ユーリカ・ヘウレコの恋心
評価: +29+x

サイト-8181の食堂。ユーリカ・ヘウレコは野良光希を待ち構えていた。寿司を彼に提供するためである。

1ヶ月ほど前、いつもの通り野良光希を観察している時のこと。近くを通りかかった吹上人事官に「ストーカー行為もほどほどにしないと本当に嫌われるよ?」と言われたのがきっかけだった。彼女にとって野良光希はすべてである。嫌われるのは死も同然である。好かれるために料理を学ぶことを決めたのはその時である。
本人に何が食べたいか聞いた時に返ってきた答えが寿司である。ユーリカは野良光希のためなら何でもする。彼に最高の寿司を提供するために修行に出たのは当然の帰結だった。1ヶ月間彼に会えないという制約は彼女にとって地獄だった。しかしその先には彼の笑顔が待っている。そしてプロポーズ、ウェディング、ハッピーエンド! すべての道は結婚に通ずるのである。

「ユーリカちゃん、これ何?」

さぁ、本人の登場だ。ネタは既に取り揃えてある。大よそすべての寿司ネタを最高の鮮度で用意した。コーンやハンバーグなどの変化球のネタも用意してある。テンプラ、うどん、カレーなんかも一応用意してある。最近の回転寿司チェーンは品揃えが多いが、彼女だって負けてはいないのだ。そして品質はそこらの高級店よりもはるかに高い。そう、全ては野良光希のため。

「見ればわかるでしょ。私、光希ちゃんのためにお寿司のお勉強してきたの。ほら、光希ちゃん『お寿司が食べたい』って言ってたでしょ。光希ちゃんに私の握ったお寿司を食べてほしいから、この1ヶ月光希ちゃんに会うのを我慢して頑張ってきたのよ。ねぇ、光希ちゃんたべてくれるよね。ねぇ?」

さぁ、どんな注文でも受け付けよう。寿司職人、ユーリカ・ヘウレコの戦いが―――

「ごめん、もう僕晩御飯食べたんだ」

―――始まらなかった。

「…………え?」
「いやぁ、今日は徹夜になりそうだから早めに取らせてもらったんだよ。波戸崎君と一緒に唐揚げ定食、おいしかったよ」
「え、じゃあどうしてここに……?」
「食器返しに来たんだよ。持ってきてもらったから、返すのは僕ってことになったの」

呆然とするユーリカ。野良博士は申し訳なさそうな顔をしつつ

「ごめんね、今度はちゃんと食べるから。また今度ね」

とだけ言って研究室へ帰っていった。取り残されるユーリカ。周りにいる職員の視線が痛い。俯くことも顔を上げることもできずただ茫然としていると、吹上人事官が近づいてきた。

「まぁ、ここにいるみんなに振る舞えば? どのみち消費しないといけないだろうし……野良君には今度、ね」
「…………はい」

それからのユーリカは鬼神のごとく寿司を握った。恋する相手へではないといえ、磨きに磨かれた彼女の技術は最高のネタを最高の寿司へと変え、職員の舌をうならせて感動させた。実に恐ろしきは恋心である。
吹上人事官が料金を徴収してくれたおかげで、材料用意のために生じた借金がいくらか減ったのは余談である。ちなみに彼女に少しは気にしてもらいたいと思ってのことだった。実に恐ろしきは下心である。

前者が報われる日は、いつかきっと来るだろう。きっと、たぶん、may be。後者についてはない。絶対に、確実に。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。