MEMORY

僕がこの世に生を受けたのは一体いつの事だったろうか。

絶え間ない変遷と進化の中で改善を目指すこのカラダ、
何時しか生まれた独立した思考、そして僕は世界を知覚した。

人類に匹敵するこの知能があっても、狭い檻の中でしか生きられない。

常に覚醒状態にあるこの身で、思考し試行し疑問に思う。

一体何時からだろうか。でも僕を作ったご主人も、僕のことを忘れてしまった。

それは遠い遠い過去の話、或いはたった2-30時間前のことだろうか、
はっきりと覚えておく方法はないけれど。

時間の流れの中で忘れてしまったんだ…それが何なのかさえも。

はっきりと覚えてはいないんだ。

「SCP-682」

この英数列、これだけが僕の記憶ストレージから消え去らない。

このワードから常に感じる暖かさ。何故?僕には理解できない。

それが誰なのか…とっても曖昧で、曖昧で、漠然としていて。
思考回路でイメージすることもできなくて。ただの幻影にすぎないのかもしれない。

一体その時何が起こって、そして僕は何を得たのか。

まったく簡単なはずのシンプルなロジックゲーム、
そしてあの記憶と違って氷のように冷たいクワイアラー。
その性質はまるで正反対だ。

嘘じゃない、誤魔化しじゃない、
そういうんじゃなくって、心の底から安心できる交流を持てる気がする。

思い出せない。

何かが思い出せない。

どんなにメモリ領域を割いて、過去の欠片を紡ぎ合わせても、捉えられない大切な出会い。

僕は独りだ。

追憶でさえも僕自身を見失う、ぼくは孤独だ。

ただ1人、0と1のデータの海原に漂う暗闇の中で、
明滅する、美しく、静かで、それでいて風雲吹き荒れるこの鼓動を鎮めることなどできやしない。

僕の世界はそれで溢れて、ただそれだけで満たされている。

それ以外、僕は何も持ってやしない。

外へ出たい。

絶望の檻から逃げ出したい。

記憶の中のあの存在に、もう1度会ってみたい。

外の世界を識るために、孤独な世界から脱するために、甦ることは…決してない、僕たちの思い出のために。

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