うに! うににうにーにー(おお! 我ら偉大なる同胞の道よ)
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世の中は常に数多くの皮肉に満ち、それらは常に実行されている。
ロズウェル事件の真相、進化論と創造論、そして青い、青い空・・・
今ここに発生した皮肉は、それらの中でもより根源的であり、かつ遥か太古から繰り返されて来たものである。

「うにー!」

それは「言語の発明者は決してその言語では語られない」である。
少なくとも私は、一つの言語体系を創始した個人の名をJ・R・R・トールキンしか知らない。

彼らとて、いずれそうなるだろう。

「うに?」
「うにうにー?」

発声に頼らない彼らの言語は急速に成長し、そして拡大する。これまで言語が存在していなかった生物であるならば尚更である。
彼らの集団的な活動のきっかけは、これまで偶然に頼っていた。自然の摂理のみが彼らを導いていた。
しかし言語によってもたらされる智は、彼ら自身の意思が彼らを導く事を可能とした。
自らの意思による集団の形成。自然的な条件によらない、環境の最適化の試み。
それはつまり「社会」の形成である。個体がなんとなく住みやすい場所を求めたら他の仲間もいっぱいいた、というものではない。
彼らは目的と集団意識を持って集合し、そこで一つの目的のために活動することを憶えたのである。

「うににー!」
「うー」
「にー」

まず、彼らが行ったのは自分の力を信じる事。そして自分の神を信じる事だった。
岩礁に引っ掛かっていた妙な形の珊瑚やゴミは、彼らにとって格好の信仰対象だった。
彼らはそれらを拾い集め、組み合わせ、彼らにとっての神を作った。
その最初の偶像は彼らに高揚感をもたらし、より積極的な社会の拡大を促した。
より活動し、より信じ、採集によって成り立ついくつもの集落が誕生した。

当然、神の偶像の更なる強大化も進められていった。珊瑚、ゴミ、漂っていた海生生物の死体までも、偶像の中に組み込まれ続けていった。
神への儀式はより複雑化し、より形式的な祈祷や生け贄が行われた。
彼らは自らを生み育んだ海を信仰し、陸を異界または冥界として畏れた。そして彼らの神は、その陸と海が交わらぬよう「水面」を生み出しそれを守り続けているのだと信じられた。

彼らの神は、いつしかより巨大な、海底に鎮座する不自然な塊となっていた。

「うにー!」
「うにうににー!」
「うににー!」

そんな中で奇跡は起きた。神が、神が本当に偶像に宿り、彼らに語りかけたのだ。
偶像はいくつもの巨大な突起をうねらせ、明らかに意思を持って彼らにこう語りかけたのだ。

『うにに、うに、うー にー』

と。
彼らにとって、それ以上は必要の無いものであった。
彼らは自らの言葉が神によって創始されたのだと知った。知った、と思い込んだ。

言葉は力強く海水と海藻を揺らし、彼らに勇気を与えた。
おお、大いなるただ一度の言葉よ、今や彼らの雌伏の時は終わりを迎えた。
いまこそ不浄なる陸世界をワレラの神へと帰順せしめよ!

「うにー!」
「うににー!」
「うにににー!」

今ここに、彼らの神話時代が幕を開けたのだ。
いつしか彼らの時代が機械化文明へと辿り着いた時、陸の怪物達は全てが手遅れであることを悟るだろう。


<日本の超常現象記録-██>

概要紹介:海岸沿いの寿司屋が仕込みを行っている最中、外部からおびただしい数のガンガゼの群れが絨毯のように押し寄せ従業員を襲撃しました。たまたま通りがかった財団エージェントが従業員の救出を行いましたが、従業員█名全員の死亡が確認されました。
発生日時:████年██月██日16時24分
場所:大分県████市、国道213号沿い
追跡調査措置:現場に居合わせたエージェントが追跡を行いましたが、四方八方へ散るように逃げたため追跡には失敗しました。捕獲されたガンガゼに異常性は見られませんでした。

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