コレジャナイ・エージェント
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「さて、財団エージェントとして君たちは選ばれたわけだ。厳しい試験があったが、財団での業務はそれ以上に大変なものだ。しばしばSCPは君たちを殺すし、様々な敵対組織との戦闘が起こりうる。しかしだ、先任のエージェントに倣い、勇敢かつ慎重に立ち向かえば、きっと君たちはこの世界を影から救う英雄となりえるはずだ。頑張ってほしい。……以上だ」
如何にも厳めしい、軍服姿の壮年男性の訓示を受けつつ、新人エージェントである北大路は不安と、期待と、好奇に胸を膨らませていた。
常識によって成り立っていたはずの北大路の人生を変えたあの、恐ろしいSCP。影じみたそれが何だったのかは、彼のセキュリティレベルの範囲外だ。だが、友人、そして家族を奪った、あのような惨劇を起こさないために、記憶を消され平和な日々に戻るのではなく、財団のエージェントとして、常識の、普通の世界を破壊するような存在を永遠に隔離し、収容し、保護する。そう誓ったのだ。
如何なる冒険が待っているのかは分からない。過酷な任務があり、理不尽な死が訪れるかもしれない――否や、いずれ訪れるだろう。己の家族を襲ったように。
だが、その時まで、少しでも自分のようなSCPの被害者を減らしたい。一人でも多く。

「さて、ではこれより財団職員として、先任エージェントのうち誰の元で仕事をするかを決定してもらう。担当者による講習がこれより一週間の間行われるので、じっくりと話を聞いたうえで誰の元に付くかを決めてほしい」
軍服男がそう言うのを聞いて、北大路は「いよいよ来たか」と思った。歴戦の猛者たる先任エージェントだ、きっと一筋縄ではいかぬ人物揃いに違いあるまい。これからの講義を聞き、そしてどのエージェントと共に戦うか。それがこの先の生死を分けるに違いあるまい。
きっとSCPとの戦いに明け暮れてきた勇士たちだ、軍服男とは比べ物にならないほど厳めしい面々がそろっているに違いない。
「では、先任エージェントの皆さんに入ってもらおう」
軍服男の言葉とともに、ドアが開き、そして歴戦の勇士たちが……うん?

最初に入ってきたのは下腹の少し出た中年男――巨大なアタッシュケースを下げ、スーツを着崩してサングラスを額に乗せた姿は、とても歴戦の勇士には見えない。それどころか、中国か東南アジア辺りの怪しい商人といった風体だ。
その後ろからぴょこぴょこと早足で駆けてくるのはどう見ても女子小学生、歳を高く見積もっても中学生に見えればいい方の、陸上自衛隊のコスプレをした子供だ。口にでかい棒キャンデーを咥え、左手にポテトチップスの大袋を抱えている姿はロリコンのケがある連中には魅惑的でも、財団の先任エージェントなどとは到底思えそうにない。
だが、その二人はまだよかった。人の形をしていたからだ。問題はその後ろから、ぶんぶんと蜂が唸るような音を立てつつ飛行し、10本を超える触手状の機械腕を吊り下げた異形の水槽と、その内側でハンドルやレバーを握る小さなカナヘビが現れたことだった。
「紹介しよう。こちらがエージェント・差前、エージェント・餅月、そしてエージェント・カナヘビだ」
「よろしく頼むぜ」「よろしくねー」「ほな、よろしゅうな」
差前が太い濁声で、餅月がアニメ声優のような甲高い声で、そしてカナヘビがボーイソプラノの京言葉でしゃべったのを聞いて、北大路は思った。
「こ……これじゃない……」

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