そして人生は廻る
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 家の近くのバーだった、今でも覚えてるよ。…いや、正確には思い出したと言うべきか。
 あの日俺はやっかいな仕事を片付けて、いつものバーで飲んでたんだ。その店のマティーニが好きでね、確か3杯飲んだかな。
 そんな折だ。地元のギャングだかマフィアだかが店の中で撃ち合いを始めやがった。どっちが先にふっかけたかは覚えてないけど、酷い有様だったよ。マシンガンだかカービンだかを乱射しまくっててな、カウンターに座ってたイケてた女が蜂の巣になってた。
 いい感じに酔ってたアタマはもうスッキリさ。何とかしないと俺も殺される。そう思うのは自然だろう?
 だから何とかしたんだ。
 連中の死体から銃を拾って、よく狙って、引き金を引く。ガキだって出来ることだ。
 そいつを10回、いや12回だったか。そんだけ繰り返してようやく辺りが静かになった。
 飲み直そうと思ったがバーテンもどっか行っちまってたからさ、仕方なく家に帰ることにしたんだよ。店を出たところで警官に取り押さえられた。
 冗談じゃない、こっちは被害者なんだ、目撃者だっている。そう、俺の他にも生き残ってる客どもはまだ居たんだ。そいつ等が証言してくれれば俺の潔白は明白だった。
 他の客共は口々に証言してくれたよ。「この男が全員撃ち殺した」ってね。

 そんなわけで俺はめでたく死刑判決をいただいた。お高い弁護士先生なんか雇えなかったからな。
 まあ、うん。ちょうどよかったよ。正直言って仕事もキツかったし、家族もいないし、趣味と言えば釣りくらいだ。このままでもいずれクスリかなんかでドロップアウトしてただろ。その辺でのたれ死ぬよりは死刑になった方が、死体の処理とかまだマシなんじゃないか。
 刑が確定して、大体1週間が過ぎた頃だ。俺に面会したいってヤツが現れた。
 そいつは真っ黒なスーツを着て真っ黒なサングラスをかけて、変に訛った英語で喋るヤツだった。なんでもスカウトマンらしい。死刑囚をスカウトするなんて聞いたことがない。
 そいつの話では、スカウトを受けて簡単な仕事を1ヶ月こなすだけで、死刑は免除され第2の人生が遅れるらしい。
 バカなのか? そんなうまい話があるわけないだろ。死刑囚をハメてどうする気だ?
 だが、その時の俺は不思議とそいつの話を受け入れちまった。死ぬのなんか怖くないと思ってたんだけどな、もしかしたら無意識で怖がってたのかもしれない。俺はスカウトを受けることにしたんだ。

 3日もしないうちに俺は移送されることになった。刑務所からはまず護送車に乗せられた。途中で俺をスカウトしたスーツのグラサンと合流し、そこからはアイマスクとヘッドホンをつけさせられた。途中で多分グラサンに手を引かれ、2回くらい車を乗り換えたな。それと多分、エレベーターかなんかで地下に潜ったと思う。アイマスクとヘッドホンで詳しいことは全く判らなかったけどな。
 目隠し耳隠しを外したのは、真っ白な部屋だった。雰囲気は刑務所……ってよりは病院に近いと思う。そこで簡単な健康診断を受けて、4人部屋に割り振られた。そこも刑務所ってよりは病院っぽかったな。トイレは一応個室だったしさ。
 一応、ってのはアレだよ、そこかしこに監視カメラがついてんだよ。刑務所よりもその辺は厳重だった。プライバシーなんてあったもんじゃないな。
 新人のためのオリエンテーション、みたいなのもあった。刑務所のそれよりはどっちかって言うと軍隊っぽかったな。そう、お前はウジ虫だって言われるアレ。逃げたら死ぬぞみたいなことは繰り返し言われたよ。今思えば変だよな、「殺す」じゃなくて「死ぬ」なんだぜ?

 最初の仕事は、コンテナの掃除だった。正確に言えば掃除じゃあないな、俺はコンテナの中の、その、コンクリで出来たオブジェみたいなのを見張ってただけだ。スリーマンセルで1人がコンテナの掃除、残りの2人でオブジェを見張る。「目を逸らすな」「瞬きは1人ずつ行え」とはお偉いさんからの指示だ。
 これを破ったらどうなるかってのは、その翌日に知った。首がねじ曲がって頭をブラブラさせてる死体を運び出すときにな。いくら何でもこんな風には死にたくねえ、電気椅子の方がまだマシってもんだ。
 次の仕事はケーキを食うことだった。……いや言いたいことは判るよ、だが冗談じゃないんだ。でかいテーブルのある部屋に連れてこられて、200個はあるだろうってケーキをひたすら食えって言われた。俺以外にも4人は居たかな。全員でひたすら食って、2時間くらいはかかった。頭よりデカいサイズのケーキもあったからな、その日の夕飯はムリだった。そんな仕事が3日続いた。4日目以降はケーキ食う仕事は無くなったな。俺がダウンしたからだ。医者センセー曰く「甘い物たべすぎですね」だとさ、血糖値がヤバかったらしい。
 その後も色々仕事があった。あめ玉舐めたら体が天井に腰をしこたまたたきつけられたり、イカしたマルチツールで金属ラックを直してると貧血でぶっ倒れたり。ばかでかいトカゲに他の連中と一緒に入れられた時はさすがにヤバかったな。トカゲが大暴れしてさ、突き飛ばされたヤツの下敷きになってそのまま気絶しちまった。
 そんなこんなで1ヶ月だ。連中は約束通り、俺に第2の人生をプレゼントした。新しい名前と顔、戸籍が用意され、ネブラスカの片田舎でセカンドライフだ。これで時計修理工としてはなかなか評判が出たんだぜ。そんな暮らしが10年だ。でもおかしいよな。たかが10年前に引っ越してきた俺が代々続いた時計職人として扱われてるなんてよ。
 ご想像の通りだ。新しくなったのは顔と名前と戸籍だけじゃねえ。俺の記憶ごとだ。最初に言ったな? 俺は釣りはそこそこイケるが、それ以外はからっきしだ。時計なんて直せるわけねえんだよ。それも代々続いた? 悪夢だ。俺の生まれはカンザスだぜ? ……もっとも、それを思い出したのはつい昨日、アンタらに連れてこられてからだ。あの妙なヘッドギアは良く効くなぁ。もう2度と付けたくはないがな。
 息子がいたんだ。ああ、いつも店を手伝ってくれていた。あいつ……あいつは監視役だったんだろうな。俺には子供なんかいなかった。独身だったしな。

 さあ、俺に話せることはこれくらいだ。
 あとはどうする。別に処分されるのはここでだって構わんよ。死刑囚にしては充分に余生を送ったさ。このまま店に戻ってもどうせあの連中にふん捕まっておしまいだろうしな、アンタらもアイツらと大して変わらん組織だろう? 世界……オカルト? オカルトかあ…。オカルトにしてはずいぶん科学的なんだなぁ? ハハ…もっとこう、儀式とか降霊とかチャネリングとか、オカルトってそういうのじゃないの? あ、そういうのもやるの、そう…。
 でもまあ、処分されるなら早いほうがいいよ俺は。監禁されっぱなしだとチキンレースみたいでイヤなんだよな。できれば薬物がいい。アレだよ、食塩水、麻酔薬、毒薬って注入していくアレ。電気椅子って痛そうだしさあ、銃殺もちょっとな。
 なに、処刑、しないの? 俺を? スカウト? エージェント? 俺が?
 いやいや、何言ってんだアンタ。40過ぎのおっさんに何期待してんだ? ボンドみたいな活躍期待してるなら他を当たるべきだぞ?
 ……そうか。店をやりながら、定期報告を。なるほどな、監視されていることを逆手に取るんだな?
 なるほど、……判った。アンタらに協力しよう。そう、手先になってやる。
 それで、その、なんだ。報酬とかは出るのか? 安全の保証。なるほど、十分な報酬だな。それじゃあ交渉成立だ。生きている限りアンタらに定期報告をするよ。
 そうと決まったら帰らないとなあ。ここがどこだか判らないが、家までどのくらいでつくんだ? 明日? マジかよ……「息子」にいいわけ考えないとな。
 
 
 


 

定期報告書: B2283-12-3132
送信元: エージェント: ジョン
報告: 被験体DA-3321-D-2123の長期記憶処理実証実験について。
日付: 20██/██/██
本文: 被験体にGOC構成員が接触、ポイントγにて2日間の尋問を行いました。
その際記憶処理の解除が行われ、実験開始時に施した記憶処理が除去されました。これは計らずして、当財団の記憶処理技術の記憶保全性を実証した事と言えます。
その後被験体はベースポイントへ戻り、平常通りを装っています。
この状況はGOCのモニタリングに利用できます。長期記憶処理実証実験終了と同時に、任務更新を提案致します。

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