩きを眺めている、の方に顔を向けた。「君だ。君は一度も私に名前を教えてくれなかったな、クラック――ドマン」

「既に知ってるみたいだな。何とも痛烈な皮肉だ、俺がばったり出会った医者が俺に名前を処方する事はできて、しかし俺を治療する事はできないとは。で、何だ、お前さんがこの影の影の中で探してた自分の本はこれかい?」彼は再び現れると、両手を背中の後ろで組み、その獣と正面から向き合った、あるいは少なくともそれの嘴が許す限りの近さまで近付いた。「じゃあこいつを手にしたら、お前さんは俺をこの痛みと病気から解放してくれないか?」磁器の破片たちが彼が声を発するのと同時に彼の裂けつつある唇から落ちていった。

黄色い虹彩が獣の眼の中の黒を針の先ほどの小ささまで収縮させた。「やってやるさ、そして確かにその本だ」その鳥の頭蓋骨、漆黒の大羽たちからなるフードで覆われた、が彼のそれまで旅してきた方向をゆっくりと振り返った。「だがしかし……この場所はまるで終わりがないかのようだ。ここには何が棲んでいるんだ?」

「そんなの簡単さ。お前さんをここへ連れてきたのは何だ?」

彼をこの廊下へ導いた恐怖の光景が再び彼の心を満たした。ただ彼の記憶の中においてだけは、彼はそれをはっきりと見ることができたようであり、そして彼はそれを言い表すことのできる言葉をただ一つだけ持っていた。「苦悩だ」

「苦悩だ」相手が同意した。

「苦悩だ!」壁たちが相槌を打ちながら融解し、一斉に黒大理石から黒い酸へと変じたようになった。

苦悩せし君主が賛同し、輝きを放ちながら彼らの上に姿を見せた。出現したその場所の上にある真っ黒な虚空から、あたかも計り知れないほど遠くからやってきたかのように、そして雪花石膏の如く白く滑らかな仮面を被って。それは彼らをギロリと一睨みすると、瞬時に捻ってありえないほどの大きさへと引き伸ばした、サディスティックな笑みと想像を絶する苦痛をもって。その君主の凝視は彼らの思考を、彼らの自我を、彼らの自己そのものを剥ぎ取り、そして彼らをまるで操り人形のように捻った。

彼らは二人とも恐怖に目を見張り、それと同時に獣の片方の骨張った鉤爪がゆっくりと伸びてクラックドマンの胸を引き裂いた、自身のナイフのような鋭い接触をもって磁器を砕きながら。それは相手の肉体の破片たちを粉々にし、そしてその男の核そのもの、苦悩せし君主が途方もなく遠い過去に彼の記憶を隠していた場所、へと手を伸ばした。彼の鉤爪の先はそっとその慣れ親しんだ、慰めを与える彼の日誌の形に触れた。

クラックドマンは倒れ、捻れそして、彼は願った、徹底的に死ぬことを。彼は自身の背中がバリバリと音を立てて痛々しくバラバラに裂けてゆくのを感じ、それと同時にそれが何であれ彼らを包囲している黒き虚空の中で彼らを吊るしている微小な力を殴った。

医者の心はそこに、自身の手の中に座った。ほとんど信じられないことだったが、彼のもう片方の鉤爪は復活し、その本の表紙をめくっていた。そのページ群を、その筆跡を、その手順を。全てが怒涛の勢いで帰ってきた、最早あたかも一度も離れていなかったかのように、そして同時に彼の手は死に物狂いで次々とページをめくっていき、それぞれのページをめくる毎にそれ自身を彼の記憶に長らく空いていた穴から脳裏へと焼き付け直すためのたった一瞬を必要とした。

彼の目的が戻り、彼は膝をつき、彼のバッグから道具たちを引き抜き、速いスピードで彼があまりにも、あまりにも長い間できずに過ごしていた治療行為を行った。彼の動作は土で作られた材料と薬の間で輪郭をぶれさせ、その壊れそして死にかけている患者を一つの静かなそして決心した鉤爪を使って繋ぎ合わせ直した。彼は苦悩せし君主がそれ自身の真っ黒な憎悪をクラックドマンの砕けた輪郭の中へと滴下させるほどに頭上の近くに迫った時に目を上げなかった。実際彼はそれまで自身がどこへ行けばこのような珍しい試薬を入手することができるのか知りたいと思っていたのだ。彼は時間を浪費しなかった、そのビーカーを――

自身が遠い昔に作ったそのビーカーを満たすことに?


その医者の心がその迷宮からそれ自身のかつて偶然見つけた出口を見出す頃までにはもう、彼の体は彼なしでその手術を終えていた。

クラックドマンは立ち上がっており、彼の病気は消え去っていた、その呪われた君主の垂らした黒くそして松脂の如く粘ついた憎悪がその修繕された彼の姿の破片たちの中に居残ってはいたが。身振り手振りをするその活力から判断すれば、彼の痛みも同じように消え去っていた。彼はその冷笑する仮面を手に持ち、それと口論をしていた。

「お前さんは、何だ、俺が自分の治療された事にそんなに大喜びしてお返しにお前さんにこの俺の体そのものをホイホイと提供するだろうと思ってたのか? この暴君め、この悪魔め、俺はお前さんの企んでるその陰謀なんぞには一切加担しないよ。俺は俺の健康を手に入れた、お前さんは俺の感謝を手に入れた、そしてその二つが俺たちの間で交換された贈り物の全てだよ」彼はその仮面を自身の右手から投げ捨てた。

それは彼の左に再び現れた。彼はそれを睨みつけた、氷のような目で。それは彼を笑った、嘲るように。それが言葉を発した時、それの声は毒液を滴らせた。「お前はまるで今まで自分に選択肢があったかのような振る舞いをするのだな」その黒の君主が自身の吊られた王への忠誠心を示す唯一の行為を行うのと同時に、それの口から漆黒の巻鬚の群れが蛇の如くぐねぐねと蠢き出た: 「何人たりとも仮面を被らずしてアラガッダを歩いてはならぬのだ!」


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