国王万歳!
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私の名前はキング博士、君はいかなる人類の発明品よりも私が憎んでやまないものが何か知っているかね?そう、リンゴの種だ。奴らは何時だって私を不幸な存在たらしめている。畜生め、一個のクソリンゴの種だぞ。リンゴそのものや、スライスしたリンゴなんかじゃない。リンゴの種だけだ、行く先々でやることなすこと邪魔してくれやがる。やっとこさ大規模なSCPの実験に携わる機会が巡ってきたと思ったら?はいリンゴの種。オフィスで仕事してたら?はい引き出しから種。所構わずリンゴの種。

だが何としても抜け出してやる。6週間もの間、私はオフィスに閉じ籠っている。リンゴの種はじわじわ増えていき、今じゃ私の首元にまでこみ上げてきた。今夜こそ決着の時、私はこの悪魔の種に勝利をくれてやるのだ。キリがないド畜生なリンゴの種に私は為す術もない。そして仕舞いにゃこの憎たらしい無限増殖カプセルによって私は押しつぶされるのだ。

地獄でもリンゴを食ってなけりゃいいんだが。


起きたり目を掻きむしる時にやるように、キング博士は呻き声を上げた。彼は死んだのだろうか?どのくらい経っただろう…?体感的にはさほど経ったようには感じなかった。事実、彼の顔は慣れ親しんだ感触の表面に寄りかかっているような心地がした。

リンゴの種。

うつ伏せの状態から起き上がろうとしたため、キング博士の足はリンゴの種を散らかし、足元を種まみれにした。

疑いようのない絶望と苦悩が波となって彼に押し寄せ、彼を種まみれの大地へと引き倒した。「No!Fuck!そんなことがあるか畜生、どうして私の前から失せようとしない!」

嘆き、絶望していたため、キング博士は上空から天使のようなものが彼に近寄っていることに気付いていなかった。その姿はリンゴ丸ごと一個で、その葉は海のように青々とし、何とも言えない輝きを放っていた。側面にはステッカーが貼られ、金色の「A」を遠くの景色に光らせ輝いていた。

「キングよ…立ち上がるのだ…」

キング博士は180度振り返り、あんぐりと開けていた口を閉じた。風の中でピニャータのようなものが揺れていた。「お前…だが…」

「我が息子よ…お前の最期の時がやってきた。」巨大な空飛ぶリンゴの声が轟く。

キング博士はまばたきした。「私の時間?一体全体…何を言っているんだ?」

眩い赤の輝きは自身をリンゴから解き放ち、大地に広がった。スペクトル上に割り当てられ、光を放っていた他のあらゆる色を吹き飛ばし、赤色が響き渡った。

「これ以上時間を無駄にはできぬ。お前はリンゴを生み出すために生まれたのだ。今こそお前の役目を果たす時だ。世界は危機にある、そしてリンゴこそが唯一の解決手段なのだ。」

「…何だと。」

突然、キング博士の精神をイメージが覆い尽くした。彼はサイト19でリンゴの戦車に乗っていた。そしてすべてのシニアスタッフ達もまたリンゴであった。彼らはキング博士にお辞儀をすると、彼が座るリンゴの玉座の準備を始めた。一歩引いてみると、サイトそのものがリンゴであった。壁のひとつひとつはスライスされたリンゴであり、研究者たちの頭はみな丸々とした新鮮なリンゴへとすり替わっていた。SCPですらリンゴであるが故に、そこにはもはや危険など無かった。

世界中がリンゴだ。

「さあ、分かっただろう。あれこそが─お前の目指すべき道だ。」

キング博士は既にその場を去っていた。「ふざけるな!私はイカレリンゴの王様なんてまっぴら御免だ。」

「だがそれこそがお前の運─」

キング博士は自らを父と名乗る空飛ぶリンゴに振り向いた。彼の顔は彼を取り巻く世界よりもさらに真っ赤になっていた。「ばーか!滅びろ運命!」

そしてそれから、キング博士は二度とリンゴにはならなかった。


彼の様子はどうです?先生。

うーむ、喉から765粒、加えて2000粒のリンゴの種を彼のオフィスから回収したところだよ。

まだ彼のオフィスは清掃中なんですか?

ああ、かれこれ一ヶ月種を掘り起こしてるとも。まったくご苦労なことだね。

先生、彼を運び出した時、なんだか憤ってるようでしたが…ところがどっこい今じゃ、彼は以前より幸せそうにしてます。

彼が何を思っているのか疑問で仕方がない、そうだね?

何はともあれ、少なくとも彼にとっては幸せなことのようですが…

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