お仕事の依頼
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「まったく、こんな事に呼びつけないで欲しいんだけどな」
 薄暗い地下室に差前の声が響いた。椅子に座り、『専用の』腕置きに右手を固定した結城がいた。
「まあ、クマばーさんの頼みは聞いてやるけど、ね」
「いつもありがとうございますね」
 結城が笑う。
「思うんだが、全部そういう個体に作っておけばいいんでないの?」
「今回は特に事情もありまして」
 へぇ、と興味なさげに差前が相槌を打つ。
「ま、始めますか」
 いつものトランクを開ける。その中にはガラクタでは無く様々な刃物があり――差前は一降りの牛刀を取り出した。
 いつも通り痛覚は切ってあるのだろう。前もそんな事言ってたな、と思い出す。
「そんじゃ、いきますよー」
 所定の位置へ構える。刃物は、謂わば指先のようなものである。
 その所作は呼吸のように滑らかで、故に差前は見逃していた。
 ――骨が断たれる音が聞こえた。
 差前は見間違いかと思った。結城の唇の、奥歯の、食むさまを。
 ――結城の喉から、絞られた貂の音が漏れる。
 これは痛みを堪えている表情だ。
 牛刀を取りこぼす。差前は自らの口を両手で塞いだ。笑みを隠す為である。
 がたりと椅子が揺れた。足先を握りしめたせいだ。
「これは、なかなか、ぅ、激しいですね」
 肩を震わせ。荒い息で。結城が呟いた。
 ヒヒ、と差前が、SM_Lが笑い声を漏らした。
 大きく息を、そのままそれを飲み込む。
「いやいや、ばーさん、なに、痛覚切ってなかったの?」
 止血を。髄に響いた結城の表情に思考がしばし胡乱であった。差前は急ぎ、結城に止血を施す。
「…はぁ、すこし、落ち着きました」
「前は痛覚切ってたろう?」
 なんでまた、と差前が訪ねる。
「ええ、折角お仕事を頼んでいるのですから、不意の方が、嬉しいでしょうと思いまして」
 未だ残る痛みに耐えながら、にこりと笑った。
 差前の口角も醜く歪む。
 これだ。これがあるからこのばーさんの相手はやめられないのだ。
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