誰も知らぬ敗北
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200█年05月10日時刻は午後2:17、あー・・・報告する程の事でも無いかもしれないんだが、異常かもしれん。念のために記録をとっておく。
北海道北見市████████████にて、複数名の不明の男女を発見した。動物園の客じゃあない。
着物・和装、草履等の古風な衣服を着用し、特に無目的に園内を散策しているように見える。
確かに人目を引くが、ただの人間のようにしか感じられない。衣服が古めかしい事は、財団が定める「異常」のガイドラインには無いだろう。

しかし妙だ。妙だと感じるのは確かだ。
いつもなら園内でところ構わずクソをたれてるキツネどもを、今日に限っては一匹も見かけない。
関連性は今のところ不明だが、異常性は現在見られない。よって独自に調査してみる。
まずは、不明の男女の人数を確定させる。この数が、園内にいるはずのキツネどもの数と一致しないことを祈る。


同年同月同日時刻は午後2:35、不明の男女の人数が、記録されている園内のキツネの匹数と一致した。
なんてこった、平和な任務だと思ったのに・・・
人数の調査とあわせていくつかの個体に接触を試みたが、ちらりと一瞥された後、無反応のまま立ち去った。単独での捕獲は、一般人への影響を考慮すると難しい。
現地判断として、状況に対する異常性を認定。事態を報告し、応援を要請することにしよう。

動物園はいつも以上に賑やかだ。普段が寂し過ぎるだけなのかもしれんがな・・・


同日午後2:41、運が悪いとしか言いようがない。SCP-███-JPが脱走したらしい。ヤツは急に施設外へ瞬間移動した。そんな性質はこれまで一切見られなかったそうだ。
しかも、ここ周辺の部隊は全員それを捕まえる任務に駆り出されている。ここに応援に来れるのは、██を越えた先のかなり遠くにいる部隊だけだそうだ。
今から・・・2時間後ぐらいに着くとのことだ。この記録は、俺が思っている以上に重要な資料になるかもしれない。

不明の男女に異常は無し。客たちも、訝しみながらも踏み込んだ対応はとっていないようだ。かえって都合がいい。


200█年05月10日時刻は午後3:52、現場に異常は無し。こいつらに明確な目的は無いようだ。園内も全部見回ったが異常は無い。
一般人への危害も無いようだし、現場での直接の監視は一時中断する。
これからは・・・そうだな、本異常の発生の経緯を確認することにする。まずは、監視カメラの過去の映像からだ。


午後4:11、マズイ。これはヤバいことになってきたかもしれない。
監視カメラの映像によって、ベビーカーを押す20代前半の一般人女性が園内の奥にある█████周辺にいた事が確認された。
映像の時刻は2:29、俺が不明の男女の人数を数えていた時だ。
だがその時も、その後園内を全部見回ったときも、俺はベビーカーを押す若い女の姿など見てはいないんだ。
動物園から出て行く客の映像にも彼女は映っていない。
偶然出くわさなかっただけというのもおかしい。俺は彼女以外の全部の客は見かけている。この動物園はそれほど広くない。ベビーカーを押していることから移動速度も大した事は無いはずだ。
彼女とだけ出くわさないのは絶対に妙だ。園内に仕掛けている隠されたものを含んだ監視カメラの映像を今も見ているが、彼女の姿はない。
全部で26基もあるカメラで、彼女の姿が映っているのは午後2:29のたった4秒間の映像だけなんだぞ。

何かが起きてる。それはとんでもなく悪い事かもしれん。


4:22、なんてこった、どういうことだ。ベビーカーの女が2:29の映像から消えている!
俺は確かにあの映像を見た、絶対に見た。この記録を聞いている奴、俺をどんな精神鑑定にかけてもいい! あの女は存在したはずだ、ノイズでも無かった!
畜生、あの女はどこへ消えたんだ。あいつらは何をしたんだ。


4:27、今度は俺のとった音声記録が消え始めた。2:17の記録から順々に消えている。
俺にはもう分かっている。奴らはあの女をどこかへやっちまったんだ。それから、全部の記録と記憶を漂白している。
確実に女を目撃していたであろう一般客に質問しても、そいつは女のことを憶えていなかった。
ベビーカーを押していた一人の若い女だ。短い間なら印象に残るはずだというのに、誰一人憶えていなかった。
この記録もいずれ消える。あの女は、この世に存在したことすら無かった事にされるだろう。
これは異常な現象だ。絶対に異常だ。この記録すらもうじき消えてなくなるし、これを憶えている今の俺も消えてなくなる。
してやられた。財団は、これを単なる「異常な現象」としか見なせないだろう。


4:35、この動物園は客が少ない。下手をするとキツネの方が多いぐらいだ。
奴らが何のためにこんな事をするのかは分からん。本当にキツネなのかどうかも。だが、巧妙なやり口だ。
奴らは非常に長いスパンで、これを繰り返していたのかもしれない。
ならば、次は・・・もしかしたら、現代風の服装をした連中が、200年ぐらい先の未来に現れるのかもな。

俺の負けだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


お、直ったか。
200█年05月10日時刻は午後4:38、機器の故障によってこれまで記録出来ていなかったが、2:17より発生した異常は終了した。
終了時、天気雨が降り出したため、天気雨と本異常との関連性が疑われる。
本異常の詳細については、応援部隊の到着後に証言する。が、何らかの被害は一切なかったことは、今の内に記録しておく。俺がちょっと疲れただけだ。

SCP-███-JPの再収容も完了し、直ちに応援が駆けつけるそうだ。しかし異常が消えた直後に到着とは、なんとまあ間の抜けた話だ。
動物園の客はいつも通り少ない。ちょっとの間キツネが人に変わって、ぬるい天気雨が降るだけなら、平和な任務だ。

本異常の記録を終了する。


<日本の超常現象記録-██>

概要紹介:動物園内に放し飼いにされているVulpes vulpes schrencki(キタキツネ)の代わりに、着物を着、江戸時代風に髪を結っている男女が多数うろついているのが動物園の職員として潜入しているエージェントによって確認されました。
発生日時:200█年05月10日
場所:北海道北見市████████████
追跡調査措置:異変は開始から2時間21分後に天気雨、いわゆる「狐の嫁入り」が降ってくるまで続きました。すべてのキタキツネは元の場所に戻っていました。動物園の職員すべてに対してBクラス記憶処置が行われました。当該動物園は財団による監視が現在まで行われていますが、それ以降は異変は発見されていません。

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