ブラックウッド卿の復讐
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セオドア・トーマス・ブラックウッド──探検家にして紳士──
彼は、テーブルの脚を伝い登り、秘密裏に23C貴重品保管ロッカーの隅々を這い征く。その後ろに細く延びたぬめりを残しながら。
彼を囲っていた水槽から保管庫に至るまでの旅は長いものであった。さらに、彼の脱出を映し出さないように監視カメラを調節すること自体がヘラクレスが如く非常に困難な努力を必要としたものであった。
程なくして、彼は追い求めたものを発見した。──それは、小さな銀のベル、下級研究員が今日の試験の完了後、不始末にも残ししていったものである。
短躯な英国人の満身の力をかき集め、彼はベルを押し出し、その側面をノックした。すると、遠くからはっきりとしたベルの音が鳴り響いた。
束の間の静寂が23C貴重品保管ロッカーに訪れた。ブラックウッド卿はそのベルの魔法が解けてしまったのではないか、若しくは部屋を間違ったのではないかと恐れた。
しかし部屋に続くドア──三重にロックを掛けられ、磁気によって密封されている。彼の大胆不敵な遠征において、すっかり迂回していた──が優に開かれた時、彼の不安は氷解した。そして綺麗にプレスされたスーツを着た初老の男性が、テーブルに近寄ってきた。

「こんばんは、ブラックウッド様」と、気品のある英国アクセントでその男は言った。「なんなりと仰せ付けください」

「なんとまあ!全く!デーズ君!」とブラックウッド卿は叫んだ。彼の華麗な貴族的トーンがデーズ氏の心に響いた。「君は、少しも変わっていないな!一体全体君は?」

「お陰様で達者でおります、ブラックウッド様」とデーズ氏は応じた。「今一度、貴方様にお招きいただき。このデーズ感激の極みです。」

「素晴らしい!」とブラックウッド卿は言った。
「それでは、注意して聞いてくれたまえ。我々は素早く行動せねばならない。いつまでガードハウスの道化共が、私の些細な仕掛けに騙され続けるのか知れぬ。今宵、デーズ君、君は私と、大捕り物をするのだぞ、私が72人の大敗走する詐欺師どもを検挙した以来のだ!」

「本当で御座いますか!ブラックウッド様?」

「間違いないとも!デーズ君!フランスで見た、私から逃れ仰せた萎びたタラスク1を覚えているかね?私は、正にその獣が、正にこの施設に収容されていると、ここの研究者の1人から聞いたのだ!」

デーズ氏は深く頷く。「はい、如何にも、ブラックウッド卿。財団はそれを”SCP-682”と呼んでいます。貴方様が御存知でそれに御興味を抱かれてたとは…」

「なんてことだ!デーズ、歴史の授業をしている暇なんて無いのだぞ!」
ブラックウッド卿の声からは苛立ちの色が見られた。
「我が親友よ!針は時の音を刻み続けているのだぞ!先ず君にして貰いたいことはここに…」

—-

裸鰓類が出来得る限りの歩幅で、ブラックウッド卿はテーブルの上で行ったり来たりを繰り返していた。
デーズ氏が仕事に取り組んでから30分が過ぎた。
彼は捉えられてしまったのか?
万事休すか?
この期に及んで、彼は望む通りに忠実ではなかったのか?
廊下に足音が鳴り響き、ブラックウッド卿は隠れ場所を探した。
だが何処にも辿り着けなかった──しかし、彼の戦きは、デーズ氏がドアを開け入ってきた時、解消された。
彼のスーツは濡れて、染みが付き、先程まで完璧に結われた髪は乱れ、吐き気を催すまでの強烈なミントのアロマが彼にまとわりついていた。
それでも、ブラックウッド卿が望んだ通り、彼は緑の粘ついた液体で縁まで満たされた大きな水差しを両手で抱えていた。

「お望みのもので御座います、ブラックウッド卿」と息絶え絶えにデーズ氏は言った。「2英ガロンのSCP-447-2です。」

「見事な手さばきだ!デーズ君!」ブラックウッド卿は声高に叫んだ。
「罠は仕掛けられた、一部分はもう動き始めている。行動を起こす時が来たのだ。君が66年にインディアンから勝ち得たボウイナイフをまだ持っているか教えてくれるかね?」

「常に懐に持っております、ブラックウッド卿。」

「よろしい!君と私で、タラスクの寝床へ向かう!私がヤツの気を惹きつけたら、両方の水差しを開き、それを全身に浴び、ナイフで君のハートを突き刺すんだぞ!分かったかね?」

「承知仕りました、ブラックウッド卿。それで私たちはそれからどうすればいいのですか」とデーズ氏はため息混じりに言った。

「私のことは心配無用だ」とブラックウッド卿は言った。
「一遍、君が死んだなら、その後は私が残りの世話をする。1時間の内に、この施設を経営する私の旧友の田舎の獣医が、私達を褒め称え、勲章を胸につけてくれるはずだ。」

「承知仕りました、ブラックウッド卿。」とデーズ氏は言った。「そろそろお出かけになりますか?」

ブラックウッド卿はデーズ氏の袖の上へ這い登り、肩に停まった。彼は信頼出来る従者としてドアを開き、廊下を下るのだった。
神に誓って──勇敢なる軟体動物はひそやかに考える──あの老いぼれの悪党は何にやられたか気づくことさえないだろう。

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