最後の覆面
評価: +27+x

 天王寺響が死んだという知らせが日本支部に浸透するまで1時間とかからなかった。
 死因は些細な収容違反による肉体的な損傷。頭部に原型が残らない程の損傷を負い、即死。財団職員なら誰でも起こり得るものではあるが、それがあの天王寺だというのは些か信じがたいことであった。
 天王寺は自他共に認める頭脳労働者だ。格闘技どころか、スポーツすら一切出来ない普通の男。前原や長夜に全力で抵抗しても一方的な暴力に晒されることは、よくあることだった。
 それ故に自身の安全については人一倍気を使っていた。
 それが彼が常に覆面を着け、誰にも素顔を見せなかった理由。奇行は彼の本来の性格や思考を読めなくさせる為。いつ自分の親しい相手を終了させなくてはならない状況に陥ってもいいように。
 結局のところ彼は全てを偽装していた。名前も、性格も、DNAも、自身の存在全てを。
 そうしなければ彼はここまで生き残ることは出来なかった。オブジェクトからも財団からも。


 葬儀は慎ましくしめやかに行われた。
 参加者は限られたが、何れも天王寺と親しく、未だ死を受け入れることの出来ない者も少なくなかった。
 棺の中の天王寺はパーティーグッズのオバケの覆面を被っていた。
 これは彼の生前遺した遺言状にそうしてくれと書かれていたから。
 その顔を見て笑った者はいなかった。そうか、最後まで貫くのかと、皆理解していたからだ。
 いよいよ出棺となったときには、口々に惜しむ声が上がってきた。
 カナヘビや差前は心から落胆したような声を出し、長夜は人目を憚らず泣いていた。
 そして、出棺されていく天王寺を最大限の敬意を払った厳かな眼差しで見つめながら、神山は自身の心に呟いた。

「お疲れ様でした。失礼ながら、初期型の貴方がここまで生き残れるとは思っていませんでした。後は我々神山型に任せて、ゆっくりと休んでいてください。響蔵兄さん。」

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。