ブラックウッド卿の大タラスク狩り'83
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1883年5月14日:

今朝、私は非常に好奇心をそそる手紙を受け取った。
英国に帰って来て四ヶ月ほど経った頃だ。
私は不吉な予感漂う死線のエベレストの頂きに初めて立つ男となろうと試み、九死に一生を得て帰ってきた。
私はここロンドンで研究と休養に時間を費やし、傷を庇いながら、回顧録を纏めていた。
あの山岳での悲惨な登山の記憶、そこで私に起こったのは、あの生物との致命的な遭遇であった──こんな恐ろしい物語を、日記を通じて外に漏らすこと事は決してしまい──もう、私は夏が過ぎるまで再び沖に乗り出そうと思えなかった程であった。
大概の所は、今日の手紙を受け取ったことで心が変わったのだ。
それは形式張った手紙で、最高級の封筒に収められ、結婚式の招待状な様な二つ折りのカードに書かれていた。
以下に示す。

拝啓、英帝国勲爵士セオドア・トーマス・ブラックウッド卿様

共和制フランス陸軍大佐ジョセフ・デ・アンファン1

心から貴方をご招待いたします。

一狩り行こうぞ!

数千の生命を脅かす巨大な恐るべき怪物…

タラスク!

今や、伝説であると信じられている巨大な恐るべき怪物、

奴は目覚め、プロヴァンスそしてフランスの土地の安全を脅かしています。

デ・アンファン大佐は共和制大統領によって権限を与えられました。

報奨金は…

五百万英ポンド!

この悪名高い獣を屠った男、男達に支払われます。

22号,ケンジントンロード,ナイツブリッジ,ロンドン、デ・アンファン大佐。
敬具。2

私は即座に承諾し、午後の配達に間に合うよう急いだ。
私は大小問わず、狐や象といった大抵の獣は狩って来たが、タラスクなぞと言う生物の名前を聞いた事はなく、況してやタラスク狩りの機会を得たこともなかった。
午後は何冊かの百科事典や、歴史書や神話学の分厚い書物に溢れる書斎で過ごした。
そして蔵書の中から聖マルタ──マグダラのマリアの姉──に関する民話を見つけた。
彼女の歌はその獣を鎮めたのだという。
書籍にはその邪悪な生物についての描写があった。
巨大なキメラで、火を噴くのだという。
体を覆う鱗はあらゆる刃を弾く。
混乱を齎す事だけを喜びとし、良心の呵責無しに虐殺を行うのだという。

丁度ティータイムの前に、その日の最後の配達が来た。
明後日、ザ・シティー3での説明会に出席するための住所と指示を受け取った。
神話の核には真実がある。
故に、常に私は、殆どの不合理な神話の断固たる信奉者である。
火を噴く古の巨獣がフランス南部に破滅を齎したかどうかは知らないが、大統領と軍が関わって私の様な男を探しており、一匹の獣を殺すための探検の費用に十分な奨励金を出す気が有ることは知っている。
水曜、私はその理由を知るだろう。

1883年5月16日:

今日私は、ザ・シティーに位置するマーシャル・カーター&ダーク社が所有するクラブの個室でデ・アンファン大佐の会議に出席した。
(私の道徳心を疑う読者諸君に断っておくが、私はメンバーで無いとを保証する。有料会員でもなければ、その他の会員でもない。彼らの取り扱う物品は、嘆かわしく胡散臭いものであり、ここの常連に至っては尚更である。)
しかし今日は、この窓の備え付けられていない建物に、何時もの道楽者やらボヘミアンの連中といった群衆の姿はなかった。
代わりに少数のフランスの士官服を纏った将兵がドアの前を警護していた。
中では使用人とウェイターが、客に飲み物とオードブルを提供していた。
何時もの雇用者と違う我々という来客に、幾分か彼らの顔は穏やかであるように思えた。

私の他に、3人の特待客が招かれていた。
一人はアメリカより来た青年のルーズベルト君、彼はアメリカ西部の大会で狩猟家としての名声を博していた。
そしてデュコフ(Dukov)氏、彼の科学者として歴史家としての名望は私の知る所である。
最後は、私と同じ英国人ハリス氏である。
読者諸君はこの名を思い出すかもしれないが、1855年のナイルの岸で私と知恵を競い合った者である。
読者諸君に我々の耐え難い関係の詳細を語るのは忍びない、簡潔に言おう。
彼はイートン以来の悪友で、私より少しワルであると言えば十分であろう。
今日彼の近況を聞いた所では、彼の人となりを見直すには至らなかった。

デ・アンファン大佐は背の低い、酷い苦悩と疲労の相がある中年の男性であった。
彼は手短ながらもよく推敲して、私達四人をここに読んだ理由を語った。
彼が語るには、政府はその存在をタラスクと呼んでいるという。
初めて姿を表したのは復活祭から数日経った日曜日で、タラスコンという村であったという。
(タラスコンは偶然にもその神話の獣の名をとった村だ。)
村は無残に殲滅され、数千もの生命が犠牲となった。
命からがらその惨状からの一握りの生存者はその巨大なトカゲについてこう述べた。
素早く凶暴で、町の広場に直接襲撃し、その道筋の誰もかも何もかもを踏み潰し、打ち砕き、滅ぼした。そして人も家畜も建物も貪りつくしたのだという。
その獣に妻子を引き千切られた農民は、素朴なフランス語で彼に言った。
"ナンヤアレ、エゾクロシイワ。""Ils étaient répugnants."

それから、大佐が言うには、プロヴァンスの辺鄙な村が三箇所、そして無数の農場がタラスクの下に落ちたという。
奴の襲撃に慈悲は無く、目的も無かった。
無差別殺戮。
奴が目覚めれば、残るのは荒廃だけであった。
これに対して軍は人員と馬を送った。
生存者は少なかった。
息が有る者が言うには、獣は直接大砲を撃ち込まれたのにも関わらず、よろめく様子もなければ足並み一つも乱さなかったと主張した。
そして、胸の大穴を編み込むように埋め、守備位置まで突撃してきたのだという。
地域全体が隔離され、市民は数千人単位で避難した。
軍と新聞紙上は、伝染病なりプロシアの失地回復論者の情報を流した。
だが政府は、忽ちに訪れる最悪の事態を恐れていた。
あの獣が荒れ狂い続けるのであれば、ニーム、アビニョン、アルルに危機が訪れるのだ。

大佐は、我々四人のことを、政府が知るかぎりで最も優秀なハンターで科学の心得がある者であると主張した。
彼は我々がその化け物を倒すことが出来なくとも、我々には専門知識と科学知識によって得られる優れた武器があり、彼の軍が失敗してとしても、我々で成功できればと望んでいた。

私は書類の束を持って会議を去った。
書類には現在までに、陸軍のタラスクの偵察を敢行して知り得た事の詳細が書かれてあった。
そして土曜、我々四人は汽船に搭乗し海峡4を渡り、その大混乱の震源地まで旅をする。
私の忠実な従者のデーズ君は旅行鞄の準備を始めた。
そして私の兵器庫から”エキゾチック”な軍備を船積みするようしてくれている。
ハリス氏と手を組むなんて思いもしなかった、そんな事をするのであれば悪魔と手を結ぶほうがマシだ。
それでも、ルーズベルト君、デュコフ氏は健全な心に素晴らしい精神の持ち主であるようにみえる。
運が良ければ、この雑多なカルテットはポケットに富と語るべき物語を持ち帰るであろう。

1883年5月20日:

我々のカレー5発の列車に乗って、アビニョンで下車する迄の旅は平穏無事であった。
私のように世界を飛び回る男には不自然である様に思えるかもしれないが、この週末以前にフランスに旅をする機会は無かった。
結局、そこは文明化されている土地で、太古の神秘もなければ、心躍る捕え難い獲物もいないからである。(そもそも考えたこともなかった)
ルーズベルト君とは長く冒険譚を語り合った。
彼は実に知識人であり、博物学者の何たるかを知っていた。
デュコフ氏に語りかけるのは難しかった。
彼は人目に触れるのを嫌う男であり、仲間より、書や研究を好む男であった。
彼はタラスクに対して試すつもりだという数々の発明品を誇りを持って紹介してくれた。
ゼリー状の非爆発性の灯油や電動火炎光線銃、そして彼は最新の試作品だという──精錬したピッチブレンド──瀝青ウラン鉱──を燃料にするのだという、三脚に載った巨大なライフルを紹介してくれた。
(何処と無く私の持ってきた物の一つである、ミスター・モスの安定崩壊マスケット銃に似ていると思った。)

この旅の間、私はハリス氏と話すことが無いよう最善を尽くした。
探検の間、私は紳士的であろうと思うのだが、この男は私の胃液を上がらせる。
カレーで列車に乗り込む時、彼が大きな木箱を積み込んでいるのを見た。
彼が我々に言うには”秘密兵器”で有るという。
箱のなかに何があるのか説明するのを彼は拒否したのだが、私には気掛かりであった──それが運ばれる時、空気が冷たくなるように感じた。
どのみちそれはワゴンに積み込むには大きすぎた──現在のところ、アビニョンの銀行の金庫室に置いておくことにしてある。

武器と食料はワゴンに積み込まれ、馬が準備された。
明日、デ・アンファン大佐が隔離地域の端まで護衛してくれるという。
彼によれば、そこから先は我々四人だけになるという──要塞が直接その獣に攻撃を受け破壊損失するといけないから、彼はこれ以上の兵士を用意出来ないのだ。

1883年5月21日:

我が幾年に渡る人生において戦争の恐怖はもう沢山という程見てきた。
私が軍を指揮した阿片戦争に於いて、大英帝国の怒りを直に見たものだ。
アフリカでは、現地部族が行く先全てを蹂躪し、最後の一人となっても孤軍奮闘する様を見た。
満目荒涼の市街、数千の兵士で築かれた屍山血河のクリミア半島で、私は必死に生き抜いた。
その我が目に残る惨状ですらタラスクの覚醒の前では色褪せる。

アビニョンの光景は戦場の様に思えた──街道を兵士が警邏し、街の境界にはバリケードが敷かれていた。
我々は、街からそう遠くない隔離区域の境界に辿り着いた。
兵士は塹壕堀りに要塞築城に没頭していた。
監視を絶やさない戦傷を残す青年兵は名状し難き恐怖に囚われているようであった。
絶え間無い避難者の流れは、その区域に道を形作っていた──少しの衣類を負う、女子供達。
理由も分からず住む家を追われたように人々は、途方に暮れ、動揺していた。
その一方の顔には疑いはなかった。
私は行き交う人にタラスクを見たことがあればと思いと尋ねた。
少数──偵察兵と見張り番──は遠くからそれを見たという。
携わった近くで見た者で生きている者は居ないと聞かされた。
奴は軍の築いた境界線付近にはまだ攻撃を仕掛けていない──しかし二日前に警備員は、あたかも彼の背後にある物を凝視するように一マイル直線上に奴を見た、という。
ルーズベルト君とデュコフ氏で、我々の獲物を調査するべくタラスコンへの道を辿る間、ハリス氏は独りで馬に乗りその獣を捜しに行くことに嫌々ながら承諾してくれた。

タラスコンはすっかり潰滅していた。
街道で戦死した遺体が20人単位で横並びにされていた。
町の大部分は焼失していた。
町の有名な城郭、その他の石造りの建築物は瓦礫に打ち付けられ、まだ立っている壁には大穴が開かれていた。
男も、女も、家畜も、害獣害虫も、鳥獣も、この場で生きているものは無かった。
町の緑樹さえ破壊されているようであった。
この光景を見渡す内に、胃に疑いの激痛を感じ出した。
一匹の獣が本当にこの破壊を齎すことが出来るというのか?

我々はこの死者の町の端にキャンプを設営した。
ハリス氏は夕方辺りに戻って来て、ベルガルドの村近くの農家を破壊しているタラスクの姿を南西で見たと伝えた。
彼によると、道を行くのは困難ではなかったと言う。
爪痕のように不毛地帯が広がっていたという。
草花さえタラスクの憤怒を免れないようだ。
明日は、痕跡を辿り、その獣と交戦する。

1883年5月22日:

我々は今日タラスクに遭った。
奴を振り切り、生き永らえた事は幸運である。

ベレヴィルの南西まで旅をしたのだが、その崩壊の様はタラスコンに因るものに似ていた。
そこから、我々はその生物の痕跡を辿った。
南へ、西へ、北西へ農家を越えて蛇行し、ニームへと不気味に筆を走らせていた。
正午過ぎ、我々は遠方にその生物の姿を捉えた。
奴に動きはなく、昼下がりの太陽の下、うたた寝して居るようであった。
奴の巨躯といえば鯨より長く、麒麟よりも背が高い、更にそのどちらよりも重いように見える。
奴の鱗は太陽をぬらぬらと照り返し、奴の剥き出しの巨大な鋭牙は混沌に彫り付けられていた。
翼を持ち、これをドラゴンと呼ぶのであろう。

武器を牽引しながら、その獣の数百フィート圏内にに忍び寄った。
デュコフ氏は、ピッチブレンド銃を準備し、発射可能になるまで時間がかかるよと言った。
一方ルーズベルト君とハリス氏は象撃ち銃を用意し、私は粒子破壊機の支度をしていた。
今では放棄された農場の境界を定める短い柵の裏で、我々は藁を寄せ集めていた。
そして私があの忌まわしき奴に最初の一発を見舞うことに決まった。
フェンスに私の銃を凭り掛けて銃を固定し、眠るタラスクの頭部に狙いを澄まし、息を詰め最終調整をし、発射した。

銃弾は断固として確実に命中し、我々はタラスクの頭部が綺麗に断ち切られているのを見て喜んだ。
その獣は地面に崩れ落ち、我々は安堵の溜息を吐いた。
一発で、数千の命を奪い、国家を脅かした獣を殺したのだ。
ハリス氏が歓呼を漏らすと──その死せる獣は生き返った。
奴は立ち上がると、我々の方向に向かって来た。
紅血、脳漿、血糊が頭部の無い頭蓋からじくじくと滲み出し、空ろな眼窩が我々を睨み付け、血も凍るような轟音を上げた。
我々は雄象よりも速く逃走した。
我々は散り散りにならざるを得なくなる前に、ルーズベルト君とハリス氏には辛うじてその獣に一発撃つ時間があった。
ハリス氏は、象撃ち銃を投げ捨て、小型の連発銃を取り出し、一弾倉分をタラスクの脇腹に撃ち込んだ──その傷が数秒で塞がれる様に我々は恐怖した。
デュコフ氏はピッチブレンド銃が完全に充電される前に引き揚げねばならなくなった。
彼は電気銃を三度、化物の傷穴に打ち込むまでにそれを引き揚げ、馬に乗る時間を稼いだ。
馬の背に乗る間、その獣は再び起き上がり、我々に襲いかかった。
風穴の空いた肉と骨を新たに編み直していた。
奴の前脚に粒子破壊銃を撃ち前脚を完璧に奪い去ったのだが、奴は三本の足で我々を追って来ようと試みた。
我々は四方向に別れ、隔離線の外で会おうと約束した。
獣がルーズベルト君を追おうと空に上がり、新たに脚の幹を作り出しているのを見た。
だが彼はその巨人から逃げ果せ、夜の帳が下り、兵士とバリケード外に居るところで合流した。
我々の誇りに傷はついたが、至って無事であった。

1883年5月28日:

幸運と摂理があるのならば。
今までは、タラスクは隔離区域の外へ逃げようともせず、プロヴァンスの放棄された農場の荒廃させた事を証明し、取り残された動植物を貪り食った。
23日に続いて、第二の攻撃をタラスクに仕掛けたが初回と比べて特に目立った成果は得られなかった。
単純に銃弾、電気、燃え立たせる程度ではその獣を殺すことは出来ないという結論に達した。
奴の自己再生能力は強力であり、痛みと切断に対する高い耐性があり、身命を惜しまず帝国海軍が強大な片舷斉射を行ったとしても破壊できる見込みはない。
タラスクを屠るためにも、我々は決断しなければならない。
奴を行動不能にし、逃げる前に奴を塵芥に帰す。
私達は如何にしてそれを達成するのかを数時間議論した。
そして、夜警を配置していた年老いた軍曹が耳を貸してくれと言ってきた。軍曹は68年にベトナムで反逆行為を行う土着民と戦ったと言い、洗練された、容易く偽装できる、致死性の罠を見てきたといった。
ルーズベルト君と私で、その考えの長所について夜遅くまで語り合った。
そして翌日、我々四人で罠を仕掛けるために現地に向かった。

グラベソン(Graveson)という、タラスコンとアビニョンの間にある、タラスクに荒廃させられた村近くで罠を準備していた。
ここの地下水面は我々の仕事に適していた。
慎重な観察から、その獣が立つと肩から凡そ9フィート、幅6フィートと長さ30フィートであると判断している。
デ・アンファン大佐から別離する事をしぶしぶ承諾してくれた数名の兵士の力を借りて、その獣を収めるのに十分な規模で、仕留めるまでに登り切らないよう十分な深さの塹壕を掘った。
落とし穴の底には鋭く、頑丈な鋼鉄製の針を何百と無く取り付け、私が東洋で得た猛毒を先端に塗りつけてある。
タラスクの重みには粉々になるが、人馬を乗せるには安全な木製の橋梁を竪坑の中心に走らせた。
我々は4日掛かりで土工作業に没頭していた。
掘り終わり次第、上部に網をかけ草木で覆い隠した。
十分な距離からは全く普通の開けた土地に見える様にした──そこには、破滅が潜んでいるのだ。

我々が位置する場所から2マイルも離れていないところにタラスクの姿を見つけたとハリス氏は言った。
明日には罠に掛かるだろう。
ルーズベルト君は囮になると同意してくれた──馬に乗りタラスクに接近し。象撃ち銃を一発当てる。
一度追跡されれば、彼は落とし穴まで誘いこむ手筈だ。
彼は、橋梁を駆け抜けタラスクを後に続かせる──奴が成そうとするとき、屹度、落とし穴に嵌る。
見えない所で待ち伏せをしているデュコフ氏とハリス氏と私で、更に落とし穴の縁にいるルーズベルト君と合わせて、軍備を揚げて奴に奮撃を浴びさせる──ライフルにショットガン、粒子破壊銃、デュコフ氏の電動ライフル、安全に充電できたなら、彼はピッチブレンド銃を放つだろう。
軍備を使い果たせば、デュコフ氏のゼリー状の灯油を4バレル落とし穴に注ぎ、火を放つ──神意に抗い、その生物は骨灰を残して、明日の日暮れまでに失せるだろう。

1883年5月29日:

討伐成功!SUCCESS!

計画は滞りなく進んだ。
午後を過ぎた頃に、ルーズベルト君はタラスクを彼に追跡させることが出来た。
巨大な爬虫類は落とし穴にに嵌り、大釘に刺さって身動きが取れなくなった。
我々四人は動けなくなっている奴の上から破滅の雨を注いだ。
化物は落とし穴に振りかかる天罰に聞くに堪えない鋭い悲鳴を上げた。
弾丸と爆薬は奴の身を徐々に引き裂いて、ゼリー状灯油は奴の再生を滞らせ、やがて再生は止んだ。
デュコフ氏は終にピッチブレンド銃を撃てるようになったから、我々に目を背けるよう警告した。
彼の警告は正しかった──爆風は盲目になる程の閃光を伴っていた。
彼が引き金を引くと、穴から炎と煙の大規模な噴煙柱をを噴き出し、その様や頭上を覆う茸が穴より生え出る様であった。火が静まる頃には、焦げた骨しか残らなかった。

我々は化物の残骸から、黒焦げの貫通した獣の巨大な頭骨を剥ぎ取った。
爆発の後少数の兵士に報告すると、彼らは一心不乱に穴を埋めた。
頭骨をアビニョンに持ち帰り、報酬を得ねばならない。

May 30th, 1883:

大惨事!DISASTER!

獲物と伴にアビニョンに戻ると、我々は軍に英雄と賞賛された。
昨晩に比べタラスクの頭蓋は旭光に白々と映えていた。
錯覚では無い、穴から引き釣り出した時と比べ、こげ肉が多くこびり付いていた。
我々四人は写真のポーズをとっていたが、デュコフ氏は顎の間に挟まれた餌食の格好の写真を撮りたいと頼んだ。

この恐怖を想像できるかね!
顎がガシンと閉じられ、デュコフ氏は頭と胴体に別れたのだ!
舞台の上のタラスクの頭骨はだらしなく転がり、再びガシリ。
焼け爛れた外貌の上を新しい肉で覆っていくように一塊の肉を得ると、兵士は悲鳴を上げ卒倒した。
儀仗兵が頭骨に一斉射撃を行っているのを見て驚いた。
破片を即座に自身に取り込み、腱と筋肉を背に広げ、骨を編み形作る様に私は声も出なかった。
身体無きタラスクの口が開かれ、フランス語で叫んだ。
"アンタラ、ワシノキブンワルウシクサルワ""Vous me rendez malade"

広場の反対側から、更に多くの悲鳴が聞こえたが、私は見たものを信じることはできなかった──タラスクの残骸部分を!
土埃を被り、数本の筋繊維の房で各々の部分が結び付けられた頭の無い残骸は練兵場を不気味な速度で蹌踉めきながら貫きやって来た。
行く手を阻む男たちを踏みつけ、銃や大砲を物ともせず身体を再結合させていた。
視界の端でハリス氏が逃げ出すのを見た。
彼が銀行の秘密兵器が保管されている所に向かっているとルーズベルト君は注意していた。
その時、タラスクの頭部が私の方へ進んで来ているようであった為、私はハリス氏を追った。

我々は、ロビーに木箱を金庫室から引きずり出し、梃子で板を剥がそうとしているハリス氏を見た。
木箱はすぐに剥がれ落ち、太古の石棺が露出した。
石棺が顕になった時、部屋の熱全てが逃げ去っていくように感じた。
私はそれを見るなり身震いした。
蓋は錠付きの三本の鎖で適切に大仰な封がなされていた。
シュメール語かアッカド語らしき手掘りの神秘的な文様に蓋と小箱が覆われていた。
私はメソポタミアの古代言語を学ぶ時間をとらなかったと告白する。
それでも、ハリス氏がコートから取り出した3本の鍵で、封を解こうとしているその箱からは明らか誤りを犯しているという感覚が発せられていた。
私は彼にこの狂気をやめて、機会を見つけて逃げようと請い願ったのだが、これが開かれば勝利が得られると彼は力説した。
ハリス氏が蓋を押しのけ秘密兵器を一瞥すると、箱のなかからオリーブ色の剣を持った腕が伸び、しなやかに彼の頭をさっぱりと切り落とした。

私は幾年に渡り原始人や野生に生きる男たちに踏み込んできたが、ここまで獰猛で、単純素朴で、原始の憤怒に塗れている男を見たことはない。
その男は今、この石棺から這い出ようとしている。
全裸で、剣を手に持ち、長い黒髪を背に伸ばしていた。
頭から爪先まで、この世のものとは思えない気味悪い感覚を催す刺青に覆われ、今まで書かれてきたどの言語にも似ていなかった。
アメリカのシャーマン将軍(ウィリアム・テクムセ・シャーマン)が言うには、敵国に慈悲を乞うぐらいならば、雷雨に慈悲を嘆願する方が良いという。
私の眼の前に居るものは、まさしく雷の化身であるように思えた。

ルーズベルト君はその男に嘆願して、助けを求めた。
何とか話を聞くようであるが、その神人はルーズベルト君に目を合わせると、剣で突進してきたのだ。
ルーズベルト君はライフルでそれを躱した。
彼のライフルの砲身は猛攻撃でヒビが入り、神人は剣を落とした。
ルーズベルト君はそれを拾って、一撃を返そうとしたが、その神人は如何にか瞬く間に、別の剣を両手に握っていた。
ルーズベルト君は猛襲を躱すことに尽力していたが、すぐに追い詰められてしまった。
私は二人の誠実な男性による公平な戦いに介入することを嫌うが、この大混乱の最中にルーズベルト君が刻まれるのを見るのは耐えられない。
私はピストルを引き、神人の頭に五発撃ちシリンダーを空にした。

奴は死なねばならなかった、それでもそのオリーブ色の肌の破壊者は私の方に振り返り睨みつけた。
タラスクの様に顔の半分は消し飛んでいたが、私を殺す準備ができているようであった。
片方の剣を落とすと、私が反応するよりも速く何かを空に投げた。
その瞬間に私は両腕を動かすことが出来なくなった。
男は南アメリカのカウボーイが獲物を捕らえる時に使うような投げ縄をどうやってかして実体化し、しっかりとそれを私の胸部に括りつけた。
ふっと動くと更に別の投げ縄を私の両足に括りつけ、私は地面に倒れた。
彼は私に最後の一撃を食らわすために近づいてきた。
その時、銀行の背後の外壁が震え、攻撃的な唸り声が聞こえた──タラスクの鳴き声だ。
かすり傷一つも無いじゃないか!
それは、中に入って来て己を殺したものを探しているようであった。

神人はタラスクを視界に捉えると、ルーズベルト君と私に対する興味を一切失った。
今は虚しきハリス氏がなぜこれを秘密兵器にしたのかという答えに思えた。
この憤怒の化身は死ぬまで戦った。
そしてタラスクの究極の好敵手である。
この二体の不死身の戦いを表すには百頁あっても足りない。
ルーズベルト君と私は銀行の金庫室を避難所として、そこでうずくまった。
唯一そこが、それぞれの破壊の雨に抵抗力があるように思えたからである。
一時間も大半が過ぎ、数百の死体が連中の周りに転がり、アビニョンの中心部は瓦礫でしか無かった。
神人は、腕と、足の半分、目の一つ、脳の大半を失い、腹部は切り開かれていた。
最早、死屍累々の惨状で、奴は戦いを続けていた。
自身の腸を裂きながらも武器を作り出していた。
タラスクは酷く苦しんでいた。
私は、回復途中の神人が一時間前には歓喜の中心であった舞台の近くに落ちているそれに気がついたのを見た。
デュコフ氏のピッチブレンド銃は地面に落ちていた。

我々が見ている中で、神人はピッチブレンド銃の炉心を超人的な精度で取り出した。
彼は爆発するように見える爆弾のようなものを作り出し、装置の炉心に結びつけ、胸に嵌め込んだ。
導火線に点火して、用意するなりタラスクに特攻した。
制御下にあるピッチブレンド銃の猛威を見たことがある私とルーズベルト君は、次に何事が起こるか見たくもなかった。
目を晦ます様な光が広場に溢れたので我々は金庫室へ退却した。
カリブ海のハリケーンよりも強い猛烈な風に、ドアはバタンと閉まり、我々は中に封じ込められた。

暗澹冥濛。
私の懐中電灯の十分な明かりでこの話を書いている。
この金庫室の空気がどれほど続くのであろう。
動かぬハリス氏の体の他に、食べる物もなければ水の様な物も無い。
紳士として、キリスト教徒として命の危機に瀕しない限り、その暗鬱の道を追求しない。
私は生きてここから出られるかどうかわからない。
叶わなかったとしたなら、この手記を私の辞世の句、遺書としてこの世界の片隅で起こった恐怖の証として欲しい。

1883年6月13日:

結局、天は我々に微笑んだ。
一日目の朝に金庫室のドアは開いた。
軍の少佐と隊員が生存者を捜索しているのだろう。
ルーズベルト君と私は脱水症に陥り、そしてピッチブレンド熱に苦しめられ始めていた。
幸いにも、私は大親友のヘンリー君のマルセイユに住む同僚の住所を知っていた。
病院に担ぎ込まれると、彼と会い、この死に至る悪性の瘧を食い止めるために必要な処置を即座にしてくれた。

デ・アンファン大佐は亡くなったと聞かされた。
アビニョンが火に包まれた時、少なくとも1万人近くが焼死したのだという。
生存者でさえも、熱傷を負い、盲目になってしまったという。
ピッチブレンド熱はこれから更に人々の命を奪うだろう。
爆発の後、神人とタラスクの姿はなかった。
都市で故ハリス氏が封を解いた問題の氷のように冷たい石棺もなかった。
数十年とはいかずとも、古の地方が過去の栄光を取り戻すには時間がかかるだろう。

我々は、最前のフランスを襲った大災害の数えられる程度の目撃者の内の二人であった。
この大災害の中心にいたばっかりに、軍から邪推されるところとなった。
我々は、初めは兵士、警察、政治家に何度も質問を受けた。
英国人らしき男が我々の記録をとっていたが、話しかけた所で何も語らなかった。
最終的に悪魔島に移送されることは免れたが、約束された報酬とは罰金であった。
我々が生きている限り、二度とフランスは我々二人を歓迎しないと厳しく警告を受けた。
アビニョンを奪った数百マイルに及ぶ爆発は、パリからニューヨークの新聞の詮索に紛糾させたと知った。
輸送途中、我々のこの件についての個人的知識を共有しないよう警告された。

ルーズベルト君と私はカレーで別れた。
彼はアメリカに帰国し政治生命を追求すると私に伝えた。
彼が健康であればそれでいい。

今日の午後、我が家に戻った。
今朝、私宛の葉書が届いたとデーズ君は教えてくれた。
簡潔な手書きで無署名であったが、私に時々質問しに来る奇妙な英国人であろう。
彼の書いている物は時々垣間見えた。
以下に示す。

拝啓、英帝国勲爵士セオドア・トーマス・ブラックウッド卿様

変則物体、移変幻影の安全保障、封じ込め、保護を目的とした王立財団6は、貴方と好ましい同盟関係を結ぶべく集会を行いたいと考えています。
第19号メリルボーンロード、ウェストミンスターに任意の時間(日曜を除く)に、ドクター・サーズデイに話がしたいと訪ねに来てください。
これについては、貴方の裁量次第です。

私はこの財団について耳にしたことはない。
また、彼らの不可解な交渉開始を受けるかどうかは分からない。
恐らく私はそれを聴かなければならない。
だが私は一人の男に長い間雇われる気はない。
とらわれない、そのことが博物学者として探検家としてのこの上ない価値であると私は見なしているのだ。
いずれ知る所となる。

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