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──私は赦されない。


学生時代、ただひたすらに勉学に打ち込む日々。元々友人は少なかった。いや、実際には友人と言える存在はいたのかもしれないが、私にとってはそこまでの関係と思える人物はいなかったように思う。始まりは小学校の頃だっただろうか。私は、一言で言えばいじめられていた。それ以来だろう、人を心から信用できなくなっていたのかもしれない。中学校に進学してからも、高等学校に進学してからも、同じだった。繰り返すいじめの日々に私の心は酷く醜く歪まされたに違いない。

誰かに認められたい、それだけのために意味があるのかどうかもわからない努力を長くしてきたのに。結局誰からも認められることなどなかった。

凍てついた日々に光が差したのは大学に在学していたときだった。今はSCP-████-JPとして財団に収容されている異常存在。偶然にも、私はそれに出会ったのだ。私は尋常とは言い難いその存在に、強く、強く惹かれてしまった。私は、救ってくれたエージェントに一言だけ言った。陳腐でありがちな常套句。

“僕を仲間に入れてください”


初めて今まで死に物狂いで行ってきた努力が報われたと思った。私は幾つかの段階を踏んで財団の研究員となることができたのだ。そこで出会った異常存在たちは、いつ殺しにくるかもわからない恐怖だけではなく、“正常”という鎖に縛られていないその姿で果てしない魅力を感じさせた。私はとにかく知りたくなった。異常がどこまで異常であるのか、ひたすらに知りたくなったのだ。

努力をすることには皮肉にも慣れていたから、アノマリーの研究にも容易く精を出すことができた。自分から見ても、周囲の職員より成果を出せていたように思う。そうして、財団の一員となって早くも私は博士の地位を獲得することができた。少ないとは言えない成果が認められたためだ。自身の研究室を手に入れることすらできた。

研究室に入った他の職員たちも、非常に優秀で役に立ってくれた。私のことを信頼してくれて、私も彼ら彼女らを信用していた。ここにきて痛感したことは、仲間と言える存在は本当に重要だということだ。ただでさえ異常な存在たちの研究だ、独りよがりの調査では何1つ進歩など得られはしない。お互いに歯に衣着せぬ意見を言い合えたからこそ、少ないDクラス職員の消費でアノマリーの特質を把握し、適切な収容方法の確立ができた。

やがて私の研究室は多数の成果を出し、サイト内で一二を争う優秀な研究室として注目されるようになった。認められただろう、そうだろう、そう思ったりもした。だが。

どうだろう。研究室外の職員たちの様子は、まるで私と話したくない、近寄らないで欲しいという風に見えたのだ。私は、認められたのではなかったのか?みなから信頼されて、みなで協力してアノマリーの研究に収容を行えると思っていたのに、とにかく周囲は私に対して冷めていた。どうしてなのか全く理解できなかった。


ある日、私の研究室の職員たちからこう言われた。

“ここの研究室から出たいです。耐えられません”

わからなかった。どうしてなのか、訪ねる以外何もできなかった。

“もう、凍田博士とともに何かをしたくありません”

私は何か、酷いことをしただろうか?

“あなたのことを、赦しませんから”

理解できない、何をしたんだ私は。私は、一体何をした!?


一人、一人、また一人と私のもとを去っていって、誰も何も残らなかった。職員の中には何故だか怯えた目で私を見る者もいた。理由は、どれだけ考えてもわからなかった。

最後に私は、また、独りになってしまった。

SCP-1777-JPの調査、その途中に私は異常の影響を受けてしまった。今思えばこれは僥倖だったのかもしれない。私は新たな被害を拡散しないためにも研究室への一切の入室を禁止したが、そのようなことをしなくても誰一人として私の研究室に訪れる人などいなかっただろう。

もう耐えられなかった。

誰も私のことなど信頼していなかった。

私は私を収容したくなった。

永遠に、誰の目にも触れることなく消えてしまいたかった。


封じ込めの日。

“先日もお伝えしましたが、提案の承認と内部探査の申請を許可していただいたこと、心より感謝します。撮影機器と遺体の処理は完了しました”

彼女も最期に独りになってしまった。

“これより、内部探査を始めます”

私にとっての最初で最後の探査だ。さあ逝こう。

“SCP-1777-JP-Aの出現を確認しました。気にせず進行します”

今更こんな異常に驚きなどするか。お前から与えられる意味不明な恐怖など、私の苦しみに比べたら何でもない。

“その、すみません。どうしても怖いのです”

だがどれだけ強がったって、結局異常には勝てないのだ。かつて私を魅了したそれは、今ではただの恐怖の象徴でしかない。歩く、歩く、ひたすら歩く。怖くても、気持ち悪くても、吐きそうでも、とにかく道を進むのみ。くねった道と狂ったモザイクは、まるで私の人生を表しているようだった。歪な私の、人生の具現。

“ほん、本当は、逃げ出したくて仕方ないのです”

図らずも本音が出る。自身に嘘をつくのもやっとになっている。

“あ、ああ。申し訳ありません。意識を失っていたようです。進みます、前進します。諦めるわけにはいきませんから”

そうだ、諦めるわけにはいかないのだ。どうせ先にあるのは私の死だけだろう。諦めず、死へと歩みを進める。

“まわ、景観がかなり狂っています。森の……その、ほとんどはモザイクに覆われています”

そうだった。結局、恐怖ばかりの人生だったんだ。私は周囲に怯えていたから、認められて人々の輪に入りたかったんだ。

“既に……森はモザイクに覆い尽くされました。どこをどう見てもモザイクです”

認められさえすれば、きっと人々と仲良くすることもできるだろうと思ったんだった。でも実情はそうではなかった。目に見えない恐怖は常に私の周りを覆っていて、私はそこから抜け出せなかったんだ。うわべしか見ていなかったんだ。みな笑顔で私と接してくれたのも、私のことを信頼していたのではなく、私に怯えていたからこそだったのかもしれない。自省が足りなかったのだろう。最期まで、何がダメだったのかすらもわからず死ぬことになるなんて。

“過去も未来も現在も、全てモザイクに埋め尽くされているんです”

今、私は真実を突きつけられている。

“この先に何が待つのかを調べる、そのことだけを思って”

分かってるんだ、どうせ先に何もないことなんて。でも最後だけでも私の努力が報われるのではないかと期待してしまって。

“道が、道が途切れました。完全に、これ以上先がありません”

最後だ。

“そうか。そうですか。結局、どれだけ諦めずに進んだって、先はもうない”

最期だ。

“ああ、終わり。終わり!終わりだ!”

私は報われなかった。結局誰にも認められなかった。

“もう、ここから一歩進むだけで、全て終わる”

何がいけなかったのだろう。どうして誰にも受け入れられなかったのだろう。何のために今まで努力してきたのだろう。

“それでも私は頑張った”

実績なんてうわべでしかない。縋る姿はなんとも醜い。

“ありがとうございました”

うわべだけの感謝の辞。

“進みます”

私は赦されない。























































もういやだ。

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