打ち止め
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たかが彫刻ごとき、ハンマーで一振りじゃない?

君は彫刻に近づいた。十二分の勇気を胸に。

ガチャン。


Apart ‐ バラバラ

そして全てが終わった。不思議で不気味で人を数多く殺してきたやつが、クソトカゲすら震え上がらせてみせたやつが、もしかすると世界をも壊せると噂されていたやつが、これで床に散らばる無数の細かいつぶてに成り果てた。

ほっと息を吐いた君は、拍子抜けしながらも興奮し、額の細かい汗を拭き取る。シュッ、と何かが地面をえぐる鋭い音がした。目をやると、右のふくらはぎには、つぶてが深く突き刺さっていた。ポキリと、枝を折るような不吉な音が鳴り響く。

激痛を感じ取るよりも前に、君は知覚を失った。体が横に倒れ、歪んだ視界には鋭いつぶてに覆われている自分の体が現れる。

一つになれば、彼らは神になる。だがバラバラになれば、彼らは神々になるだろう。


Brooding ‐ 育雛

まだ形になっていない、粘液にまみれたまばらな羽根の付いている幼い翼が穴から突き出すと、哀しげな鳴き声を上げた。彫刻、あるいは卵殻とも言えるものがパラパラと剥がれ落ち、あまりにも早くその皺だらけのピンク色の体を、この世に産まれ落ちるべきではないモノをこの世に産まれさせてしまった。

悲鳴は鼓膜を劈き、彼方のまた彼方へと届く。首から冷たい感触がした。折れる前に、それは一対の鋭い爪だったと君が意識した。

雛鳥のあまりにも早い目覚めに、成鳥も巣に帰ってくるだろう

Caesarean - 帝王切開

君の視線は、破壊されたコンクリートの破片と膿と糞を通りぬけ、穴の中から現れた小さな彫刻へと落とされた。それは外の彫刻とそっくりだった。同じようなバランスが取れていない人型、同じような不気味で奇妙な彫刻様式、同じような不恰好で無粋な塗装。そしてーー

ポキッ。

同じようなお手並みだった。


Digest - 消化

周囲の壁がねじれ、蠢きながら柔らかくなり始める。滲み出る粘液と急な温度上昇に、君は呼吸困難に陥った。ピンクに帯びた緑色の触手が、かつてドアと呼ばれていたピンク色の空洞から伸びてくると、君が過去に学んだ生物学の知識は壊れかける思考と震える耳に囁きかけた。

擬餌擬餌擬餌鮟鱇囮蠅捕草蠅捕草擬餌擬餌――――カチャン。


Emoji - 絵文字

君はノミをやつの背後に当て、右手でハンマーを振り上げる。決定的な一撃を振り下ろそうとしたその時だった。その彫刻はいつの間にか君に顔を向け、蝿の目のようなスプレーが君の両目を見つめて、そしてゆっくりとある表情を見せたのだった。

Finale - フィナーレ

ピアノ、トロンボーン、ピッコロ、アコーディオン、ドラム、オルガン、二胡、ギター、水音、ガラスが割れる音、スイカ割りの音、肉を切る布を千切るような音、罪と罰の第一章を読み上げる男性の声、屠畜場の包丁が空を切る音、工事現場で煉瓦が積み上がる音が織り交ざって―――

しかし、その中でもポキリと首が折れる音がもっとも軽快だったと君は気づいた。


Goggle - ギョロつき

穴から発せられた視線は君を怖がらせた。しかし、もっとも君を怖がらせたのは、その視線を発したのは目か複眼か、はたまた盲目の目かが完全に分からないことだった。君が知るのは、やつが君を見つめているということだけだった。決して視線を向けられることのないモノが、それでも視線を欲するモノが、君を見つめているということだけだった。

神話は語る、メデューサは見たものを石に変えると。そして、石像は首の部分が特に脆弱だと言われている。


Huddle - ひしめき

君は見た。その中身を。ぎっしりと詰まっている、舌を垂らす人々を。充血で紫色になっている、ひしめき合う四肢を。互いを圧迫して、血があちこちから迸る体を。突出しながらも、怒りを込めている彼らの眼球を。

君はがむしゃらに中に入ろうとした。自分の体で穴を埋めて。その彫刻の穴を!中に通じる穴を!君の首は彼らに折られてしまった。しかし、君を止めることは出来なかった。君は止まることが出来なかった。

君を邪魔するものは存在しない!誰も!!!

内側に入る。内側になる。


Invisible - 不可視

解体が進むにつれ、コンクリートくずが床に落ちて、ゆっくりと消滅していった。君は、氷を溶かすように彫刻を破壊したのだ。やつが跡形もなく消えた瞬間、君はほっとした。しかし、君はなぜか急に感じ取ったのだ、やつがまだここに居る、と。慌てて、再び見つめなおそうとして――


Jab - 痛恨の一撃

突如として、ダイビングスーツを着た図体の大きい男が現れて、君の手に持つハンマーを掴んだ。

「若者よ。無駄な道具に頼るのではなく、自分の力を正しく使え」と、男はハンマーを取り上げ、君の拳を握らせた。

両拳から力が漲る。君は思わず、彫刻の穴から現れた敵に殴りかかった――

穴から現れた、一匹のサメに。


Karat - カラット

鉱夫、鉱山、裏切りは定番のテーマらしい。マコンドの土砂降りの雨季に、ウルスラは大金の詰まった聖ヨハネの石膏像を彼女に預けた人を待ち続けたが、結局会えはしなかった。あの三人の鉱夫は、どうやらまたルビーの詰まった彫像を、ヒスイの詰まった壺を、真珠の詰まった箱を、珊瑚の粉末が詰まった匙を、ビー玉の詰まった袋を隠したらしい。やがて、彼らは完璧な彫刻を作り出し、互いを裏切れば彫刻に殺されると誓った。

と、彫刻の中に入っていた、巨大なダイアモンドを抱える三体の死体に目をやりながら、君はそう思った。


Liberated - 解放

やつの動きが不可解でぎこちなかった。君は呆気にとられた。

コンクリートだった材質が、今は肌のように柔らかく見える。やつは部屋の中で嗅ぎまわり、あらゆる動きを察知するようになった。まるで、一本の足を無くしたクモのように。

一瞬、やつは君の目の前を横切り、君の隣にいる哀れな同僚に襲いかかった。ポキッ、と首が折れる音が狭い収容室の中に響き渡る。不幸な死者は、悲鳴を上げる間もなく床に倒れた。君はその場に動かないように努力した。仲間の死で悲鳴を上げるのも我慢した。部屋の隅?ドアの敷居?それとも天井?どこが安全エリアなのか?君の心臓は緊張で鼓動を強め、やつの獲物をさがす音すらも遮った。じっとしていろ……そうすれば、やつに見つかることはない……

ルールは変わった。だるまさんがころんだの遊びなのは変わらないが、我々こそ獲物であり、やつが我々の設ける制限を従うはずもなかった。


Module - モジュール

彫刻の表面から、茶褐色を帯びた白い数字の奔流が立ち昇り、小さな収容室から抜け出して行った。それは一つの何気もない行為、十二年の歳月、何千何万の賛辞と、数多くの人々の血を吐くような努力だった。

君は勇気を振り絞って、彫刻を強く揺らしてみた。すると、パタン、と手の指くらいの太さの何かが欠けた穴から出てきた。君はその何かを拾って、これまでに触れたことのないすべての評価基準をまじまじと見定めた――

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Normal - 正常

「で、俺らより懲役が3ヶ月分多いのは、コンクリートの塊をバラバラにしたせいだって?」

「クソ、俺だってやりたくてやったわけじゃねーよ」


Origin - オリジン

次の瞬間、君は後悔した。

彫刻の穴から、清冽な泉が湧き出したかと思いきや、それがすぐさまに灼熱な紅水晶に凝結した。その水晶はまたゾンビの手のようなものに叩き潰され、彫刻の穴が一杯までに広がった。そして、何もかもがその穴から出てきた。鳥の嘴のマスクと黒いガウンを纏う、救世に溺れるペスト医師。手に黒き凶刃を握る、狂気溢れる強きシュメールの半神。顔を隠し、泣き喚きながら突き進む照れ屋。名付けることも話すことも不可能な球体でないもの、そして……

次に待ち受けるものが何なのかは、君はもう分かっていた。凶悪な蜥蜴が君の首を噛みちぎるまで、彫刻から最後にこの世に顕現した訪問者――灼熱な炎を纏う天使が命令を下したのを君は見た。

「準備を。」


Project - 投影

カン。

軽快な音と共に、彫刻の表面にヒビが広がった。

中には何もなかったようだ――不気味なものも、世界の終焉も、異常な反応さえもなかった。

十分、満足の行く結果と思われたが……

……サイトを出ると、星空に同じようなヒビが入っているのを君は見た。


Quitter ‐ 諦め

「何をしてやがる!彫刻を見つめるのを手伝うんだ!この死にたがりが!」周囲にいる仲間は君に罵声を浴びせた。

「は…はい…」君は不本意ながらも、ハンマーを降ろした。


Relay - 代わり

ハンマーを振り下ろすと――どうなっているんだ?

君は壁に向かっていた。手を握ってみると、ハンマーの存在を感じなかった。振り返ろうとするも、体が動かなかった。俯いて自分の体がどうなっているかを確認しようにも、なぜか失敗してしまった。背後には、誰かが笑っているのを感じた。絶え間なく視線を注がれていることに、君は毛が逆立ったような感覚を覚えた。

名状しがたい嫌悪感と嘔吐感が君の脳内へ侵入した。

「いやだ、見つめないでくれ!」


Sculptor - 彫刻家

石膏へら、キャリパー、下げ振り錘、ボール紙……形種々様々の道具が穴からこぼれ落ちた。ならば、完全に破壊された彫刻の中から現れた、死んだ男の身元も見当がつくだろう。

男の表情は、恐怖と憤怒に染まっていた。彼の手は彫刻道具を握ったまま、圧断された首は奇妙な螺旋状にねじれていて、剥き出しにされた骨格も干からびたかさぶたに覆われている。彼は信じていた。彼の作品は最高のものであり、近所のクソジジイが作ったお世辞にも玩具としか言えないガラクタよりはずっとましだということを。

しかし、彼は天使に出会えなかった。彼の傑作に命を吹き込んだのは、人の首を絞めることが大好きな悪魔でしかなかったのだ。

彼は後悔しているのだろう。きっと。


Transform - 変形

彫刻はそもそも動かない。

目を逸らしたって、彫刻が君の首を絞めてくるわけがない。

つまり、こういうことだ。我々がやつに注目していない間、やつは彫刻などではない。


Unbroken - 破壊不能

まあ、そうなるな。


Voiceover - ボイスオーバー

ドアを開けた途端、どこからともなく、朗々とした男性の声が聞こえた。「…は1993年にサイト-19へ収容されました。素性は未だ不明です……」

君は警戒しながら、周囲を見回したが、声の発生源はわからなかった。部屋の外も確認しようと思ったが、なぜかドアが開かなかった。ようやく何かがおかしいと気づいた君は、彫刻を注視しながら、ハンマーでドア枠を何回も叩いた。記事は間もなく終わる。しかし、読み上げが終わるかは、まだ未知数だ。

次第に、その声は厳かに、けれどどこか悲しげに、今日の日付を読み上げた。そして……


Wisdom - 知恵

彫刻の胸部に埋め込まれていた種はその瞬間に裂けて、弾けた。生命の汁液が迸る。君の、そして全人類の血に眠る太古の記憶は呼び覚まされる。楽園、双樹、蛇、失楽園……我らが先祖が禁断の果実を齧ったことで追放されたのならば、失敗した創造物が幸運にも果実にありつけたことも有り得ただろう。

聖樹の恩恵を蒙ったところで、やつは何を学んだというのか?やつは麦田の中で、カインがアベルの首を切り落とした惨劇を目の当たりにし、首が人間の最も脆弱な部分だということを意識した。やつはケルビムの剣に焼き払われるノドの地から逃れるため、駿足の力を身につけた。

だが一番重要なのは、知恵の実によって、やつは恥じらいを覚えた。それ以来、やつは人の子の注視を嫌うようになった。なぜなら、やつは不完全なのだ――創造主の廃案の一つでしかないやつは、人の子が羨ましくてしようがないからだ。

確かにやつははじまりオリジナルとも言えるだろうが、どうも神は工作が苦手だったらしい。


X=target;
setting up data…
readIn(Watched);
#Watched="none"
> run destroy X;
target found.
error:couldn't found feedback
error:couldn't found feedback
error:couldn't found feedback
#Upkeep Process Broke Down
test SubjectExistence;
SubjectExistence="none"
#process {The Original} failed


Yourself - 君自身

手にハンマーを持つもう一人の君が、彫刻の向こう側から現れた。


Zero - 虚無

やつはすべてのはじまりであり、そしてすべての終わりにもなるだろう。数千年の間、財団はどこまでも突き進んできたが、そろそろ終章を綴る時が来た。ガチャン、とコンクリートの塊が破砕していく。

はじまりオリジナル打ち止めラストオーダーとなる。

おしまい。

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